表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
29/30

番外編 七夕

こんにちは。

今回は最終回前話にして番外編です。投稿予定日がちょうど七夕だったので、取り上げてないし、最終回前に箸休め的でいいのではないかと思いまして。

今回の話は雪が来て少しした頃のお話です(時系列的に)。

楽しんでいただけたら幸いです。

 それは、雪が来て少しした頃の話。

 雪も仕事に慣れて、使用人(メイド)達とも仲良くなったというか、親しくなったというかなんというか、になった。

 夏の香りが立ち始める初夏の頃。


「そういえば、日本にはタナバタとかいう星の話があるそうだな」


 リビングの掃除を始めた雪が、外を見やりながら顔だけ向けて話しかけてくる。


「あー、もうそんな時期か」

「時期? 物語ではないのか?」

「物語でもあるし、イベントでもあるんだよ」

「ん?」

「あ~ッと。説明するとな」


 日本の行事になじみがないのだろう。怪訝そうにしきりに首をひねる雪に、説明をしていく。


 昔々、織姫という姫と彦星という牛飼いの男がおりました。

 織姫は神々の着物を作る仕事をしていました。

 そんな中、織姫の父親の神様が、織姫に結婚の話を持ってきました。相手は彦星。彦星は立派な人で、他の目から見てもお似合いな二人は、すぐに恋に落ちます。

 二人は結婚し、幸せな日々を過ごします。

 けれど、幸せを満喫する二人は次第に仕事をしなくなり、神々の着物はボロボロに、牛は病気になったりと、大変なことになりました。

 神々は、織姫の父親に相談しました。すると織姫の父親はとてつもない怒りを覚え、二人を強制的に天の川をまたいだ別々のところに引き離しました。

 これでもう大丈夫かと思いきや、今度は別れた悲しみで、織姫が仕事をする間も泣き続け、着物に涙の染みができてしまうように。

 これではダメだと、年に一度だけ会っていい、と織姫の父親が言いました。

 織姫は喜び仕事をきちんとこなし、伝わって聞いた彦星も仕事により一層の精を出すように。

 そんな日々を過ごしていたある年、大雨のせいで天の川の水が増え、会えなくなってしまいました。

 しかし、二人の悲しみを解消するように、カササギが橋となり、二人は会えました。


「んで、織姫がこと座のベガ。彦星がわし座のアルタイル。カササギははくちょう座。ってことになった。一年に一度二人の再会を叶えた日にあやかって自分たちの願いもかなえてもらおうってことで、短冊に願いを書いて笹の葉に吊るすようになったってわけ。それが、今日ではイベントとなって大々的になるようになったってわけ」

「ほぉ」

「大体こんな感じだろう。間違ってるかもしれないが」

「質問していいか」

「どうぞ」

「なんでも、昔から不思議な力があるとされていたらしい」

「なんで七月七日なんだ?」

「さぁ。ただ、今では節句になってるから、昔の何かが影響してるんじゃないかな」

「なるほど」


 話を聞く間も質問する間も手を休めることなくテキパキと働いている。

 器用だな、と思う。どういう環境で育ってきたのか知りたい気がするけど、その辺はブラックボックスな気がするので触れられない。


「ずいぶんと詳しいんですね」


 買いだしに行っていたはずの桜花がひょっこり顔をのぞかせる。


「いつからいた」

「いつでもいます」

「………」

「……初めからいました」

「買いだしは?」

「もちろん終わりましたよ。終わってからこっそり聞いてました。そんじょそこらのおさぼりさんたちとは違うんです!」


 胸を張って答える桜花。自爆しているのにも関わらず。


「こっそり聞いていた、ねぇ。仕事もせずに盗み聞きとはいい度胸だな、おい」

「いやいやいや。だって、扉の向こうからご主人様の声が聞こえてくるんですよ! そりゃ聞くでしょ!」

「開き直るな!」

「こんちゃー。何言い争ってるの?」


 そこに海が来た。間がいいのか悪いのか。


「で、何が原因の痴話げんか?」

「断じて痴話げんかではない」


 これ以上ややこしくなっても仕方ないので最初から説明する。


「七夕かぁ。そういえば、もうすぐだね。確か、お祭りもするはずだよね」

「そうなのか?」

「ご主人様はヒキコモリでしたから、知らないのも無理はありませんね」

「うっ。ヒキコモリは俺一人じゃないだろ」


 ちょうど通りかかった花火を目にとめる。

 花火はどこからか話を聞いていたようで、話題にはすぐに参加した。


「わ、私は知ってました。ちっちゃいころ、お姉ちゃんと行ったことがあるので。まだやっていたのは知りませんでしたけど」

「あ~そっか」

「はい。柊君だけ仲間外れ」

「元いじめられっ子にその言葉は痛いな」

「あ、ごめん」

「冗談だよ。ってか、桜花(おまえ)はなんで知ってたんだ」

「バイトしたことあるので。……すぐクビになりましたけど」

「ドン( ゜д゜)マイ」

「ご主人様。その顔うざいです」

「珍しい。柊君ラブの桜花ちゃんが柊君を罵るとか。はっ! もしや、今度はSM(そっち系)に手を出したの?」

「違うわ」


 毎度の如くわいやわいやしていく。置いてけぼり感が漂うのは一人。新参者の雪だけ。

 しかし、雪もこれがここの日常なのだと察する。


「まぁ、というわけで、みんなで行こうよ、七夕まつり」


 どういうわけかはわからないが、海がいつものことだが皆を誘う。


「いいですね! 織姫と彦星にならって、わたしたちの絆も……」

「柊君は?」

「ま、いいんじゃないか。雪も行くだろ?」

「え、私もか!?」

「と~ぜん! みんなの中には雪ちゃんだって入ってるよ」

「……そうか。うん。ならばいっしょに行こう」

「やった」

「じゃ、時間帯とか決めるか」




 そうして決めて、当日になった。

 会場には大きな笹があり、すでに色とりどりの短冊が風に揺れていた。

 人の入りも結構で、この辺では夏祭りも兼ねているため、浴衣で来ている人も結構いた。

 屋台も出てて、活気があった。

 星を見るには明かりが多すぎて、空は真っ暗だが。

 空を見上げて一息つく。

 これなら、天体望遠鏡とか買っとけばよかったかな。

 年に一度、織姫と彦星が再開する日。どうせなら、二人を祝うようにすればいいのに。メインの二人を差し置いてどんちゃん騒ぎとは、泣けてくる。

 まぁ、これぐらい熱狂していた方が、二人も気を散らさずに済むか。

 せっかくの年に一度の日なのだから、二人っきりでしっぽりしたほうがいいのかもな。


「ごっしゅじんさっま! お待たせしました!」


 一人佇む紅葉の元に女子四人がやってくる。

 いずれも美しい浴衣に身を包んでいる。

 雪も例外ではなく、長い銀髪をかんざしで器用に止めている。


「どうです? ご主人様」

「似合ってるよ」

「なんか投げやりですね」

「本心本心」

「むっ~」

「まぁまぁ。みんな短冊、飾りに行こうよ」


 海の言葉で笹の下へ向かう。


「桜花ちゃんは、やっぱり柊君とのことを書くの?」

「もちです!」

「花火は?」

「ソシャゲの限定SSR」

「ぶれないなぁ」

「そういう海はどうなんだ?」


 笹を見上げながら雪が訊く。


「私はもちろん、花火のことだよ」

「そうか。紅葉はどうだ」

「俺? どうだろ。雪は?」

「……決まっていない。何を書けばいいのかもわからない」

「難しく考える必要はないですよ。ただ、今感じていることを書けばいいんです」

「今、か」

「それが難しいんだよ。将来的に見てとか、具体的に考えてとか、本当にそれでいいのかとか、いろいろ考えると、どれも適切じゃないような気がしてきてな」

「じゃあ、わたしのことを書いてくださいよ」

「いやだ」

「即答!?」


 さっさと書いて飾る場所を探す三人の後ろ、未だ悩む二人は、ペンを片手に考え込んでいた。

 ちらりと雪を見る。考えるというよりは、思い悩むといった感じで、じっと手元の短冊を見つめている。

 名の通り白いうなじが見える。銀の髪は照明を反射するかのようにキラキラと輝いて見えた。

 俯く彼女の表情とは裏腹に。


「悩んでるのか?」

「ああ。望みと言われてもな。望むことすらない。なんというか、寂しい人生だったんだなと思ってしまってな」

「今はどうだ?」

「……これまでが灰色だったのなら、今は鮮やかな色彩に彩られた日々だ。温かくて優しくて。日に日にほだされていく自分を感じる」

「いやか?」

「いいや。むしろ心地いい」

「なら、それでいいじゃないか」

「え?」

「お前よりも、おそらく年上の俺がちょっと偉そうに言わせてもらうとな。今は戸惑いと幸福がお前の中にあるんだろうよ。しばらくすれば、戸惑いはなくなって、より多くの幸福を求めようとするだろう。でも、今が幸せというのなら。これ以上、望むことがないというのなら。それを望めばいい。今が終わらないように。この先に進むための土台となる今を、失くさないように」

「…………」


 大きく見開かれた赤い瞳が紅葉を見つめる。

 よほど驚いたのか固まってしまっている。

 そんなに偉そうだったかな。癇に障った? 謝るべき?

 そんな考えがよぎって言葉をかけようと口を開くと、言葉を発するより先に、雪が笑う。


「そうか。そういう考えもあるんだな。気が付かなかった。ありがとう、それでいくよ」

「あ、ああ」


 ペンを握り短冊にすらすらと文字を書いていく。

 そうして、書き終えた短冊を握りしめ、三人の元に走って行く。

 後ろ姿は年相応の女の子のものだった。


「悩みが晴れて何より。さて、俺はどうするかな――」


 しばらく悩んで、思いついた一つのことを短冊に書いていく。

 他の四人の元へ向かい、短冊を笹に飾り付ける。


「なににしたんですか?」

「秘密。それよりも、せっかくの祭りだし、楽しんでこうぜ」

「え!? 柊君のおごり!?」

「誰も一言もそんなこと言ってねぇよ」


 わいわい、がやがや。

 忙しなく騒がしい、けれども彼らの日常。

 どこにいたって変わることのないもの。

 それぞれが思い起こす。それぞれの願いを。


『ご主人様ともっと親密になれますように。 桜花』

『花火がこれからもこの調子でいれますように。 海』

『イベ限のSSR当たりますように。 花火』


『これからも、彼らとともに、この日常を過ごせますように。 雪』


『織姫と彦星に祝福を。みんなに幸せを。どうか幸福でいれますように。 紅葉』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ