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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
19/30

番外編 体育祭

こんにちは。

書く予定と言っていた体育祭の話です。

いつもより会話多めに書いてみました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

 種目決めという魔の時間を乗り越えたものの、その後の問題は尽きない。

 そもそも、柊紅葉という人間は、幼いころに人間不信となり、屋敷に本来いたはずのお手伝いさんやメイドすら、近頃まで雇わず、学校にも通わず毎日屋敷でアニメ・ラノベ・ゲーム・ネット祭りを開いていた男だ。

 つまり、運動は一切してきていない。運動はできない。運動嫌い。三拍子すべてそろっている。

「体育? 何それ、必要ある?」とか、真顔で言ってしまう人種だ。

 体育のある日は朝から鬱オーラ全開。ため息は吐き出され続け、最終的にはさぼることもある。

 高校一年生になる、今の今まで体育なんてしてこなかった男が、よもや体育祭の存在など肯定しようものか、いいや、しない。全力で。

 しかし、ようやく一歩を踏み出し、始まったばかりの高校生活。そんな、たかだか「体育祭やりたくない」程度で崩壊させるわけにもいくまい。目立ってはいけない。そう、目立たない方向で……。

「金の力で体育祭無くそうかな……」

「ご主人様、それはちょっと……」

 体育祭一週間前の体育の時間。この時期の体育は、来る体育祭に備え、練習の時間となっている。

「どうでもいいけど、体育祭って言いすぎな気もする」

「皆さん張り切ってますからね」

「鬱になりそう」

「ご心配なく。鬱になったら、わたしが責任をもってお世話させていただきます」

「それが一番心配なんだってことにそろそろ気づけよ」

 この学校の体育祭は、派手にやる。というのが通例らしく、毎年様々なイベントごとを用意している。

 今年は二日間連続で行うことが先月の全校集会で明かされた。

 一日目は普通の体育祭。走ったり飛んだり、するあれ。

 では二日目は? と全校生徒が思った。そして、体育祭実行委員の口から明かされたのは、球技大会の開催だった。

 今年度まで、さして長くもないが短くもない学校の歴史において史上初となる球技大会。

 開催の理由は、他の学校でやっているところがあったから。

 どういうものか試験的にやってみようとなったらしい。

 だが、運動音痴で運動嫌いなメンバーにも優しく、一日目の競技は全員参加だが、二日目の競技は希望者のみ、ということらしかった。

 当然、紅葉は二日目なんて知りません、とすまし顔でいたのに、クラスのみんなが乗りに乗ってわいわい騒ぎ、あまつさえ二日目も全員参加しようぜ! とか、熱血なことを言い出しやがりまして、クラスの雰囲気に呑まれ、一人ぼっちのプロテスタントもするにできず諦めた。

 諦めた紅葉を待っていたのは、当然競技決め。誰が何に出るか、という問題だ。球技――その概念において決して楽はない。

 楽な競技はどれだ、と種目リストを眺め絶望したのは記憶に新しい。

 結果、桜花からの助け舟として、男女混合のダブルスバドミントン……の補欠に、桜花とペアで決定した。

 希望者のみとはいえ、人数に枠組みがあってよかったと、心底ほっとした。

 因みに、補欠は何人でもOKとのこと。

 というわけで、練習として与えられたこの時間は、先生の眼もゆるく、補欠だからと体育館の隅に桜花と二人、座り込んでバドミントンの練習風景を見学している。

「にしても、みんなよくがんばるなぁ。カンシンカンシン」

「最後棒読みになってますよ」

「ダル」

「そういわずに、皆さん頑張ってるんですから、雰囲気だけでも熱血してください」

「え~やだよ。だって、嘘が嘘じゃ済まなくなりそうだし」

「えっと、……?」

「つまり、『よしみんな! 優勝しよう! 盛り上がってこうぜ!』とか言ってたら、『応そうだな! やる気に満ち溢れててスゲーな! その調子で補欠じゃなくて選手として出ようぜ!』とか言われかねんということ」

「ああ、納得です」

「ああ、めんどい」

「あはははは」

「お前は練習しなくていいのか?」

「わたしは、ご主人様と一緒にいるのが、練習ですから!」

「得意そうに言うな。あと近づくな」

「ひどいですねー。ご主人様は」

「お前、一日目は何出るんだっけ」

「わたしは、持久走ですね。正直やりたくないんですけど」

「お前も、アンチ学校行事派だもんな」

「ええ、いくらご主人様との思い出が作れるからって、何もかもが楽しいわけじゃないんですよね。特に競技は」

「同じく」

「ご主人様は一日目は借り人競争でしたっけ」

「そ。ってか、お前もそれにしとけばよかったのに、なんでそんな体力使う面倒な種目にしたんだよ」

「いえ、その。恥ずかしながらうたた寝してまして……。ご主人様とイチャイチャする素敵な夢だったもので、ついつい長い時間眠っていたら、残っているのが持久走だけということに……」

「……ドン( ゜д゜)マイ」

「ご主人様が応援してくださったらもっと頑張れます!」

「ガンバレ」

「棒読みなんですけど!? もっとこう、感情込めてくださいよ!」

「これが限界」

「早すぎませんか!」


「そこのいい感じのお二人さん」

 ごちゃごちゃ言い合っていると、コートの方から手を振り二人を呼ぶ女子生徒がいた。

「確か同じクラスの……誰だっけ」

「さすがにひどいですよ、ご主人様。榊さんです」

「ああ、そんな名前のやつもいたな。学校でもお前と海としかろくに関わってないからな。他のやつの名前なんて知らん」

「うわぁ」

 とりあえず呼ばれたからには、と移動する。

「なんか用でもあった? あと、いい感じじゃないから」

「ええー? そう?」

「ばっちりいい感じでした!」

「話をややこしくするな」

 桜花の脇を肘で突く。

「やんっ。もう、ご主人様ったら」

「その照れたような顔やめろ。虫唾が走る」

「ひどい!」

「で、用件って?」

 二人を呼んだ生徒――榊に向き直る。

「えっとね、二人も補欠だけど、一応やってみない?」

「あ、そうだったな」

 一瞬自分がここにいる理由――バドミントンの補欠選手であることすら忘れていた。

「やりましょうか、ご主人様」

「そうだな」


「ルールのおさらいからするね」

 学校のラケットを借り、コートに立つ。

 反対側のコートには榊ともう一人、坂上という女子生徒が立っている。榊のパートナーだ。

 榊が、ラケットを指し棒のように使ってルールを説明していく。

「コートは、今回はダブルスだから外側の線いっぱい。ただし、サーブは一番後ろじゃなくてその手前まで。因みに、コート前のこの線より奥に飛ばさないと、それもアウトだから注意してね」

 それから、一通りのルール説明があり、ようやく実際にやってみることに。

「サーブはそっちからでいいよ」

「了解」

 シャトルを受け取った紅葉がラケットを構える。そして――。

 ――思いっきり空振った。

「……」

「……」

 恥ずかしい沈黙が下りた。

「ま、まぁ、初心者はよくあるから。もう一回やろう、ね」

 優しさが、傷口に塩を塗った。

「あ、ああ」

 お豆腐メンタル紅葉も、なんとかめげずにもう一度やるも、また空振り。

 その後何度もやってみたものの、駄目そうなので、桜花に変わった。

 が、桜花も同じ結果だった。

「あ、あはは。ドンマイ。こっちからサーブするから打ち返す練習してみようか」

 苦笑いの榊に申し訳なく思ってしまうも、こればっかりはどうしようもない。

 その先は、語る必要もないだろう。と言いたくなるダメっぷりだった。


「やっほ。どしたの、二人して隅っこに体育座りして。止んでる人っぽいよ」

 テニスラケットを片手にやってきた海が、二人を見つけ声をかけるも、まとう負のオーラが晴れることはない。

「いや、その」

「暗に戦力外通告をうけまして……」

 あの後、練習しておいて、と苦笑いで言われ、さすがの二人も悟る。ああ、これ駄目なやつだ。

「あちゃー。まぁまぁ、ドンマイ。どうせ補欠だから出番ないと思うし。そう気を落とさず、ね」

 取り繕った笑みで何を語り掛けようと、闇に沈んだ二人を照らすことはない。

「いいや。このままでいいはずがない」

 切り出したのは紅葉だ。

 あげた顔には決意が宿っていた。

「ええ、そうですね。二度と使えないメイドだなんて言わせませんよ!」

 隣の桜花も顔を上げる。やる気に満ち溢れていたが、誰も使えないメイドだなんて言っていない。

「……特訓だ」

「はい」

「よし、サーブから、徹底的にやるぞ!」

「はい!」

 立ち上がった二人は、もう一度ラケットを借りてシャトルを持ち出し、壁に向かって練習を開始する。

「うーん。まぁ、本人たちがやる気あるならいいけど。なんであんなに負けず嫌いなんだろ。てか、言ってること最初と違うし。まぁいっか」

 しばらく、壁打ちする二人の背中を見ていたが、やがて自身の練習のため戻る海。

 海はテニスに出る。種目としては、テニス・バドミントン・バスケ・バレー・野球・ドッチボールがある。

 海はテニス経験がほんの少しあったため、テニスにした。全くの余談だが。


 それからというもの、毎日二人は特訓した。

 わざわざラケットを買い、シューズを買い、市民体育館を貸し切りにしたりと、大分無駄使いをして、血を吐くような努力(自称)を続け、時間を費やし、寝る間も惜しんで特訓した(本人談)。

 そうして、来たる体育祭当日。

「ついに、来たな」

「ええ」

 いつになく真剣な面持ちの二人。その顔は心なしか前よりも精悍に見え……ることもなく、強張った顔は、筋肉痛を我慢しているためである。

「第一種目は、一年生男子一〇〇メートルですか」

「みたいだな」

 生徒待機場所にて、プログラム表をみて、呟く。

「ご主人様の借り人競争は……次ですか!」

「そうだよ」

 げんなりした顔で頷く。

「頑張ってください!」

「それなりに」

 時間は早いもので、あっという間に一〇〇メートル走は終わった。

「頑張ってきてください」

「それなりに」

 キラキラした目を向ける桜花に、紅葉は先ほどと同じ返事を返す。

 憂鬱な気分が心に重りとなって圧し掛かる。

 吐き出してしまいたい鬱憤を抱えて移動する。

 あっという間に紅葉の番に。

 合図とともに駆け出す。

 数メートル先にある、紙を拾う。

 折りたたまれたそれを、広げる。

 書かれているお題に合った人物とともにゴールまで走る、という手はずだ。

 さて、何が書かれているものか。

 開いた瞬間、紅葉の顔から表情が消える。

「あ?」

 かなりドスの利いた音が口から洩れる。

 いやこれは、ない。運営、狙いすぎ。




「あれ、柊君止まっちゃったよ?」

「どうしたんでしょう」

 後から来た海とともに観戦していた桜花は、他の者たちが走り去る中、ただ一人その場にとどまる紅葉の姿を見つめる。

「よほど難しいお題だったのかな」

「……わかりません」

 心配そうに見つめる先、紅葉はまだ動かない。

 他の人が、お題に合った人物を探し奔走する中、紅葉はじっと手の中の紙を見つめている。

「あれ? こっちに来てない?」

 海の言葉を聞き、考え込んでいた思考(どんな問題が発生したのか)を放棄し、改めて見ると、確かにこっちに来ている。

 ゆっくりと歩いて。けど確かに。

「本当ですね。どうしたんでしょうか。もしかして、わたしに会いたくなったとか!?」

「それはない」

 冗談を言っていると、紅葉が目の前に来ていた。

「ちょっと来い」

「はい? わたしですか?」

 自分に指をさし、確認を取ると、紅葉は一つ頷く。

「……わかりました」

「いってらー」

 海の緩い応援を背に歩いてゴールへと向かう。誰もゴールしてない、誰にも切られていないゴールテープを、いともあっさり切る。

 お題の紙を審判に見せる。

「合格です」

 という声とともに、紅葉の一位が確定した。

「やりましたね。ところで、なんて書いてあったんですか?」

 紅葉の前に立ち、訊く。

「ああ、それは……」




「それは、『メイド』だよ」

「え、アリですかそれ」

「アリらしいな」

 書かれていたのは、紛れもなく『メイド』の三文字。

 というもの、この学校で、桜花がメイドをしているということは結構有名なのだ。

 それが、紅葉が引き当てたのは偶然だが、お題には作為を感じる。

「ま、お前がいて助かったよ。ありがとな」

「いえいえ。これしきいつでも。夜のお相手だって喜んでさせていただきますよ」

「俺の感謝を返せ」

 その後も、何事もなく、平和に恙なく進行した。

 海は一〇〇メートルに出て、他を圧倒し一位を勝ち取った。

 紅葉たちのクラス点は他よりも秀でていた。

 そして、次は、

「わたしの番ですか」

 一年女子の持久走だった。

「頑張ってね、桜花ちゃん。戻ってきたらハグしてあげるよ! それとも、汗を流しに行く?」

「どっちもお断りします」

 きっぱり断って、所定位置に向かおうとする。

 その背中に、紅葉が素っ気なく呼びかける。

「ま、無理しないようにな」

「はい!」

 ふりかえった桜花の顔には憂いはなく、満開の桜のような笑顔があった。

 そのまますたすたと去っていく背中をぼんやり見つめていると、

「不器用だね」

 横の海から茶化しが入る。

「うるさい」

「せめて、応援はしっかりしてあげなよ? 桜花ちゃーん、愛してるよー、って」

「誰がするか」

「したら、桜花ちゃん一位とるかもよ」

「いやそれはないだろ」

「試してみる?」

「やめとく。その挑発するみたいな顔が気に食わないから」

「そっか、残念」

 合図の音が響く。

 一斉に走り出す。

 グラウンドを五周してから、ゴールテープに向かう。

 その間、待機場所の前も通る。

 桜花は苦戦しているようで、誰も追い抜けないまま、最後方でのラスト一周となった。

「ありゃりゃ。このままじゃまずいかな」

「別にいいだろ。これが全てじゃないんだし。怪我無く終わればそれでいいさ」

「優しいね」

「事実だろ」

「そうだね、それじゃあ、」

 と、ちょうどそこで、目の前を桜花が通る。

 苦しそうに顔をゆがめていた。

 すうっ、と、海が横で息を吸う。

「桜花ちゃーん! 柊君が愛してるーだってー!」

「なっ! おい!」

 訂正しようとするも、桜花はもう通り過ぎている。

 しかし、桜花の耳にはきちんと届いていたようで、ラスト一周でものすごいスピードを見せた。

 あっという間に前にいた全員を追い抜き、ブッチギリの一位でゴールした。

「うそぉ」

「ね、言ったでしょ?」

 横で得意げな顔をしている海を恨めしそうに睨みつける。

 一日目は、その後も何もなく終わった。

 しいて上げるならば、桜花がやたらうざかったということだ。

 その日の夜はベッドにまで侵入してきた。

 追い出したが。




 そして、勝負の二日目。

「やりましょう」

「ああ、特訓の成果を見せつけてやろう」

 やる気満々の二人は、いざ勝負に望もうとしたが、メンバーに欠員が出ることもなく何もせず終わった。

 その後、簡単に榊たちと少しだけ打ち合ったが、結果は変わらなかった。筋肉痛が原因と二人は言い張ったが、傍から見ればすぐわかるが、たいしてうまくはなっていなかった。

 なお、海はそれなりに善戦したようで、他の皆の活躍もあり、無事、優勝できた。

 絶望する二人を慰めるという意味も込めて、いつものメンバーで軽く打ち上げをした。

この物語も、もうすぐ終わりを考えています。書き始めた夏に終えようと思っているので、それまでは、お付き合いいただければ、と思います。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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