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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
21/30

季節の変わり目

こんにちは。

今回は少し、趣向を変えてみました。

多少イラっと来るかと思いますが、そこはご愛敬。

夏ごろに完結させる予定なので、残すところ、もう少なくなってきているこの物語ですが、あと少し、お付き合い願えればと思います。

 楽しかった(ような)夏休みも終わり、少しづつ風が冷たくなってくる頃。

 残す行事も大きなところで文化祭を残すのみとなったこの季節。

 木々の葉も色づき、または散り、どことなく寂しさを覚える。

 スポーツ、読書、食欲などなど。いろいろ言われる季節。そう、秋。

 とはいえ、もっぱらそんなもん知るか、と一蹴するタイプである紅葉は特に変わらない生活を送る。

 何も変わらない。朝起きて、ご飯を食べて、用意をして、学校に行って、授業を受けて、昼ご飯を食べて、授業を受けて、帰ってくる。それだけだ。

 さぁ、今日もいつも通りの一日を始めよう。まずは起きて、おき……お……。

 ――ドスッ!


「いったぁ」


 ベッドから思いっきり落ちてしまった。床に着いたところから鈍い痛みが走る。

 今度こそはと思って、手に力を入れ床を押し離そうとして――、


「あ、れ……?」


 ……起きれない。

 体に力が入らない。どころか、体全体が重く、心なしか寒気もする。

 目の前の景色は安定せず、絶えず揺れているような錯覚がする。

 ここまでくれば、誰でもわかる。紅葉でさえわかる。


「風邪、ひいた……」


 ごろりと転がって、どうにか仰向けになる。

 呼吸が荒い。

 どうしたものか。そもそも何故風邪をひいたのか。別段世間で流行っているわけではない。

 確かに季節が変わり、着るものに気を付けなければならない時期だ。

 しかし、そんな気温が下がってきているのにもかかわらず、半袖短パン子供は風の子スタイルで出かけた覚えなどない。

 しっかりと防寒をしていた。

 他に思い当たる節など……節など……節……ふ……。


「……あったわ」


 それは、夏の終わりのある日のこと。

 とあるゲームのイベントをガチランしすぎて余裕の三徹。

 白熱しすぎて暑くなり、冷房全開。

 室温がめちゃくそ下がっているのにも関わらず、それに気づかずゲーム続行。

 ろくに栄養を補給せず、ゲーム三昧。

 さすがに心配した桜花が部屋に突入してきて部屋の温度に愕然。

 冷房は止めたものの、桜花がドン引きするような状況で三徹していた男。

 次の日、ゲームの発売日ゆえにショップへ。

 が、その日に限って無茶苦茶暑い。

 予約はもちろんしてあったのだが、ゲーマー魂的に発売日に買ってやり込んでおきたいがため、外へと出た。

 無論暑い。帰ってきてから先日と同じ状況へ。


「……。やっちまった」


 体温調節が馬鹿になるのも無理はない。

 苦笑いすら出ない、笑えない状況。

 とりあえず、なんとかベッドに戻りたいものだが、それも叶わなそうだ。

 諦めモードで遠くを見つめていると、ドアの方からトタトタと軽い足音が二つ聞こえてきた。


「大丈夫ですか、ご主人様。今すごい音が……。ご主人様!?」

「大丈夫か」


 青い顔で近寄ってくる桜花と雪。


「すごい熱じゃないですか!」

「体温計持ってくる。あと、冷やすものを」

「お願いします」


 おでこに手を置いた桜花がその熱さに驚き、雪はすかさず必要なものを取り戻った。

 桜花は何とか紅葉をベッドに戻し、布団をかけなおす。

 そのタイミングで雪も戻ってきた。


「体温計持ってきた。熱を測ってみてくれ」

「わかりました。ご主人様、少し失礼します」


 桜花が体温計のスイッチを入れ、紅葉の脇の下に差し込む。

 その間、雪がおでこに熱を下げるためのシートを張る。

 しばらくして、体温計が音を発する。測り終わったという合図だ。


「……三十九度五分。高いですね」


 抜き取った桜花がその数値を見て顔をゆがめる。

 こいつのこういう表情はあまり見たことないから新鮮だ。

 喋る気力もないほどに弱っていながら、そんなことを考える。


「今日は、学校は休みましょう。わたしも休んで看病します」


 平然とのたまう桜花を止めようとしても、体がだるくて何もできない。


「やめとけ。看病なら私と花火でやっておく。桜花は学校へ行け」

「でも……!」

「いいから。ほら、もう時間だ。行ってこい」

「……はい」


 言いたいことは雪が全て代弁してくれた。

 最初こそ抵抗の意思を見せたが、有無を言わさぬ雪の凄みによって桜花も引き下がった。

 こういう時、一番年下ながら頼りになる。しっかりしてるし、常識的考えてくれる。


「それじゃあ、ご主人様。行ってきます。終わったらすぐ帰ってきますから」


 後ろ髪を引かれるような痛切な表情を浮かべながら、桜花は部屋を後にした。

 看病イベントとか、正直憧れたけど、桜花のことを考えるなら、我がままを言っていてはだめだ。

 いつまでも依存させたままではダメだ。優先順位を紅葉(自分)一番から、自身を一番にするために。将来的には、必要なことだ。


「さて、今日はゆっくり休め。食欲はあるか? 何か作ってくるが」


 雪の言葉にフルフルと首を横に振る。

 そうかといって部屋を出る。

 しかし、すぐに戻ってきた。

 水のペットボトルと薬、それとコップをもって。


「余裕があれば薬を飲んでおけ。のどが乾いたら水を飲んでおけよ。今日一日は様子を見て、明日も熱があれば病院だな。ちゃんと寝てろよ」


 今度こそ、部屋を出て戻ってこなかった。

 言われた通りに寝ることにする。さっきから意識が朦朧としてるし、今日はゆっくり休ませてもらおう。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。




「んっ」


 あれ、いつの間にか眠っていたのか。

 体は、軽いな。だいぶ良くなったようだ。


「お目覚めですか、ご主人様」

「えっ?」


 なぜか布団の中から声が聞こえた。

 おそるおそる布団をめくると、すぐ近くに桜花の顔があった。

 あ、すっごいデジャブ。

 あの時と違うのは、お互い裸じゃないこと。そして、桜花は紅葉の腕の中にすっぽり収まっていたこと。加えて、桜花がいつもと違って制服姿のままということ。

 というか、左腕でがっしり桜花のことを抱きかかえているのだが、これはいったい。あれ。

 記憶が……ない……だと……!?

 いや待て。意識が朦朧としていたのは確かだ。だが、え、寝ていた、よな。寝てる状態でベッドに引きずり込んだ……? いやいやいや。きっとあれだ、いつもの通り桜花の悪ふざけだろう。うん。


「あの……そろそろ放しておらえると……」


 桜花が照れ笑いのような苦笑いのような表情で言ってきたことで、考えに行っていた意識が戻ってくる。


「あ、ああ」


 放すと、意外とあっさりベッドから抜け出す。

 なぜか顔を赤らめ、ちらちらこっちを見てくる。

 ん? なんだ、この状況。は?


「起きたか。体調はどうだ」


 入ってきた雪が問う。


「大分いいよ。でも、なんかあった?」

「ああ、いろいろ」

「え? 何? 何があったの!?」

「それはもう、すごかったぞ」

「ねぇ、なにが? 大事な部分がないんだけど!?」

「それだけ、はしゃげれば大丈夫だな」

「え、いやちょっと」


 何もわからないまま、雪は戻ってしまう。

 桜花もパタパタと小走りで出ていく。

 ……一体、何があったというのだ。




 紅葉の記憶のない黒歴史確定な時間。何があったのか。

 こういうことがあった。

 始まりは、昼の時間。

 昼食としておかゆを持ってきた、花火(第一の被害者)。


「お、起きてますか? おかゆ、持ってきたんですけど……」

「んっ」


 この時、確かに紅葉は目を覚ました。

 が、この時の記憶もない。


「あ、起こしてしまいましたか。食欲はありますか?」

「んー。あるよ」

「よかった。ではこれ……」


 おかゆを渡そうと近づいた花火の腕を不意につかむ紅葉。

 グイッと、どこにそんな力があるんだというぐらいの力で花火を引き寄せる。

 顔を近づけて耳元で一言。


「君が食べたいな」


 はい、アウト。

 ちなみにもの凄いイケボ。表情もどことなく妖艶な感じで、普段とは違う色気を感じさせる。

 顔を赤らめておかゆを机に置き全速力で部屋を後にする花火の背中に向かって一言。


「照れている顔もかわいいよ」


 はい、アウト(二回目)。

 その後は、どうしたかと思えば、のそりと立ち上がり、おかゆの土鍋を持ち上げる。

 そのままベッドに戻り、普通に食べようとしたところで、花火から情報を得た雪が様子を見に来る(第二の被害者)。


「なんか、様子がおかしいと聞いてきたのだが。ん。もう起き上がって大丈夫なのか?」

「ああ、君の可憐な姿を見て、すっかり元気だよ」

「は? ああ、もうだめか。そうかそうか」


 アウトな紅葉の発言にも、冷静に対処する雪。流石というべきだろう。

 出ていこうとする雪を引き留める紅葉。


「待って、お願いがあるんだ」

「なんだ?」

「どうにも力が入らなくてね。食べさせてほしいんだ、君に」

「あ?」


 普段と違う口調。普段なら絶対しない要求に、色っぽい笑み。

 アホかと威圧的に返した雪だが、相手は一応病人。労わってやろうと近くまでよる。


「仕方ないな。ほら、口を開けろ」

「ありがとう。でも、どうせなら口移しで食べさせてほしいな」

「はあぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?」


 アウト。

 普段クールな雪でさえ赤面させるほどの破壊力。

 凄まじいと言えるだろう。

 そこに、追い打ちをかける。


「君の唇ごと、食べたいな」


 アウト。(いい加減しつこい)

 キザったらしい言い回し。が、本質は色欲の塊。


「やかましい」

「んぐっ」


 冷静に黒歴史な口におかゆを突っ込む雪。


「うん。君の手からだと、何倍もおいしく感じるよ」

 ――イラッ。


 流石の雪さんでも、ここまでくると怒りがわく。

 終始この調子だと判断した雪は、それ以上何もしゃべらすまいと問答無用で口に突っ込む。

 きっちり完食させた後、薬も飲ませ(無理やり)、部屋を出る。

 なお、無表情無言でやり切った。

 そして、次は、海(第三の被害者)。

 お見舞いに来た彼女は、紅葉が汗だくであることをわかってしまう。


「やっほー。お見舞いに来たよ。桜花ちゃんは、なんかいろいろ買ってくるって。って言うか汗だくじゃん。大丈夫?」

「ああ、本当だ。思えばべたべたして気持ち悪いな」


 そう言って脱ぎだす。


「ちょ、ちょ、待った待った。出てるから、その間に脱いで」

「赤くなった顔も素敵だね。とても魅力的だ。よかったら、体を拭いてもらえないかな?」

「え、ええええええええええええええええ!?」


 雪と花火に、紅葉がおかしくなっていると説明する。

 が、すでに被害に遭われたお方たちだ。沈み切った表情でそうだよ、とだけ言い残す。

 どうするか話し合った結果、結局海が体を拭くことに。病人という、圧倒的な看板の前には為すすべがない。


「ううぅ。どうしてこんなことにぃ……」


 嘆きながら背中を拭く海。


「そんな顔をしては、可愛い顔が台無しだよ。ほら笑って。悲しまないで」


 誰のせいだと思っているのだか。無自覚なので何もできない。


「どんな君も素敵だけど、やっぱり笑っている顔が一番だ。さぁ、よく見せて?」


 あごクイ炸裂。

 当然困惑し、赤面する海。


「赤くなった。りんごのようで、これまた素敵だ。もっと見せて? 君の全てを……」


 脱がそうとしてくる紅葉。

 こうなった女子の反応といえば、一つ。


「いやあぁぁぁあああ! 変態!!」

 ――バシン!


 良いのが入りました。

 思いっきりビンタをかまし、逃げる海。


「この痛みさえ、愛おしい」


 変態発言。

 そして、最後の被害者にして、あの状況へとつながる鍵。桜花(第四の被害者)。

 彼女は、学校が終わり、すぐに帰宅しようとしたが、必要なものが他にもあるのではないか、と思った。

 薬も一応買っておいた方がいいし、飲み物や、食べ物も。

 こういう時は、桃の缶詰とか、缶詰系が欲しくなるものだ。

 海に先に行っておいてもらい、自身は買い物をする。

 帰ってきたとき、花火と海がなぜか抱き合っており、雪はなぜかイライラしているというカオスな状況だった。

 話を聞くと、紅葉の性格が豹変。イケメンという皮と病人という暴力的な状況を手にした、ただの色欲変態クソ野郎と化しているという。

 一応、様子を見に行ってみる。


「あのぉ~、ご主人様?」

「ああ、お帰り。麗しい君の帰りを、今か今かと待ち望んでいたよ」


 そっと覗き込んだ桜花の目には、ベッドに座り、こちらに声をかける知らない人が映っていた。


「誰ですか?」

「おや、顔を覚えていないのかい? 寂しいな。でもいいさ。君がまた思い出してくれるように、抱えきれないほどの愛をささげよう」


 もう、ね。うん。アウト。


「キモ」


 桜花の口からも、ついそんな言葉が漏れるほど、気色悪かった。


「おいで。愛してあげるよ」


 何言ってんだこいつ。


 それでも、一応近くによる。

 熱とか、確認したいことはある。


「いい子だ。さぁ、愛し合おう」

「え、いや、あのですね。……きゃっ!」


 ベッドに引きずり込まれる桜花。


「とても魅力的だよ。このまま、僕の腕の中だけにしまい込んでおきたいくらい。誰にも見せたくない。誰にも触れさせたくない。永遠を共にしよう」

「ふぇええ」


 なんだかんだ言っても、紅葉のことが好きな桜花。

 いささか狂気的というか、猟奇的というか、ヤンデレ的な言葉でも、魅力的だの、なんだの言われれば、悪い気はしない。

 というかむしろいい。

 強引な感じもグッドだ。


「さぁ、僕にもっと君を見せてくれ。脳裏に焼き付くぐらい。忘れられないぐらい。もう二度と、放しはしない」

「あ、ああああああああああああああああの」

「こっちを見て」


 ここであごクイ。


「あわわわわわわわわわ」

「照れている君もかわいいよ。すべてを奪ってしまいたい」

「ひぃうん」


 耳元で囁かれる愛の言葉。

 望んでも手に入らなかったもの。

 変な声が出てしまうくらい、甘美で幸せな時間だ。


「ああ、もっとだ。もっと……」


 近づく顔。

 磁石が引き寄せあうように、次第に唇と唇が……。

 それはもう。濃厚だったそうだ(本人談)。

 絡み合う舌。混ざり合う唾液。

 吸いつかれ、息もできないほど貪られたそう。(あくまで本人談です)

 そして、桜花を抱きかかえたまま、眠りについた。


 はい、以上が覚えていない時間の全てです。

 やっちゃったね。

 その後の女子たちからの証言の元、ガチオコなメンバーをなだめ、土下座で平謝りし、なんとか許しを得た。

 二度と風邪はひかない。そう心に決めた紅葉。

 次までには、耐性を付けておこうと決めた、男子耐性のない双子。

 次やられたら猿ぐつわでもしてやろうと、ひっそりと思う雪。

 幸せな時間を決して忘れまいと決め、後日風邪をひいた桜花。

 そりゃね。風邪ひいてるやつと、あんなことすりゃ当たり前ですよ。

 皆さんは決してマネしないように。


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