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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
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いざ外へ(3)

前回の話を踏まえての今回ですが、俗にいう買い物デート、というやつです。

一話完結にしていく予定がすぐに崩れて、ずるずると今の話を引きずってますが、後一話続く予定です。すみません。

次回はよくあるテンプレ展開になるかなと思います。

今回もまた、私の拙い文章力で書いたので読みづらさもあるかと思いますが、もし読んでいただけるのであれば幸いです。

宜しくお願いします。

 十秒で支度してくるといったものの、実際には紅葉よりも遅かった。

 紅葉は先に用意が終わり、玄関で待っていたのだが、待ち始めてから早くも五分は経とうとしていた。


 クソが付くほどの性格がひん曲がっているものの、桜花も女子。多少容易に時間がかかっていても仕方がない。


 思い返せば、こうして二人で出かけること自体初めてだ。

 食材や日用品は桜花が一人で買いに行っているので、気にしてもいなかったが、なぜか今日は紅葉も共にということらしい。


(まあ、あのクソメイドのことだ、『ご主人様とデートしたかったんです。ラブホ行きましょう!』とかっていうのかもな。いや、単にスマホとかのことがよくわからないって線もあるか。もしくは本当に服を選んで欲しかっただけか。というか、あいつ外いくときいつも何着てんだ? 何気にあいつの私服とか気にしたことなかったな)


 などと考えながら、スマホのソシャゲをポチポチしながら待つ。

 基本ヒキコモリの紅葉が普段やっていることと言えば、たまに勉強、PCにスマホ、家庭用ゲーム機でのゲーム、ラノベなど、オタクな生活をしている。

 ソシャゲもよくやっていて、今はイベントが開催されているのでそのイベントにかかりっきりだ。


「お待たせしました~」

「ん、来たか。ん?」


 ぱたぱたと足音を響かせながら来たのはいいとして、問題はその格好だった。


「なあ、俺の見間違いじゃなければ、今お前はメイド服を着てるよな」

「はい、着てますよ」

「もしかして、その格好で行くのか?」

「はい。というか、普段の買い物もこの格好ですよ」

「恥ずかしくないのかよ……。というか俺が恥ずかしいわ。着替えてこい」

「服これしかありませんし。それにご主人様の性癖に合ってるんだからいいじゃないですか」

「いや……。もういいや」

「はい! じゃあ行きましょう!」


 諦めた様子の紅葉に対して、ドアを開けて心底楽しそうに外へと飛び出す桜花。

 その後を追い、紅葉もまた小さい、けれども大きい一歩を踏み出す。


「ところで、着替える必要がないなら、どうしてあんなに時間かかったんだ?」


 ドアをくぐるのに覚悟と勇気がいるのかと思ったら、そうでもなかった。

 普通に外に出て、普通に歩けている。アニメなんかでよくある息苦しさなんかも特になく、いたって普通だった。


 だから、紅葉は特に気負うことなく気になっていたことを聞いてみる。


「それは、下着をつけるかつけないかで迷ってたんです。ご主人様はどっちが興奮するかなって」

「心底どうでもいい……」

「結果として付けないことにしました」

「恥じらいを持て!」

「冗談ですよ♡」

「うざっ」


 運転手のような者も雇ってないので、まだ車の免許を採れない年代の二人は、タクシーでも呼ぼうかといった紅葉に、近いので歩きましょうと言った桜花の言葉で徒歩で移動していた。


 その道すがら、いつものように下ネタと突っ込みの応酬を繰り広げていた。


「で、どこ行くんだよ」


 このまま桜花のペースに乗せられるのはよくないと思った紅葉は話を強引に変える。


「この近くのある大型ショッピングセンターです。いつもは商店街で事足りるのですが、今日の目的にはそっちの方がいいかなと。あと、行ってみたかったので」


「行ったことなかったのか?」

「はい。貧乏人には縁のない場所だと思っていたので」


「もう貧乏じゃないだろ」

「そうなんですけど……。ほら、ハジメテって緊張しちゃうじゃないですか。うまくできるかなーとか」


「アーそうだな。突っ込むのもめんどくさくなってきたわ」

「むー、ひどいですよ、ご主人様。っと、つきましたね」


 あーだこーだ言い合っている間に目的地にたどり着いた。


「では、行きましょう!」

「え、ちょま」


 紅葉が躊躇からくる制止したにもかかわらず、紅葉の手を取ってずんずんと桜花は中へと入っていく。



 ――数時間後。


 女の買い物と用意は長い、とはよく言うが……。


「ほんっっっとに長いな、おい」


 ついつい愚痴ってしまう紅葉の前には雑貨店で笑顔であれもこれもと見て回る桜花の姿。


 着いてから、まずスマホを購入し、紅葉が服を選びそれを買い、それからこの際だからといろいろと見て回り、その間に買ったものは紅葉が持つことになり、今では両手いっぱいになっていた。


 というのも、こういう時に荷物は男が持つもの、と言ったのは紅葉のほうで、どんどん増える買い物袋を前にしてもプライドが妥協を許さず、結局すべてを(もはや意地で)持つことに。

 重い荷物に、歩き回って溜まる疲労。普段からあまり運動していない紅葉にとってはかなりつらいものだが、これまたプライドがそれを顔に出すことを許さず、あくまで余裕という顔を作っていた。


「あ、ご主人様、これなんかどうです? なかなかかわいいと思うんですけど」

「どれだ?」


 呼ばれて桜花のそばまで行くと、

「これは、チョーカー、だっけ」

「はい」

「確かにデザインは可愛いと思うが、なんでチョーカー?」


 すると桜花は恍惚とした表情で、

「首輪みたいでよくないですか? というか、首輪ですよね、これ。これを付けて犬のように扱われるのもいいかなぁ~と思って」


「…………………………………………………………」

 紅葉はまるでごみを見るような目で言葉を発さずに桜花をただ見る。


「そのごみを見るような目のご主人様もいいですね……はぁ……」

 未だどこか浸っている桜花を置いて紅葉は一人店を出る。


「待ってくださいよ~」

 すたすた歩く紅葉。その後を追う桜花。


 しかし、その足がふと止まる。

「ご主人様?」

 一点を見つめたまま、まるで縫い付けられたように動かぬ紅葉。


 不安になった桜花は視線の先を追う。

 そこにはとある高校生集団。


 と、そのうちの一人の男子の目が桜花を、――紅葉を捉える。

 すると、紅葉と同じように固まる。


「柊……か?」


 小さくて聞き取りづらかったが、確かに男子は紅葉の名を呼んだ。

 桜花の隣で紅葉が小さくビクッと動く。


「久しぶりじゃん! 元気だったか!?」


 男子は大きな声で気安く声をかけながら近寄ってくる。

 合わせて紅葉の体が固まるのが桜花にはわかった。


「ひ、久しぶり。そっちこそ元気だった?」


 ぎこちない笑顔を無理やり作り、絞り出すように枯れた声で応じる紅葉。

 それだけで、紅葉の過去のトラウマだと桜花は理解し、同時に僅かばかりの怒りを覚える。


 それをおくびにも出さず、桜花はスカートの裾をつまみ、恭しく挨拶をする。


「お初にお目にかかります。わたくしは紅葉様のメイドの南野、と言います。ところで、ご主人様とはどういったご関係で?」


 わざと、「よろしく」も下の名前も言わずに笑顔で問う。


「え、ああ。中学の時の同級生なんだよ」

「へぇーそうなんですか」


 初対面の桜花に対しても気安い口調に、笑顔の奥の怒りが膨れ上がる。


「こいつとはさ、いろんなところに行ったよ。我ながら仲良かったんじゃないかな」


 ――――プツン。


 紅葉を『こいつ』呼ばわり。さらに仲がいいなどと戯言を平気な顔で、さも当然のように言い放つ男子に、笑顔の裏で何かが切れる音がした。


「ご主人様とはこれから私との夜に備えて、私の勝負下着を買いに行く予定があるので、用がなければこれで失礼させていただきたいのですが」


「え、あ、いや」

「行きましょう、ご主人様」


 有無を言わさず紅葉の腕を取りこの場から去る。


 後ろを振り返れば、男子はさっさと仲間の元へ戻り、わけが分からないというように肩をすくめていた。

 それがさらに桜花の怒りを呼び、桜花の足取りが自然と早くなる。


 そのまましばらく行ったところで、

「もういい」

 紅葉が言葉を発した。


 それをもって桜花は足を止め腕を離し、紅葉の顔を覗き込む。

「大丈夫ですか?」


「ああ。というか、よくわかったな。俺があいつのこと苦手だって」

「そりゃ見てればわかりますよ。ひざとかがくがく笑ってましたからね」

 ひざを見ると、本当に震えていた。紅葉は全くわかっていなかったようだが。


「逃げることは悪いことではないですよ。ひとりで逃げることができないのなら、私が手を引きます。だから、安心してください」


 ふわりと、笑顔をつくる桜花。

 その顔は慈愛に満ちていたが来る前にも見た桜顔だった。


 まさかこんなに早く見れると思っていなかった紅葉は驚いた顔で絶句するしかなかった。


「というわけで、勝負下着買いに行きましょう!」


 しかしすぐに戻ってしまった。

 いつも通りの様子と、桜顔のおかげで紅葉の顔にもようやく笑顔が戻る。


「どういうわけだよ。つか嘘じゃなかったのかよ。まぁ、嘘でももっとましなのにしとけって感じだったけどな」


 ふぅ、と一息つき、

「まぁ、感謝はしてる。ありがとな」


 笑顔と感謝に桜花も満足した様子で、

「どういたしまして」

 笑顔で返す。


「さて、次行くか」

「はい♡」


 二人の買い物は、もう少し続く。

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