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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
12/30

お仕事

こんにちは。隔週一回更新に変えての投稿になります。

期間を開けての投稿なので、今までよりかは雑さが減ったのではないかと思います。

今回は、前々回に出てきた海の双子の妹のちゃんとした? 出番回になります。

まだまだな私の文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。

「あの……本当にこれを着るんですか……?」

 おずおずといった様子で花火が言う。

 その顔は、羞恥で赤く染まり俯き上目遣いで見る。

 それもそのはず、なにしろ花火は今メイド服を着て、紅葉、桜花、海のいつものメンツの前に立っているのだから。

 ここは紅葉の屋敷のリビング。花火を正式に雇うこととなったので、今日は仕事を教えるという名目で来てもらった。

 彼女もまたメイドだからメイド服を着てみれば、と言ったのは他でもない双子の姉でシスコンの海だった。

 姉の言うことには一応従うらしく、本当に着てきた。

 ひらひらのミニスカートはよほど落ち着かないのか花火は、裾をギュッと握って必死に下げようとしている。

 そう、その姿はまさしく――、

「……萌え、だな」

 紅葉は思わず言葉にしてしまう。

 海、グッジョブ! 心の中で全力で親指を立てる。

 外見は海にそっくりという時点でかわいいのは確定だし、まとう雰囲気も庇護欲をそそる。さらに、普段かけていると言っていた眼鏡も外し、ギャップ萌え要素もある。

 さらに、ただでさえ悶えそうな目の前の少女は、一人で居る時にあんなことをやっていた。つまり、そういうことにも興味があるということ。加えて内気な性格とは真逆な出るとこは出た、姉である海よりも自己主張の激しい豊満な身体。普段から猫背気味な彼女は今この時、腕を両方前に出しているため、胸がよりいっそうの主張をしてきている。

 これで萌えない男はいるだろうか、いや、いない!

 もう少し露出のあるメイド服を用意すればよかった、内心全力で後悔する紅葉。

「ん……?」

 ふと、横から冷たい空気のようなものが、足元から登ってくる感覚を覚える。

 ――やばい。

 何かとてつもなくやばい気がする。悪寒は止まらず、紅葉の周囲だけ気温が一気に下がったような気さえする。

 恐る恐る右隣を見ると、

「ふふふ」

 鬼、いや悪魔がいた。

 顔は笑っているのに目が笑っていない桜花がいた。

 細められた目は、深淵の闇のように暗く、その笑顔ですら見るものを凍らせるような底冷えするような恐怖が漂う。

 漫画やアニメで言うところの、『ハイライトが消えたガチの怒り』がそこにはあった。

 やばいやばいやばい!

 これは機嫌を取らないとマジでヤバイ!

 何か一発で桜花の機嫌が直る魔法の言葉を探す。しかしながら、脳を全力で回転させても、いい言葉は見つからない。

 背筋に冷たい汗が落ちる。ごくりと思わず喉を鳴らす。

 普段から桜花と一緒にいるが、ここまで怖い――もはや恐ろしいというレベル――だとは思わなかった。今度の今度は本当の怒りを買ってしまったようだ。

 どうしようどうしよう。必死に考えるが、逆に頭は真っ白になっていくばかり。

 助けを求めようと、海のほうを見るが、

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ! かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 完全に興奮しきっているようで、紅葉のヘルプの視線に気づく様子もなくカシャカシャとスマホのカメラで、実の妹のメイド服姿を写す。

 次第にシャッター音はカシャシャシャシャという連続した音に変わり、連射をしはじめる。顔は蕩けきっており、口元からはだらしなくよだれが垂れ落ちる。

 汚いのでやめてほしい。

 そんな紅葉の思いは届かず、いろんな角度から実の妹を撮影し、あまつさえ自身と一緒に自撮りをしだす。どかからどう見ても舞い上がって興奮しきっていた。

 もう一度いう、実の妹に、だ。

 そろそろ誰か()めろ。いや、()めたいのでこの無言で笑いながらこっちを見続ける悪魔を何とかしてくれ。

 必死にいるかどうかもわからない神に祈り続けるが、その願いが聞き届けられるのは、実に三十分後のことだった。




 海は写真を撮り続け、花火は最初は戸惑っていたものの、次第にコスプレのようだとはしゃぎ始め、そして紅葉はただ地獄を味わった。

 そんな時間を終わらせたのは、ほかならぬ桜花だった。

「そろそろ、お仕事のご説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 悪魔スマイルはそのままに、ガチギレ状態だからかいつもよりも丁寧な言葉遣いでキャッキャウフフしているアホな双子に話しかける。

 ちなみに紅葉の顔は血の気が失せてゾンビのように真っ青だった。

「あ、そっ……――ひっ!?」

「!?」

 二人は桜花の顔を見て小さく悲鳴を上げる。

 そりゃそうだろうな。というか、双子なのに反応はシンクロしないんだな。花火のほうは驚いた時の反応もおとなしいのな。なんてすっかり血の気の引いた、引き攣った笑顔を、なんとか浮かべた紅葉は、頭の片隅で思う。くだらない、とは、自分自身でも思ったが、正直こうでもしないと、今にも気絶してしまいそうだった。

「では、いきましょうか。花火さん」

「えっ、あ、はい……」

 桜花は花火を連れ立って部屋から出ていく。

「だあああああああああああああああああああ」

 その瞬間に思いっきり息を吐きだす。

 肺の空気をすべて吐き出す勢いで。

 同時に強張っていた体の力が抜ける。

 なんとか生き残った。別に死に瀕したわけではないが、本能がそう訴えてくる。とりあえずよかったと紅葉は安堵に胸を撫で下ろす。

「それで? 桜花ちゃんをあんな顔にするなんて、なにしたの?」

 いつの間にか近くまで来ていた海が原因は紅葉にあると確信したような口調で問いただす。

 ……実際に紅葉が悪いのだろう、きっと。

 しかしながら、『君の妹のメイド服姿に萌えた』なんて素直に言うことはできない。誤魔化す必要があるのだが、悪魔の笑顔にやられたのかいくら何かを考えようとしても何も思いつかない。恐るべし、悪魔の微笑み。

 言葉に詰まる紅葉を見て海はため息を一つつく。

「どうせ、花火のメイド服姿に興奮したんでしょ。守ってあげたくなるようなメイドさん好きだもんね、柊君」

「違っ……くもないけど……。興奮はしてない」

「ホントかな?」

「下半身を見て言うな!」

「言っておくけど、花火は私のだからね」

 顔は笑顔で声音はやたらと冷たく、あまつさえ殺気のようなものすら感じる。

 どうしてこう、顔と感情を別にできるのか。

 紅葉は今まで、こんな芸当ができる奴は、さっきの桜花と海ぐらいしか会ったことがない。

 その器用さを別のことに使えよ、と心底思ったが、言葉にはできなかった。

「――桜花ちゃんの気持ち、気づいてるんでしょ」

 ふと、まじめなトーンに戻った海がじっと紅葉を見つめてくる。

「そりゃ、最初から包み隠さず言ってたからな。多少は隠してほしかったけど」

 ふざけた調子で返す紅葉に、海はむっとし、紅葉のすねを蹴る。

「痛っ!? 何するんだよ急に」

 理由はわかっていた。けれども、何となくぼけてみた。

「私はまじめに聞いてるの」

 凄みのある表情で言う海を、紅葉は真っすぐ見返すことができずに顔をそらす。

 わかっている。わかっているさ。そう口の中で反芻する。

 でも、

「わかってるけど、なんか恥ずかしいし。それに、」

 認めることが。今までは何ともなかったのが、急に意識するようになり少なくとも恥ずかしい気持ちがあった。

 それに、

「それに、まだ気持ちの整理がついてないんだよ。今までと違って、あいつの言動にドキドキしたり、すごく気になったりするようにはなった。あいつに向けられる好意が、素直に嬉しい時もある。でも、それが本当にそういう気持ちなのか、わからない。小悪魔的な態度をとられたら、大抵の男はドキドキする。今の俺の気持ちもそういうのかもしれないって。どうしたいのかもわからない。返事を求められていないのをいいことに、適当にあしらって先延ばしして、あいつに辛い思いをさせてるのかもって罪悪感もある。けど、俺自身どうしたらいいのか……」

 ――わからない。続く言葉を、だけれど紅葉は言葉にせず飲み込む。

 俯いて一言一言、重く綴るように呟く。

 罰の悪そうに海は顔をそらすと、

「ごめん」

 と一言だけ謝った。

「でもさ、やりたいことすればいいと思うよ。本能に従ってさ。案外なんとかなるものだよきっと。だから、気にかけてあげてね」

「わかってる」

 なんとか絞り出すように一言だけつぶやいた。

「……ん?」

 紅葉は大切なことを思い出した。そう、なぜ海が紅葉の好みのタイプを知っているのか。

 いくら仲が良くてもそこまでは話していない……はずだ。

 とすると、選択肢は一つしか残っていないのだが。とりあえず尋ねておく。勘違いかもしれないし。

「そういえば、なんで俺の好みのタイプ知ってんだ? 話してないはずだけど……」

「えっ!? あー、ええっと~……」

 言葉に詰まっている海に、追い打ちをかけるように紅葉は目を細め、じっと見つめる。

「そのぉ~、……桜花ちゃんが前に……」

 焦りと誤魔化そうとする気持ちと少しの恐怖が織り交ぜられた声で、ぼそぼそ呟く海。

 疑惑は確証に変わった。

 紅葉ははぁ~と盛大にため息をついて、ドアの方を見やる。

 あの野郎。

 とりあえず、戻ってきたらお灸をすえてやるとひっそりと心に決めた。




「ただいま戻りました、ご主人様」

 その後、一時間とせずに二人は戻ってきた。

 戻ってきた桜花に一言説教してやろうと思っていた紅葉の勢いは、しかし桜花の姿に削がれてしまった。

「お、おう。お疲れ。意外と早かったな」

 あくまでそこには触れずに話を進めようとする。

 花火は桜花から顔をそらし、いたたまれないような表情を浮かべ、海は目を大きく見開き、輝かせたその目のまま身を乗り出す。

 うん。スルースルー。

 そのことについて言及したら、どういう言葉が返ってくるのかは想像できる。むしろ違ってほしいと望むほど。鮮明に。

「はい。これからじっくり教えていく予定なので、今回はざっと説明しただけですから」

 さっきまでの気迫はどこに行ったのか、ものすごく晴れやかな笑顔を浮かべる桜花。

 その顔には、どこかウキウキする子供のような色が感じ取れて、おそらく自分の格好に触れてほしいのだろう。だが、ここで折れてはいつもと変わらずな展開になってしまう。紅葉は心を落ち着かせあえて触れず会話を続ける。

「そっか。んじゃあ、この後どうする?」

 海に視線を向ける。

「えっ? えーっと」

 海が花火へと助けてと視線を送る。

「……っ」

 花火は全力で首を横に振る。

「特に何もなければ解散でいいか?」

「はい、いいと思います」

「うむ」

 さて。どうしようもなく話が進まなそうなので、そろそろ突っ込んでおく。

「んで、お前のその格好はなんだ」

 そう。戻ってきた桜花の服装は、バニーガールだった。

 網タイツにうさ耳ヘアバンド、肩が出た尻尾付きのレオタード、手首にはカフスまでつけた完璧なバニーガールだった。

「バニーガールです!」

 胸を張ってドヤ顔気味で答える桜花。突き出される二つの膨らみ。

「そりゃ見たらわかるって」

「兎は万年発情期だそうです」

 ああ、やっぱり。

「正確には違うらしいけどな」

「只今私も発情中です」

「相変わらず都合の悪い子とは聞こえないクソみたいな耳だな。聞こえてないんならいっそとっちまえば? ほら頭に立派な耳が生えてきたし」

「というわけで! さっそくベッドへ行きましょう!」

「言うと思ったよ! てか、人の話聞け!」

 こうなることが予想というか予知できていたために敢えて触れずにいたのだ。

「なんでいきなりバニーなんだよ。俺、バニーガールの薄い本買った覚えないぞ」

 堂々と自分のエロ本事情を語る紅葉。

「そういうこと自分で言っちゃうんだ」

 ぼそりと花火が呟く。

 紅葉は聞こえないふりをして、桜花の反応を待つ。

 自分のことは棚に上げておく。

 そもそも、桜花に筒抜けになっているので隠す理由もない。

「たまにはこういうのもいいかと思いまして。露出度高いほうがご主人様もうれしいでしょう?」

「無論だ。男とはそういう生き物だ。だがな! 隠されているほうがよりエロく感じるものもあるんだ!」

「な、なんとーーー!」

 なんとなくテンションが壊れた紅葉とそれにのっかってきた桜花のアホらしい小芝居に、取り残された二人は苦笑いで軽く引いていた。

 露出度の高い桜花の服装に、思いのほかテンションが上がったのかもしれない。

 だが、すぐに平静に戻り、勢いそのまま解散を命じる。

「じゃなくて! もういいや。解散解散! お前ら着替えてこい。俺は部屋に戻る」

「はーい」「了解~」「わかりました」

 三者三葉の返事を背後に聞きつつ紅葉は急いで自室に戻る。

 少し前かがみになりながら。




「それじゃあ、行ってくるから、あとよろしく。買い物行ってもいいし、割り当てた部屋でアニメ見ててもいいし、仕事しててもいいし」

 花火を雇って、説明した翌日。さっそく仕事として留守を任せることに。家事などはまだ教えてないので、とりあえず職場になれるということで留守を任せることに。

「は、はい」

 まだ慣れていないのか、困惑と怖気づいた様子が見て取れる花火が頷く。

 これはもう少し時間がかかるかな、と思う。

「おーい、行くぞ」

 紅葉は玄関から家の中に声をかける。

 すぐに桜花の、待ってください~と言う声が返る。

 制服に着替え、とっくに用意のできた紅葉はため息を吐きつつもう一度呼びかける。

 呼びかけ、ようとして、止まる。

 いつもは、二人しかいないので、クソメイドとかお前とかおいとかで通じていた。

 最後のとかは熟年夫婦かと言いたくなるような感じだが、とにかく名前で呼ぶ必要はなかった。

 しかし今は別のメイドがいる。それではだめだろう。

 だが、そう。今更名前で呼ぶとか、恥ずかしすぎる。

 深呼吸一つ。息を整え、決意を固める。

 今まで、桜花の気持ちを考えないようにしてきた。けれども、これからはまじめに向き合い少しでも答えていこうと決めた。

 だから――、

 ゆっくりと息を吸い、そして。

「早くしろ、桜花」

 空気を揺らし、発せられた音は屋敷の自室にいる桜花の耳にもちゃんと届き、そして、

「はい! ご主人様!」

 元気で上機嫌な桜花が、すぐに玄関へとやってきた。


 一歩一歩。ゆっくりと。

 それでも確かに、確実に。

 二人の距離は縮まる。

 今はまだ遠くとも――。

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