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お母様の言うとおり!  作者: ふみ
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母の教えその2「立てば風景 、座れば空気、歩く姿は壁の花」


私の母は所謂『転生者』と呼ばれる人であった。


母の居た世界では“異世界転生”や“乙女ゲーム転生”など、転生者を主人公とした色々な物語があったらしい。

その中でも“乙女ゲーム”というのは、ヒロインが攻略対象の見目麗しい男性達と恋に落ちる物語の絵巻のようなもので。『女子なら誰でも一度は妄想しちゃうのが乙女ゲー転生よね~』と頬を染めてクネクネ気味悪く身を捩っていたのが憧れの乙女ゲーム転生を果たした我が母である。


物語の主要人物でないとはいえ、美しい姿で見事憧れの転生を果たしたのに、中身がこんなんでいいのだろうかと幼心に疑問に思った。


“星の天使と七人の騎士"


ゲームの舞台はミモザ達が暮らすアウストラリス王国にある、国立魔法学園ルミナス。

ルミナスは身分に関係なく魔力を持つ者全員が就学を義務付けられている学園で、攻略対象達も王族から庶民まで身分が様々である。

内容としては伝承の天使の生まれ変わりであるヒロインが七騎士と呼ばれる攻略対象達と協力して世界を救うといったゲームだ。


陣痛の最中、母はここが乙女ゲーム“星の天使と七人の騎士”の世界であること、そして自分こそヒロインを苛める悪役令嬢ミモザ・サザンクロスの母親であることに気が付いた。

前世で本やゲームが好きだった母は例にも漏れずこの乙女ゲームをプレイしており、この先起こりうること、すなわち未来を知っているのだと言った。


『はっきり言いましょう…このままだと貴女は将来クーデターを企て王太子の婚約者を害したとして反逆罪で処刑されてしまうのです!!』


びしりと指を突きつけ宣言する母に私は「はぁ」とか「へぇ」しか言えなかったのだと思う。


『何もしなければ物語の筋書き通り貴女は処刑されてしまうでしょう…けれどそんな事はさせません!!私と貴女にはそんな未来を回避する為の力があります!!』


転生者は我が母のように生涯の過程で前世を思い出す者もいれば、生まれつきその記憶を有している者もいる。ただ、彼らには一つだけ“特別な能力”を授かっているという共通点があった。

前世の知識を生かして新しいものを生み出したり、その“特別な能力”によって時代の寵児となったり。その有り様は様々だが、その能力はほぼ血縁者に受け継がれるものとされていた為、権力者や野心家がこぞって転生者を求める傾向にあった。

母の場合前世を思い出したのが既に成人を過ぎ、あまつさえ出産という有事であったこともあって、誰も母が転生者として覚醒したことに気付かなかったという。そして母はこれ幸いと自分が転生者であることを完全に隠した。


何故なら母の能力は特殊で、人の精神に影響を与える力を持っていたからだった。


『思考制限…えぇと、上手く物事を考えられないようにしたり、記憶を消したり…ないものをあるように思わせたり…』


幼児にも分かるよう母は説明してくれたけど、当時は全く意味が分からなかった。けれどその能力を自分で使っていくうちに、それがどれほど恐ろしいことなのかを知った。


母の能力は思考制限、思考誘導、魅了、認識阻害、暗示など、かなり危険な思考操作系のものばかり。

母が転生者であることを秘匿したのも分かる。こんな能力があると知れたら危険因子として暗殺されるか、死ぬまで利用されるだろう。

そしてその危険な能力を私も継いでいる筈だと母は言った。


『ミモザ・サザンクロスは死んだ母親から継いだその能力を使って、自分を苛めた継母や義妹に復讐し、第二王子を唆しヒロインを害して自分が王妃になる為に暗躍するの。でもね、ミモザは失敗する……なぜなら彼女は自分の能力を過信しすぎるあまり、慢心から鍛練や教育を怠り、他者を見くだし、孤立し、結果どうしようもない破滅を迎えるのよ』


確かに、それだけの能力を持ってして失敗するなどゲームの中のミモザは間抜けなんじゃないかと思っていたが、きっと母の言う通りなんだろう。


慢心は身を滅ぼす。力に溺れることなかれ。母は生前口を酸っぱくして言っていた。


相手を思うままに操れる能力など手にしたら、どんな人間でも人が変わってしまうのではないだろうか。

意味はよく分からなかったが、いつか自分が処刑されるという事実だけは理解できた幼いミモザは怖くなった。


『この力のことは絶対に誰にも言ってはいけない。本来なら私がずっと側で貴女を守ってあげたい…けれど私にはもうあまり時間が残されていないの…』


思えばこの時から母は自分の死期を悟っていたのだろう。


『この能力は身を滅ぼすと同時に、貴女を救う希望でもある。勿論悪用なんて許しませんが、この先一人で生きていく力をつけて家から出たっていいし、貴女が自ら第二王子と婚約したいと言うのならそれでもいい。この母がついているのです。今の貴女には沢山の選択肢がある。貴女はどうしたい?』


私はなんと答えたのだろう。


『どの道を選ぶとしても先ずはこの厄介な能力をコントロール出来るようにならねばなりません………これから貴女が目指すのは深窓のご令嬢ではないわ。芍薬でも牡丹でもましてや百合の花でもない。立てば風景、座れば空気、歩く姿は壁の花よ!!』


『私の指導は厳しいわよ…貴女についてこられるかしら?』と謎のポーズを決めた母はやっぱりちょっと残念だった。


そうしてその日から、私と母のフラグ回避生活が始まったのであった。


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