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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
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定期的にやってくる例のアレ

こんにちは。

今回は一話と同じぐらい短いです。

ここから先の為のつなぎの一話程度に思ってください。

楽しんでいただけたら嬉しいです

「だぁーもうっ! やってらんない!」

「口じゃなくて手を動かせ。そして現実を見ろ」

「だってぇ」

「夏休み無くなるぞ」

「……それはヤダ」

「だったら頑張れ」

「とか言ってるご主人様も、あまりよくないですよね、成績」

「うぐっ」

「ほら、またここ間違えてる」

「……わからないから仕方ない」

「そうだそうだ!」

「で、でも、このままだとまずいんじゃ……」

「癒してー、私の天使ー」

「だめだよ、今は勉強しないと」

「うー」

「…………」

「どうした? さっきからこっちを無言で見つめてきて」

「いや、難儀なものだな、と思ってな。まぁ、せいぜい頑張れ」

「上から目線な物言いがこういう時ばっかりは無性にイラつくな」

 とある休日の昼。学校が休みの日、リア充は遊びに行ったりするのだろう。しかし、今紅葉たちが向かっているのは机。来たる次の定期テストに備えた勉強会を行っていた。もちろん、紅葉の屋敷で。

 梅雨も明け、もうすぐ夏休みであり、清々しい気分になるはずのところを、どん底にまで引きずり下ろすテストという名の怪獣。恐るべきその牙の威力たるや、もし赤点であればもれなく楽しい夏休みに補習という地獄を見せてくれる。

 とはいっても、騒ぎ立てているのは紅葉と海の二人だけ。

 そもそも学校に通っていない花火と雪は無論、桜花も自分で言っていたように勉強もできるらしく余裕で紅葉の勉強を見ている。

 予想外だったのが、花火も勉強ができたということだ。学校に行ってなかったのになぜ、という当然の質問に、海が誇らしげに天才だからと切って捨てた。

 雪はそんな連中を複雑そうな表情で見つめつつも、休憩用のお茶や手が離せない先輩メイドに変わって家事をするなど気の利いたことをしてくれはするものの、決して邪魔にはならぬという心遣いで、こちらにはあまり絡んでは来なかった。

 正直言ってありがたい、と紅葉は切に思う。

 何しろ、このままでは家のことがほったらかしになってしまうところだ。

 紅葉が苦手なのは数学と物理。とにかく数字が苦手だった。

 解き方もろくに分からない数式。公式が多すぎて覚えきれず何をすればいいのかわからない物理の問題。

 桜花はどんなに紅葉が投げ出そうとしても、夏休みに紅葉といるために根気よく教え続ける。何気に教えるのも上手い。先ほどから突っかかるたびに助けてもらっている。

 対して、海が苦手なのは化学と国語。

 化学式などという訳の分からないものに、加えて次から次へと出てくるナントカを求める公式の嵐。

 国語は、現代文はましなのだが、古文漢文が意味不明。品詞分解? 書き下し文? そんなの知るか。と投げ出そうとするも、愛しの天使、花火がよこで応援するので完全な気力のみで問題に挑んでいた。花火は人に教えることができないらしい。

 とにかく、二人のそこだけを何とかできれば、夏休みの補習は回避できる。

「おっ、できましたね。さすがご主人様」

 今取り組んでいた問題も、桜花の助けあってなんとか解き終わった。

「ご褒美に……胸を触らせてあげてもいいですよ……?」

「さーて、次の問題っと。あ、海。なんか桜花が次の問題解けたら胸触らせてくれるって」

「マジで!? うわおおおおおおおお、やる気出てきたああああああああああ!」

「違いますから! ご主人様に言ったんですから!」

 外野は無視してひたすら問題に向き合う。

「大変そうだな」

「ん? 雪か」

 気が付くと後ろに雪が立っていた。ここで働く者には個人的な趣味としてメイド服を着せているが、雪もまた例外ではない。むしろその銀髪にメイド服が映えるというものだ。

「ま、大変ちゃ大変だな」

 ちらりと一瞥しただけであとは問題に取り掛かり、そちらを見ずに答える。

「そこまで頑張るのは、桜花の為か?」

 ピクリと体が動く。ここにきて間もなくの雪にすらお見通しというわけか。

 観念したように肩をすくめる紅葉。

「まぁな。あいつと一緒に夏休みを過ごすのも悪くないかなと思ってな。思えば、ろくな夏休みなんてなかった気がするんだ。それが、今ではこんなににぎやかになった。このメンツで、あいつと一緒に夏休みとやらを満喫してみたくなった」

「そうか」

 ふと微かに笑う気配がして振り返ってみれば、雪がその顔に微笑みを浮かべていた。

 その顔に微笑み返してからもう一度机に向かいなおる。

 ――その為に今すべきことをする。




「おーわった!」

 先ほどまでの緊迫とした時間がチャイムの音とともにきれいさっぱり掻き消える。

 代わりにやってくるがやがやとした弛緩した空気。

「お疲れ様です。どうでしたテスト」

 第一声以降机に突っ伏したまま動かない海同様、紅葉も背もたれに深く背を預け、魂が抜けたように天井を向いたまま動こうとしない。

 桜花の呼びかけにも答えずがらんとしたまま。

 何しろ、今日の教科は紅葉の苦手な二教科に海の苦手な化学という二人にとって地獄の一日だったのだ。

「ご主人様? はっ! 動かないということは今ならなにしても許される……?」

「んなわけねーだろ」

 ゆっくりと体を起こす。

 知っていたと言いたげな微笑みを浮かべ再度、自分の主に最重要確認を行う。

「どうでした?」

 その問いに紅葉は力なく笑い、そして、

「やれるだけやったよ」

 とだけ答えた。




 夏休み前最後の授業も無事終了し、紅葉の屋敷にいつもの五人が集まる。

「明日から夏休みだー!」

 海が声高らかに宣言する。

「イエーイ!」

 春夏組が夏休みの予定をさっそく立て始め、騒ぎ始める。

 その様子を見守るように佇む秋冬組。

「よかったな、補習がなくて」

「ああ」

「これで夏休み満喫できるな」

「ああ」

「旅行とかいいかもしれんな」

「そうだな」

「……二人きりにするよう心掛けておこうか?」

「やめてくれ」

「なりたくないのか?」

「…………ノーコメントで」

「ふふっ。そうか」

 ずいぶんと賑やかになった大きな屋敷の庭で、今年の夏は楽しくなりそうだ、と気合を入れる。

 せめてもの願いとして、どうか平和でありますように。

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