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作者: 金田玉太郎

 食事を終えた僕らはもう少し話してから帰ろうと、新宿駅東口の古い喫茶店に入った。時間は夜も八時過ぎだというのに店は混んでおり、ようやく端の狭い席に案内されるとすぐにコーヒーを三つ注文した。

 そのコーヒーもすっかりと冷めはじめた頃であろうか、Dが面白いものがあるといって携帯電話の画面を僕とUに見せた。それはメッセージングアプリのようなもので、ぼやけた少女の顔の写真と彼女ととであろう会話の履歴が表示されていた。

 「何これ? 出会い系?」とUが聞く。

 「いや、援助交際の募集だよ。今、新宿にいるらしい。二万円でセックスの相手を求めているみたい。会ってから断っても良いってさ。U会いに行ってみてよ」とDが笑いながら答える。

 僕はその怪しさに最初は不安を感じたが、すぐにDに加勢してUに会いに行くことを求めた。雑誌の記事でもない、二万円で自身の性を売る少女の実在はなんとも不気味で、僕の好奇心を誘った。

 Uははじめは拒否したが、繰り返し会いに行くことを求められるに勘念したのか、自分が待ち合わせ場所に行くことを了承した。

 僕らはUに彼女を見つけたら、また、何か危険を感じたらすぐに連絡することを約束した。Dが彼女とのこれまでのやりとりについてUに詳しく伝えると、Uは「すぐに断って帰ってくるから」と笑って店を出ていった。

 それから十分ほど経ってからだったか、Uからメッセージが届いた。「待ち合わせ場所に着いたけどいない」といったものであった。

 「これ、どこかで見られている可能性がある。まずいな……」とDはつぶやいた。

 詳しく聞けば、少女の方もまたどのような人が来るのか探っている場合があるということであった。そしてまた、少女の方も、待ち合わせ場所に来る男を見て笑っている可能性もあるという。

 「とりあえず、俺の服装を伝えてたから、俺が行けば出てくるかもしれない」とDは立ち上がった。

 「それなら、俺も行くよ」と僕は答えた。

 Uの半分以上残されたコーヒーをそのままに、僕らは歌舞伎町へと向かった。駅へ向かう無数の人びとの逆を進む中、Uが何か事件に巻き込まれることはないかと僕は再び不安になった。

 歌舞伎町内の待ち合わせ場所に到着するも、Uの姿は見つからなかった。私はUに電話をかけた。すると、Uは私たちのすぐ近くにおり、電話越しに「後ろ」と私たちの背を指さした。

 僕とDが振り返ると、その先にはメッセージにあった服装の少女が歩いていた。黒のコートに、薄い色のデニム。エナメルの小さなルイ・ヴィトンのバッグがネオンに照らされ光っていた。

 少女が角を曲がり歩き消えてゆくのをじっと見つめる僕らの後ろで、「それじゃ、帰るか。もう、いいだろ」とUが言った。

 駅に向かう人混みの中、「結局、かわいくなかったんだろ?」とDが聞いた。Uは少し時間を空け、考えた様子で「二万円はないな」と答えた。東口の交差点に誰にも気付かれない三つの大きな笑い声が響いた。

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