メイドも学校へ
こんにちは。
今回はメイドの学校に行くまでのお話です。
今後もキャラを増やし、イベントを起こしつつ、楽しくかけていけたらな、と思っています。
まだまだ未熟な私の文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
また、そうなっていただくよう鋭意努力していく所存です。
昼下がりの閑静な住宅街。
場違いなほどに大きいお屋敷の庭。
きれいに手入れされた芝生と花壇。
中央にあるガゼボのした、今日もまた屋敷の主である紅葉はティータイムを楽しんでいた。
「いいでしょ? 少しくらい」
「絶対に嫌です!」
閑静な住宅街に、これまた場違いなほど明るい少女たちの声が響き渡る。
「なにもしないって」
「いいえ! 絶対何かしてきます!」
「どうしてわかるの?」
庭を追いかけっこのようにぐるぐる回る二人分の影。
「ご主人様から聞きました。あなたはレズだと。私ももしかしたら狙われているかもしれないということを!」
「えー? 何もしないよ。まだ」
「まだって言った! ご主人様~、助けてください~貞操の危機が~」
片方は、今日が学校の休みということで是非とも屋敷に来たいと言って本当に来た海。
もう片方は、そんな海に追い回されている桜花。
桜花から助けを求められた紅葉は、しかし、すまし顔で突き放す。
「知るかボケ」
カップをソーサーに戻し、置いてあったラノベを読み始める。
「うわああああああん! ご主人様が冷たいよおおおおおお」
「私が慰めてあげるよ♪ いろいろ、ね」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
「騒がしくなったな」
ラノベを読みながら否応なく耳に入ってくる女子の声を聞きながら、どうしたものかと思う紅葉。
助けを求めるように空を見上げてため息をこぼした。
――数十分後。
ようやく落ち着いた二人も席に着き、三人でお茶をすることに。
その数十分の間に海に抱き着かれ撫でまわされ、とにかく散々な目にあった桜花はぐったりといた様子を見せる。
反対に海は嬉しそうに、満足した様子を見せていた。
「そうだ。桜花ちゃんって学校通ってないんだよね? 通わせなくていいの、柊君」
ふと思い出したように海が桜花の学校について問うてくる。
紅葉は視線をラノベから、正面にいる海に移す。
それについては、紅葉も考えていた。
別に絶対に通う必要はないかもしれないが、今後のことを考えると通わせた方がいいかもしれない。
……と思ったのだが。
「前に本人であるそこの馬鹿に聞いたんだが、別にいいって言ってきたからな」
曰く、ご主人様と離れたくないので、だそうで。
その頃は紅葉も引きこもっていたころなのでそのせいかもしれない。
「だけど、前と状況がいろいろ変わったからな。もう一度確認しとくか。どうしたい?」
桜花を見据えて答えを待つ。
桜花は少し考えるような間を取り、それでもまだ悩ましげにポツポツ言葉を紡ぐ。
「確かに、今は学校に行った方がご主人様と一緒にいる時間が長くなるかもしれないですけど。でも、私の仕事はこの屋敷の家事であって、ご主人様といつまでも一緒にいることではないですし。お給料をもらっている分そこはしっかりといておきたいですし。何より、学校にいるときのまでご主人様の時間を奪いたくないと言いますか……」
俯き加減で紡がれる言葉には、桜花なりの考えと思いが詰め込まれていた。
普段、自分の欲望に正直すぎる印象を与える行動ばかりとっているが、その裏ではしっかりとした考えを持っているのかも知れない。
今の言葉が何よりその証拠に思える。
紅葉と一緒に居たい。そこに嘘偽りはないのだろう。しかし、あくまでも今の紅葉と桜花の関係は雇い主と雇われる側だ。契約という形で結ばれている以上、責任が生じる。金銭のやり取りも生じているため、無視はできないだろう。
さらに、屋敷にいる間は桜花とずっと一緒だ。それを学校まで桜花が付いていけば紅葉の友達との時間が減ってしまうかもしれない。
せっかく踏み出したその足を、桜花のせいでまた止めたり、戻したりはしたくなかった。
そんな桜花の想いを知ってか知らずか、紅葉はお茶を飲みながら、淡々と桜花の言葉に答える。
「別にいいだろ、そんなこと気にしないで。家事に関しては、二人でなんとかすればいいし、何より二人しかいないんだから、そこは考慮していくし。給料に関しても学生アルバイトって形をとればいいだろうし。今更学校にまでお前が来たところで、俺の生活に何ら変わりはないよ」
なんでそんなことで悩んでるの、と言いたげな、友人同士の相談事のような感じでさらりと答える。
さらには追い打ちをかけるかのように不敵な笑みを浮かべて、挑発的な態度で続ける。
「それとも何か? お前は俺と一緒に居たくないのか?」
桜花はむっとして、好戦的に返す。
「もちろん一緒に居たいですよ。でも、それだとご主人様に対する奉仕ができないかもですけど」
「誰も頼んでねーよ、んなこと」
「そんなこと言ってー。この前またネットで薄い本買ったの知ってますからね」
「まぁ、俺も健全な男子だからな」
「むやみやたらと否定しないその姿勢……! 憧れます! 大好きです! 愛してます! 私も否定せず、オープンに行きます!」
「過度に誤解を招くいい方はするなよ」
えー。いいじゃないですか。だめだ。ご主人様を見習ってのことですよ。とにかくダメ。二人は楽しそうに笑いあいながら言い合いを続ける。
そんな光景を微笑ましく、けれども自分だけ仲間はずれなのと、桜花を取られたことで寂しくもありながら見つめる海。
(これは入り込む隙はないかな)
いつまでも言いあう二人を前に、自然と諦観の微笑みが顔に浮かんだ。
「決まったなら、さっそく行動に移した方がいいんじゃない?」
放っておくといつまでも進展しなさそうなので海が切り込む。
完全に失念していたような顔をした紅葉が振り返る。
「そうだな。親に連絡してくるわ」
「あ、私も行きます。まだ挨拶できてませんし」
二人そろってその場を少し離れ、紅葉はスマホで母親に電話をかける。
数コール後に出た母に、用件だけ告げる。
すると、すぐにオッケーが出て、なにやら嬉しそうな母の声にうんざりした紅葉は通話を切ろうとした。
が、すんでのところで桜花が変わってほしいと言ってきたので変わる。
すると電話口で母と楽しそうに数分話した後、通話を切った。
「なに話してたんだ」
何となく気になったので、何事もないように聞く紅葉。
「秘密です」
秘密にされると、余計に気になるのが人間というもので、余計にもやもやした気持ちを抱えることになった。
「おかえりー」
戻ると、海がひらひらと手を振りながら迎えてきた。
「どうだった?」
「いいってさ。手続きとかはあっちがいろいろやってくれるらしい」
「へー。よかったね、桜花ちゃん」
「ええ、いろんな意味で」
「? まぁいいや。とりあえず今日は帰るね。また来てもいいかな?」
海が荷物を手に席を立つ。
合わせて紅葉も玄関に向かう。
「ああ、いいよ」
「いやです。二度とこないでください。べー」
紅葉は了承し、桜花は舌を出して子供みたいなマネをする。
「ああ、桜花ちゃん可愛い! 絶対また来るね!」
癒されたようなとろけた顔をする海。
「そこまで送るよ」
紅葉はそんな海の横に行き、呆れたような顔で送る。
外に出て、屋敷が見えなくなったころ、今まで何か考えるような感じを漂わせていた海が口を開く。
「柊君って、ラノベ読んでたけど、実はオタクだったり?」
他意はなく純粋に気になっていることのようで、まっすぐに紅葉の目を見つめてくる。
紅葉と同じぐらいの長さの影が進行方向の地面にうつる。
「まぁ、そうかな」
「そっか。あのお屋敷では、もうメイド募集してないの?」
「あーいや、人手は今も足りてないし、誰かいれば、とは思ってるけど……」
「そうなんだー」
「どうして?」
えいっ、と掛け声とともに紅葉の影を踏む海。
紅葉の問いには答えずに、かかとを軸にしてその場でクルッと華麗にターンをする。
微かに甘い香りが、紅葉の鼻孔に届く。
歩いていた紅葉のほうに顔が向くと、割と近くにお互いの顔があった。
けれど、お互い照れたりはしない。
海は恋愛対象が同性であるし、紅葉も海のことは可愛らしい方だとは思っても、別段気にしてはきなかった。
「桜花ちゃんのこと、ちゃんと考えてあげなよ」
互いの距離が近いままに真剣な表情で海はそんなことを言った。
「わかってるよ」
紅葉もまじめに答えた。
わかっている。わかっているとも。そう自分にも言い聞かせた。
「ならば良し!」
満面の笑みを浮かべて、もうここでいいよと手を振りながら去っていった。
表情がくるくる変わるやつだな、と紅葉は後姿を眺めつつ思った。
――数日後。
「こんにちは。南野桜花と言います。この前もお邪魔したので初めましての方は少ないと思います。今日から皆さんと一緒に勉強させていただくことになりましたので、よろしくお願いします!」
名前の書かれた黒板の前で、まるで模範生のような挨拶と礼をする桜花。
何もなく終わればいいとひそかに思っていた紅葉の期待は、やはり崩れ去る。
「私はご主人様の物なので、気軽に触らないでくださいね♡ あと、ご主人様に近づく女狐は即刻排除したしますのでそのつもりで」
かくして、メイドである桜花もまた学校に通うこととなった。