表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界のセデイター 3.本業再開、姉と助手と  作者: 七瀬 ノイド
第五章 再開
24/30

5-6 確保

 街の外へ出た痩身のセデイト対象者は、これまで同様に走るだけ走ってから、加速魔法の魔法効果が切れてしゃがみ込む。夕刻、すでに灯りが燈っていた街とは違い、夕暮れの中、その様子は双眼鏡を使っても、遠くからは見えにくい……。それでも、男がひたすら直進したこともあって、比較的容易にティアが発見した。

 最初に広場で奴を見つけたことからもわかるように、彼女はいい目をしているらしく、助手がいることで、リンディはけっこう助かっている。また、加速魔法と回復魔法を含め、今のところティアが見せた能力がすべて自分以上のスペックを示していることは、少々妬ましくさえある。……それなのに、セデイト経験がないというのは不思議だ。なにか足りない部分があるのだろうか……それとも、単に運がないだけか……。一回セデイトしたら化けるかもしれないな……そうなると、自分のライバルにも……。

 少々複雑な思いを抱きつつも、リンディはセデイター用のスコープを装着し、レンズを片目に下ろす。もはや、隠れて近づくという段階ではない。瘴気を視認するためのこのスコープを夜間モードにすれば、対象者の瘴気が発光しているように見え、暗くなって人通りの少ない街道なら、相手の姿ははっきりしないまでも、その位置は遠くからでもよくわかる。


 無関係な者を巻き込むことがないように、辺りの状況を確認しつつ、セデイターは助手とともに魔法の射程範囲内へと近づいてゆく……。動けない相手をしとめるのは簡単だ。今まで見せた再始動までのインターバルからして、このまま歩いて接近しても、動き出す前にこちらが撃てる。今回はこちらも最初からほぼ全開で加速したため、現状、走れるだけの体力的余裕がない反面、距離は稼いでいる。このまま射程圏内に入り、魔法を撃って終了……そういうことだ。戦闘にはならないだろう。

 街の灯りを離れ、とっぷりと暮れた夕闇を越えた先、ようやく双眼鏡なしに対象者の姿を視認した。そろそろ魔法の射程範囲だ。暗さでわかりにくいものの、奴はこちらを向いてしゃがんでいる――これは今までにないパターン。これまでは、物陰から接近しようとするところを振り向かれて叫ばれる、というのが続いていた。腹を括ったのか、それとも、視線を向けることでささやかな抵抗をしているつもりか……。あるいは、走れなくても、こちらの魔法はかわせるとでもいうのだろうか……無駄なことを。

 リンディとティアは歩みを進める……この辺りが、射程距離だ。数歩進んで、魔法を撃つべくセデイターは立ち止まる。すると……。

「あっ」

 リンディの上げた声も虚しく、立ち上がって反転した男は、今までに何度となく目撃した速度で走り去っていく。ありえない……あの強力な加速をこのインターバルで……ふつう、体力の回復が追いつかないはずだ。にもかかわらず、あれだけ加速できるということは、より強力な魔法を使用していることになる。それこそ、「マスター」レベルで。

「わたしが追います」

 ティアが加速魔法をかけ、それを追いかける。これも、やはり無茶な行動――であっても、見失ったら元も子もないという考えだろう。こちらもインターバルが短いにもかかわらず、さきほどと同程度の加速であることから、能力をセーブせずに全開で追跡していると思われる。つまり、負傷するのは覚悟の上だ。それでも、本人が「わたしが」と言ったからには、リンディは任せるべきと判断する。自身も加速で追跡して、その結果、ふたりが行動不能になったら目も当てられない。したがって、セデイターは魔法なしにて、後を追うことにする。


「はあ」

 出だしで出るのはため息。またも走る羽目になるとは思わなかった。あれで終わりだと思っていたのに……。こんなことならトレーニングを……しなくてよかった。なんといっても、今やっていることがトレーニングだ。これで数日前にトレーニングなどしていたら、今、走る気なんか失せていただろう。気力はいざというときのために取っておくもの。これぞ、非トレーニング効果というやつ。怠惰バンザイ、サボりバンザイ、休息サイコー。……などと、独自の理屈を並べ立てて現状を無理やり肯定しつつ、あえぎながらもリンディはひたすら走る。

 すると、両脇が開けた街道の前方に、しゃがみ込んだティアの姿が目に入った。怪我はないだろうか? そして、あいつはどこに……。トレーニング嫌いは、今現在、出すことのできる全速力で、そのもとへと駆けつける。

「対象者は、前です」

 追いついたリンディが口を開く前に、ティアは街道のまっすぐ先を指差した。あちらもヘタってしゃがみ込んでおり、さきほどよりも距離が近い。やはり、無理がたたっている。

「怪我……」

 息切れしながら、セデイターがどうにか声を出したところ、助手は男の方を遠目で見る。

「ええ、そのようですね」

「じゃなくて……」

 息が上がってしゃべれない……。へたり込みたいのを我慢して、リンディは治癒魔法使用中のティアを指差す。

「あ」気遣ってもらったことで、助手が上気する。「わ、わたしは、大丈夫です。恐縮です。このくらい、どうってことないです。あはははは」

 前例から、妙に高揚したティアはめんどくさい。

「あたしが……」一呼吸。「先に行く」


 歩き出すセデイター。……今度こそ、きっちり接近して、魔法を撃つ。息が整って、脚が回せるようになったら、加速して接近だ。機会を待ちながら、じわじわ近づいてゆく。闇が濃さを増した中、スコープの先に小さく光る男は、まだ動かない……いや、動けない。やはり、回復魔法で怪我を治療中らしく、座ったままこちらを見ている。

 そのまま歩いて進むうちに、ようやくこっちも息が整ってきた。脚に疲労感は残っているが、そろそろいけるだろう。向こうの消耗の比ではない。リンディは魔法の射程範囲を見定めつつ、数歩前進してから、まずは自分に加速魔法をかける。

「行け!」

 気合を入れて、出せる最高速で飛び出した。射程まで数秒――その間、走りながら麻痺魔法を詠唱し、撃とうとする直前……奴は立ち上がって反転し、加速! すでに発射のモーションに入っていたセデイターの魔法は放たれたものの、虚しく射程外。

「なんで!」

 あんなに消耗していたのに、なぜ走れる、なぜ加速できる? もうすでに、肉体的ポテンシャルの限界を超えているはず。まさか、それを凌駕するような強力な魔法をかけているのか……? それでは、体が破壊されてしまう。

 見れば、案の定、奴の加速は当初ほどではない。といっても、リンディよりも依然として遥かに速い。したがって、このまま直進すればまた逃げ切られてしまう……はずが、今回はまっすぐ走らず、徐々に左へとカーブしており、街道を外れてゆく。後方から魔法を撃たれたことから、次の矢を避けるために曲がっているのか、あるいは、負傷が癒えず、直進できないのか……。

 いずれにせよ、曲がってゆく相手を追うのなら、こちらが最短距離を取れば、離されずに済む。大きく弧を描いて草むらへ分け入ったセデイト対象者は、追跡者が街道からさほど外れるまでもなく、ついに魔法の射程内に入った。


 ここぞとばかりに、セデイターは、また麻痺魔法の矢を放つ……が、外れ。もう一発……外れ。依然、相手が速すぎる。待てば止まる……かもしれないが、不確定なため、こちらで早めに止めたい。それに、奴の体に大きな負担がかかっているのは明らかで、このままでは大怪我を負うだろう。いちおう「保健業務」に該当するセデイターとして、それは避けたい。あとで保障問題が発生することもある。

 そして、さらに一発……しかし、外れ。広範囲の対象を麻痺させるフィールド魔法は、発動にラグがあるし、ここはこの魔法を連射するしかない。狙って……発射……外れ。

 こっちの加速魔法はすでに切れたが、奴が弧を描いている円弧の中心付近に陣取ったため、あたかも自分の周囲を回っているかのよう。対象者が回り始めて一周に近づいてきたところへ、反対側から氷魔法の矢が飛んできた……ティアだ。

 不意の攻撃に驚き、男はバランスを崩して、さらにきついカーブを描く。結果、螺旋のごとく、リンディへと次第に近づくかのように回ってくる。飛んで火にいる……というやつ。

 ここぞとばかりに、セデイターは高速詠唱で矢を連射。さすがにこのすべてを外すことはない。いったん街道を横切り、反対側の草むらにて射抜かれた男は、麻痺しつつも、慣性の法則に基づいてそのまま進み、突っ込むように転倒。ようやく完全停止させるに至った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ