偽りの言葉と本当の気持ち
こんにちは。いよいよ最終回です。
最後ということではっちゃけました。だいぶ飛ばしてます。下ネタとかも。ご注意ください。
――四月一日。エイプリルフール。
嘘をついてもいい日。いつ、どこで、始まったのかわからない。発祥が謎の行事。
SNS上などでも、有名な会社や人たちが結構なぶっ飛んだネタを披露してくる。
まぁ、楽しみと言えば楽しみだ。今年はどんなネタなんだろうと思うと、ワクワクする。
一日限定の仕様を披露するゲームとかもあるので要注意&一日中取り掛かる。
これが、今までのエイプリルフールの過ごし方。
今年は違う。
一人じゃない。
両親は仕事の関係で年明けすぐ、また行ってしまった。けれど、今までとは違う。心の距離。離れていても、もう大丈夫。それに、なるべくすぐ片付けて帰ってくるそうだ。
その後は、こっちにずっといるらしい。また騒がしくなる。けど、それも悪くない。
両親は行ってしまったが、いつものメンバーは相変わらずだ。
いつも通り騒がしい。
四月始まりの日の今日もだ。
無事、なんとか、一応進級できた紅葉は、学校が始まる残りの数日をぐーたらして過ごそうとひそかに心に決めていた。
実際、春休み入ってから三月いっぱいはそうしてきた。
が、忘れていた。
四月初日のこのイベントを。イベントごとにはうるさい輩がいることを。
「ごっしゅじんさっま! 起きてくださーい!」
「ぐおふっ!」
朝、メイドの襲撃をくらう。
昼まで寝ているを習慣にしていた中、腹に圧し掛かる容赦ない衝撃と重み。
「重い……!」
「え……! 想い? わたしに伝えたい想いがあるんですか? なんですかなんですか!?」
「ちっげぇよ! 降りろ、重い!」
「ちぇ。つれないなぁ、ご主人様」
「一体、なんなんだよ。朝から」
「今日から四月ですよ!? テンション上がりません!?」
「上がらん。もし上がっていたとしてもこの時点で冷めた。っていうか、いい加減ベッドから降りろ」
「えぇ~。いいじゃないですか。一緒に寝ましょう?」
「あ゛?」
「嘘です嘘です! マジトーンで怒るのやめてくださいよ! 今日はエイプリルフールですよ? 嘘ついていい日じゃないですか」
「ああ。そう言えばそうだな。ふむ。今日は忙しくなりそうだ」
「……? なんでです?」
「SNSに張り付いてみんなのネタチェック。たまに、ゲームの運営が一日限定の何かをやりだすから、注意しなきゃなんだよ」
「えぇ~! そんなことより遊びましょうよ!」
「他のやつらも来てるんだろ? 女子たちだけで遊んで来い」
「いいんですか、そんなこと言って」
「なにがだよ」
ベッドから立ち上がって机の上に置かれたスマホを手に取る。
ロックを解除。SNSを立ち上げる。
さらさらっと流して見ていく。
「……いま、わたし、ノーパンですよ?」
「はあぁ!?」
さすがに看過できないことを言いだして、勢いよく振り返る。
すると、そこには立ち上がりスカートを持ち上げる桜花の姿。
それ以上はヤバい――!
「ちょっ! ストップストップ!」
「……ぷっ! あははは! 冗談ですよ! 騙されましたね、ご主人様」
――イラッ。
「朝ご飯できてるんで、出てきてくださいね。すぐですよ、すぐ!」
「ああ、わかったよ」
よほど嬉しかったのか、軽やかに飛び跳ねながら桜花が部屋を出ていく。
「まったくんんんんんんんんんん!?」
おかしなものが、見えた気がする。いや、見えなかったからおかしいのか?
翻ったスカートの中。……なかった。見えなかった。
って!
「そっちが嘘かよおおおおおおおおおおおお! おいコラー! 下着くらいつけろ!」
叫んだ声は届いたのか。定かではないからこそ、急いでリビングへと向かうこととなった。
「お、紅葉。いいところに来た! 大変なんだ! 海のやつが……」
来て早々、雪に引っ張られた。嫌な予感しかしない。
「海がどうした?」
「――幼児退行したんだ!」
「……は?」
いや、何となくタネは見えてる。多分エイプリルフールネタだろう。
しかし、幼児退行とは、こう、なんだ。想像もつかなかった。
引っ張られてやってきたのは、花火に割り当てた部屋。
「ここか?」
「ああ」
引っ張ると面倒だからさっさとドアを開ける。
と、そこにいたのは、
「ばぶっー」
「想像の斜め上!」
ベッドに横になり、涎掛けを付けておしゃぶりをしゃぶっている、あられもない海の姿が。
ネタとは言え、羞恥心はないのか!
「さすがにこれはない! おい、花火はどこだっていたのかよ!」
救いを求めようと花火を呼んだら、すぐそこに座っていた。スマホ片手に。
や、気持ちはわかるけどね。でもさ、
「姉がこうなってるんだから、もっと反応してやれよ……」
「え、あ。柊さん。いたんですか」
「もう、いいや……」
「……?」
もう、疲れた。
「うっ……!」
「今度はなんだよ! ってかお前もか、雪!」
「実は、今日」
「今日?」
「女の子の日なんだ」
「わっかりづらいネタ使うなあああああああああああああ!」
反応に困る。叫びすぎて疲れた。
何なの、本当。
「ああ、だからか。なんか匂うなって」
「お前はそこでいきなり普通に戻んなよ! 逆に怖いわ!」
「テンション高いねぇ、柊君。もしかして、ついに桜花ちゃんと一歩進んだ?」
「なにもないよ」
「もしかして、ようやく桜花ちゃんの貞操帯のカギを……」
「な訳あるか! 前提からおかしいから!」
「あ!」
「今度は何!」
「私の貞操帯のカギを無くした……!」
「し・る・か!」
「実は私……」
「うおぉ! 花火か。いきなり会話に入ってくるとびっくりするだろ。で、なに?」
「女の子が好きなんです」
「そうか、姉妹両想いでよかったな」
「うっ……。反応が薄いです」
「え、あいや。すまん」
「ご主人様~!」
「だああああああああ! もう、鬱陶しいわお前ら!」
ただでさえ面倒な状況にさらに面倒な奴が来やがった。
状況は悪化するのみ。
「実はですね。わたし、ご主人様に謝らなければいけないことがあって」
「手短に」
「寝てるご主人様を襲ってました! それはもう、三桁いくぐらい」
「よし、解雇」
「嘘ですよ、うーそ」
突っ込むのも疲れるぐらいのボケのオンパレード。
もう寝たい。
「わたしの中に、今固くて太いのが入っていたり……」
「反応しずらいから、やめろ」
「わたし、実はMだったんです!」
「それは薄々感じてた」
「嘘ですって~!」
「ああ、もう。うざい。今後一切俺に関わるな。二度と姿を現すな」
「え……?」
「あちゃ、やりすぎちゃった?」
「ご、ごめんなさい」
「すまない」
「だああああああ! なんでそこでしおらしくなるんだよ! 散々自分たちはやってきただろうが!」
「あ、嘘か」
「もう本当に疲れた……」
「すみません。少し飛ばしすぎました」
「昼まで寝てるわ。疲れたから。起こすなよ」
「わかりました。昼ご飯作っておきますね。できたら起こします」
「ん。……ちゃんと起こせよ?」
「疑い深くなりすぎですって」
「お前らのせいで軽く人間不信だわ」
自室へと戻る。その道すがら思い出す。
朝飯、食ってねぇじゃん。
意識すると余計にお腹減ってくる。よし、寝よう。何もかもを忘れて。
今日は、大事な日だから。
「んっ」
全っ然寝れなかった。
そもそも、ボケに突っ込んで体力と気力を消耗していた。そんな中、朝ご飯を食べそこね、空腹値も限界。
意識しないようにしていたが、もう無理だった。
寝ようにも寝れない。
うだうだしていたら余計に腹は減る。
そこからはもう意地と根性だった。
素直に起きて食べればいいのに、ああ言ってしまった手前、今更行きづらい。それに、行けばまたボケのオンパレード。疲れることはしたくない。
というわけで、昼まで空腹を我慢するという、地獄を体験していた。
諦めて食べに行こうかと考え始めたころ、スマホが音を奏でる。
通話だ。しかも、桜花から。
「はい」
「時間ですよ、ご主人様。愛するメイドからのモーニングラブコールです♡」
「突っ込みたいところはいろいろあるが、とりあえず、モーニングではない」
「細かいことは言わずに」
「てかなんで電話?」
「ラブコールです!」
「やりたかっただけか」
のそりと起き上がる。
立ち上がって、リビングへと向かう。
通話を切ろうとして、ふと思い出したことを確認する。
「そういえば、俺の朝ごはんってどうした?」
「? まだありますけど」
「そっか。じゃ、悪いけどその分も用意しといて」
「でも」
「……悪かった。朝食べなくて。せっかく作ってくれたのに」
「……! ご主人様! ……でれたー! ご主人様がデレましたー!」
「なっ……! うっさい。いいから、用意しとけ!」
悪態をつきながら電話を切る。
まったく、人をツンデレみたいに言いやがって。
とはいえ、電話も悪くないと思った。顔を合わせて言いづらいことも、言える。顔を見られて無い分、からかわれない。……からかわれたけど。
リビングへ行くと、早速のボケオンパレード。
その後、夜まで続いた。
たいへん疲れた。十年分の気力を使った気分だ。
でも、大事なのはここから。
夜。海と花火が帰った後。雪も桜花も、そして紅葉も自室へと向かった後。
決意と勇気を胸に、紅葉は桜花の部屋へと向かう。
意を決して、扉をノックする。
「はい?」
ひょこっと、桜花が顔を見せる。
「ご主人様。どうしたんですか、こんな時間に」
「ちょっとな。中、いいか?」
「はい。どうぞ」
中へと入る。
なんかこう、緊張してきた。
「それで、どうしたんですか?」
「えぇ! ああ、うん。そのな……」
「妙に歯切れが悪いですけど……」
ああ、くそっ。思った言葉出てこない。
やばい。ここまで来たんだ。勇気を振り絞れ。
深呼吸を一回。
「前から、言おうと思ってたんだ」
「はい」
「俺は、お前が、ス……」
「ス?」
「好きだ!」
「え」
「付き合ってほしい!」
頭を下げる。あげれない。まとも顔を見れないし、見せられない。
きっと、真っ赤になってるだろうな。自分の顔を想像して、また恥ずかしくなる。
「え、えっと。エイプリルフールの嘘、ですよね。もう! ご主人様たちが悪いですよ!」
「……一説では、嘘をついていいのは午前中までらしい」
「え、それって」
「本気。ってこと」
顔をあげて、まっすぐ桜花の目を見つめる。
情けない顔してるかもしれない。でもいい。たとえそうだとしても、誠意をもって、接したい。
「……!」
桜花の瞳に涙がたまる。やがて雫となって頬を伝う。
わななく両手で口元を抑え、驚いたような嬉しいような、ごちゃまぜの感情を、その瞳に浮かべていた。
「……本当に、本当に、ですか?」
「ああ」
「うっ! ぐすっ! 嬉しい、です!」
泣き笑い。
雨に打たれても、散らすことなく、咲く桜のように。
「返事、訊いてもいい?」
「そんなの、決まってるじゃないですかっ!」
幾度となく流れる涙を拭いて、それでも溢れる雫を湛えたままに、
「喜んでっ……!」
こうして、紅葉と桜花は付き合い始めた。一年近くかけた、伝えられない両想いに、ようやく決着がついた瞬間だった。
春。
桜舞う街並みに、歩く人影。
付き添うように、腕を絡めて密着しながら、学び舎への道を行く。
「えへへ~」
「くっつきすぎで歩きにくいんだけど」
「いいじゃないですか。わたしたち、恋人同士なんですし」
「にしたって、もうちょっと節度をだな」
満足そうにする桜花と、それほど嫌がってない紅葉。
あれから、数週間。
桜も散り際で、若葉が少しづつ芽吹く季節。
新学年、新学期も少しづつ慣れ始めたころ。
桜花と紅葉はまたも、同じクラスになった。海もまた。
変わらないと言えば、変わらない。
でも、確かに変わったものもある。
右腕に張り付いた桜花をそっと見る。
「紅葉、いつ結婚します? 子供は何人欲しいですか?」
「あほか。そういうのは気が早いだろ。桜花は結婚できる歳かもしれないけど、俺はまだなの」
「えぇ~。もういっそ法律変えましょうか」
「やめい」
敬語なのは変わらないが、お互いのことを名前で呼び合うように。
そして、変わったことはまだまだある。
「おーい。柊君、桜花ちゃん」
大きな声で呼ぶのは、海。その隣には、同じ制服を着た花火。
花火もまた、一歩を踏み出した。高校に通う決意をしたのだ。
そして、もう一人。
「ああ、来たのか。私より早く出ておいて遅くつくとか、イチャイチャしすぎだ」
雪もまた、学校に通うことに。
両親が帰ってきて、何かと手続きやらしたらしい。
中学三年生として、スタートすることになった。
新生活にふさわしい、新たな一歩を、それぞれ踏み出し始めていた。
「先輩方。おはようございます」
「幸。おはよう」
初めてできた、後輩。すごく礼儀正しい、清楚な女の子。
変わったことはいくつもある。
これからも変わり続けていくだろう。
けれど、確かに結んだこの絆は、そう変わらない。変えない。
この道を二人並んで。みんなと一緒に。歩いていくんだ。
ここまで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
今後は、どうなるかわかりません。気が向けば、この物語の続きを書くかもしれませんし、別の物語を描くかもしれません。
たぶん後者ですね。
その時はその時で、また、よろしくしていただけたらと思ってます。
本当に、ありがとうございました。




