母の教えその16「スクロール広告にご用心」
昔、この大陸は闇を統べる冥王に支配されていた。
それを危惧した創造神ポラリスは浄化の力を持った天使を一人の青年の元へ遣わせた。天使の加護を得た青年は勇者となり、仲間と共に苦辛の旅の末冥王を打ち倒した。
冥王がいなくなったことで大陸には平和がもたらされたが、その代償は大きく、天使は力を使い果たし最後の地に眠ることとなった。
天使を失ったことを悼んだ勇者達は最後の地に天使を奉り、墓守りとなってその地に暮らした。
やがて最後の地には人々が集まり一つの国が出来た。それがアウストラリス王国のはじまりであったとされている。
しかし長い月日が流れる中で、冥王は何度も甦った。
再び世界が闇に飲まれそうになると、最後の地には白い花が咲き乱れると言う。
“星の花"と呼ばれるその花が咲くのは、冥王に対抗できる天使の魂を持つ者が現世に現れる兆しであるとされている。
「その星の花を保護、管理し、万が一花が開くことがあった時は天使の魂を持つ者を一刻も早く見いだすために、学園ルミナスは最後の地の中心であるここに造られた」
オリエンテーションの時、延々と規則を語っていたあの時と同じ老教師が、読んでいた本を閉じる。その一歩後ろの両脇には、フェクダとアルコル達のクラス担任が控えている。
「これがわが国の建国の物語と言われるものだ」
星の花が咲いたことは、その日のうちに国中に伝わった。
王城にはすぐにそれぞれの領地を治める貴族達が集められ、今後どうやって冥王に対抗していくか、領民を守るためにどうすべきかが話し合われたという。民にもその話は伝わっており、未だ現実感はないものの、学園の生徒達同様皆どこか不安そうな影を落としている。
『冥王様の気配が近くなった』
昨夜、寮の部屋で寝ていたレモンが突然そう言って身を起こした。驚いたミモザは「どこにいるの!」とついレモンを揺さぶってしまったが、レモンも「感覚的なものしか分からない」のだと言って、ミモザの対応にむくれてしまった。
何度も謝って聞き出したことによると、気配は未だ微弱で、復活には至っていないのだろうということだった。
(それでも…きっと復活の日は遠くないのよね…)
本当に冥王が復活したらどうなってしまうのだろうと、憂いを吐き出すように一つ溜め息をつけば、隣から「どうしたの?」と小さな声で話しかけられた。
「あ……なんでも、ありません…少し緊張してしまって」
「それならいいけど…」
同じように小声で返すと、間近でにこりと微笑んだアルコルに赤くなった顔を見られたくなくてミモザは顔を俯ける。
クラスの違うアルコルが隣にいるのは新入生全員が属性判定を受ける為だった。
扇状で段のついた広い教室は席が自由だったこともあり、ミモザが教室へ入った途端先に来ていたアルコルに手を取られ、こうして隣まで連れてこられてしまった。アルコルの隣にはメグレズもおり目立つことこの上ない。周囲の興味津々な視線に耐え切れず「同じクラスの方と一緒でなくていいんですか?」と聞けば「ミモザの隣に座れるのはこういうときくらいだろう」と何故か当たり前のように返されてしまった。
親しい友人もアルコルとメグレズしかいないので、心強くて嬉しいのだが、最近のアルコルは格好良すぎるので一緒にいるとどうしても目立ってしまうのが何だか恥ずかしかった。
(同じクラスじゃなくて、かえって良かったのかも…)
「目立たず騒がず慎ましく」という母の教えが最初の段階で躓いている気がして、じっと膝の上に置いた手を見つめながらミモザは早く顔の熱が引くよう祈った。
「属性判定はあの水晶に触るだけだから、大丈夫だよ」
「…アルコル様はやったことがあるのですか?」
「うん、昔城でメグレズと一緒に受けたよ」
「そうなのですか?」
「はい、王族の方は幼いうち魔法の特性を知る必要がありますし、俺もアルの従者になることが決まっていたから、訓練を受けなければいけなかったので」
「へぇ…メグレズ様は何属性なのですか?」
「俺は木属性ですね」
「植物を操るのに長けてらっしゃるのですね…すごいです…」
「……私には聞いてくれないの?」
「アルコル様は光でしょう?」
「だってあなたに褒められたいじゃないか」
「もう、何を言ってらっしゃるの…ふふっ…」
こそこそと小声で話しながら、子供みたいに拗ねたアルコルに思わず笑みが零れる。少しだけ重たかった気持ちが晴れたミモザは、笑い声が漏れないように口元を両手で軽く押さえた。
少し余裕ができたミモザが教室を見渡すと、ヒロインとその幼馴染が教室の端の席に一緒に座っているのが見えた。遠目に観察しているとクラスでも二人は一緒にいることが多い。やはり幼馴染というだけはあって仲は良いのだろう。
「皆も知ってのとおり、先日星の花が咲いた。冥王に対抗するべく、君達にも一日も早い戦力となることが求められている」
本来なら魔法の基礎を学んでから行われる属性判定ではあるが、星の花が咲いたことにより前倒しに実施されることになったらしい。
『属性を判定する授業で、ヒロインが水晶に触れた瞬間光が溢れて弾けるの。そこでヒロインが王族以外に強力な光魔法を持っていると分かって、学園を通して国王から天使の生まれ変わりであると認定されるの。そしてその時に霧散した光が体に吸い込まれた者が七人の騎士よ』
光の魔力を持つヒロインが星の天使の生まれ変わりであると、まさしく今日これから目の前で発覚する。そして同時に七人の騎士が選定される。
メグレズはそのうちの一人だ。光が体に入るという状況がよく分からないが、何とかそれを阻止できないものかとミモザは一晩頭を悩ませ考えた。
けれど結局まともな解決策を見出すことは出来なかった。やきもきしてとりとめのないことを考えている間にミモザが思い出したのは、以前母が言っていた「スクロール広告」の話だった。
『サイトとかを見てるとね、ボタンを押そうとすると丁度タイミングよく動く広告が流れてきて、間違って押しちゃうことがあったのよね。あれはいただけないわ。気をつけてるんだけど、タイミングが絶妙なのよ。結果的に禁止になったから良かったけど、あの技術もっといいことに使えなかったのかしら』
何故唐突にそんなことを思い出したのか分からないが、その時ミモザは光が霧散して飛んできた瞬間にメグレズの前に自分が出てしまえばいいのではと思った。
知らない言葉ばかりで母の言っていたことの半分も理解できなかったが、要は選ぶものに間違いを起こさせればいいのだろう。
メグレズが光に当たらなければ七騎士に選ばれず、危険に晒される確率は確実に減る筈だ。ただミモザの体に入った光が、その後どうなるのかは分からない。仮にも救世の天使の力なのだから死ぬことはないだろうが、そんな聖なる力に間違いを起こさせるのだから、何らかの代償は覚悟しなければいけないかもしれない。
それに万が一そのままミモザが七騎士に選ばれてしまったとしても困ったことになってしまう。危険な能力を持っていると言ったって、ちょっとした護身術が使える以外、身体能力はほぼ普通の令嬢なのだから。
(何か他にもっといい方法はないかしら…)
よく考えなくても穴だらけで浅はかな行動だと思う。けれど他に良い方法も思いつかない。
(他に考え付かなかったんだからしょうがないわ…)
リスクは高い、けれど実行せずに目の前で起こることを黙って見てもいられない。どちらにせよ後悔するのなら、やってみてから悔やもう。
そうなってしまった時はあらためて戦闘訓練をルガス爺とアリアに頼まなければなるまい、とミモザは思いつめながら静かにその時を待った。
「じゃあどうするか説明するよ。今から全員にこの選定の水晶に触れてもらう。水晶の色によって属性が分かるようになっているんだ」
老教師から進行を渡されたらしいフェクダが、説明しながら水晶に手を乗せると、途端に水晶は水色がかった白い光を淡く放った。
「僕は風の属性を持っている。だから水色に光った。火は赤に、水は青に、木は緑に…ってそれぞれ属性によって色が変わるよ。光るだけで何も起こったりしないから安心していい」
「じゃあ名前を呼ばれた者は順番に前に来てね」と言ったフェクダは、生徒の名前を呼んだ。
最初に呼ばれた者が水晶にその手を触れさせると、それは黄色に光った。
「君は土属性のようだね」
フェクダが大きな羽のついたペンを動かし、名簿へと記入する。次の者が呼ばれてまた同じように水晶に触れた。ある者は火属性、ある者は水属性と次々に判明していく中、中々自分を含めヒロインや幼馴染の名前が呼ばれないことにミモザがやきもきしていると、ようやくメグレズの番になった。
「君は事前に王家から報告をもらっているけど、一応学園でも受けてもらうからね」
「はい」
そしてメグレズの触れた水晶は緑色のやや強い光を放った。
「メグレズくんは報告通りと、じゃあ次はアルコルくんだね」
「はい」
フェクダの生徒になってから分かったことだが、彼は生徒のことを「くん」付けで呼ぶ。様々な身分の者が通う学校だからこそ、生徒によって敬称を使い分けるというのは良くないのだということは分かる。だから先生として平等にそう呼んでいるのだなと感心していたが、この間アルコルたちのクラスの担任の先生に「せめて殿下のことは敬称つけて呼んでください」と注意されていたため、ただ単にこの人の性格なんだろうと知った。
「アルコルくん」と呼んだフェクダに対して、アルコル達のクラス担任は渋い顔をして胃の辺りを押さえていた。呼ばれた本人のアルコルは全く気にしていないようだったが、ミモザは心の中であの先生が胃を悪くしなければいいなと思った。
王族が水晶に触れる、その瞬間に誰もがアルコルの動向を固唾を飲んで見守っていた。全員に注視される中で、アルコルは特に気にした風もなく水晶に手を置いた。水晶からは金色の光が湧き出すように溢れてアルコルの後ろに影を作った。
「すごい…きれい…金色なのね…」
アルコルの髪のような優しい金色の光に、思わずミモザは感嘆の声をもらした。
「アルは王家に伝わる一子相伝の光魔法こそ使えませんが、魔力のコントロールなどはかなり努力したのですよ」
横を見れば、いつの間にか戻ってきていたメグレズがそうミモザに教えてくれた。
「一子相伝の魔法…?」
「王家にはかつて冥王を打ち倒したという勇者が使った光魔法が代々伝えられているのです。しかしそれを教わることができるのは第一子だけとされています。アルが使えるのは一般的な光魔法だけですが、それでもあれだけの魔力を操ることができるのです」
どこか自分のことのように誇らしそうに言ったメグレズに、ミモザは少し笑って「そうですね」と同意を返した。
「ミモザ、見ていてくれた?」
「はい」
判定を終えて戻ってきたアルコルは、どこかそわそわとした顔でミモザに聞いた。パタパタと振れる尻尾の幻影を打ち消して、ミモザはアルコルに「とてもきれいでした」と微笑んだ。
「アルコル様の髪と同じ金色なんですね、優しい色」
「………アル、顔」
「っ…わかってる…」
片腕で口元を覆ったアルコルは「ありがとう」と言ってミモザから顔を背けた。その耳は赤い。アルコルの反応にそんなに恥ずかしいことを言ったかな、と思いつつミモザも顔を前へ戻した。
「次は…ドゥーベくん」
そして呼ばれた名前に反応し立ち上がった人物を見て、大きく音を鳴らした心臓を必死に落ち着かせた。
「はい」
返事をしたのは、ヒロインの横に座っていたあの黒髪の幼馴染の青年だった。
『ヒロインの幼馴染、ドゥーベ。彼とヒロインは小さな村出身の平民なので苗字はないわ。ヒロインとは家が隣同士で、幼い頃からずっとヒロインを妹のように守ってきたお兄ちゃん的な存在ね。ゲームの中でも平民だからという理由で悪役令嬢のミモザに苛められているのを何度も庇っていたわ。彼のルートだと、七騎士に選ばれて、星の天使の生まれ変わりだと発覚したヒロインを守る力を得たことをすごく喜んでいた。けれどヒロインが他の身分の高い攻略対象たちと行動を共にするようになって、彼等といればいらない苦労をしなくて済む、闇の魔法しか使えない自分ではヒロインを幸せにできないからと身を引こうとするの。最後はちゃんとヒロインは彼を選ぶんだけどね。他の攻略対象ルートでは兄として見守っていくって感じかしら。あと個人的に名前が呼びづらいと思うわ。ヒロインも彼の事をドウって呼んでいたもの』
母の言葉を思い出しながら、壇上に上がる彼を見る。黒い髪に紫の目、どことなく暗い印象を受けるが、ヒロインと話しているときは笑顔を浮かべていたから実際はそんなこともないのだろう。
母の言っていた通りならば彼の魔法はミモザと同じ闇属性。水晶はドゥーベが手を触れた途端に黒く濁ったようにその色を変えた。
「……闇属性だね」
「闇…?」
「アルコル君の光魔法もそうだけど、希少属性なんだ。火、水、木、風、土の五属性は結構いるんだけどね、光魔法は天使の生まれ変わり以外は王家にしか発現しないし、闇属性はそれよりも発現数が少ないから、未だにどんな条件で闇の魔力を持つ者が生まれるのか解明されていないんだ。本当に、興味深いね。ぜひ僕の研究に協力してもらいたいものだよ」
「は、はぁ…」
身を乗り出して食い気味に話しかけてきたフェクダに、ドゥーベは上半身を後ろへ仰け反らせそそくさと壇上を降りた。ざわざわと騒ぐ生徒達の視線に、居心地悪そうにヒロインの隣へ戻っていった。
ミモザも同じくその姿を目で追っていたが「次、ミモザくん」とフェクダが此方を向いて言ったので慌てて返事をして立ち上がる。
今まで風景や壁の花になりきるように存在を消して過ごしてきたので、人前に出るのは慣れなくて何だか恥ずかしい。躓いて転んだりしないようにしなければと考えながら、ミモザは水晶の前に立った。
「手を置いてね」
「はい…」
おそらくさっきのドゥーベと同じく水晶は黒く染まるのだろう。おそるおそるミモザが手を乗せると、一瞬で黒くなった水晶は、先程のようにすぐ光を濁らせることはなく靄のような黒い光を外に溢れさせた。
「っ…」
(な…何で、さっきと違う…!?)
焦ったミモザがぱっと手を離すと、ぽかんとした顔のフェクダが見えた。
「………」
何も言わないフェクダに、内心パニックだったミモザは、曖昧に笑いかける。
「…いや…驚いたな、ミモザくんも闇属性だね」
「………」
じっと探るように見つめてくるフェクダに、ミモザは酷く居心地が悪く内心でだらだらと汗を流していた。貴重な属性が二人もいることに驚いた訳ではないだろう。明らかにミモザの能力に対して何か思うところを持ったに違いない。
(うぅ……やっぱり危険視されてしまうのは避けられないのかしら…)
フェクダの視線を避けるように足早に席に戻ったミモザは、またしてもアルコルに「顔色が悪い」と心配されてしまった。
「大丈夫ですわ…」
あまり上手く取り繕えなかったかもしれないが、笑顔を作ってそういうと、アルコルは寂しそうな顔をして「具合が悪くなったらすぐ言うんだよ」と机の下で手を握ってくれた。
自分でも気付いていなかったが、少しだけ震えていたらしい。何も聞かずに傍にいてくれるアルコルの優しさに心の中が暖かいもので満たされて、ミモザは少しだけ冷静さを取り戻した。
(大丈夫……まだ私の能力を知られたわけじゃない…それに、まだやらなくちゃいけないことがある)
最後の一人として名前を呼ばれたのは、やはりというかヒロインだった。
フェクダは、というか魔法省の意向があったのかもしれないが、事前の調査で王家とは全く関係のない彼女が光魔法を所持していたことを知っていたからこそ、その後の混乱を想定してこの順番だったのだ。天使の力が覚醒すれば、同時に七騎士が選ばれる。だからその前に全員の判定を終えておく必要があった。
「スピカくん、君で最後だ」
「はい」
スピカと呼ばれた少女が壇上へ上がる。肩ほどの桃色の髪にサファイアのような大きな青い目。色白で顔立ちはどこか幼く、優しく素朴な印象を受けるも、頬や唇の赤味が彼女を溌剌と見せていた。学園の制服に身を包んだ彼女はとても可愛らしく、小柄で華奢な彼女の姿を見た周囲から感嘆と羨望の溜め息が漏れ聞こえた。
彼女こそがこの物語のヒロイン。
スピカが水晶に手を乗せる。その瞬間、目も開けていられないような閃光が教室内に走った。
「アル!!」
異変に気付いてすぐにアルコルの前に立ちはだかったメグレズの背中が見えた。
「っ…」
ミモザも手を伸ばしてメグレズの前に出ようとするも、すぐに横にいたアルコルに上半身を抱きこまれてしまい叶わなかった。
光が弾けるどころではない。視界の全てを一瞬で白く染めるほどの光はどんどん輝きを増していく。
「っく…!」
ミモザはアルコルの腕の中でメグレズを庇わなければと思ったが、教室のあちこちから悲鳴や混乱の声が上がっていて、目も開けていられない状況ではどうにもすることが出来なかった。
「いやっ…誰か、助けて…っ!!」
白い光の中で少女の叫び声が響く。ミモザはそれがスピカの声であることに気付いた。そしてさっき自分が手を離した途端水晶から漂う黒い光が消えたのを思い出して大きな声で叫んだ。
「水晶から手を離すのよ!!」
「…っ」
ミモザの声が届いたのか、再び急激に光は収まっていく。漸く開けられた視界で辺りを見渡すと、誰もが呆然としたり、隣の人間と手を取ったり抱き合ったりしていた。
「ミモザ、平気…?」
「っ!?」
同じく呆然としていたミモザが、頭上からかけられた声に顔を上げると、すぐ近くにアルコルの顔があって一気に顔が赤くなるのが分かった。まだ収まらない光に周囲の風景はぼんやりとしているのに、アルコルの顔が鮮明に見えるのはそれだけ間近にあるということなんだと理解した瞬間、頭が沸騰した。動揺して声が出ないミモザはこくこくと頷いて、アルコルの胸を手で少し押して離してくれるよう頼んだ。
「……っ、ご、ごめん…!!だ、抱きしめるつもりはなくて…!」
「わ、分かっています…!そ、の…庇ってくれて、ありがとうございます…」
赤面したミモザに漸くアルコルも今の距離を自覚したらしく、同じように顔を赤くしてミモザから離れた。
「………」
「………」
気まずい。というか恥ずかしい。アルコルはただの友人であるミモザを庇ってくれただけだというのに、何をこんなに意識してしまっているんだろうと思う。アルコルにも気にさせてしまうなんて友人失格だ。
唯一の救いは、今のミモザ達のようについ隣同士で抱き合ってしまった人間が他に何組もいたことで、そこかしこで同じように気まずくなっている二人組みがいることだ。目立たなくて済む。
「アル、無事ですか」
「っ…メグレズ様!!」
「ミモザ嬢もご無…」
「メグレズ様ご無事ですか!?」
「え、あ、あぁ、俺は大丈夫ですが…?」
「…メグレズ、無茶するな。自分の身ぐらい自分で守れる」
「無茶ではなく、俺の使命です。アルだってミモザ嬢を庇っていたでしょう。二人一緒に大人しく守られて下さい」
「約束はできないな」
「アル…」
頭が痛いとでも言いたげに目を瞑って頭を振ったメグレズを見て、ミモザは肩を落とした。そもそも何かが起こった時に、アルコルを守る立場であるメグレズがミモザ達よりも前に出るのは考えれば分かることだった。
最初から上手くいきそうにない作戦ではあったが、実行にも移せなかったなどと情けなさ過ぎる。
それにメグレズの体に光が入ったのかどうかも確認ができていない。今の様子を見ると、もしかして本人も七騎士に選ばれたことに気づいていないのかもしれないとミモザは思った。
光が全て収まり、静寂を取り戻した教室には、壇上の水晶の前に座り込むスピカの姿があった。
「あ……」
「大丈夫かい?スピカくん」
「…は、はい……」
フェクダに差し伸べられた手を取って、立ち上がったスピカは呆然と水晶を見つめた。
「私……」
「…君はとても強い光の力を持っているようだね」
「え…」
フェクダの言った言葉に、教室中が大きくざわめく。そのざわめきはもっともで、王家と全く関係のない平民である彼女がその魔力を持っているのは、異質なことだったからだ。
「……ムルジム先生、俺は学園長に報告に行きますので、生徒達を見ていていただけますか?」
「分かった」
フェクダがアルコル達のクラスの担任へ呼びかける。
呆然としていたスピカの肩を叩き席に戻らせ、ムルジムと呼ばれた教師は「そのまま待機するように」と言って、教卓の真ん中に立った。
黙って出て行くフェクダの険しい横顔を見つめながら、ミモザは何故か心の中に言いようのない不安を覚えた。




