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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
27/30

交換日記 花火編

こんにちは。

今回は花火に焦点を当てた物語です。タイトルの通りですが。

いつもはあまり詳しく取り上げられないキャラ達でも、いろいろ思っているのだということを、少しでもうまくえがけていればいいなと思います。

さて、この物語ですが、始めた夏ごろに終わりを迎えたい、という思いの元、ここ数回は書き続けてきました。具体的には決めてなかったのですが、あと数回でちょうど三十話になるので、そこで区切りをつけようと思います。

正確には一年にならない、約一年ですが、ここまでお付き合いくださってありがとうございます。これから先、あと少しですが、最後までお付き合いいただけたらと思います。また、機会があれば別の作品、またはこの物語の続きをえがいたりするかもしれません。その時は是非。

この物語が、あなたの中で少しでも残ってくれたら、幸甚の至りです。

 甘い(聖なる)夜の少し前。桜花がプレゼントに悩み、かつ、海から噂を聞いた日。その夜。

 紅葉の屋敷での勤務が終わり、自宅へと帰ってきた花火は自室でゴロゴロしていた。

 スマホを片手にベッドの上を右に行ったり左に行ったりを繰り返していた。


 ――ピロン。


「ん? 桜花さんから……?」


 スマホのSNSのメッセージが来たことを知らせる電子音とともに、見ていた画面の上側にメッセージが表記される。

 送ってきたのは桜花。しかも、いつも連絡事項を伝えあうグループではなく、個人宛。

 関わる全員と連絡先を交換したはいいものの、毎日顔を合わせているので特段SNSでやり取りするようなこともない。あるとしたら、外出している人に『何々がなくなりそうだから買ってきて』とか、そういうことばかりだ。なので今回は本当に珍しい。桜花が誰かにではなく花火に伝えたいことがあるなんて。

 特に急ぎの用 (ソシャゲのイベント) もないので、メッセージを開く。

 そこには、


「花火さん! 花火さんはコスプレとか作ったりしたことあります?」


 とだけ。


「うん? どういうことだろう?」


 訝しんでは見るものの、桜花の意図するところはわからず、とりあえず素直に答えておく。


「ありますよ。着たこともなければ誰にも見せてませんけど」


 すぐさま返信。


「姉があれですからね……。心中お察しします。ところで、コスプレの一環的に編み物をやってみたりとかしたことありますかね?」

「一応、ありますけど……」

「おお! それでは明日から少し教えてもらえませんか?」

「いいですけど、どうかしたんですか? 何か作りたいものでも……?」

「はい……。ここだけの話にしてくださいね。クリスマスに、みんなに手編みのマフラーをプレゼントしたいんです。ちょこっとデザインとかも変えて。でも、作ったことなくてわかんなくて……」

「なるほど。了解です。でも、どうしてマフラーなんですか?」

「ご主人様が、寒そうにしているので……」


 ああ、と納得する。つまり、好きな人に自分で作った物をプレゼントしたいのだ。

 なんというか、健気だ。いじらしくて可愛らしい。こっちが照れくさくなる感じがする。


「わかりました。私でよければお教えします」

「ありがとうございます! 嬉しいです!」


 スマホの画面を眺めて、自然と笑みがこぼれる。

 今までは、ずっと一人で部屋に閉じこもっていた。誰かに何かを教えることも、一緒に何かをすることもなかった。それが、変わった。いきなり。がらりと。百八十度。

 それを嬉しく思う。こんな私に積極的に関わってくれる彼ら彼女らのことが、もの凄く好きだ。誇らしくもある。

 同時に、自分はこのままでいいのかなとも思う。このままでいいのだろうか。いつか、飽きられるのではないだろうか。いつか、捨てられるのではないだろうか。

 ――それが怖い。

 そうならないように、求められることには全力で行こうと決めた。求められていれば、捨てられことはないから。

 ベッドから起き上がり、パソコンを起動する。

 検索サイトを開き、検索バーに文字を打ち込んでいく。


『編み物 やり方 簡単』


 と。




「ううう……」


 さっきから隣で桜花がずっと唸る。

 手元にはかぎ針と毛糸の玉。そして、不揃いな編み目を持つ毛糸でできた何か。

 紅葉の屋敷でメイドは三人。三人いれば、暇な時間もあるというもの。その隙間時間を使って、桜花の部屋で、花火と桜花の二人は一緒にマフラーを編む練習をしていた。

 けれど、あまり悠長にしている時間はない。クリスマスは目前に迫ってきている。

 焦りがまた失敗を呼び、桜花のメンタルはガリガリ削られ、唸り声をあげ続けていた。


「えっと、そこは、こうやって……」


 花火も、自分の知識とネットの知識を合わせて、教えられる程度に教えていく。

 花火の手元には、綺麗に整った編み目を持つマフラーの途中がある。実際に手本として見せたものだ。が、花火があまりにスイスイやるものだから、簡単にできると勘違いした桜花が、自信満々に取り組み始めたものの、結果が今の状況だった。

 桜花は割と何でもできて手先も決して不器用ではないはずなのだが、どうしてか、編み物は苦手なようで、表情が大分険しい。

 花火の教え方もお世辞にもうまいとは言えないが、桜花は諦めずに取り組み続けている。

 ……かっこいいなと思う。好きな人のために一生懸命なその姿勢が。

 自分にはあっただろうか、本気になれるものが、誰かが。

 ……わからない。


「花火さん。花火さんってば」

「え、あ、ごめんなさい。なんですか?」

「ぼぉーとしていたので、大丈夫かなと。何かソシャゲのイベントでもありました? うっすらと目の下にくま出来てますけど……」

「あ、えっと。編み物大分昔にやったので、忘れてる部分が多くて……。昨日の夜ネットで調べてたんです」

「もしかして、わたしがメッセ送った後ですか?」

「はい……」

「……ごめんなさい!」

「え?」

「わたしの我がままなのに、巻き込んじゃって……。寝不足なら、休んでもいいですよ」

「いえ、大丈夫ですから」

「……ならいいんですけど」


 不承不承といった感じに桜花が納得する。

 寝不足ではなく徹夜明けだというのは、ばれてはいなさそうだ。

 求められているのだ。必要とされているのだ。だから、ちゃんとやらなきゃ。嫌われたくない。捨てられたくない。だから……。

 眼を強めにこする。眠気を飛ばすように。

 大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせるよう、何度も心の中でつぶやく。

 ……もう一人には、ならない。




 それでも、限界というものがある。

 睡眠時間を削り、もっといい教え方はないものかと試行錯誤を繰り返し、ネットを使い、実際にやってみたりしていたが、とうとう厳しくなってきた。

 仕事中でも眠たくなって、落ちそうになる。

 歩くたびふらふらになる。

 そんな状況を、周囲のものが見逃すはずがない。


「花火。疲れているのだったら、今日はもう帰って休んだらどうだ」


 気遣わしげな表情で雪が言う。


「だ、大丈夫です」

「大丈夫そうには、見えないのだが? いいから休め。もうそろ海も帰ってくるだろう」


 強引にソファーに寝転ばされる。

 年下の女の子にさえ、気を遣わせてしまった。

 自分の駄目さが嫌になる。自己嫌悪。そんな言葉が浮かび上がる。

 お姉ちゃんと比べて……。昔何度も聞いた言葉が、耳の奥で反芻する。

 そう。私はお姉ちゃんとは違う。

 明るくないし、できないことは多いし、友達も少ない。

 それでも、必要としてくれる人たちがいるのだ。多少無理をしてでも、期待にこたえたい。答えられなくなった時は……。怖い。

 心の奥底から湧き上がる不吉なイメージ。妄想という形での未来予測図。

 そうは、なりたくなかったのに。どうしよう。どうすればいいの……?


「花火。大丈夫?」

「お、姉ちゃん?」


 気が付くと、自宅の部屋のベッドの上だった。いつの間にか眠ってしまったらしい。とすると、姉がここまで運んできてくれたのだろうか……?

 だとしたら、悪いなと思う。いつもいつも迷惑かけてばっかりで、どうしようもなくて……。


「ごめんね」

「どうして謝るの?」

「だって、私。迷惑かけてばっかりで」

「別にいいよ、それぐらい」

「でもっ!」

「いいの。迷惑なんかじゃないよ。全部全部、愛おしい花火だから」


 吐露した思いに、思いのほか強い口調で、海がいい諭す。こんなにも、熱くなった姉は、初めてだった。


「みんなそう思ってるよ。誰も花火のこと嫌いになったりしてないよ。花火の知るみんなは、そんなに怖い人たち?」


 まるで心の中を見透かしたかのような、的確な言葉。


「ううん。みんな優しいよ」

「そう。だから大丈夫。今回のこともみんな心配してたよ? もちろん私もね。何してたかは知らないけど、あんまり無茶しないでね」


 抱きかぶさり、頬をこすりつけてくる。

 くすぐったくて、温かい。

 ああ。そうか。あったんだ、私にも。ちゃんと、本気になれるものが。

 手を海の背中へと回し、抱きしめる。

 この人の為なら。お姉ちゃんの為なら。お姉ちゃんを悲しませたくない。そう思う。

 ――私の大切な人。




 それからはきちんと寝るようにした。

 桜花も上達して、特に教えることもなくなった。だから、せっかくだからと、花火もかぎ針を掴む。

 大切なお姉ちゃんのために。

 似合うといいなと思いつつ、リボンを編んでいく。完成したリボンにヘアゴムを通して――。




「よし」


 書き上げた日記をぱたりと閉じる。

 聖夜も明けた、クリスマス当日。外はもう明るくなっている。朝の光が、カーテン越しに部屋の中を照らし出す。

 日記を鞄に入れて、リビングへと向かう。


「お、来た来た。それじゃいこっか」


 笑顔で迎えてくれた姉の姿が、光を受けて一層眩しく見える。

 その肩には、髪の毛をくくった、毛糸のリボンが。


「うん!」


 花火もまた笑って姉の元へと向かう。

 大事な姉。もう大丈夫。ちゃんと、脳裏にあなたの笑顔がある。もう、見失わない。

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