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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
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出会い

今回は前回よりも前のお話です。

今回も一話完結です。


 クソメイドこと、南野桜花が、主である柊紅葉に出会う少し前のこと。

 二人の出会いのお話。

 

「あー。どうしよ。どうしよー! バイトもクビになったし部屋も家賃払えずに追い出されたし。どーしよー。ってか、店長も店長だよ。まだ三日しか働いてないのにクビとかさ、ひどすぎでしょ」


 嘆きの声を上げながら最低限の荷物をもって春色の町を歩く。

 親は蒸発。高校には通えず。バイトもクビ。部屋も追い出され、住む場所も帰る場所もない。

 絶望的としか言えない状況に陥っていた。

 

「もうこうなったら体を売るしか……って私まだ未成年だし。好きでもない男に抱かれるのもなー。そうだ! エロい動画とってネットに挙げて再生数で稼ぐのは……ダメか。このご時世でスマホも持っていない私がどうやって動画を撮ることができようか。はぁ。誰か私を養ってくれる王子様はいないかな~。いないか」


 などとぼやきながら、ホームレス生活を覚悟して公園を目指しているときだった。

 彼を見つけたのは。


「……いた。私の王子様」


 視線の先。この町では結構有名な、閑静な住宅街にそびえたつ大きなお屋敷。

 玄関先でネットショッピングの宅配物を受け取る少年。


 名前は柊紅葉。お屋敷の住人である、いわゆる金持ちのボンボンというやつ。

 ここらじゃ有名人で誰もが柊という名前を知っている。

 そして桜花もまたその存在だけは知っていた。


 しかし、だ。その容姿までは聞き及んでいなかった。

 実際に見て、桜花は……一目惚れをした。


 お金持ちで顔は好み。となればかなりの好待遇。

「よし! まずは情報を集めよう!」

 彼に買ってもらえれば勝ち組だ。そう考え、直ちに行動を開始した。




「柊紅葉。15歳。11月10日生まれの蠍座。血液型はB。身長167.4㎝、体重54.4㎏。好きな食べ物は味の濃いもの。嫌いな食べ物は味の薄いものと、モチモチ食感の物。高校には籍はあるが通っていない。それどころか基本家から出ず、買い物もすべてネットで済ませている。いわゆるヒキニート。羨ましい……」


 あれから一週間。あの手この手を尽くし寄生先、もとい柊紅葉について調べつくした。

 加えてその一週間は公園でのホームレス生活を強いられていた。


「さて、機は熟した。いざ!」

 

 ピンポーン。

 まずはインターホンを鳴らす。

 次にインターホンについているカメラの死角に回る。


「はい。ん? 誰もいない……?」


 インターホン越しに聞こえてくる王子の声。

 思わず高鳴る胸を抑え、代わりにインターホンを鳴らしまくる。


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!


「うるせー!」


 やがて音に耐えかねたように勢いよく彼が飛び出してくる。

 そこで……最終奥義! 土下座!


「私を買ってください!」

「……………は?」


「私を買ってください!」

「いや聞こえてるよ」


「私を買ってください!」

「だから聞こえてるって」


「私を……」

「だ―もういい! ってか誰だよ、あんた」


「南野桜花、同じく15歳。誕生日は一日違いの11月9日。蠍座。血液型はAB。身長は前に測った時で156.6㎝。体重は44.2㎏。スリーサイズは上から82、55、86で、胸のカップはD。性感帯は……」

「ストップ。もういい。やめろ。それ以上聞いてもいない情報をぺらぺらとしゃべるな。

 で、みなみのさんだっけ? 買ってほしいというのは具体的には?」


「言葉通りの意味です。お金を払って私のことを好きにしてください。煮るなり焼くなり犯すなり。緊縛、スカトロ、SM、乱交何でもオッケーです」

「いやなにもオッケーじゃないから。そういえば、なんか俺のこと知っているような感じのこと言っていたけど、なんで知ってるの?」


「調べました! あらゆる手を尽くして!」

「なに、ストーカーなの? ってかその特技生かして探偵にでもなれば? なんでうちなの?」


「この家ではなく紅葉様に買ってほしいんです。探偵になったほうがいいというのならば、専属の探偵にしてください! お願いします!」

「とりあえず、頭を上げろ。ご近所さんが変なものを見る目で見てる。詳しい話は中で聞くから、とりあえず上がって」


 そういいながら紅葉はドアを開けて振り返る。


「ありがとうございます!」


 桜花も紅葉に続いて中へと入る。

 

 通されたのは客間らしき部屋。

 お茶を入れてきた紅葉が桜花に勧める。


「で、なんでいきなり俺に買われようとしたわけ?」

 

 久方ぶりに口にする味のある飲み物を喉に通しながら、そのありがたみに天に感謝をささげていた桜花は、一度カップを置き、真正面から見据える。


「実はですね、カクカクシカジカでして」

「なるほど。親は蒸発。バイトは三日でクビ。高校も行けず、住む家も追い出され、行く場所も帰る場所もない、と」

「通じた!?」


 冗談のつもりで言ったのに、恐ろしいほど的確に通じていた。

 もしやエスパーなのでは……。なんて桜花は感じていた。

「エスパーじゃねぇよ」

 確信犯だった!


「いやさっきから口に出してるから」

「え?」


 思わずアホ顔になる。まさか、そんな。


「んで、話し戻すけど。どうして俺なの? ほかにも買ってくれるような変態クソ野郎はごまんといそうだけど」


「いやいや、好きでもない男に抱かれたって嫌じゃないですか」

「その状況で選り好みすんなよ」


「それにしたって、好きな相手のほうがいいじゃないですか。それに、単発じゃなくて、長期がいいんですもん」

「だから金のある俺と、か」


「それもありますけど、もっと大きな理由は私があなたに一目惚れしたからです!」


「はい?」

「ああ、格好いいな。あの腕に抱かれたいな。あの指であんなことして欲しいな。ああ、あのきれいな瞳に見つめられながらあれをああして欲しいな。と初めて見た時から思ったんです!」


「つまりお前の頭がおかしいと」

「正常ですよ?」

「元が異常な奴が何しようと、そいつにとっては正常でも周りから見れば全部異常なんだよ」


 紅葉もまたお茶に手を付け、一息入れる。

 紅葉からしてみれば、取り入ろうとしてきたり、ATMとして扱われようとしたことは何度もあった。

 そういったことが嫌になりひきこもるようになったのだが、自分を買ってほしいと、一目惚れしただの言ってきたアホはいなかった。

 そういう意味では新しい。


 おずおずと紅葉の様子をうかがう桜花を見て、紅葉はとりあえず様子を見ることにした。


「わかった。買ってやる。いや、雇ってやる。人手がちょうど欲しかったしな。お前、家事はできる?」

「え、あ、はい。それなりには」

「んじゃま、ついてこい」

「はい! ありがとうございます!」


 広々とした屋敷の中を歩いてとある部屋の前へ。

 その間誰もみなかったのを、桜花は不思議に思ったが、口には出さない。


 中に入ると、殺風景な印象が強く襲ってきた。中には何もなかった。椅子も机も棚も。

 桜花は強いショックのようなものを感じて、思わずたじろぐ。引いたと思われて嫌われないだろうか、そんなふうに思ってしまうほど、気づけば後ろに下がっていた。

 慣れている紅葉は迷わず、部屋に唯一あるクローゼットへ。


 開けると、中にはびっしりメイド服が入っていた。メイド喫茶できているような、黒と白のエプロンドレス。

 その一着を取り出し、桜花に押し付ける。

 さらに引き出しを開けると、そこにはホワイトブリムが同じくびっしり入っていて、それまた同じように桜花へと押し付ける。


「今日から住み込みで俺のメイドになれ。仕事は基本的な家事。給料も毎月出してやる。文句意見質問は」


「はいご主人様。なぜこんなにもメイド服があるんですか? もしやそういう性癖ですか」

「否定はしない。ほかには?」


「夜のお世話は」

「しなくていい」


「下のお世話は」

「意味たいして変わんねぇだろ。すんな」


「でも、性癖なんですよね?」

「かわいい娘がメイド服着て、一生懸命給仕をしている姿に萌えるってだけだ。母の影響でな」


「性的に興奮はしないんですか?」

「まったくしないとは言わない」


「わかりました! 頑張ります!」

「仕事をな」


「主従プレイをできるよう仕込んでおきます」

「仕事しろ」


「主を興奮させて、その相手をするのも仕事です」

「はぁ、もういい。お前の部屋に案内してやる。ほかの場所は自分で見つけろ」


「はい、了解です。よろしくお願いします。ご主人様♡」

「ああ、よろしく」


 こうして、少女と少年が、メイドと主の関係となり、奇妙で愉快な生活を送ることになった。

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