ガールズサイド
こんにちは。今回は趣向を変えて、女子目線で少し書いてみました。
慣れなくて若干困りましたけど、でも、書くことはできました。
面白いと思っていただければ、ありがたいです。
「それじゃあ、初めよっか」
「ああ」
「う、うん」
「いざ、禁断の女子会!」
怒涛の二泊三日の旅行は、蛍、温泉、うみ、と続いて、最後の一日は、実質帰るだけだった。
うみ近くのホテルで一泊した後は、そこからほど近いお土産屋さんをまわり、各々お土産を購入した後帰路に着いた。
帰ってきた後、その場解散となり、屋敷に紅葉と桜花と雪の三人で戻ってきた後即座に紅葉は部屋に閉じこもった。よほど疲れたらしく、ここ何日かはほとんど部屋から出てこなかった。
二日目のホテルでは、女子会をしようと計画していた四人だが、慣れないことばかりで結局寝てしまいできなかった。
あれから五日。今度こそ女子会をしようと海が言い出したので、屋敷にいつものメンバーが集まった。
が、問題は男子禁制の女子たちのここだけの秘密の会話、男子である紅葉をどうしようかと考えていた時、紅葉が、「ラノベとかゲームとか見てくる」と言って買い物に出ていった。
よって、こうして広い屋敷にて、女子だけのガールズトークが成立したのだ。
「まぁ、これでいいだろ」
一人、アニメショップが立ち並ぶ、人呼んで、『オタクの為のアニメ街』という、紅葉が外に出るようになってからお世話になっているエリアを歩きながら、紅葉がもらす。
「あんな露骨な雰囲気出してちゃ鈍感な俺でも気づくっての」
朝早くに出勤してきた花火とともに海もやってきては、やたらとソワソワしだすわ、ひそひそ女子だけで話すわ、挙句の果てに、リビングで俺をどうするか話し合ってるときた。共有ルームで隠し事をするなっての。
「たまには女子たちも好きにさせてやるか」
女子が女子会をしようとしていることに気付いた紅葉は、メイド三人に客人である海を(普段はそんなことしないが)丁重にもてなすよう命じ、自身は外に出ることにした。
かといって、なにか明確な目的があったわけではなく、ぶらぶらしている間に足がここまで動いていた。
適当な言い訳として言った、買い物、だが、それも悪くないと思い実際にショップを見てまわることにした。
「今頃、なにを話してるんだろうな……」
「えー、みなさん。本日はお集まりいただきありがとうございます。本日の幹事を担当させていただいたわたしから、僭越ながら少しばかり挨拶をさせていただきます」
大げさな言い回しとともに、海が立ち上がり集まった面々を見渡していく。
リビングのソファーに座っている、桜花、花火、雪、そして、海。いつもの女子たちが集まっている。
「思えば、我々はあって間もないのです。今では、ずっと一緒にいたかのように感じるソウルフレンドです。しかし、その実、いつも女子だけというわけではありません。こうして女子だけで集まるのは初めてといえるでしょう。ですので、今日この時は、もっと時間を共有し、親睦をさらに深め、そして女子だけのお話に是非とも花を咲かせようではありませんか! ――というわけで、一度は着てみたかったメイド服をわたしも着用しております! みんなで着れば恥ずかしくない!」
そう、ここに集まった四人は全員メイド服を着ていた。
「似合っているぞ、海」
「ありがとう」
「もういっそ、海さんも働かれては? 花火さんもいますし」
「で、でも紅葉さんは迷惑なんじゃ……」
「そうだよねー。それに、わたしはメイド服のみんなを見てるほうがいいし。今回は仲間はずれが嫌だっただけだし。働く気はないよ」
「そうですか……」
「あれれー? 桜花ちゃんもしかしてわたしと働きたかった?」
「いえ別に。ちっとも全く」
「全否定はきついよ……」
「で、女子会を開いたはいいけど、なにを話すんだ?」
「うーん。どうしよう」
集まったみんなが一斉にうんうん唸りだす。
本当に何も考えていなかった。誰も何も言えない。
「とりあえず、お茶でも入れてきますね」
そういって、桜花が席を立つ。
いつもの通り慣れた手つきで四人分の紅茶を用意していく。
「お待たせしました」
しばらくして、桜花が紅茶を運んでくる。
丁寧にそれぞれの前にソーサーとカップを置き、ポッドの紅茶を注ぐ。
ミルク、砂糖も置き、もちろんティースプーンも忘れない。
この数か月で、完璧といえるまで上達していた。
「ありがとう」
「いえいえ。それより、話の内容は決まりましたか?」
「うーん。まだ決まってないけど、恋バナとかしたいな。せっかくの女子会だし」
「といっても、この中で恋をしている人なんて私しかいなんじゃ。海さんは花火さんと答えそうだし、花火さんは二次元のキャラを、雪ちゃんに至ってはそういう人すらいないのでは……?」
「そうなんだよねー。だから、今日は桜花ちゃんの話をメインにしていきたいな。柊君とのこととか、個人的に気になってる桜花ちゃんの家族のこととか、今までのこととか」
「私の話なんて面白くもなんともないですよ」
座りながら、ため息を洩らす。誰も知らない桜花の家族のことだが、本人はあまりよく思っていないようで、少し棘のある言い方になる。
「いいじゃん。話したくないなら話さなくていいから、ね。二人もいいでしょ?」
視線を受けた二人は静かに頷く。
「まぁ、別にいいですけどね」
カップを持ち上げ、お茶を一口含んでから語り始める。
「別に、どこにでもある話ですよ。
生まれた時から貧乏な家庭で、ろくにわがままを言ったこともなかったですね。
親は、父親しかいなくて、母とは私が生まれてすぐ離婚したのだと、後から聞きました。
シングルファザー、なんてうまくいかなくて、私のことにかまけている間に会社はクビ。いい年して幼い娘がいるおじさんなんてどこも雇ってくれるはずもなくて、アルバイト生活を強いられていた父は、それでも懸命に私を育ててくれました。――優しい父でした。いつも笑っていて、不自由はしてたけど不幸ではなかったです。
でも、さすがに耐えかねたのか、二年前に目が覚めると父はいなくて、置手紙に一言『ごめん』とだけ。
中学生でもいろんな人の手伝いをしてちょっとしたお金を稼ぐことはできたし、一応貯金もあったので、何とか二年は暮らせましたが、さすがに家賃が払えなくなって家を追い出されて、そこで、ご主人様にあったんです」
苦々しく早口に言い終わった桜花がもう一度お茶に手をつける。
「そっか」
重々しくなった雰囲気の中海がつぶやく。
が、次の瞬間には、海がそれをかき消すように明るくふるまう。
「いやなこと思い出させてごめんね。せっかくだし明るくいこう! ……そういえば、うみでは紅葉って呼んでたけど、どうして今はご主人様呼びなの?」
「なっ!」
「ああ、そういえばそうだな」
「ま、まだ慣れないんですか?」
「聞いていたんですか!?」
大慌てな桜花をよそに、海は悪びれもせず、雪と花火は苦笑いを浮かべている。
「うん。この耳でばっちりと。で、どうなの」
面白い獲物発見とばかりにニヤつきながら食いつく海。
桜花はわたわたとして、言葉にならない音を発する。顔は赤くなっていた。
「ま、まだ慣れないので、その、少しづつ、と、思って……」
やがて観念したように途切れ途切れにこたえる。
「そっかそっか!」
海はより一層笑みを深めて頷く。
「よ、よかったね、距離が近づいて」
「そうだな。見ていてじれったいぐらいだったのが、多少はましになったな」
「そんなに露骨ですか?」
「うん」「う、うん」「ああ」
「うわあああああああああん!!」
顔を真っ赤にして置いてあったクッションに顔を勢いよく押し付ける。
「まぁまぁ、そう恥ずかしがらないでよ。もともとそんなに隠してなかったじゃん」
「それは、そうですけど」
顔を少しだけ出して目を逸らしもごもごと答える。桜花の周りだけ空気が桃色に見えるぐらい甘々だった。
「どうして好きになったの?」「昔はそんな感じではなかったのか?」「どこが好きなんですか?」
次々と浴びせられる質問に、桜花のライフはガンガン削られていく。
しかし、めげることなくその全てに答えていく。
「は、初めて見かけたときに、きれいな顔だなって」
言っているうちに思い出してきたのか、大好きな気持ちを全開にしてどんどん饒舌になっていく。
「あの、細くて、でも意外としっかりとした腕に抱かれたい! あの声で甘く囁かれたい。一緒にいたいって思ったんです! もちろん、お金持ちということも中にはあったのかもしれませんけど。でも、やっぱり、一目見たときに『この人だ!』って思ったんですよ。ご主人様の存在そのものが尊くて神々しくて、それでいて愛おしくてたまらなくて! どこが好きというよりはもはや存在そのものが私にとって大好きなんです! ……前は、こういうのご主人様にも全開にしてたんですけど、それこそ、好きになってもらおうと媚薬まで仕込んだくらい。でも、最近はどうしてか、直接的に言うのが、恥ずかしいと思うようになって」
後半は沈んだ声音で勢いよく語った桜花に、ほかの面々は顔を合わせる。そして、三人で吹き出す。
「ちょっ! なんで笑うんですか!」
「いやなに、本当に紅葉のことが好きなんだと思ってな」
「こ、恋する乙女って感じで、可愛くてつい」
「そうそう。ラブいねぇー」
「もう」
頬をぷっくりさせた桜花がクッションを抱きかかえたままソファーの上でうずくまる。
「ごめんって。でもそっか。うん。どうして、恥ずかしくなったのか、教えようか?」
「えっ?」
顔を上げる桜花に、答えがわかっているような面持ちの三人が目に入る。
「それはね、そうだなー。言ってしまえば、昔の桜花ちゃんは本気じゃなかったところがあったんだよ。どっちかというと、恋じゃなくて憧れかな。理想の異性に会って、どこか現実と思えてなかったんだと思う。好きなアイドルが目の前にいる感じ。どうにか、その人に自分のことを認めてほしくて必死だった。でもね、今は、一緒にいて、暮らして、触れ合って、人柄に触れて、それが、夢のような理想の中だけではなく、現実なのだと認め始めた。よく知らないのに、キャーキャー言ってた頃から、きちんと相手を知って、そして、本当に恋をした。憧れから恋へと変わった。異性として意識し始めたんだよ。だから、露骨な行動が恥ずかしくなった。嫌われたくないから。異性として見てほしいから。愛してほしいから。……ま、あっちも意識し始めたってのもあるかもだけどね」
得意げに言い聞かせるように長らく語った海は、のどの渇きを潤すかのようにカップへと手を伸ばした。
ほかの二人も、頷いたり微笑んだりしてる。
桜花は、海の言葉を受けて、衝撃を受けたように目を見開いて固まっている。
やがて少しづつ動き出すと、納得したように、そっか、とだけ呟いた。
「そんな、迷える恋する乙女に、わたし達とてつもなく近くにいて、二人のことを見てきた近すぎる恋のキューピッドがアドバイスを進ぜよう」
そういうと、おもむろに花火、雪と顔を見合わせる。
一つ頷きあい、代表して、海が口を開く。
「ズバリ! ド直球に告っちゃえ」
「はい?」
指をさして自信満々に言う海に対し、桜花は首を傾げる。
説明は、雪が引き継いだ。
「あいつは、はたから見て分かる通りの童貞だ。女慣れしてない。女性とどう接していいのかわかってない節がある。下手にこなれている様な様子を見せると、どうしていいかわからなくなって固まるタイプだろう」
花火が続ける。
「あ、あと、夢見がちなところもあります。理想が高いというか……。好きなギャルゲのジャンルも、割と王道に近いものが多いです。……メイドものですけど」
最後に海が、
「だから、まっすぐ、小細工抜きで接する。そうしたほうが、柊君ももっと意識すると思うよ。あっちも桜花ちゃんのことを好きなのは明白だし、この際、告ちゃえば? どうせ、ヘタレだから、あっちからはないと思うし」
「ううう、でもでもっ、男からしてほしくないですか? 告白は」
「まぁ、確かにね」
「だったら!」
「でも、その場合でも、あくまで王道で行かなきゃ。対応に困って、逃げると思うよ柊君。相手から告白してほしいなら、それこそゲームみたいにそういう関係、状況を作り上げないと」
「な、なるほど」
真剣な様子で聞き入る桜花に、まるで講師のように海が教えを説く。
「普段から、相手を意識させつつ、過剰にはしない。あくまでさりげなく、ラッキースケベ的な感じで。そして、可愛らしさは意識しておくこと。あと、恋愛における押引きも大切だね」
「ふむふむ」
「というわけで、もろもろ含めた勉強かねて、柊君が好きなギャルゲをやろう!」
「はい! 先生!」
悪戯っぽい笑みを、頬に浮かべて海が立ち上がる。
「さぁ、柊君の部屋を探索して、彼の好きなものを見つけて研究しよう!」
その言葉に、桜花は目をきらめかせてついていき、雪も何だかんだついていき、花火も苦笑いをしつつ後を追う。
紅葉の部屋で宝探しを楽しみ、気に入っていると思しきゲームを発見する。
「うっわぁ。見事にメイド、メイド、メイド。ここまでくると引くなぁ」
見つけたR-18同人誌だったり漫画だったり、ゲームに至ってもそのほとんどがメイドものだった。
「気持ち悪いな」
「ゆ、雪ちゃん、それはさすがに……」
「まぁ、いいや。とりあえず、みんなでやろう!」
かくして、花火の好きにしていいと言われた部屋で女子たちでギャルゲをすることになった。
「流石にもう終わったよな」
日はもうすっかり暮れ、街灯が淡く道を照らす中、紅葉は両手いっぱいに袋をもって帰路につく。
流石にこの時間まで女子会はやってないだろう、と思いながら、両手にかかる重さに反省のため息が洩れる。
「調子に乗って買いすぎた」
こもっていた間にラノベの新刊が発売されており、特典が欲しいからとショップ限定のを買い、何やかんや、あれも欲しいこれも欲しいと買いすぎていた。
「ラノベは一気に買うものじゃないな。重さが半端ない」
痺れてきた手を早く休ませるために帰路を急ぐ。
見慣れた道を、一人粛々と歩く。
しばらくして、目指していた我が家につく。
「ただいま」
少し前までは、誰もいないこの家にこんな挨拶をするとは思ってもみなかったが、今では迎えてくれる人がいる。こうして自然と口をつく。
「おかえりなさい。ご主人様」
玄関まで出迎えに来たらしい桜花がにっこりと微笑む。
その顔にドキリと心臓が跳ねる。
落ち着いていつも通り返事をする。
「ああ。海は?」
「帰りました。花火さんも一緒に帰宅させましたけど、よかったですか」
「ああ」
「それにしても、買い込みましたね」
「ほんとにな。買いすぎた」
「楽しかったですか?」
「ん? ああ、まぁな」
リビングに向かう道すがら、桜花と短い会話をする。
「ご夕食、できてますよ」
「ありがとう」
「すぐに召し上がりますか?」
「そうする」
「わかりました。すぐ準備します」
そこでちょうど部屋につく。
パタパタと離れていくその背中に向かって、
「そっちも、楽しかったか?」
問いかける。
「ええ!」
振り返り、スカートを翻しながら微笑む。その様子はアニメのワンシーンのように輝いて見えた。
「そうか」
「はい! 大変参考になりました」
「参考に……?」
言葉の意味は聞けずにキッチンへと向かう背中を眺める。
「まぁいいか」
ソファーに荷物を置き、ダイニングテーブルへと向かう。
今日もまた、いつも通りの日常だ。
彼女と彼がもう一歩進むのは、もう少し先のことだ。




