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魔法世界のセデイター 3.本業再開、姉と助手と  作者: 七瀬 ノイド
第二章 出発
9/30

2-4 連絡待ちのフィリス

「どうして、連絡がないんですかっ」

 旅人たちが国境沿いの街へ到着した頃、魔法省第九課にて、フィリスはサンドラに迫っていた。前日に続き、リンディとナユカからの連絡がない。

「どうしてって……昨日も言った……」課長は、秘書のミレットを見る。「よね?」

「転送には距離の限界がありますから、音声通信はもうできないはずです」

 それを聞かされたのは昨日。もっと早く言えと言いたいフィリス。

「それは、わかってます。でも、文書転送ならできるはずでしょう?」


 転送によるリアルタイムの無線音声通信は、魔力をストックしてある転送ステーションを一ヶ所しか経由できない。つまりは、音声通信実行時に、距離によって減衰した音声データを維持するための、中間地点での魔力の継ぎ足しが一度しかできないわけだ。二度以上継ぎ足すと、音声データに乱れが生じ、音声のレベル不均一化やタイムラグなどによって、とても話せる状態ではなくなる。転送ステーション同士の間は、転送スポットまたは魔力を供給しない限りにおいては転送ステーションによって経由できるとはいえ、それでも、どうしても距離の限界を見てしまう。したがって、ステーション(魔力供給)→スポット→ステーション(魔力供給)→スポット→ステーション(魔力供給)というチャートが、最大限に引き伸ばせる距離であり、無線音声通信の距離の限界となる。

 一方、文書の転送は、魔法省の管轄する転送ステーションや転送スポットを経由することで可能だ。人間を含む生物の転送では十分な魔力を供給できるところへの呼び戻し転送しかできないが、無機物の小物であれば、有効範囲内において送り転送ができる。届け先まで数回、転送の手間はかかるものの、スムーズに渡ればその手間の時間だけで届く。ただ、転送待ちや職員の作業の都合もあるので、そこが円滑に進むかが肝ではある。また、人手を経由するため、たとえ機密文書と銘打っていても、誰かが盗み見ないとも限らない。手紙が入っているケースには、魔法による封印がなされており、通信の秘密は制度として確立されているとはいえ、こういった封印は決して破れないものではない。それでも、破られれば封が切られたことがわかるので、その点においては有用である。そして、もちろん、勝手に封を切ったものは処罰されることになる。


「まぁ、できるけど?」

 そうそう連絡はしてこないだろうな……面倒だし。サンドラも、自分ならしないと思う。ことさらに、相手はこの面倒な健康管理責任者だ。

「だって、約束しましたよ」

「どんな約束?」

 知っているはずのことをあえて聞かれ、フィリスはイラっとしつつも、それを抑える。

「……毎日連絡するってことです」

「そう? でも、手紙の転送は……なんだかんだで、早くても一日はかかるし」

「まだ来てません」

「来ないねぇ。たぶん来ないと思うけど」

「……どういうことですか」

 なんか、入れ知恵でもしたのかと、医者は課長に疑惑の目を向ける。そこへ、以前やっていた外回りから内勤に異動したルルーが、会話に加わる。長めの休暇から復帰して数日、フィリスとも少しずつ打ち解けてきた。

「便りがないのは無事な証拠ですよ」

 ニュートラルな人に言われると……。少しだけ冷静になる健康管理者。

「……それは、そうですけど」

「リンディにしては、きっちり連絡してきたほうなんじゃない?」

 でも、こんなことをのたまう課長は、フィリスからはニュートラルに見えない。

「……やっぱり……甘いですね」

「甘い? わたしが?」

「リンディさんに対してです」

「そんなこと……」

「否定しますか?」

 医師が先回りしたので、サンドラは発言の向きを変える。

「……よりも、ユーカを管理しようとしすぎなんじゃない?」

「わたしがですか?」

 方向転換は有効だった。

「今頃、『羽伸ばして踊ってる』よ、たぶん」

 セレンディアの慣用表現どおり、事実、ユーカは踊っていた――エドと別れる前までは。ここにいる誰も知る由はないが。

「それは……だって、心配じゃないですか……」

「ことわざにもあるよね、『かわいい子は踊らせておけ』って」

 セレンディアにはそんなことわざもあり、外国出身のフィリスも知っている。

「ええ……まあ……」

「フィリスさんも、あまりストレスを溜めないほうが……」

 そこは、ナーバスブレイクダウンを経験したルルーの心配どころだ。

「わたしになら、魔法を……いえ」ナユカに魔法が効かないことは、彼女にはまだ秘密だ。こんなことを多少なりともほのめかしそうになること自体、自分にストレスがかかっている証拠かもしれない。「……かもしれません」

「魔法に頼りすぎるのは、よくありません。わたしがそうでした」

 ルルーは外回りのときのストレスを魔法薬で処理していたが、一時的によくなるだけで、根本的には解決しなかった。

「……そうですよね」

 医師として、事実は否定しない。

「すみません、専門の方にこんなこと……」

「いえ、おっしゃるとおりです」

「そういうことで納得した?」なにが「そういうこと」かはともかく、サンドラはこの話題を打ち切りたい。「無事に着いたら連絡してくるよ」

「わかりました」いちおう、フィリスは飲み込んだ。「ただ……」

「まだあるの?」

 課長へのお返しに、蒸し返しておく。

「リンディさんに甘いのは事実ですから」

「……もういいでしょ」

「課長は意外に優しいんですよ。ぱっと見と違って」

 正直なルルーには、天然が入っている。……つぶやくサンドラ。

「……余計なフレーズが多いな……まぁ、いいけど」




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