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お母様の言うとおり!  作者: ふみ
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母の教えその27「冬来たりなば春遠からじ」(後編)


フェクダから城の内部の様子を詳しく聞きながら城へ向かう道すがら、馬車の窓から見た城下町の風景に、ミモザ達は今王城で起こっていることがいかに異常事態であるかを再度認識させられた。


「城下はいつも通りなんですね…」


スピカの言った言葉に、アリオトも眉を顰める。


色とりどりの果物や野菜を売っている露天商、往来を行き交う買い物客、風景の一角で日常を営む住人達の姿。誰一人、今王城で起きている事態に気付いていないように思えた。


「あぁ…城であんなことが起きているというのに、その情報が一切国民に伝わっていない」

「王城で緘口令を出したのでは?」

「いいや、そんなものは出されていない。それなのに城で働く者達は誰一人そのことを口にしようとしないんだ…出来ないようにされているだけかもしれないけど」

「………」

「そこまで緻密に人心を操っているというのは恐ろしいことだけど…国民に知られれば却って混乱は増すかもしれない…目的は不可解だけど、今は幸いだと考えてもいいかもしれませんね」


アリオトの言葉に、力なく返事を返したフェクダは車窓の景色に目を移して「もうすぐ着くよ」と言った。


がたんと、鈍い音を立てて馬車が停まったのは、王城の入り口の一つだった。


「魔法省第一研究室所属、魔法相室付き一等魔術師フェクダ・ガンマール。魔法相より火急の案件があり登城いたしました」


中にいるミモザ達が見えないように、少しだけ窓を開けてそう衛兵に告げたフェクダは、通交証のようなものを掲げ入場の許可を得た。

再び動き出した馬車に、ミモザは肩に入れていた力を抜いた。しかし安心はできない。本当に注意が必要なのはこれからだ。


「着いたよ」

「…私達は馬車の外に出ても大丈夫なのでしょうか?」

「ちょっと待って…」


一人先に馬車から降りたフェクダが「大丈夫そうだ」と声をかける。


「…ここが王城…」

「…人がいなさ過ぎではないですか?」

「うん…おかしい…俺が一度城を出る前までは人目を避けて陛下の部屋に近付くのが難しいほどだったのに…」

「………」


今現在ミモザ達の降り立った場所には、自分達以外の他の人影は見えなかった。以前城へ来た時と、人がいないだけでこんなにがらりと印象が変わるとは思わなかった。今のミモザ達にとっては好都合であるが、こうも用意された舞台かのような状況には気味の悪さも感じる。


「どの道進むしかないだろうな…」

「そうですね…」


罠だったとしても、ミモザはアルコルの無事を確かめるまで引き返すことなどできそうもない。


「ミモザ様、大丈夫ですか?」

「っ…スピカ…」


思いつめたのが顔色に出ていたのか、スピカに腕を添えられはっとしたミモザは、不安なのは自分だけではないのだからと自分を奮い立たせる。


「大丈夫よ、行きましょう」

「はい!」


おそらくアルコルや王太子がいるのは居住区である離宮の方だろう。ミモザ達がその方向へ足を向け踏み出した時、その方向から走ってくる人影があった。


「ミモザ…!!」

「っ…アルコル様!!」


呼ばれた声と遠目に煌いた金色の髪にミモザは思わず駆け出した。


「アルコル様…!ご無事だったのですね…!!」

「ミモザも、無事で良かった…!」


駆け寄ってアルコルの腕に手を伸ばすと、同じように肩を支えられた。


「先生から聞きました、魔物が現れ陛下がお怪我をなさったと…」

「うん…父上に会おうとしても、状態が良くない、落ち着いてからでないと会えないの一点張りで、目通りも叶わない」

「王太子様はどちらにいらっしゃるのですか?タニア様は?」

「姉上は自室に留め置かれているらしい…兄上も…何度も話をしようとしているんだけど、侍従に阻まれて直接会うことができていない」

「侍従もということは…メラク様もですか?」

「あぁ…メラクやアルカイドが中心となって指示を出しているらしい…私もさっきまでほぼ軟禁の状態で自室にいることを強いられていたんだ…見張りもつけられていた。はっきりと疑いを向けられた訳ではないが…迂闊に動く訳にもいかなかった…メグレズとも会えていない」

「メグレズ様は大丈夫なのですか?」

「向こうが捕らえておきたいのはおそらく私だけだろうから…私といない方がいいのかもしれないが、メグレズが無茶をしないか心配で…」

「アルコル様…」


メグレズの身を案じるミモザ達にアリオトが「殿下」と呼びかける。


「先程まで自室に留め置かれていたと仰っていましたが、どうやってここまで来られたのですか?」

「ついさっき見張りの姿がなくなっているのに気がついた、だから兄上達を探していたんだが…ミモザ達の姿が見えて…」

「そうですか…それなら早くここを一旦第二王子殿下だけでも離れた方がいいのではないかな?」

「どうしてですか?」

「…城に入ってから姿を消した使用人達もそうだけど、殿下の見張りまで一緒に消えるなんて…なんだか意図してここに集められているみたいじゃないかなぁ」

「そうなのか?」

「そうだね…俺がミモザくん達を連れて戻ってきたときにはもうこんな状態に様変わりしていた。突然現れた魔物といい…城の外に情報が漏れていないこともそうだ。不可解な点が多過ぎる…」

「はい…」

「しかし…私がここを離れては、それこそ後ろ暗いところがあるから姿を眩ませたのではと疑いをかけられるのではないか?」

「…その可能性もあるだろうね。城の人間は何かにとり憑かれたみたいに第二王子の謀反を囁いていたから…」


謀反という言葉にぐっと体に力を入れたアルコルの腕を取ってミモザはその手を握る。


「大丈夫…きっとそんな疑いはすぐ晴れますわ」

「あぁ…」


姿を消したレモンのことがミモザの頭を過る。それでもミモザはレモンがそんなことをするような子ではないことを信じていた。


「アルコル様…レモンが昨日から戻ってきていないんです…」

「レモンが…?」

「でも、あの子じゃないんです…レモンはこんなこと絶対しません…!」

「…わかっているよ」


思わず力の入ってしまったミモザの手を握り返し、アルコルは少しだけ笑う。


「もしレモンが私達を欺いて仇をなそうとしていたなら、もっといいタイミングがあった筈だしね」

「………」

「多分、何かあったんだ…私達の見えないところでレモンも戦ってくれているんだと思う…信じて待とう」

「アルコル様……ありがとう…ございます…」


慰めるつもりが逆に励まされる形になってしまったミモザはアルコルを見上げて眉を下げた。


「一度兄上と話ができれば…」

「どこへ行くつもりですか」

「!」


アルコルの言いかけた言葉を遮って止めたのは鋭い声だった。


「っ…メラク…」

「メラク様…アルカイド様も…」


城内から姿を現したメラクは神経質そうに片手で眼鏡を触りながら歩み寄り、数メートル手前で立ち止まった。その斜め後ろで剣の柄に手をかけながら、アルカイドはどこか虚ろな視線で此方を見据えていた。

気付けば前は塞がれ、先刻まで姿の見えなかった騎士や衛兵達がミモザ達の後ろまでを取り囲んでいた。


「第二王子殿下、居室にいらっしゃらなかったのは逃亡を図ってのことだと受け取ってよろしいですね」

「逃亡?何故そんなことをする必要がある」

「言い逃れをするおつもりですか?それともはっきりと言葉にしないと分からないとでも?」

「あぁ分からないな。けれど少なくとも貴方達がまともではないことは分かる。罪状も告げず根拠もない嫌疑をかけ王族を軟禁するなど、普段の貴方ならしないだろうから」

「………」


アルコルの背に庇われるように後ろへ下らせられたミモザは、その肩越しにメラク達の様子を窺った。


(あの時と同じ…)


学園でミモザを糾弾した時と同じ表情をしたメラクは、アルコルの言葉にも表情一つ動かさず、無機質に眼鏡の縁を指で触り、感情のない声で「貴方に何が分かる」と言った。


「…私はしくじる訳にはいかないんだ…あの人を越えるため…認めてもらえるように…あの方を支えて玉座へ導くことが私の使命だった…それが叶わなければ私は…いやだ…失望されたくない…」

「メラク…?」

「メラク様っ…待ってください…!!」


腹の底に溜まった暗いものを吐き出すように言葉を溢れさせるメラクにスピカが悲鳴のように名前を呼ぶ。


「話すことなどない」

「それでは納得できません。何があったのですか、教えてください。王太子様はどこにいらっしゃるんですか?」

「…殿下は城内で陛下に代わり指揮をとられている」

「先生はその姿を見ていないと言っていました。王太子様は本当にご無事なんですか?」

「………」

「あなたは…メラク様も、王太子様も、あの時私にこれからはちゃんと言葉を尽くすとお約束してくださいました…それなのに、どうしてこんな…!!本当に何かがあなた方の身に起こったとしか思えません!!」

「………」


前に歩み出て訴えるスピカの言葉にも反応を示さず、メラクは「貴方がたを拘束させて頂きます」と片腕を上げ合図する。それに呼応するように衛兵達が武器を構えた。


「それは誰の指示だ?」

「重役の方々で決定されたことです」

「兄上はどこにいる、話がしたい」

「クーデターの嫌疑がかけられている貴方をミザールと会わせる訳にはいきません」

「…嫌疑がかかる前から何度も兄上に目通りを願い出ているが、それも叶わないのはどう説明するんだ?…彼女の言うように本当に兄上は無事なのか?父上と同じように怪我をしているのではないのか?」

「………」

「はっきり否定させてもらう。私は謀反など起こしていないし、起す気も理由もない。捕らえられたところで証明されるまで何度でも否定するまでだ。しかし彼女達まで拘束する理由はない。彼女は冥王に対抗しうる唯一の希望…それは貴方だって分かっている筈だ。貴方がたを含め城の者達の様子は明らかに普通じゃない。冥王の力が働いているのなら身内同士で争っている場合ではないだろう。こんな状態になっているのに兄上が姿を現さない理由があるなら教えて欲しい」

「………」

「答えろ、メラク」

「…貴方にそれを説明する義務はありません」


「衛兵、捕らえなさい」と、最後まで此方の話に耳を貸すことのなかった相手が告げる。


「っ…メラク様っ…やめて!!」

「下がっていろスピカ、これは王太子殿下もご存知のことだ」

「ドゥーベ!?」


必死にメラクに訴えたスピカは突然現れたドゥーベに肩を抑えられてその場に止められる。


「はなして…!!どうして、ドウがここにいるの…!!」

「大人しくするんだ」

「大人しくなんかできる訳がない!!こんなのおかしいよっ…!!」


身を捩ってミモザ達の方へ駆け寄ろうとしたスピカは、ドゥーベや衛兵に囲まれて身動きを阻まれる。


(このままじゃ…)


全員捕まってしまったらきっと冥王に対抗できなくなってしまう。もし相手が本当に精神操作を受けているのならミモザの力で解除ができないだろうか。


「無駄ですよ。あなたの力では今の俺には及ばない。余計なことはしない方が身のためです」


まるでミモザの思考を読んだかのように言ったドゥーベが近くにいた兵士にスピカの身を引き渡す。


「いやっ…」

「スピカくん!!」

「スピカさん!!」


スピカに駆け寄るアリオトとフェクダを避けるように、アルコルを捕らえるため衛兵の腕が伸ばされる。


「アルコル様っ…!!」


目前まで迫った衛兵の腕から守るように背中へ庇おうとするアルコルの腕に、ミモザは咄嗟にしがみつこうと手を伸ばした。今ここでアルコルから離れたら、もう二度と会えなくなってしまうのではないかと思う恐怖で胸が一杯になった。


「っ…何をしている!!」

「っ!?」


しかしミモザの手はアルコルに届くより先に別の腕によって阻まれる。すぐ近くから聞えた怒声と、腕を乱暴に引っ張られたことによってアルコルの傍から無理矢理離される。


「お父様っ…!?」

「…学園へ迎えに行ったら城へ向かったと聞いて…来てみれば案の定か…」

「どうしてここに…」


突然現れた父親の存在に呆然とその顔を見返すミモザに、父は怒りに染まった表情で「お前は何を考えているんだ」と吐き捨てるように言った。


「自分の立場も理解せず、このようなことに関わりおって…!!」

「っ…どういうこ」

「うるさい!!とにかくお前は領地へ連れ帰る!!」

「いっ…!!」


強く掴まれた手首を無理矢理引かれ、その痛みに声が漏れた。


「ミモザっ…!!」

「ミモザ様っ…!!」


ミモザの悲鳴など構わず引き摺るように強く腕を引く父親に、ミモザも状況が理解できないまま足に力を入れて踏みとどまろうと抵抗する。


「何をしている!!歩け!!」

「お父様っ…やめて…!!」

「侯爵、手荒な真似をするな…!!」


その父の動きを遮ったのはアルコルの声だった。


「何があったかは知らないが、この状況に不満があるというのなら彼女を責めるのは間違っている。彼女は私の身を案じてここへ来てくれただけだ」

「………」


その言葉に納得しないまま黙り込んで睨みつける父親から目を逸らして、アルコルはメラクを見据えて言う。


「メラク、私は逃げも隠れもしない。この身の潔白を訴える場が用意されているのなら、自ら進んでその場に臨む意思だ。だが彼女達は私や兄上の身を案じてここへ来ただけだ。無関係な人間を巻き込むというのならこの場で抵抗するのも止むを得ない」

「………」


アルコルの言葉に少し考え込んだメラクは「わかりました」と一言だけ言って、片手を挙げスピカやフェクダ達を取り囲んでいた兵士達を遠ざけた。


「アルコル様っ…!!」

「ミモザ、大丈夫…あなたは一度領地へ戻るんだ」

「でもっ…」

「大丈夫だ、兄上と話をしてくる。疑いが晴れたら迎えに行くから、領地で待っていて」

「っ…」


衛兵に囲まれ城の中へ入っていくアルコルの後姿を追おうとして足を踏み出しかけたミモザは、再び父に強く腕を引かれて無理矢理反対方向へ歩かされる。


「っい…!!お父様、痛い、離して…!!」

「うるさい!!国王暗殺の嫌疑がかけられている相手と不用意に距離を詰めるなど…!!この馬鹿者!!」

「アルコル様はそんなことしないわ!!」


父親の怒りの理由を知ったミモザは、カッとなって思わず言い返す。


「それが間違いか間違いではないかは重要ではない!!お前が第二王子と関わっているというのが我が領にとって問題だと言っているんだ!!」

「何が問題だって言うの!?お父様は私にアルコル様の婚約者になってほしかったんじゃなかったの!?」

「それは第二王子に王族としての価値があったからだ!!今のような謀反を起こした嫌疑がかけられている相手じゃない」

「なっ…」


あまりにもアルコルに対して不敬な物言いに、ミモザは頭に血が上るのが分かった。


「お前は大人しく領地へ帰るんだ。病気ということにして、ほとぼりが冷めて別の嫁ぎ先が見つかるまでサザンクロスを出るな」

「そんなっ…!!嫌よ…っ…私、アルコル様の婚約者になるの!!アルコル様は私を婚約者にと望んでくださった!!私ちゃんとお受けしたもの!!」

「それはお前達の口約束に過ぎない」


ミモザの言葉に苦々しい顔をした父は、立ち止まらないまま無情に吐き捨てた。


「まだ正式に婚約を結んでいないのは幸いだった」

「そんな…」


全くミモザの話を聞かず自分の思い通りにしようとする父親の理不尽で身勝手な言い分に悔しくて涙が滲む。


「嫌よ…!!」

「言うことを聞きなさいミモザ」

「いや!!私、サザンクロスへは行かない!!」

「いい加減にしろっ!!」

「私アルコル様のお傍にいたいの…お願いお父様っ…やめて!!」

「うるさいっ」

「っ!?」


耳元でぱぁんと音が響く。ぶたれたのだと分かったのは、頬がじんじんと熱を持ったからだった。

信じられずに頬に手を添えて一瞬呆然と父親を見返したミモザを引き摺って、父親は止めてあった馬車へと押し込んだ。


「いっ…っ…!!」


馬車の座面に倒れるようにして中へ放り込まれたミモザは、頭や足をぶつけた痛みに呻く。


「お前がどれだけ騒ごうと、もうお前が第二王子に会うことはない」


硬質な鍵の音ががちゃりと馬車の中に響いた。


「嫌…っ…開けて!!出して…!!」

「この猶予もない時に問題を起こしおって…」

「お父様っ…!!」

「私は早馬で先にサザンクロスへ戻る」


すぐに起き上がって馬車の窓から父親の後姿を見る。しかし相手はもうミモザのことなどどうでもいいと言うように「これは精神魔法を使う、逃げられないよう注意しろ」と御者と話をしていた。


「っ…」


いつだってミモザの話など聞いてくれない。勝手で、自分が一番正しいと思っている。

「お父様」と父に呼びかけようとした声は喉に詰って出なくなった。


こんなの、こんなの父親のすることじゃない。

ぎゅっと握った拳で、目の前の扉を叩く。


(このままアルコル様と二度と会えなくなるの…?そんなのいや、いやよ…っ…)


動き出した馬車の中、どれだけ叩いても開くことのない扉に額をつけずるずると座り込む。


「っ…いや…アルコル様……!!」


悔しくて溢れた涙が止まらなかった。



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[一言] 父親の歪みが相変わらずで笑えねぇ…… やはり和解はないのか
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