甲子園が嫌いや
俺の所属する野球部が、甲子園行きを決めた。大阪予選で並み居る強豪相手に勝ち続け、全国大会行きを今日決めた。でも、ベンチでそれを見ていた俺は全然嬉しくなかった。俺は甲子園が嫌いや。理由は沢山ある。
夏休みが潰れるから嫌いや。「休みこそ勉強のチャンスや」なんてほざいて、課題をマウンドができるくらい出すんがうちの学校や。最初から雀の涙ほどしかない夏休みが、さらに練習やら大会やらで潰されるなんて御免や。休ませろや。
甲子園には屋根がなくて暑いから嫌いや。どうして屋根のないところでやるのか、意味わからんわ。大阪ドームがあるやないか。でも、どうせ大阪ドームに場所が移っても、冷房をケチって蒸し暑いのは変わらんのやろうな。
嫌いな先輩がイキるから嫌いや。お前ほとんど試合に出とらんやないか。高校野球のベースコーチなんか誰がやったって同じや。それでなんでイキんねん。スタンドの誰もベースコーチの様子なんか見とらんわ。お前なんか終盤の思い出代打が関の山や。
OBや教師や、家族や学校の奴らや、テレビ局や新聞局、日本中の人が急に張り切り出すから嫌いや。これが一番嫌いや。自分らは何もキツい思いしとらんくせに勝手に張り切って、球場まで押しかけてくる。なんやねん、「がんばれ」って。「学校の宣伝のためにがんばれ」とか、「視聴率のためにがんばれ」とか、そういう思惑が見え見えやねん。
どうして、野球部に入ったんやったっけ。中学の野球部に入る前までは、野球をすることが単純に好きやったんや。野球が好きで中学の野球部に入ったら、三ヶ月もランニングや球拾いばっかりさせられて、その後は補欠。だんだん楽しくなくなっていったわ。中学を卒業するまで惰性で野球部を続けて、高校に入って何となく選んだのが、野球部やった。
俺は甲子園が嫌いや。そして、今の俺は……。
——今の俺は、野球が嫌いや。