第1層 エントリー・プレイヤー
2048年8月3日(月)
この年は色々な文化を増やしたり機械が人間のやる仕事をしてたりと今の社会は爆発的なものだった
今日の朝から気温が30°を超えて部屋ん中が暑いとか近所で騒がしい祭りをしているとかで、やる気の無い一般人にとっちゃただ息苦しいだけの1日になる筈だった
周りにテレビやパソコン等の機会製品がたくさん置かれている真っ暗な部屋に……
この物語の主人公であろう神崎 龍治(かんざき りゅうじ)はベッドに横たわったまま、足元を照らす大きくて暖かくて……なおかつ眩しいと感じる太陽に右手を伸ばしそっと広げる……。
「この世界は小さいな……ソロプレイヤーとしてはあっちの世界で楽しむのが一番だな。」
そう呟くと同時に龍治は右手をグッと握りしめた
「よし……ちょっと行ってこよう。」
まるで楽しみ過ぎてはしゃぐ子供のようにドアを開け、自分の部屋をあとにした……
神崎 龍治 17歳
都内の高校に通うごく普通の高校2年生
身長169cm、体重45kg……
普通の人より足が短いって言われるし……なんっていったって軽い!! そう、軽すぎ!! そして筋肉質!!
その体型を見て大勢の人に囲まれて「普段はどんなスポーツしていますか?」等と朝っぱらから質問攻めにされるが何もしてないと言ってその場から逃げ出す始末
実際には野球・サッカー・剣道・陸上・水泳・空手・卓球などをやっていたが、どれも1年以内に辞めてしまったものばかり……
昔から運動神経が良いと周りの奴から恨まれたり、憎まれたりで俺に対してのイジメが相当やばかった事もあった
だが、6年前に新作のオンラインゲーム「ブレイブハーツ・オンライン」が製造された
プレイヤー同士で対戦したり、魔物と戦ったりと普通のゲームとなんら変わらないゲームのはずなのに日本ではかなりの人気のゲーム
何故ならどこにでもあるゲームセンターから接続が出来るが、一番の魅力はゲームの最上層……
つまり100層に辿り着いた者のみにだけ与えられる「ブレイブハーツ」と言う誰もが憧れる証を手に入れ、それを持つ者の願いを1つだけ叶える事が出来る伝説のアイテムがあるからだ
しかし、そのゲームにはある欠点があった
それは今から6年前の話……
龍治はいつもの様に2階から朝食を食べに降りていった時、リビングでソファーに座りながら熱心にゲームをやっている1人の少年が居た
彼の名は神崎 良紀 龍治より2歳年上の兄
良紀は龍治とは仲が良く、弟思いの優しくて頼りになる兄だった
だが、中学にあがってから友達と上手くいっていないのか学校を休む日が多くなってきた……
その2ヶ月後、とうとう兄は部屋に閉じこもるようになった
何があったのか聞いても「別に」と返ってくるだけでまともな話があまり出来なかった
俺はふと兄にこんな事を聞いていた
「なぁ兄さん、ゲームってそんなに楽しいのか?」
突然兄にそんな事を質問した俺自身に正直驚いたが、兄は驚くことも無く質問に答えた
「まぁな、ゲームは自分の思い通りに物語を作れる……俺達が居る現実世界ではそう簡単に思い通りにはいかないからな。」
「ふーん」
確かに言われてみればそうだ
リアルでは誰もが主人公で物語は定まっておらず、たくさんの人がたくさんの考えを持っている
そして時には反論したり、喧嘩したり、争いが起こったりとマイナスな部分だってある
ゲームの方では主人公が自分(1人)で物語も定まっていて人はたくさん居るが同んなじ会話しかしないのが多い……
そう考えると結構リアルより楽かもしれない
「龍治もやるか?ゲーム」
兄はコントローラのボタンを素早く押しながら俺に聞いてきた
「遠慮しとく…」
この頃の俺はゲームにあまり興味が無く、兄の誘いを断ってしまう
「そうか…」
そう言った兄の後ろ姿は少し孤独で寂しそうだった
そんなある日、兄とリビングでテレビを見ていた時にゲーセンに新たなゲームが設置されるとニュースで大きな話題となった
あの有名なゲーム会社がゲーセン限定のゲームを作り上げ、全国のゲーセンにそれを取り付けると発表した
ゲームの名は「ブレイブハーツ・オンライン」兄の目はキラキラと輝いていた
俺も少し興味を持った
ゲームが出来るのは全ての設置が完了したその翌日に開催されると、ゲーム会社の伊尾木 貴朗社長はそう言った
数日後、その日はやって来た
当然兄はゲーセンに行ったであろう
俺はその日、学校があって遊びには行けなかったので兄にやってみた感想を聞いてみると……
「今までいろんなゲームをやってきたけどここまで世界観があってリアルなゲームは1度も経験した事が無い!!」と言っていた
今まで外に出る事も無かった兄が毎日毎日ゲーセンに行くようになった
俺や母は兄の嬉しそうな顔を見て嬉しかった
しかし、事件は起きた……
学校から帰って来ると、テレビをつけたまま母がソファーで頭を抱えていた
ランドセルを肩から下ろしながら母に近づき、つけっぱなしのテレビに目を向けると思わずランドセルを落としてしまった
「今朝、都内のゲームセンターで予期せぬ事態が発生しました
午後2時頃に一部のゲームセンターで小学4年生の男の子が死亡していたとの報告がありました
医師からの情報によると最新のゲームを何時間もやっていて脳に何らかの影響があったとみられます。」
ニュースはそこで終わってしまい別の番組が始まった
兄はまだ帰ってきていない……
「兄さんならちゃんと帰ってくるよ!!心配しないで母さん。」
「ありがとう龍治……母さん先に休むね。」
「うん…お休み」
だが、兄は帰ってこなかった……
何日も何日も待ったが兄は1度も家に帰ってきていない
後から知った話だが、兄以外にも行方不明になっている人はたくさん居たらしい
親達は警察に連絡し、捜索願いを出した
その人達の共通点は1つだけ……小学4年生の男の子が亡くなった同じ日に同じゲーセンに遊びに行ったきり戻って来ていないと言う事
もしかしたら兄はゲームの世界に居るのかもしれない……そう思った俺は母には内緒で毎日ゲーセンに通った
伝説のアイテムを手に入れる為に……
2048年8月3日(月)現在……
俺は玄関で靴を早々に履きドアを開ける
「行ってきま~す」
ドアが閉まる瞬間……
「待ちなさい、龍治。」
寒気で身体中がゾッとくる様な嫌な予感がした
「何処へ行くの?……まさかオンラインゲームセンターへ行く気ではないでしょうね?」
俺の行く手を阻むこの人は俺の母さんだ
「んなバカなぁ~、そんな所に行くわけないでしょ~。」
「そう…なら良いんだけど。」
龍治は少し顔色が変わりそうになった
「んじゃ、行ってきま~す。」
龍治はゲーセンへ向かう
少し前に、母が近くのスーパーで買い物をしていて目の前のゲーセンに龍治が入ろうとした所を呼び止め、家でこっぴどく叱られたのだった
またゲーセンへ行く事があれば外室禁止命令が下るだろうと龍治は心の中でそう思うのであった
だが、俺にはやらなければならない事がある
あの日居なくなった兄を救う為には、あのゲームをしなくちゃいけないそう思った
「ここか……」
何処からどう見ても目の前にあるのはただのゲーセン
「兄さん…待ってろ!俺が必ず連れて帰ってやる!!」
龍治は両手をぐっと強く握りしめ、ゲーセンの中へと入っていった
カランカラン~♪
「いらっしゃいませ~」
入って早々、女店員にそう言われる
先程まで決意したものが台無しになった……そんな気がした
「ねぇ、いつものヤツお願い。」
俺は受付にいる女店員にそう言うと女店員はニッコリと笑顔を見せる
「今日は何名様でしょうか?」
女店員の質問に俺は「1名だけです」と答えると店員はニッコリと微笑む
「それでは案内します。」
俺は女店員についていく
紺色の暖簾が上へ行く階段の入口にかかっていた
それをそっと退けながらロウソクの火で少し明るくなっている暗めの階段をゆっくりと上り、やがて一つの大きな部屋へと辿り着いた
龍治は不安と緊張のせいか、冷や汗を少し掻いている様だ
女店員が入口付近にある機会をいじり、オンラインゲームについて説明をしてくれた
女店員は目の前の端末を何かしら操作した
「それではまず、コードネームをお願いします。」
コードネーム……それはゲームの世界で使う自分(仮)の名前
どんな名前にするかもプレイヤーの自由だが、やはり第一印象ともなるこの名前を決めるのはかなりの難題なんだろう
龍治は何度もこのゲーセンに訪れている為、そんな面倒な事を考える必要は無いのだ
“K・I・R・A”と端末に打ち込んだ龍治
「コードネームはキラ、種族は前回と同じヒューマンですね。」
女店員は端末を操作し、次の話へ進める
「今回、新たに種族に追加がありました。
ご存知の通り、今まで魔族にしか魔法がありませんでした。その為、お客様からの批判等のクレームが後を絶えない様なので他の種族にも魔法を使えるようになりましたのでご注意ください。」
なるほど……だが普通、クレームやら何やら言われてもそれを突き通すのが運営の役目何じゃ無いのか?
どれだけ精神弱いんだと突っ込みたい所だが、あえてそれは言わないでおく
「それで、追加された魔法とは?」
俺はこの追加されたと言う魔法が何なのか気になった
女店員は答える
「今回、追加された魔法は主に基本魔法となる“サファイ”“エメレル”“ガンダー”の3つです。」
えっ?とした俺の顔を見て、店員は困ったような顔で説明を続けた
「えっと……簡単に言いますと、他のゲームで言うサンダーやブリザドみたいなものですよ。」
なるほどっといったように龍治はコクコクと頷くと、女店員はさらに説明を続ける
「それと……魔法はその他に白魔法や黒魔法といったものもあります。それらは各層にある“〇〇の書”を入手する事によって習得可能になる仕組みです。また、特定のイベントでの習得もありますのでご注意ください。」
まぁ、その辺の事は龍治も何となく察しは付いていただろう
「分かりました、それでは早速旅に出ます。」
龍治は部屋の中心へ行くと、下から眩しいほどの光が溢れ出る
そして視界が真っ白に染まっていく中、女店員は最後に「行ってらっしゃいませ」と言う
ようやく『BHO』の世界へ龍治は旅立つのだった……