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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
14/30

バグった神の贈り物

こんにちは。

今回は前回書ききれなかったところの補足です。

前回出てきた新キャラの説明等ですね。

キャラを増やしすぎると、一人一人の動きが雑になってきているような自覚があるので、これからも注意して書いてこうと思いますが、やはり微妙だったり、読みづらい点があるかと思います。

これからも精進していくので、その間、読んでくださり楽しんでくださっていただければ、嬉しいです。

 屋敷に送られてきた謎の銀髪赤眼の美少女。彼女は何者なのか? いったいなぜ己が名前を忘れているのか。どうし保護されようとしていたのか。彼女の語った言葉の真相が今、明らかにされる――。

「この状況にナレーションを付けるとしたらこんな感じでしょうか?」

「うん。お前一回黙ってろ」

 白いシャツとよれたスカートをはく件の銀髪少女――雪と名付けられた――とテーブルを挟んで対面に座る紅葉とその横に座るメイド服の桜花。

 とりあえず、雪についてわからないことが多すぎるので、本人に確認作業をすることに。

「で、結局君は何者なの?」

「ふむ、これが面接とやらか」

「いや違うけど」

「では、今までの私のことを少しばかり語らせてもらうとする」

 そういい、雪は自身のことを語りだした。

「私が生まれたのは、寒い国。よくは知らない。生まれてすぐの頃、私は捨てられたらしい。というのも、拾ってくれた人から後々聞いた話だがな。

 拾ってくれたのは若い夫婦だった。子供が欲しかったそうなのだが、妻が病気で子供をつくれない体質だったらしくてな、それで、捨て子だった私を拾ったらしい。

 我ながら、大切に育てられてと思う。他の家庭は知らないけど、少なくとも私は幸せだった。

 だから、それでよかった。……だが、現実はそううまくはいかない。……事故にあったんだ、夫婦は。そして、亡くなった。

 そして、私はまた一人になった。

 だれにも頼らず生きていこうと決めた。そんな生活をしているうちにいつしか自分の名前すら忘れた。

 寝床が欲しかったから、教会から棺桶を一つ拝借して、そこで寝るようになった。

 そんなこんなで、路地裏暮らしを続けていて、まわりを観察していろいろ知って、それで、あの時――ヒイラギに拾われた時も、ふらふら街を歩いていたんだ。

 そしたら、ヒイラギが声をかけてきてな、『子供がこんなところに居たらだめ』だとか、いろいろ言ってきたから、私のことを正直に伝えてやったら、うちに来るかって言ってきた。『うちには年の近い息子とメイドがいるから安心しろ』って。

 住む場所も食べるものもなく、明日をも知れぬ生活をしていた私にとっては嬉しい申し出だったが、さっき言った通り、誰の力も借りずに生きていくことを決めていたのでな、一度は断ったのだが、何度何度も説得に来るものだから、致し方なく申し出を受け入れたというわけだ。日本語もヒイラギとの会話で覚えた。

 棺桶だけは、私があそこにいた思い出として持っていきたいと言ったら、棺桶ごと梱包されて送られてきたというわけだ。

 これでいいかな?」

「あ、ああ」

 なんか、想像していたよりも……。

「大変な生き方をしてきたんですね……」

 隣に座る桜花が瞳を大きく見開かせ、呟く。

 本当にその通りだった。本人も言っていたが、この話は少しだ。本当はもっといろいろあったに違いない。それこそ想像を絶するような。

 小さなこの体に、どれほどの重荷を背負って生きてきたのだろうか……。

 両親が必死になったのもわかる。……ん? 待てよ……。

「一つ聞いていいか?」

「ああ」

「一回引き取られたんだよな、若い夫婦に」

「ああ」

「……戸籍、とかは……?」

「ん、そういえば考えたことがなかったな。……大丈夫なのか? 急に不安になってきたのだが」

「俺もだよ。とりあえず、親に聞いてみるか……」

 電話で確認しようと席を立とうとしたところで、

「大丈夫ですって。なんとかしたそうです」

 隣の桜花がなぜか答える。

「なんでわかんの?」

「メッセージアプリで聞きました!」

 そういい、得意げに見せてきたいつの日か買ってやったスマホの画面には、トーク相手が『お母さま』となり、『息子へ』から始まる文章があった。

 内容はひどく簡素なものだった。

『息子へ。なんとかしといたから安心しなさい!』

「………………………………」

 ……とりあえず、言いたいことを整理する。

 そして、

「お前いつの間に親と連絡先交換してるんだよ」

 まずは桜花に。

「えっと、だいぶ前に、ご主人様がご両親とお電話したことがあったじゃないですか。その時、少しだけ私もお話しさせてもらって、そこから親しくさせてもらうようになって、ご主人様がお部屋にいるときに家の電話で通話させてもらう関係になって、その会話の中で、どうせなら、とおっしゃていただいたのでお言葉に甘えて」

 はあ。あのクソ親が。何してんだよ。

 だが、まぁあり得る話だ。

 では次に、

「……どうやって何とかしたんだよ」

 ピコン。メッセージが届いた音が桜花のスマホから鳴る。

「秘密、だそうです」

「エスパーか!?」

 どこにいるとも知れない両親が、息子の気持ちを的確に読むとか、ぞっとしない話だ。

 というか、もう親が神なのではないかと思えてくる。

「私はどうしたらいい?」

 雪がこちらを不安そうに見つめる。

 眉尻の下がった赤い瞳。

「桜花、部屋に案内と、仕事教えてやってくれ」

「! それって……」

「ここで雇うことにするよ」

「ありがとう」

 律儀に頭を下げる銀色を見ながら、ふと思う。

 ――なんかこれ、ファンタジー感ありすぎじゃね。

 本当に、神の考えていることはわからない。




「では行きましょう!」

「おー!」

 張り切る桜花の声と、それに乗る海の声。

「おー」

 小さくだが、声を上げる花火に、

「必要あるのか、これ」

 と聞いてくる雪。

 そして、

「だる」

 完全にやる気のない紅葉。

 今日は全員集合で買い物に行くことになっていた。

 主に雪の私物を買うためなのだが、女子は異様にテンションが上がっていた。

 休日に、このメンツでこのテンションのやつらに付き添って買い物など、正直行きたくない。寝てたい。

 だるい。めんどい。眠い。寝てたい。

 負のオーラ満載でなぜかメイド服の桜花をじっとり睨みつける。

「どうしたんですか、ご主人様。はっ! もしや、発情してしまったんですか! いけません、そんな……」

「言葉と違ってうれしそうな顔をやめろ。まだ家の前だからいいが、店とかで今みたいな発言したらぶっ飛ばすぞ。ってか、こういうのなんか懐かしい気がしてきた」

「ですねー」

「ってか、なんでメイド服なんだよ。恥ずかしいからやめろ」

「いやです。これが私のアイデンティティですから。最近、ご主人様の周りは女の子ばっかりですから、気心知れた方たちといえど、油断はできません。ご主人様の最初のメイドは私なのだと、示し続けなければ」

「もういいや、突っ込むのもめんどい」

「行くのではないのか?」

 あきれた様子を見せる雪に促され、一行はようやく足を動かし始める。

 雪は最年少の十四歳(だと思うらしい)なのに、この場において一番しっかりしていた。

 道中、海は花火とべったり腕を組み、桜花は紅葉にウザがらみをしてきて、雪はただそれを呆れたように見つめる、というかなりカオスな絵面ができていた。

「……ようやくついた」

 ついたころには、紅葉は満身創痍だった。

 久々の桜花の下ネタウザがらみ。疲れることこの上ない地獄のような時間を経て、ようやく本来の目的地であるショッピングセンターへとたどり着き、とりあえず力が抜ける。

「どこから回る?」

 中に入って早々、海が楽しそうに声を上げる。

「どうしましょうか」

「と、とりあえず服とかいいんじゃないかな」

「おお、さっすが私の可愛い可愛い妹」

「お、お姉ちゃん、頭なでるのはやめて……っ!」

「いいじゃんいいじゃん、このこのー」

「ううっ」

「はーい、姉妹でイチャイチャしないでくださーい」

「なになに、やきもち? いいよぉ、桜花ちゃんもかわいがってあげるよー」

「ギャー、やめてください!」

 ………………。

「本来の目的を忘れているようだが、止めなくていいのか、紅葉」

「今の俺に何を期待しているかは知らんが、止める気力はもう残ってないよ」

「休んでいくか?」

「……できれば」

「というわけだ。わたしたちは少し休んでいくから、先に行っていてくれ」

 雪がハイテンション三人組に向けて言う。

「まあ、そういうことなら仕方ないね。場所は後でメッセージで伝えるね」

 海がそれだけ言うと、三人して楽しそうに歩いて行った。

「さて、この近くに休む場所はあるか? なにぶん初めて来たものでな。勝手がわからん」

 雪が紅葉の方を振り返り、苦笑いを浮かべる。

 その顔には、紅葉ほどではないにせよ、戸惑いと疲労が見て取れた。

「ああ、あっちにあるよ」

 そういい、先導して歩き出す。

 目指すはフードコート。休日の昼だから空席を見つけるのも一苦労かもしれないが、休める場所と言われれば、真っ先に思い浮かぶ場所だった。

 が、ついてみたら、案の定の人込みだった。

「ずいぶん人が多いな」

 雪が感心したような声を上げる。

「まぁな。でも、これじゃ休めそうにないな」

「そうだな。逆に人酔いして疲れそうだ」

 雪が冗談めかして苦笑する。本当にその通りだ。

 では、と次にどこへ行こうかと地図を頭に思い浮かべる。

 この時間にすいているとすれば……。




「思ってた通り、すいてるな」

 来たのは、フードコートから少し離れたところにあるクレープ屋。

 目の前で食べれるように椅子とテーブルが何脚か用意されている場所だ。

 もともと、すごく混むような印象はないがこの時間だと特にすいている。

「ここも、食べ物屋か」

「そ。どうせだし食ってこうぜ、なにがいい?」

「ふむ、そうだな。お言葉に甘えて、このイチゴのやつを頼みたい」

「ほいよ」

 紅葉は注文へ、雪は席へとそれぞれ別方向へと歩く。

 雪にはイチゴとクリーム、紅葉はバナナとクリームのやつを頼み、少し離れたところで待ち、店員ができたものを手渡してきたのを受け取り、雪のいるテーブルへ向かう。

「ほれ」

「ん。ありがとう」

 クレープを渡し、対面へと座る。

 食べたことがないのか受け取ってもなかなか手を付けない雪の前で、紅葉はパクリと一口食べて見せる。

 すると、雪も同じようにクレープにかじりつく。

「んん!」

 実に嬉しそうな声を上げてもう一口と続く。

「なんだこれ! 甘くておいしい!」

「お気に召したようで何よりだよ」

 パクパクと笑顔で食べ続ける雪の様子を微笑ましく見守る。

 やがて二人とも食べ終わると、紅葉は聞きたかったことを聞く。

「よかったのか、俺と一緒で。女子たちといたほうが良かったんじゃ……」

 雪は小さく首を横に振る。

「いいや。実を言うと、わたしも疲れていたんだ。初めて見る景色や物ばかりで戸惑ってな。こうして休んでいるのが、結構助かってる。それに、くれーぷも食べれたしな」

 にっこりと笑うその様は、年相応の女の子だった。

「そっか」

 いくら大人びていても、まだまだ紅葉たちと変わらないただの女の子なのだ。

 こういう笑顔や体験を増やしていければと、紅葉は思う。

 ゆっくりと、その場で十分ほどしたところで、そろそろ行こうかと席を立った。

 その時だった。

 近くを通った買い物客の女性二人組が、聞き捨てならないことを言ったのは。

「まずいよね、あれ」

「うん。今どきいるんだね、あんなにガラが悪い人」

「メイド服着てたと一緒にいた子、ちょっとかわいそうだったね」

 メイド服着てた。さて、家族連れも多い休日のショッピングセンターで、メイド服なぞいうコスプレをしている奴はどれだけいるだろうか。残念ながら紅葉の脳内には一人しか浮かばない。

「それ、どのへんで見ました!?」

 勢いよく女性に聞く。

「え、えっと……」

「連れかもしれないんです。教えてください!」

「この先の女性ものの服を売っているところだけど……」

「ありがとうございます」

 礼を言い、雪を見る。

「行こう。急いで」

 簡潔にそれだけ言うと、二人は店内であるにもかかわらず、全力で走った。




 女性ものの服を売っているお店の前。

 桜花と海、そして花火は、ガラの悪い金髪と茶髪の男に絡まれていた。

「ねぇねぇ、いいじゃん。一緒に遊び行こうよ」

「そうそう。俺らと来たらきっと楽しいよ」

 先ほどから馬鹿の一つ覚えのように同じことを繰り返すサルを前に、桜花は毅然と立ちふさがる。

 桜花の後ろには、震えて海にくっついた花火と、花火を落ち着かせる海がいた。

 たとえ、怖くても、桜花が負けるわけにはいかなかった。

「何度も申し上げている通り、私たちはあなたがと一緒になど行きません。人を待っているので」

「いいじゃん。その待ってる子も一緒でいいからさぁ。そんな格好して、どうせ男のとこに行くんだろぉ?」

「デリバリーのお姉さんってやつだ、キャハハ」

 何時まで経っても変わらない会話のループ。

 気色の悪い音を発するその口を、今すぐにでも黙られたいところだが、桜花にはそうするすべがない。

「さっきから違うと、何度言ったら――」

「もういいから来いよ」

 先ほどとは打って変わって、今度は威嚇するような鋭く重い声を発し、強引に桜花の腕をつかむ。

「いやっ! 離してっ!」

 必死に反抗するも、男と桜花の力の差は歴然で、敵うはずもなかった。

 踏ん張る足がずるずる引きずられていく。

 耐えるように、目を瞑り、心の中で助けを呼ぶ。

 来てくれるはずだ。助けてくれるはずだ。

(ご主人様……!)

「おい、あんたら。うちのメイドをどこに連れてこうとしてるわけ?」

 願いが通じたのか、聞こえてきたのは、愛しい主の声。

「ああ?」

 目を開けると、そこにいたのは見間違えるはずもない、紅葉の姿だった。




「なになに? お前この子のなんなの?」

「メイドだって言ったのが聞こえなかったのか? 耳悪いなら耳鼻科行けよ。ああ、その格好で分からなかったってこともあるから、眼科にも言った方がいいな」

 あくまで挑発的に。鼻で笑い、嘲笑を浮かべる。

 この場において、態度ですら負けてしまったら元も子もない。力で勝てないのは一目瞭然。なら、せめて態度でだけは勝たないといけない。彼女たちを安心させるためにも。

「んだと?」

 案の定金髪が乗ってきた。

 ここから先は、おそらく拳が飛んでくるだろう。

 しかし、紅葉はケンカには弱い。

 こんなあからさまな奴に勝てるわけがなかった。

 しくじった。もう少しやりようがあったかもしれないのに。

 後悔してももう遅い。

 金髪が拳を振り上げ紅葉に迫ってくる。

 紅葉にできるのはその瞬間に備えて身構えるだけ。

 とっさに顔だけは守ろうと腕を上げたところで、小さな背中が視界に入る。

 さっきまで隣にいたはずの雪だった。

 おい、おいおい。

 何を、と思った時、金髪の拳が振り下ろされた。

 が、その拳をひらりとよけ、逆に腕をつかんで、投げ飛ばす。

 綺麗な背負い投げだった。

「我が主人に牙をむくなど、このわたしが許すわけないだろう」

 不敵に笑って言い放つ背中は、ひどく頼もしく見えた。

「さぁ、お前も来るか? もっとも、この衆人環視の中でやる勇気があるのならな」

 気が付けば、周囲に人だかりができていた。

 それを見たチンピラは、

「クソッ!」

 と悪態をついて走って行った。

「大丈夫か? こういうことは昔何度かあったからな、その時に護身術を憶えていおいたんだ」

 くるりと反転して、紅葉を見て笑う少女の顔には、先ほど男を投げ飛ばした勇猛さはかけらも残っていなかった。

 周囲から歓声が上がる。

「行くか」

 居心地が悪くなったので、雪の言葉で、移動する。

 先ほどのクレープ屋まで戻り、息をつく。

「助かりました、ご主人様」

 桜花が力なく笑う。

「俺は何もしてないよ」

 冗談めかして笑う。事実何もできなかった。守りたいものを守れなかった。

「ふふっ。そーですね。何もしてませんね」

 桜花も冗談で返す。

 元気が戻ったようだ。

「ひざ震えてましたしね」

「は、え、マジで?」

「うそでーす」

「おい、こら」

「それよりご主人様。私クレープ食べたいです」

「ああ、ハイハイ。了解したよ」

 楽しそうに笑いながら二人で買いに行く。

 その様子を、となりに疲れた様子の双子が座りながらくすくす笑いあう様子を、雪が横目で見る。

「なるほど、そういう関係か」

 誰にも聞こえないような小さな声で、呟く。

 目線の先には微笑ましい一組の男女。

 雪の顔にも、自然と微笑みが浮かんだ。

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