誕生日
こんにちは。
今回もタイトル通りな話です。
今回は、下ネタ多めかなと思いますので、注意していただけたらと思います。
この物語の行く末を、どうか最後までご覧いただけたらと思います。
秋深まる今日この頃。
気温は下がり、上着なしで外に出るのは憚られる。木々の葉もすっかり色づき、落葉も始まっている。
食欲の秋。スポーツの秋。読書の秋。様ざまに言われるこの季節。桜花にとっては別のことの秋。
それは、主である紅葉の誕生日だ。
もうすぐ紅葉の誕生日。これは周到な用意をして、喜んで、驚いて、あわよくばいろいろと……。
と、邪な思いを胸に、着々と用意をし始めていた。
とはいえ、まずは何をすべきか。そこが重要だった。
なにをすれば喜んでくれるのか。どんなプレゼントなら喜んでくれるのか。
悩みに悩んで、三日三晩考えた結果……? 初心に帰ることにした。
すなわち――!
「わたしがプレゼントです! とかやりそうだな、あいつ」
ゲームセンターでアーケードゲームをやりながら、紅葉が呟く。
「あいつならやりかねんな……」
誕生日が近づくにつれ、ウキウキとワクワクで胸がいっぱい。……なんてことはなく、むしろ素で忘れていた。ついさっきまでは。
今日は、『たまにはアーケードもやりたいな』と思い立ち、思いついたが吉日で、ゲームセンターまで来ていた。
桜花たちにはちゃんとそう説明しといたが、
「そんなこと言って、浮気しに行くのでしょう!!」
「違う! 俺には君しかいない!!」
「まぁ口がうまいこと!」
「信じてくれ! 絶対に浮気なんてしない!!」
「あんたらもう結婚しろ」
――みたいな寸劇を桜花とした。突込みは海。
最近はボケに乗るのが楽しくなってきていた。
という経緯を経て、やってきたゲーセン。だが、入ってからすぐに電話がかかってきた。
画面には『母』の文字。
建物の中は音の嵐だ。電話をするのに向いていない。
急いで出て、邪魔にならない道路の隅っこに移動してから、応答する。
「もしもし?」
「もしもし、紅葉?」
「どうしたの」
「もうすぐ誕生日でしょ? だから、近々帰ろうと思って」
「そっか」
「……こうして話すのも久しぶりね」
「確かに」
口の中で反芻する。久しぶりという言葉。
確か、最後に声を聞いたのは桜花が来た時だから、半年前ぐらいか。
こまめに連絡は取っていた方だと思う。月一で近況報告はしていたし。メールだけど。
人間不信に陥った紅葉。当時は実の親ですら信じられなくなっていた。紅葉を気遣ってか、何も言わず、ある日突然帰ってこなくなった。
無論、連絡はあった。ただ、仕事関係で帰れなくなった、とだけ。
それ以降は、ほとんどかかわりがない。あれから、本当に帰ってこなくなった。
今にして思えば、いろんな人に気を遣わせたのだなと、心苦しい思いだ。
「もうすっかり、大丈夫みたいね」
「まぁね」
「桜花ちゃんのおかげかしら」
「なんでそこであいつの名前が出てくるんだよ」
「えぇ~? だってぇ~」
「歳考えろ。気持ち悪いぞ」
「もう、反抗期かしら」
「どうでもいいだろ」
「それにしたって、桜花ちゃんが来てから、変わったんじゃない」
「……かもな」
「素直じゃないわねぇ」
「ほっとけ。用件はそれだけ?」
「ううん。忘れていると思って」
「なにを?」
「桜花ちゃんの誕生日」
「……いつだっけ?」
「ほらやっぱり。あなたの一日前よ」
「マジか」
「おおマジ。やっぱり忘れてた。プレゼントでも用意してあげたら? 日頃お世話になってるんだし、何より、喜ぶと思うけど?」
「そうだな」
「あの子はあの子で、自分の誕生日忘れてそうだけどね。この前電話した時も、紅葉の誕生日のことばっかりだったし」
「いつ電話してんだよ」
「というわけで、よろしくね」
プツリと切られた。
その後、店内に戻り、ゲームをしながら、プレゼントは何がいいか考えていた。
脱線して、自分の誕生日には何をくれるのだろうかとも思ったりもしたが。
「なにをあげても、あいつなら喜びそうってのが、困り所だよな」
桜花の気持ちには、気づいているし、自分もまた同じような気持ちを抱いていることは、感じている。だからこそ、同じ気持ちの桜花がどう反応するかはある程度分かる。たとえどんなものでも、紅葉がくれたからと、喜ぶだろう。もし紅葉でも、(ある程度の節度を持ったものなら)喜ぶだろう。でも、それでは意味がない。……と感じる。
桜花が、紅葉があげたからではなく、本当に喜ぶものをプレゼントしたい。
かといって、では何が喜ぶかといわれれば、言葉に詰まる。
紅葉は、桜花のことを知らなすぎる。
知っていることといえば、変態で、紅葉のことが好きで、何でもできて、喋らなければ完璧美少女なことぐらい。
何かを欲しがったりとか、物欲を見せたことは、あまりない。
好きなものも嫌いなものも、把握していないのが現状だ。
そんなんで大丈夫なのかよ。と思ったことは一度や二度じゃない。
とにもかくにも。何をあげたらいいのか、皆目見当もつかない。
「本人に聞くしかないか」
周りに聞いても、というか本人に聞いても、同じ答えが返ってきそうだが。
「え、欲しいものですか? そうですね……。ご主人様でしょうか」
「桜花ちゃんの欲しいもの? そりゃ柊君でしょ」
「紅葉だろ」
「柊さん……とかですかね」
はい。撃沈。
わかってましたよ、この展開。と言わないわけにはいられないような、想像通りの回答。一応みんなに聞いたが、結果はこの通り。
ため息がこぼれる。
なんとか、デートとか言って買い物に連れ出すことには成功した。あわよくば、そこで欲しいもの、とまではいかなくとも、好きなものや価値観ぐらいはつかめればと思うが。
「なんか見たいとこあるか?」
「ご主人様の行きたいとこでいいですよ」
それが困るんだよ。と内心突っ込む。
「とはいっても、特にこれが見たいとかないしな。一応、デートって形なんだから、そっちも積極的に協力してもらわないと困るんだが」
「……それは一理ありますね」
「だろ?」
なんとか、機転を利かせていつも通りの展開を回避したものの、どうしたものか。先が思いやられる。
予感は的中し、見たいところは特にないと、結局は適当に見て回ることに。
特に何もないまま、結構な時間が経った。
「そろそろいい時間だな」
「ですね」
どちらかが明確に言うわけでもなく、二人の足取りは自然と帰る方向に向かう。
ぽつりぽつりと、他愛のない話をしながら、連れ立って歩く。こういう時間が、紅葉にとっては嫌いじゃなかった。むしろ心地いいと感じる。
こんな時間を、くれたのは、やはり桜花だろう。
紅葉が変われたのは、桜花の存在が大きい。
感謝の意味を込めて、喜んでくれる何かを贈りたい。気持ちだけが、空回りしていく。
「あっ……」
ふと、桜花が足を止めた。
視線の先、きれいな色とりどりの天然石が飾られていた。
「どうかしたか?」
「いえ、きれいだなと思っただけです」
「そう。天然石か。ああいうのって結構種類あるよな」
「そうですね」
歩きながらも、ここに問題解決の糸口を見出し、さりげなく自然に、好みを探る。
「ああいうのが好きだったりするのか?」
「そうですね。綺麗だなぁとは思いますね。でも、あまり派手なのもなぁとも」
「どうして?」
「似合わなそうっていうか」
「そんなことないと思うけど。もし身に着けるとしたら、どんなのがいい?」
「なんですか、ご主人様。もしかしてわたしのこと探ってます?」
「別に。ただ気になっただけだよ」
「そうですか。そうですね、石言葉っていうのがあるらしいんです」
「花言葉みたいな?」
「はい。だから、そういうのも考えてって感じですかね」
「ふぅん」
「興味なさげですね」
「聞いただけだし。いろいろあるんだな」
「ええ」
この話題はここで終わったが、紅葉の中では終わらない。むしろ広がっていく。
普段アレが、とか言わない桜花にとって、これは相当わかりやすく、欲しているものだろう。
ならば、これにしよう。あとは、桜花が言っていた石言葉とやらを調べて、桜花に見合ったものを選んで、ばれないように買うだけだ。
「ただいま」
「ただいま」
二人分の声が玄関から聞こえてくる。
今日は紅葉の誕生日。朝からの来客など、思い当たるのは一件だけだ。
「父さん、母さん。お帰り」
「ただいま」
「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」
桜花が恭しくスカートの裾を持ち上げて一礼する。
「久しぶりだな、ヒイラギ。二人には感謝しているよ」
「お久しぶり、雪ちゃん」
「元気にしているようでよかったよ」
雪は紅葉の両親に助けられた(?)過去があるので面識もあって、大分親しげだ。
今までの話を、お互いしながら、パーティーの準備をしていく。
失った家族としての時間を取り戻すかのように、家族だけで語っていく。
途中、海と花火もやってきて、全員集まり、パーティーが始まった。
「それにしても、本当に女の子だらけね」
「まぁそうだな」
「メイド服はお前の趣味か、紅葉」
「うっさい」
「まぁまぁ、いいじゃないあなた。性癖は人それぞれよ」
「フォローになってねぇよ」
「そうだなぁ。俺にもいろいろあったからなぁ」
「知らねぇし知りたくもねぇよ」
両親のボケに紅葉も久しぶりに突っ込みに転ずる。
しかも両親のボケは割と重めだ。
「さて、プレゼントをやろう。ほれ」
「渡し方雑!」
「私からも、はい」
「……ありがと」
少し照れ臭くなって、その場で開ける。
「……」
「どうだ気に入ったか?」
「いや、あのさ」
「素敵でしょ?」
「素敵じゃねぇよ! なんで息子の誕生時プレゼントが猿ぐつわと荒縄なんだよ!!」
「どっちもできるぞ」
「なにがだよ!」
「そりゃ――」
「いやいい! 聞きたくないわ!」
一通り突っ込んだところで、今度はいつもの皆からのプレゼント。
まずは海。
「ごめん。俺が悪かった」
「わかればよろしい」
入っていたのは、精力剤各種(媚薬含む)。
今まで突込み役を任せていたのに対して、完全な当てつけだった。
続いて、雪。
「これって……」
「これでプレイに幅ができただろ」
「十四歳がいらん気を遣うなよ! 明らかに十八歳以上対象だろうが!!」
具体的には言えないような、某有名なピンク色のブルブル震えるアレ。
加えてゴム。どんな、とは言わない。
何しろっていうんだ。とか言ったら、ナニを、とか言われそうだから言わんが。
というか、なんでこう、下のネタばっかりなんだよ。
次は花火。
せめて花火だけは良識を持ち合わせておいてくれると嬉しいが。
「……はぁ」
「ご、ごめんなさい。お姉ちゃんが、絶対にこれだって」
緊縛もののエッチなゲームと、鞭。
もう突っ込む気力もわかない。
「……」
最後の一人。一番の不安材料である桜花だが、さっきからその姿が見えない。代わりに人一人入れそうな、大きなプレゼント箱があった。
もう、いやな予感しかしない。
「最後のプレゼントは……。そう! このわたしです!!」
箱から、全裸にリボンというアホみたいな恰好の桜花が飛び出した。
「べたなことしてんじゃねぇーよ! てか本当にやりやがったよこいつ!!」
「よかったな。無駄にならなかったぞ」
全員でサムズアップ。
ふざけんな。どんなプレイだよ。
「お前、恥じらいってものはないのか……?」
「見られているのって、それはそれで……」
「変態度が増してるよ、こいつ」
桜花が頬を赤らめながらチラチラ見てくる。
ため息一つこぼして、丁重に箱に戻す。
「え、ちょっ、ご主人様!?」
そのままがっちり、中から開かないように閉めておいた。
そんなこんなでパーティーは進み、やがてお開きになった。
自分の部屋で、受け取ったプレゼントを前にため息をこぼす。なんだこれ。改めてなんかさし合わせたかのような組み合わせに、悪意を感じる。
一か所に固めておいて、今度ゴミにしよう。
プレゼント群を固めて置き、机の上の小さなリボンのかかった箱を手に、部屋を出る。
静かになった廊下を歩き、桜花の部屋をノックする。
「はーい」
間延びしたような声のあと、扉を開く。
「ご主人様。どうしたんですか?」
「渡したいものがあって」
「なんですか?」
「これ。昨日、お前の誕生日だろ」
「あっ……」
「固まってないで開けてみろよ」
「あ、すみません。誕生日なんて忘れてたし、何より、こうしてご主人様に覚えててもらえて、プレゼントをもらえていることが、嬉しくて」
桜花の目元に涙が浮かぶ。
泣き笑いのような、曖昧な表情を見せる。
本当は忘れていた、と言えない雰囲気になる。
「これっ……!」
「気になってたっぽいし、他にお前の好きなもの分からなかったから」
箱の中には、ローズクォーツのネックレス。
桜花が綺麗だと言っていた、パワーストーンのネックレス。
ローズクォーツの石言葉は、『平和、真実の愛』など。
告白みたいでこっぱずかしいが、それでも、大切な人へ贈るものとしては、かなりいい方なのではないだろうか。
「ありがとうございますっ!」
一粒の涙がこぼれた。
「大事にします!」
「そうしてくれ」
女の子は、お姫様に憧れるもの。
相談したとき、海はそう言った。
綺麗なもの。素敵なもの。可愛らしいもの。こういったものは、女子ならだれでも好きらしい。
中でも、王子様から贈られるものは、格別らしい。
自分が王子だなんて自惚れるつもりはないけど。
「あの、お願いがあるんですけど」
「どうした?」
「これ、つけてもらってもいいですか?」
「もちろん」
桜花の後ろに回り、そっと首にかける。
ふわりと漂う甘い香り。女の子であることを、強く意識させられる。
「できたよ」
紅葉の言葉に、桜花はくるりと振り向き、柔らかな笑みを浮かべる。
「どうですか?」
その言葉に返す言葉は、考える間もなく、口から出てくる。
「似合ってるよ。改めて、おめでとう」
「ありがとうございますっ!」




