聖なる夜
こんにちは。更新遅れてすみません。
今回はクリスマス回です。下ネタ多めです
もう少し続く予定なので、最後までお付き合い願えたらと思います。
もし楽しんでいただけたら幸甚の至りです。
十二月の某日の話。
クリスマスの迫ったこの日も、平日なので学校が普通にある。
「世間ではもうすっかりクリスマスだなぁ」
「そうねぇ。恋人と過ごすのかしら。青春ね」
「そうだなぁ。性春だな」
「漢字ちげぇよ!」
朝のリビング。紅葉の誕生日に帰ってきた両親は、年内はこっちに残るということで屋敷で一緒に暮らすことになった。桜花や雪、花火にも部屋を割り当てているが、この屋敷の広さは尋常じゃない。柊親子+使用人が全員住んでも部屋数にはまだ余裕がある。
そんなわけで一緒に暮らすことになったので、朝にリビングでテレビを見ていても別に問題はないのだが……。
「朝から下ネタぶち込んでくんなよ、父さん」
「いいじゃないか。クリスマスと言えば、恋人と過ごす夜。まさしく性なる夜だろう」
「飛躍しすぎなんだよ」
「恋人との初めての夜。不安と期待が入り混じった胸の中。手を絡めてベッドに倒れこみ、そして――。懐かしいわぁ。そんな時期もなったわね」
「そうだな。あの日俺は童貞を捨てたんだ。これこそ、セック……」
「クリスマス!! それ以上は言わせねぇよ!」
桜花に負けず劣らずの下のネタ好きな親。しかも結構ハード。止めるのが大変だ。
これが朝から晩まで続くことがどれほど大変か。
しかしながらメイドたちとはうまくやっているみたいだ。何をどういう話をしているのか。聞くほど野暮じゃないけど気になるものは気になる。
好奇心を忍耐力で押し殺し、訊かないようにしているが。
「そうだ。紅葉、欲しいものはないのか? クリスマスだしプレゼントでもするぞ」
「いらないよ。この間誕生日プレゼントもらったばっかだし」
まともなものはなかったが。
「それとこれとは違うだろう。いつでもいいから何でも言いなさい」
「まともな親」
「ここにいるじゃない。それとも不満なの?」
「もう少し自粛して欲しいけどね」
「それは無理ね」
「だな」
「諦めんの早すぎだろ。……もういいや。学校行ってくる」
「おう、気をつけてな」
「ハイハイ」
投げやりに返してから玄関で待つ桜花の元へ向かう。
こういうのも親の優しさというやつなのだろうか。ふと思う。こういう日常の一コマでさえ、当たり前と思っているだけでかなり恵まれているのではないだろうか。もし、親が亡くなった時、この声が聞けなくなった時、寂しいと感じるのだろうか。今のうちだけなのだろうか。
「旦那様たちとの会話は楽しまれましたか? ご主人様」
「疲れたよ」
「では、今からは癒しタイムですね!」
「なにをもってそう言い切れんだよ」
「では、ドキドキタイムで」
「意味わからん」
「わたし今、穿いてないんです」
「……は?」
「ドキッとしました?」
「別の意味でならな。さっさと行くぞ」
「はーい」
先のことはわからないし、だからこそ今を大事にすべきなのだろう。この日常も。
扉をくぐると冷たい風が顔をなでる。
首元が一気に冷やされ、思わず首を縮める。
「最近ホント寒いな」
「ですねー。コート着てても、やっぱり寒いです」
「ホントにな。首と手首と足首は冷やさないようにした方がいいんだっけか」
「よく聞きますよね、それ」
「……ネックウォーマーでも買おうかな」
「首元、寒そうですもんね」
寒いのは首だけではないのだが。手袋もしていないため、手も冷たくなる。体が熱を求めて無意識的に手をすり合わせる。
「ご主人様は手袋も持ってないんでしたっけ」
「そうだよ。ヒキコモリなめんなよ」
「…………」
「? どうした」
「いえ、もうすぐクリスマスですし、何かプレゼントを用意しようと思ってて」
「別にいいよ。この間変なものいっぱいもらったし」
「まともなもの渡せてないじゃないですか! それなのに、わたしはもらっちゃってますし」
「気にしなくていいって。あれこそお前らって感じするし。その方がらしいだろ」
なおも思案気な顔をする桜花を見ながら苦笑が漏れる。
本当に、気にしなくていいのに。これ以上ないほどのものを、もらっているのだから。
「どうしたの、桜花ちゃん」
学校について、教室に入るなり海が桜花に話しかけた。
あれから桜花はずっと考え込んでいた。学校に着いてからも変わらずで、客観的に見ても目立つほどだったのだろう。
「いえ、クリスマスプレゼントは何がいいかなと思いまして」
「あー、もうすぐクリスマスだもんね」
「はい……」
女子二人が会話をする横を通って自分の席に着く。
鞄を開ける手を見ると、真っ赤になっていた。自分でもわかるほど冷たい。
早急に手袋が必要かもしれない。
ちらりと桜花のほうを向く。
何やら海の話を真剣に聞いていた。有益な話でも聞けたのだろうか。
他人事のように思いながら、自分もだろうと突込みを入れる。プレゼントを用意すべきなのは、何も桜花だけではない。紅葉もだ。
桜花や海たちには、普段お世話になっているお礼を込めて。両親にはこれまで迷惑をかけたことと、これからもよろしくと伝えるために。
気づけば、いろいろな人に、本当ににたくさんの物をもらっていた。
自分は恩返しできているだろうか。きちんと伝えられているだろうか。
……わからない。
だから、今回はしっかりとこなすべきだ。
ともあれ、なにをあげれば喜んでくれるだろうか。
難しい問題だ。とはいえ、言うほど時間はない。早めに決めて早めに買っておかなければ。
桜花はもらったばっかりでいらないとか、紅葉と同じようなことを言いそうなので、そこの対処法も考えておかなければ。
「メリークリスマス!」
クリスマスイブの夜。いつものメンバーに紅葉の両親を加えた七人で紅葉邸でパーティーを開いた。
いつも使うリビングは煌びやかに飾り付けがされていた。
パーティーに向けて朝から全員で総がかりで飾り付けたのだ。
特に本気を出したのは大人である紅葉の両親だった。
数日前から気合を入れて、というか入れすぎて、屋敷にイルミネーションを施し、ツリーまで購入した。
ツリーには思い思いの装飾を施した。赤、緑、白。色とりどりの色彩が溢れ、いろんな色の光が華やかさをより強調する。
テーブルの上には目にも美しい豪華な食事の数々。桜花が腕によりをかけたご馳走だ。
これでもかというほどのザ・パーティーの様子。
「カンパーイ!」
各々が持ったグラスをチリンと重ね合わせる。小気味いい高く澄んだ音が響き、みんなで笑いあう。
温かな光景に、自然と口角が上がる。
去年の今は、どうだったのだろうかと思いを馳せる。
今の光景と去年それが重なる。
一人、リビングでテレビを見ながらうずくまっていた。けれど、今は違う。たくさんの人に囲まれて、温かな一瞬の中を生きている。それがたまらなく、嬉しかった。
「お待ちかねのプレゼントターイム!!」
海の楽しそうに宣言する。
その声を合図にみんなプレゼントを取り出す。
「じゃあ、まずは私から」
そう言って海がみんなにプレゼントを配り始める。
紅葉にも手渡される。
「どうぞ開けてください。気に入らなかったらごめんね」
リボンをほどき、箱を開ける。
「……」
中身を見て固まる。
……また、こいつは。
「わー。ありがとうございます!!」
「ありがとう。大事にする」
他の皆は反応からしてまともなものをもらっているようだ。もうここはスルー。中身は棒。ピンクとか、青がある、動くアレ。
箱を閉じ、手短な場所に放置する。
「じゃあ、次は俺たちから」
「どうぞ」
紅葉の両親から、みんなにプレゼントが渡される。
紅葉の箱だけが異様に大きい。
中を確認すると、木馬が入っていた。どんな、とは言わない。もう流れで分かっていた。
「こんな高いものいいんですか!?」
女子たちにはコスメが与えられていたようだ。理不尽さを感じる。
「次は私から」
雪から渡されたのはホール。これ以上は言えません。
「わ、私からです」
花火には手渡されるとき謝られた。もういいや。
ヌルヌルするやつでした(後日談)。
ここまでアダルトなグッズばっかりでまともなものは一切ない。
「わたしからですね」
桜花は箱ではなく袋だった。リボンも袋もどこか微妙にずれている気がする。
「あまり時間なかったので、雑になっているかもしれませんが……」
不安そうにつぶやく声が、紅葉の思考回路にある一つの答えを導いた。
開けるとそこには、予想通りのものが。
「手編みのマフラー」
「はい」
思わず声に出る。やっと来たまともなものというのもあるし、何より手編み、完成度の高さ、それらが思わず声を出させるには十分な要素だった。
それも、
「全員分か」
六人全員に。両親にはハートマークが。紅葉のには楓の葉が。海にはうみとヒトデが。花火のには星と打ち上げ花火が。雪のには雪だるまが。
それぞれデザインされていた。色も違うし、相当手間がかかったことは訊くまでもない。
「ご主人様が寒そうにしていたので、それだったら全員分そうしようと。わたしもやり方はわからなかったので、花火さんに教わりました」
花火が恥ずかしそうに俯く。花火が編み物できたのも意外だった。まぁコスプレとか作りそうだけど。
「どうせなので、わたしもお揃いにしちゃいました」
テヘリとでも言いそうな表情で自分の分を取り出す。案の定桜の花びらがデザインされていた。
「どう……ですかね」
不安げに見つめる桜花。目線の先には紅葉。みんなも空気を読んだかのように紅葉のほうを向き、黙る。
みんながみんな、紅葉の次の言葉を待つ。
「……。手編みとか、おも」
「えっ……」
「とか言おうかなとか思ったけど、正直よく出来すぎてるし、デザインもいいし文句なし。むしろめっちゃ嬉しい」
「……! もう! 言ってるじゃないですか」
「冗談だよ。重宝させてもらうよ」
泣き笑いのような笑顔を向ける桜花の頭をポンと一回軽くたたく。
みんなも笑顔になって、口々にマフラーを褒めていく。
その空気を壊さない程度に、紅葉が切り出す。
「んじゃま。最後は俺から」
言って、両親の前に進む。
「はいこれ」
二人に手渡す。
「今までごめん。それとありがとう」
照れくさくなってそっぽを向く。
微笑みを湛えた両親が開けると、中にはお揃いのマグカップ。
「これからは、ここに帰ってくることもあるだろうし、自分のものがあったほうが便利だろ」
「ありがとう」
「ありがとう」
二人ともにお礼を言われ、顔が赤くなる。
そそくさと退散し、海と花火の元へ。
「いつも、ありがとな。これからも、仲良くしてくれると嬉しい」
そう言って手渡す。
中には香水。スプレータイプのオードトワレ。海にはシプレ系の香り。花火にはフローラル系の香り。
紅葉自身、なにが何なのかはあまりわかってない。
「うわあ! ありがとう! 意外とセンスいいんだね」
「最後は余計だ」
「あ、ありがとうございます。大切に使います」
「ああ」
喜ぶ二人の顔を見てホッとし、雪の元へ。
「いつも迷惑かけてごめんな。これからも、なんとかよろしく頼む」
プレゼントは雪の結晶のイヤリング。ピアスじゃないから穴を開けなくていいし、普段あまり気飾らない雪には、これくらいのワンポイントがいいと思った。
「こんなまともなものをくれるとは思ってなかった。普通に嬉しい。ありがとう」
「そりゃよかったよ」
苦笑しつつ、最後は桜花の元へ。
「いつもありがとう。お前が来てから、いろいろ変化があったよ。逆に言えば、お前が来なかったらこんなに楽しいクリスマスはなかったと思う。本当にありがとう。そして、これからもよろしく」
「はい。喜んで!」
プレゼントは髪飾り。桜が付いたヘアピン。
「ありがとうございます!!! 一生大事にします!!!」
大げさなまでに喜ぶ桜花の笑顔が、紅葉の心を一番温かくさせた。
「それじゃ、送ってくる」
パーティーもお開きの時間。と言っても結構な時間だ。もうすぐ日付が変わる。
夜も遅いので紅葉が緑山姉妹を送っていくことにした。
泊ってもよかったのだが、緑山家でもパーティーがあるそうなので帰るということに。紅葉の両親が送って行ってもいいと申し出たのだが、家が近いからと遠慮され、さすがにそのまま返すのは危険なので、紅葉が行くことに。
紅葉が行くならと、やけに意気込んだ桜花もついてきた。
「今日は楽しかったよ。またね」
「ああ、また」
「それでは」
ぺこりとお辞儀をする花火と、手を振りつつ桜花に意味深なウインクをかます海を背に二人で歩き出す。
首元にはさっき桜花がくれたマフラーが。
「さっそく使ってくれて嬉しいです」
「寒いから欲しかったんだよ。ってもやっぱり手は冷えるな」
「すみません。時間がなくて手袋まで作れなくて」
「いいよ。これだけで十分だって。もう日付変わるな」
スマホを取り出し時間を確認すると、もう一分前だった。
「て、手が冷たいなら、わたしと手を繋ぎませんか!? こう見えてわたし体温高いので」
「どう見えてだよ。まぁいいや。ん」
「え、ええっ!!」
やたらと意気込む桜花の提案に乗り、手を差し出すも、なぜか驚かれた。
「手つなぐんだろ。ほれ」
「あ、あの、はい」
差し出した右手に、桜花の左手が絡む。
「あ、ほんとだ。温かい」
「あ、あうう」
温かいのは体温のせいだけではなく、桜花が照れているからだと、わかっていながら意識しない。したらこっちまで恥ずかしくなる。
左手に持ったままのスマホを確認する。
ちょうど日付が変わっていた。
「メリークリスマスってな」
冗談めかして桜花を見ると、何やら満足げに、しかし、顔を真っ赤にしながら微笑んでいた。
理由はわからないが、満足そうならそれでいいかと、二人手を繋いで帰った。
それは、プレゼントに悩みながら登校した日の朝のこと。
「そういえばさ、クリスマスについて校内で女子が騒いでるジンクスがあるんだ」
海が唐突に言い出した。
「ジンクス、ですか」
「そそ。なんでも、クリスマスイブからクリスマスへと日付が変わるその瞬間に、手を繋いでいたら結ばれるっていうものなんだけど」
「結ばれる……」
「柊君に仕掛けてみれば?」
「……やってみます!」




