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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
23/30

誕生日

こんにちは。

今回もタイトル通りな話です。

今回は、下ネタ多めかなと思いますので、注意していただけたらと思います。

この物語の行く末を、どうか最後までご覧いただけたらと思います。

 秋深まる今日この頃。

 気温は下がり、上着なしで外に出るのは憚られる。木々の葉もすっかり色づき、落葉も始まっている。

 食欲の秋。スポーツの秋。読書の秋。様ざまに言われるこの季節。桜花にとっては別のことの秋。

 それは、主である紅葉の誕生日だ。

 もうすぐ紅葉の誕生日。これは周到な用意をして、喜んで、驚いて、あわよくばいろいろと……。

 と、邪な思いを胸に、着々と用意をし始めていた。

 とはいえ、まずは何をすべきか。そこが重要だった。

 なにをすれば喜んでくれるのか。どんなプレゼントなら喜んでくれるのか。

 悩みに悩んで、三日三晩考えた結果……? 初心に帰ることにした。

 すなわち――!




「わたしがプレゼントです! とかやりそうだな、あいつ」


 ゲームセンターでアーケードゲームをやりながら、紅葉が呟く。


「あいつならやりかねんな……」


 誕生日が近づくにつれ、ウキウキとワクワクで胸がいっぱい。……なんてことはなく、むしろ素で忘れていた。ついさっきまでは。

 今日は、『たまにはアーケードもやりたいな』と思い立ち、思いついたが吉日で、ゲームセンターまで来ていた。

 桜花たちにはちゃんとそう説明しといたが、


「そんなこと言って、浮気しに行くのでしょう!!」

「違う! 俺には君しかいない!!」

「まぁ口がうまいこと!」

「信じてくれ! 絶対に浮気なんてしない!!」

「あんたらもう結婚しろ」


 ――みたいな寸劇を桜花とした。突込みは海。

 最近はボケに乗るのが楽しくなってきていた。

 という経緯を経て、やってきたゲーセン。だが、入ってからすぐに電話がかかってきた。

 画面には『母』の文字。

 建物の中は音の嵐だ。電話をするのに向いていない。

 急いで出て、邪魔にならない道路の隅っこに移動してから、応答する。


「もしもし?」

「もしもし、紅葉?」

「どうしたの」

「もうすぐ誕生日でしょ? だから、近々帰ろうと思って」

「そっか」

「……こうして話すのも久しぶりね」

「確かに」


 口の中で反芻する。久しぶりという言葉。

 確か、最後に声を聞いたのは桜花が来た時だから、半年前ぐらいか。

 こまめに連絡は取っていた方だと思う。月一で近況報告はしていたし。メールだけど。

 人間不信に陥った紅葉。当時は実の親ですら信じられなくなっていた。紅葉を気遣ってか、何も言わず、ある日突然帰ってこなくなった。

 無論、連絡はあった。ただ、仕事関係で帰れなくなった、とだけ。

 それ以降は、ほとんどかかわりがない。あれから、本当に帰ってこなくなった。

 今にして思えば、いろんな人に気を遣わせたのだなと、心苦しい思いだ。


「もうすっかり、大丈夫みたいね」

「まぁね」

「桜花ちゃんのおかげかしら」

「なんでそこであいつの名前が出てくるんだよ」

「えぇ~? だってぇ~」

「歳考えろ。気持ち悪いぞ」

「もう、反抗期かしら」

「どうでもいいだろ」

「それにしたって、桜花ちゃんが来てから、変わったんじゃない」

「……かもな」

「素直じゃないわねぇ」

「ほっとけ。用件はそれだけ?」

「ううん。忘れていると思って」

「なにを?」

「桜花ちゃんの誕生日」

「……いつだっけ?」

「ほらやっぱり。あなたの一日前よ」

「マジか」

「おおマジ。やっぱり忘れてた。プレゼントでも用意してあげたら? 日頃お世話になってるんだし、何より、喜ぶと思うけど?」

「そうだな」

「あの子はあの子で、自分の誕生日忘れてそうだけどね。この前電話した時も、紅葉の誕生日のことばっかりだったし」

「いつ電話してんだよ」

「というわけで、よろしくね」


 プツリと切られた。

 その後、店内に戻り、ゲームをしながら、プレゼントは何がいいか考えていた。

 脱線して、自分の誕生日には何をくれるのだろうかとも思ったりもしたが。


「なにをあげても、あいつなら喜びそうってのが、困り所だよな」


 桜花の気持ちには、気づいているし、自分もまた同じような気持ちを抱いていることは、感じている。だからこそ、同じ気持ちの桜花がどう反応するかはある程度分かる。たとえどんなものでも、紅葉がくれたからと、喜ぶだろう。もし紅葉でも、(ある程度の節度を持ったものなら)喜ぶだろう。でも、それでは意味がない。……と感じる。

 桜花が、紅葉があげたからではなく、本当に喜ぶものをプレゼントしたい。

 かといって、では何が喜ぶかといわれれば、言葉に詰まる。

 紅葉は、桜花のことを知らなすぎる。

 知っていることといえば、変態で、紅葉のことが好きで、何でもできて、喋らなければ完璧美少女なことぐらい。

 何かを欲しがったりとか、物欲を見せたことは、あまりない。

 好きなものも嫌いなものも、把握していないのが現状だ。

 そんなんで大丈夫なのかよ。と思ったことは一度や二度じゃない。

 とにもかくにも。何をあげたらいいのか、皆目見当もつかない。


「本人に聞くしかないか」


 周りに聞いても、というか本人に聞いても、同じ答えが返ってきそうだが。




「え、欲しいものですか? そうですね……。ご主人様でしょうか」

「桜花ちゃんの欲しいもの? そりゃ柊君でしょ」

「紅葉だろ」

「柊さん……とかですかね」


 はい。撃沈。

 わかってましたよ、この展開。と言わないわけにはいられないような、想像通りの回答。一応みんなに聞いたが、結果はこの通り。

 ため息がこぼれる。

 なんとか、デートとか言って買い物に連れ出すことには成功した。あわよくば、そこで欲しいもの、とまではいかなくとも、好きなものや価値観ぐらいはつかめればと思うが。


「なんか見たいとこあるか?」

「ご主人様の行きたいとこでいいですよ」


 それが困るんだよ。と内心突っ込む。


「とはいっても、特にこれが見たいとかないしな。一応、デートって形なんだから、そっちも積極的に協力してもらわないと困るんだが」

「……それは一理ありますね」

「だろ?」


 なんとか、機転を利かせていつも通りの展開を回避したものの、どうしたものか。先が思いやられる。

 予感は的中し、見たいところは特にないと、結局は適当に見て回ることに。

 特に何もないまま、結構な時間が経った。


「そろそろいい時間だな」

「ですね」


 どちらかが明確に言うわけでもなく、二人の足取りは自然と帰る方向に向かう。

 ぽつりぽつりと、他愛のない話をしながら、連れ立って歩く。こういう時間が、紅葉にとっては嫌いじゃなかった。むしろ心地いいと感じる。

 こんな時間を、くれたのは、やはり桜花だろう。

 紅葉が変われたのは、桜花の存在が大きい。

 感謝の意味を込めて、喜んでくれる何かを贈りたい。気持ちだけが、空回りしていく。


「あっ……」


 ふと、桜花が足を止めた。

 視線の先、きれいな色とりどりの天然石が飾られていた。


「どうかしたか?」

「いえ、きれいだなと思っただけです」

「そう。天然石か。ああいうのって結構種類あるよな」

「そうですね」


 歩きながらも、ここに問題解決の糸口を見出し、さりげなく自然に、好みを探る。


「ああいうのが好きだったりするのか?」

「そうですね。綺麗だなぁとは思いますね。でも、あまり派手なのもなぁとも」

「どうして?」

「似合わなそうっていうか」

「そんなことないと思うけど。もし身に着けるとしたら、どんなのがいい?」

「なんですか、ご主人様。もしかしてわたしのこと探ってます?」

「別に。ただ気になっただけだよ」

「そうですか。そうですね、石言葉っていうのがあるらしいんです」

「花言葉みたいな?」

「はい。だから、そういうのも考えてって感じですかね」

「ふぅん」

「興味なさげですね」

「聞いただけだし。いろいろあるんだな」

「ええ」


 この話題はここで終わったが、紅葉の中では終わらない。むしろ広がっていく。

 普段アレが、とか言わない桜花にとって、これは相当わかりやすく、欲しているものだろう。

 ならば、これにしよう。あとは、桜花が言っていた石言葉とやらを調べて、桜花に見合ったものを選んで、ばれないように買うだけだ。




「ただいま」

「ただいま」


 二人分の声が玄関から聞こえてくる。

 今日は紅葉の誕生日。朝からの来客など、思い当たるのは一件だけだ。


「父さん、母さん。お帰り」

「ただいま」

「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」


 桜花が恭しくスカートの裾を持ち上げて一礼する。


「久しぶりだな、ヒイラギ。二人には感謝しているよ」

「お久しぶり、雪ちゃん」

「元気にしているようでよかったよ」


 雪は紅葉の両親に助けられた(?)過去があるので面識もあって、大分親しげだ。

 今までの話を、お互いしながら、パーティーの準備をしていく。

 失った家族としての時間を取り戻すかのように、家族だけで語っていく。

 途中、海と花火もやってきて、全員集まり、パーティーが始まった。


「それにしても、本当に女の子だらけね」

「まぁそうだな」

「メイド服はお前の趣味か、紅葉」

「うっさい」

「まぁまぁ、いいじゃないあなた。性癖は人それぞれよ」

「フォローになってねぇよ」

「そうだなぁ。俺にもいろいろあったからなぁ」

「知らねぇし知りたくもねぇよ」


 両親のボケに紅葉も久しぶりに突っ込みに転ずる。

 しかも両親のボケは割と重めだ。


「さて、プレゼントをやろう。ほれ」

「渡し方雑!」

「私からも、はい」

「……ありがと」


 少し照れ臭くなって、その場で開ける。


「……」

「どうだ気に入ったか?」

「いや、あのさ」

「素敵でしょ?」

「素敵じゃねぇよ! なんで息子の誕生時プレゼントが猿ぐつわと荒縄なんだよ!!」

「どっちもできるぞ」

「なにがだよ!」

「そりゃ――」

「いやいい! 聞きたくないわ!」


 一通り突っ込んだところで、今度はいつもの皆からのプレゼント。

 まずは海。


「ごめん。俺が悪かった」

「わかればよろしい」


 入っていたのは、精力剤各種(媚薬含む)。

 今まで突込み役を任せていたのに対して、完全な当てつけだった。


 続いて、雪。


「これって……」

「これでプレイに幅ができただろ」

「十四歳がいらん気を遣うなよ! 明らかに十八歳以上対象だろうが!!」


 具体的には言えないような、某有名なピンク色のブルブル震えるアレ。

 加えてゴム。どんな、とは言わない。

 何しろっていうんだ。とか言ったら、ナニを、とか言われそうだから言わんが。

 というか、なんでこう、下のネタばっかりなんだよ。


 次は花火。

 せめて花火だけは良識を持ち合わせておいてくれると嬉しいが。


「……はぁ」

「ご、ごめんなさい。お姉ちゃんが、絶対にこれだって」


 緊縛もののエッチなゲームと、鞭。

 もう突っ込む気力もわかない。


「……」


 最後の一人。一番の不安材料である桜花だが、さっきからその姿が見えない。代わりに人一人入れそうな、大きなプレゼント箱があった。

 もう、いやな予感しかしない。


「最後のプレゼントは……。そう! このわたしです!!」


 箱から、全裸にリボンというアホみたいな恰好の桜花が飛び出した。


「べたなことしてんじゃねぇーよ! てか本当にやりやがったよこいつ!!」

「よかったな。無駄にならなかったぞ」


 全員でサムズアップ。

 ふざけんな。どんなプレイだよ。


「お前、恥じらいってものはないのか……?」

「見られているのって、それはそれで……」

「変態度が増してるよ、こいつ」


 桜花が頬を赤らめながらチラチラ見てくる。

 ため息一つこぼして、丁重に箱に戻す。


「え、ちょっ、ご主人様!?」


 そのままがっちり、中から開かないように閉めておいた。

 そんなこんなでパーティーは進み、やがてお開きになった。

 自分の部屋で、受け取ったプレゼントを前にため息をこぼす。なんだこれ。改めてなんかさし合わせたかのような組み合わせに、悪意を感じる。

 一か所に固めておいて、今度ゴミにしよう。

 プレゼント群を固めて置き、机の上の小さなリボンのかかった箱を手に、部屋を出る。

 静かになった廊下を歩き、桜花の部屋をノックする。


「はーい」


 間延びしたような声のあと、扉を開く。


「ご主人様。どうしたんですか?」

「渡したいものがあって」

「なんですか?」

「これ。昨日、お前の誕生日だろ」

「あっ……」

「固まってないで開けてみろよ」

「あ、すみません。誕生日なんて忘れてたし、何より、こうしてご主人様に覚えててもらえて、プレゼントをもらえていることが、嬉しくて」


 桜花の目元に涙が浮かぶ。

 泣き笑いのような、曖昧な表情を見せる。

 本当は忘れていた、と言えない雰囲気になる。


「これっ……!」

「気になってたっぽいし、他にお前の好きなもの分からなかったから」


 箱の中には、ローズクォーツのネックレス。

 桜花が綺麗だと言っていた、パワーストーンのネックレス。

 ローズクォーツの石言葉は、『平和、真実の愛』など。

 告白みたいでこっぱずかしいが、それでも、大切な人へ贈るものとしては、かなりいい方なのではないだろうか。


「ありがとうございますっ!」


 一粒の涙がこぼれた。


「大事にします!」

「そうしてくれ」


 女の子は、お姫様に憧れるもの。

 相談したとき、海はそう言った。

 綺麗なもの。素敵なもの。可愛らしいもの。こういったものは、女子ならだれでも好きらしい。

 中でも、王子様から贈られるものは、格別らしい。

 自分が王子だなんて自惚れるつもりはないけど。


「あの、お願いがあるんですけど」

「どうした?」

「これ、つけてもらってもいいですか?」

「もちろん」


 桜花の後ろに回り、そっと首にかける。

 ふわりと漂う甘い香り。女の子であることを、強く意識させられる。


「できたよ」


 紅葉の言葉に、桜花はくるりと振り向き、柔らかな笑みを浮かべる。


「どうですか?」


 その言葉に返す言葉は、考える間もなく、口から出てくる。


「似合ってるよ。改めて、おめでとう」

「ありがとうございますっ!」

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