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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
28/30

交換日記 雪編

こんにちは。今回は雪のメイン回です。

少し、いや、大分下ネタ多めになってます。その手の話が苦手な方もそうでない方もお気を付けください。

さて、この物語も残すところあと二回となりました。

今までの応援ありがとうございました。

更新予定日を遅れたことも一度や二度じゃないですし、投稿ペースも落としてますし、何より、文章が荒かったりと、いろいろありました。今にして思えば懐かしいものですが、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

そんなこの作品ですが、もしも、楽しいと思っていただけたのなら、これ以上ないほどの喜びです。

あと二回。そして今回のお話も、これからももう少しだけ、お付き合いのほどよろしくお願いします。

「ふぅ」


 雪は吐息一つこぼして、目の前のノートを閉じる。

 立ち上がり、ベッドへ向かい倒れこむ。地毛の銀髪が扇状に広がる。

 ベッドに顔をうずめながら、日記に書いた今日の出来事を思い返す。

 たいへんだった。ホントに。二度と経験したくないくらいに。

 交換日記の内容は主に紅葉と桜花のこととなっているが、今回の事件もまたあの二人の仲を進展させたのだから、みんな巻き込まれて他の二人も知っているだろうが、他にネタもないしこれでいいやとなった。

 ベッド脇に置かれたデジタル時計。その日付部分を見る。

 ――二月七日。

 バレンタインの一週間前。そう、ことはそこから始まったのだ。思い返すだけで頭が痛い。

 本当に、どこから狂ってしまったのか……。でも、楽しかったと思っている自分もいる。

 この屋敷に来てから、楽しいことだらけだ。こんなにもらってしまっていいものかと思うほどに。あのころとは打って変わって幸せな日々だ。みんなには感謝しているし、これからも感謝の気持ちは忘れないようにしていくつもりだ。受けた恩はなるべく返すように、自分にできる精一杯のことをやっていく。

 二人を応援するのもその一環ともいえる。あの二人を見ていると、なんだかこう、じれったくなってくる。両想いなのは明白なんだからとっとと告って付き合え、と何度も言いたくなった。

 雪は、自分が年の割に大人びていることをわかっている。だが、だからと言ってあからさまに偉ぶったりするつもりはないし、そうならないように気を付けている。

 だから、これは本人たちには言ってない。

 どうも、彼らは子供っぽいところがある。いや、若さゆえの思考錯誤というか幼さというか、大人になりきれていない思春期の燻りと言うか未熟さみたいなもの。

 それ故にどうも手のかかる弟・妹のような、息子・娘のような感覚がある。どうにもほっとけない。手を引き導いていきたい。それが、恩返しにもなると思うから。

 ともあれ、今日は疲れた。

 ふかふかのベッドの上でウトウトと心地の良い微睡みに揺られながら、思い出す。今日を、アレを、一から。




 始まりは前日の夜から。


「バレンタインチョコ?」

「そうです!」


 夕食の支度をしていると、桜花が突然話しかけてきた。何事かと思えば、そうか、もうそんな時期か。


「ガンバレ」


 一年前のこの時期は路上暮らしをしていた雪にとって、イベントごとは初めての連続だし、よく知らない。

 投げやりと思われるかもしれないが、到底何か相談に乗ったり手伝ったりできるとは思えない。

 むしろ。料理を続けながらちらりと桜花を見る。

 エプロン姿で手際よく調理していく。

 そのスキルとさっき見せたやる気があれば何でもできると思うが。


「今年は、ご主人様と出会って初めてのバレンタインなので、わたしの気持ちを伝えるという意味でも、気合を入れてかかりたいんです! ですから、手伝ってください! 花火さんも!」


 胸の前で手を組んで、やる気満々という感じだ。だったらなおのこと一人でやればいいだろうに。

 急に話を振られた花火はびっくりして、「わ、私もですか……?」と聞き返している。


「もちろんです!」

「え、えっと……、そういうのは一人でやったほうが……」


 雪の思ったことをそのまま花火が言う。と、困ったように桜花が笑う。


「それはそうなんですが……。恥ずかしながら、チョコとかあまり触れてこなかったと言いますか……、この手のイベントも初めてで所作がわからないと言いますか……」


 俯いて指を絡めて、普段とは違って元気のない声音で桜花が言う。

 つまり、初めてで不安だから手伝ってほしいということか。なら初めからそういえばいいものを。どうして迂回してまどろっこしくしてしまうのだろうか。

 というか、初めてなのは雪もだ。花火や海ならともかく、どうして雪まで……。というか、海は?


「話は聞かせてもらったわ!!」


 なぜか海がキッチンの入り口に格好つけて立っていた。


「そこは邪魔になるからこっちに来るか戻るかした方がいいぞ」

「うぐっ。……はい」


 指摘してやると、素直に入ってくる。

 トボトボやってきて、いきなりガバッと顔をあげて指を立てる。


「桜花ちゃんの頼み、これは、私も一肌脱がなくちゃね」

「誰もあなたには頼んでませんが」

「真顔で冷たく言わないでよぉ」

「すみません、謝りますからウソ泣きやめてください。鬱陶しいし邪魔なので」

「本当に冷たい!!」

「あと、謝りましますが頼みはしないのでご退場願います」

「冷たすぎない!?」


 誰も、いつから、どうやって、格好つけていたことには突っ込まない。良心的だな、と思いながらそそくさと料理を続ける。

 あくまで、我関せず、だ。


「本当にいいの? この中でイベント慣れしてるのは私だけだと思うけど?」


 挑発的に海が言う。片頬をあげてる当たり、役者だ。


「た、確かに……」

「悪いようにはしないから、ね?」


 桜花の肩に手をまわし、あくどく誘惑する。表情も悪そのもの。仕上げた役者魂だな。

 桜花はその手を払い、料理を続けながらも、迷う。


「……わ、かりました。お願いします」


 諦めたように、嘆息とともに吐き出した言葉に海が嬉しそうににっこりとする。


「楽しそうね。女子会? 私もまーぜて」


 そこにヒイラギの妻までやってきた。

 もはや収拾がつかん。

 ため息がこぼれる。

 この後、事情を話し、結局雪も参加することになったチョコ作戦なるものが次の日開かれることとなった。




 始めはよかった。始めは。


「ではでは、柊君を絶対落とす素敵なチョコを作りましょー!」


 はつらつな声で号令をあげるは海。こういうのは海の役目なのだろう。何かと担当する機会が多い気がする。

 パラパラと拍手が上がる。楽しそうだな、と思いながら雪も気怠く手を鳴らす。


「どんなのがいいかな?」

「そもそも、甘いものは大丈夫なのか?」

「その辺は大丈夫よぉ」

「は、ハートの形とか……?」

「いいですね!」

「ベタじゃないか?」

「ベタなくらいが、柊君には有効だと思うけど」

「き、気づいていても、あえて気づかなかった振りしますしね」

「あら、私たちがいない間にそんな子に育ってたの、あの子」

「そうなんですよ! ちっとも素直になってくれないんです! そういうとこもいいんですけど……」

「はいそこ、惚気ない」


 こんな感じで和気あいあいとやっていたのだが、どこからか歯車が狂った。いいや、わかっている原因は。

 あの発言だ。

 完成までもう少し、あとは固めるだけというところで、桜花がどこからか取り出した怪しげな瓶の中身をチョコにぶち込んだ。


「ついでにこれも入れましょう」


 嫌な予感はしていたのだが、場の雰囲気には勝てずに放置してしまった。

 数十分後。


「完成&試食ターイム!!!」

「え゛?」


 桜花が嫌な音を立てた。ピシリとひびが入ったような歪な笑顔を浮かべる。


「食べるんですか? それを。もう渡していいんじゃ……?」

「なに言ってるの。渡すにしたってバレンタインは来週でしょ? それにうまくいっているか確かめなきゃ」

「うぐッ。確かに……。でもでも……!」

「いいから、はいあ~ん」

「はむっ!」

「ど?」

「…………」

「桜花ちゃん?」

「す、すごくまずいとか……?」

「私たちも食べてみましょう?」

「そうですね。あむ」

「はい、雪ちゃんも」

「え、私もか?」

「もちろん」


 正直、本当に食べたくなかった。が、有無を言わせぬヒイラギの妻に流され、少し口にする。

 ほんの少し。でもわかる。これは、何かおかしい。

 だんだん体が熱くなってくる。これは……。

 まさか、


「桜花、お前。媚薬入れたな」


 だから、食べることを拒否したのだろう。

 どうしてくれるんだ、この惨状。


「暑い」

「海、脱ぐな」

「おねえ、ちゃん。助けて」

「やめろ、花火。そいつはもうけだものだ」


 少ししか食べてない雪に比べて、他のメンツは結構な量食べたらしい。少しでも影響があるほど強力なものだ。相当量食べれば、正常な判断ができなくなるのも無理はない。

 というか、仕込んだ本人と唯一の大人はどこ行った!?


「まずい……!」


 火照ってくらくらする中、急いで屋敷を探す。

 なぜこの屋敷はこう広いんだ。探し回るうちに、媚薬までも体を回ってくる。

 体が熱い。疼く。どうしようもないほど、快楽に飢えている。

 ――だがッ! ここで獣に成り下がれば止めるものは誰もいない。そもそも、理性を失って暴れまわるなど、自分が許さない。

 プライドが高いともいえる。でも、みだれるところなど恥ずかしくて見せられないし、見たくもなりたくもない。

 自分もまた、子供じみてるところがあるなと、こんなことになって実感する。

 とにもかくにも、止めなければ……!


「ん?」


 歩き回っていると、横の扉から微かだが声が聞こえる。

 この声は……。

 この部屋は夫婦の寝所。ということは。


「オッホン」


 咳払い一つ。聞かなかったことにして、元凶を探す。この部屋は放置して大丈夫そうだ。まぁ、曲がりなりにも大人だし。


「雪」

「ん? ああ、紅葉か」


 その先で紅葉と会った。どうやら、まだ被害を受けてなさそうだ。


「どうした? 顔が赤いけど、熱でも……」

「触るなっ!」


 おでこに伸ばされた手が、ビクッとして止まる。

 紅葉は不可解な、それでいて傷ついた顔をしている。

 慌てて弁明する。


「桜花のやつが一服盛ったんだ。私はあまり影響ないが、さすがに今異性に触られると、やばい。大きな声を出してすまない」

「あ、ああ。そういうことか。ってかあいつまたやらかしたのか。来たころはいろいろやってたけど、ここ最近はおとなしかったのに……」

「今、桜花を探しているんだ。見てないか?」

「見てたらとっくに襲われてるだろうよ。出かけてて帰ってきたばっかりだ。あいつなら、たぶん……」




 ガチャリと扉を開ける。

 紅葉の部屋。開いた扉の向こう、そこには、


「あ♡ ご主人様だぁ~。やぁーと帰ってきた~♡」


 メイド服をはだけさせて、ベッドに横たわっている桜花の姿。


「本当にいた」

「服を着ろ!」


 雪は若干唖然とする。何しろ、紅葉が『たぶん俺の部屋にいる』と言ったが、本当にいたのだ。あっさり見つかるなんて、今までの努力は……。と思うと同時、確かに冷静に考えればすぐに分かっただろうに、そこまで冷静さを奪われていたのかと、危機感を再認する。


「待ってましたよ、ご主人様~♡ 今脱ぎますね」

「誰も頼んでない! ストリップものなんて買った覚えないぞ」


 突っ込むのはそこじゃないだろ。


「えへへ~。ご~主人様ぁ~♡」


 半脱ぎのまま、桜花が突っ込んでくる。

 急いで紅葉の手を引き、部屋の外に。そのまま扉を閉める。


「はぎゃ」


 強烈な衝突音と短い悲鳴が扉一枚介した向こうから聞こえてくる。

 出る前、ちらりと見たベッドの上。大人のおもちゃがあった。紅葉の誕生日とかに贈ったあれが。まさかこんなことに使われようとは。二人に時に使ってほしかったものだ。


「大丈夫か、雪。触ってるけど」


 気遣わしげな紅葉の声が上から聞こえる。


「意識させるな。だいぶヤバいのを抑えてるんだから」

「やばいのか」

「主に下着がな」

「言わなくていいことを言うあたり相当だな」

「とにかく今は、逃げるぞ!!」


 言って手を引いて走りだす。

 半瞬遅れて、部屋から桜花が飛び出す。目が完全にハートマークだ。あれはヤバい。ほぼ全らの状態で追いかけてきているのもやばい。

 語彙力が欠けてきてる。非常にやばい。

 とにかく走る。


「あてはあるのか?」

「とりあえず、キッチンに残してきた双子が気になるから様子を見たい」

「了解。特に花火のほうは貞操の危機だからな」

「ああ。こんなことなら花火に貞操帯でもつけさせておくべきだった」

「大分なこと口走ってるってことに気付いてる?」


 走って戻ってキッチンに入る。すると、


「お姉ちゃん。お姉ちゃん」

「花火待って。ダメッ。もう……」


 二人であっぱじめてた。しかも(攻め)が花火。予想外だ。


「意外だな」

「言ってる場合か。止めるぞ」

「ああ」


 二人を引きはがし、うなじに一発。二人をしずめる。


「こういう時は本当に頼りになるな」

「さて、難関は」


 入り口のほう、ひたひたと足音が近づいてくる。


「ゾンビものの登場人物って、こんな感じなのかな」

「知らん。とはいえ、捕まったら童貞奪われるゾンビものとか、一部の人には嬉しさ満点じゃないか。作ったらどうだ」

「完全にレーティングR18になるからやめとく」

「好きだろう、R18」

「その言い方は語弊があるから」


 二人して軽口をたたきあいながらも、姿勢は身構えたまま、前方をにらむ。

 そして、最終決戦が始まった。




 という、ナレーションが付けば格好よかったのだろうけど、実際には瞬殺。雪が現れた桜花のうなじに瞬時に一発入れて、騒動は静まった。

 雪はその後に水を大量に飲んで、体内の媚薬を薄め、体の火照りを鎮めた。

 海と花火はなんか赤くなりながらも手をずっと握って微笑みあっていた。正直怖い。

 ヒイラギの妻はすっきりした顔で夫と一緒に風呂に行った。もう一戦開幕しそうな予感。

 桜花は紅葉にこってりと絞られていた。


「まったく、なにしてんだよお前は!」

「すみません」

「雪がいたから何とかなったものを!」

「すみません」


 桜花は床に正座し、しょんぼりとしてすみませんを繰り返す。


「まったく。大体、媚薬(そんなもの)なしでも……」

「え!? ご主人様、なんて? 今なんて!?」

「う、うっさい! お前が濡らしたシーツと、あと、お、おもちゃ! 片しとけよ!!」


 顔を真っ赤にして出ていく紅葉。追いかける桜花。

 ……まったく世話の焼ける。

 だから、自分一人でやったほうがいいと言ったんだ。どんなものであろうと、紅葉が受け取らないわけないからな。

 目が離せない、可愛いやつらだよ。

 思いは言葉にせず、ただ胸の内と、そして表情にだけとどめておく。




 これが、今日会ったことの顛末。

 未だ勇気の出ない少年と、直接ができない不器用な少女の、恋の話。

 手がかかる。二人の物語。

 そこに、自分も加われたらいいな。少しでも、二人の背中を押すことができればいいな。

 いつか、この日々を思い出して、笑いあえる日々を願う。今が続くことを願う。

 与えられた居場所。生まれた新たな関係と自分の役割。失くさないように。

 いつの日か、感謝を、伝えられるように。

 倒れこんだ姿勢のまま、夢と現の隙間にて、ふわりと思う。

 意識は柔らかな眠気に誘われ、優しい夢の世界へと。

 瞳を閉じると、すぐにすぅすぅと健康的な寝息を立て始める。

 その顔には笑顔があった。

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