表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
4/30

いざ外へ(2)

今回はシリアス多めな展開です。

今回を踏まえて、今後の展開にも幅ができると思っています。

まだまだ未熟な文章力で読みづらい点も多くあると思いますが、読んでいただけると嬉しいです。

 何を言われたのか、理解するのに数瞬かかった。

 外。確かにクソメイドはそう言った。


 紅葉の混乱は、次第に怒りへと変わる。

 ――何も知らないくせに。

 つい、そんな言葉が紅葉の喉を出かかった。


 いや、実際に言っていたはずだった。

 それを遮ったのは、紅葉に混乱と怒りを与えた張本人、桜花だった。


「ご主人様がなぜ外へ出たがらないのか、何となくわかります。あくまで何となくです。すべてを知っているわけではないし、知っているように振る舞ったりもしません。けれども、怒らせてしまうかもしれないので、前置きだけはさせてもらいます」


 自分で言ったように、長い前置きをして、ゆっくりと息を吐き意を決したような眼差しで紅葉を捕らえ、続ける。


「お金持ち、というのはそれだけで苦労することもあると思います。子供の時は自慢の種。けれども、成長していくうちに自慢は、周りにとっては嫌みのようにとらえられ、そして、そこそこ賢くなると利用しようとしてくる。お金持ちのほうからすれば、やっと自分を見てくれたと、お金だけで繫がってしまう。都合のいい時だけ利用されることになって、結局は孤立してしまう。誰も自分を見ない。誰もが自分の持つお金にしか興味がない。そう思い込んでしまう。人間不信というやつです。だから、この広いお屋敷にも、私たち二人しかいないんじゃないですか」


 紅葉は俯いたまま何も言わない。

 長い沈黙が、二人きりの静かな庭園に降り注ぐ。


 やがて、紅葉は自嘲気味に言葉を吐き出す。


「概ね正解。けど、一つ訂正するとしたら、俺のボッチ兼ATMは小学校の頃、お前の言う子供のころからだよ。子供は異端を排斥するものだからな。金がある、他と違うってだけで輪の中には入れてもらえなかった。子供は生まれてくる家を選べない。何度この家に生まれてきたことを呪ったことか。でもいつの日か、そういうの全部面倒になった。自分だけを信じて煩わしい、悩みの種である他人とのかかわりを全部断ってきた。そんな俺に今更外に出ろ? 何の冗談だよ。笑えねぇよ」


 不機嫌丸出しで、吐き捨てるようにまくしたてる。

 喋ったせいで喉が渇き、無意識的にカップへと手を伸ばすものの、その中身が空になっているのにそこで気づき、かけられた追い打ちに舌打ちを一つして、乱暴に戻す。


 すると、すかさず桜花が紅茶を注ぐ。


 そして、まっすぐに紅葉を見据え、笑顔で言う。いつものウザったい笑みではなく、綺麗な、紅葉でさえその美しさに息をのみ、見惚れるほどの笑顔。


「それでも、私は知ってほしいんです。この世界の、人の、美しさを。楽しさを。成長して、あのころとはもう違うんです。違う視点でこの世界を見てみて。それからでいいんじゃないですか」


 一度言葉を切り、そして、いつもの顔に戻って、


「ヒキニートのドラ息子になるのは。まぁ、何度も言いますけど、その方が長い時間一緒に居られて、私はうれしいですけどね」


 キメのウインクまで炸裂させてきた。非常にウザったい顔だった。


 いつもの冗談交じりの茶目っ気に、紅葉も毒気を抜かれ、いつものように振る舞う。

 あの笑顔にも救われていたのは秘密にしておこうと、固く誓った。


「ああ、そうかい。いつクビにしよっかな」

「え、やめてくださいよそんなの!」

「お前の態度次第だな」

「えー」


 いつものように笑いあう。たったそれだけのことが、紅葉の心を温かくした。

 あの笑顔にも、感謝をしよう。名前があったほうがいいかな、と思い、少し考えてみる。


(桜花の笑顔。綺麗。すぐ消えた。……桜顔(さくらがお)……だな)


 存外あっているな、なんて思っていると、桜花が話の路線を戻す。


「というわけで、買い物行きましょう! ほら私がここに勤めてから結構経ちますし、他より高いお給料のおかげで、いろいろ買いたいものが買えるようになったので。スマホとか、ご主人様がなにかあった時のために連絡用としてほいいなー、とか。け、決してご主人様の写真を撮ったり用とかではなくてですね。あ、あと、ご主人様との夜の為にも勝負下着とか、ご主人様に服を選んでもらったりとか」


「わかったよ。お前の言う通り、このままじゃダメな息子になりそうだしな。スマホは連絡用としてこっちで買ってやる」


 延々と続きそうだったので、言葉をかぶせて遮る。


「そんな!」

「謙遜するなって、らしくない」


「ご主人様のはダメな息子なんかじゃありません! きっと」

「下半身見て言うな!」


「はっ! 言う通りということは、ご主人様と夜が、ある……? その為に下着を選んでくれる……?」

「ちげーよ。あと、服を選んでくれる、と、勝負下着を買いたい、が混ざってやばいことになってるから」


「そうと決まれば、早速行きましょう! 十秒で支度してきます!」

「あ、おい……」


 いうやいなや、紅葉の制止も聞かず屋敷の中へととんぼ返りする桜花。

 相変わらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、いつものクソメイドさが見えて、少しほっとした紅葉。


 広い庭園に残され、自分も支度でもするかと、立ち上がり空を眺め、

「桜顔、また見たいな」

 ぼそりと一人ごちる。それほど魅力的だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ