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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
11/30

番外編 学校行事とは

今回もまた、少し遅れてしまいました……。

これからは余裕をもって、二週間に一度の更新にしていこうと思います。

あまりにもスパンが短いと、文章もストーリーも荒くなってしまうので。

今回は前回言っていた通りの番外編です。

まだまだ足りない部分はあるかと思いますが、読んでいただけたら幸いです。

 ある日のこと。

「体育祭か……」

 呟いた紅葉の言葉は、教室内を支配する興奮の喧騒にかき消えた。


 そう、一か月後に訪れる体育祭に向けて、クラスでは種目決めを行っていた。

 まわりで一か月前だというのに張り切り興奮する生徒の中、紅葉の心は凪のように一ミリたりとも揺れ動いていなかった。

 椅子に浅く腰掛け、背中を背もたれに預け、手足の力を抜きだらんとした格好のまま、他の者がどういう種目をやるのかをぼんやりと眺めていた。

 そもそも、なぜこうも張り切れるのだろうか。やる意味はあるのだろうか。てかなんでやる気出るの?

 湧き出る負の感情を抱えたまま、次に思うのは、『一番楽な競技は何か』だ。

 もっぱらやる気のない、やる意義を見出せない紅葉は、どうせなら楽な種目やって終わりにしたかった。


 なぜこうもやる気がないのか。理由は簡単。運動が嫌いだから。

 引きこもりはたいていそういう因果の元に生まれてくるのだ。

 なんで運動しなくちゃいけないんだ。しなくても死なないだろ。という理論を振りかざし、断固運動しない主義を抱える紅葉は、この手の行事も心の底からやりたくなかった。


 ただ、せっかくなじんだクラス。盛り上がる皆に水を差し、クラスから浮くのだけは避けたいところ。

 であれば、やる気がないのは隠しつつ、楽な種目だけをこなし、あとは観戦にでも回りたい。

 そこで、問題はどれが楽か。走るのは論外。ユーモアにあふれる面白種目もできれば避けたい。

 となると――、

「次に、借り人競争に出たい人はいますか」

「はい」

 ちょうどそこで、体育委員が上げた競技に、すかさず挙手をする。

 借り人競争とは、借り物競争の物ではなく人になったもの。

 お題に書かれている人を連れてゴールするというもので、運要素が大きい種目。

 この学校では、借り『人』競争を取り入れている。

 つまり! お題に書かれた人を連れて行くだけで終わるのだ。比較的楽だと言えよう。なお、そこに勝ち負けは考えていない。

「では、柊君は決定で。ほかの人はいますか」

 体育委員によって紅葉の種目は決定し、あとはすることなく、時が過ぎるのを待つだけだ。

(はぁ~。あーあ、なんで学校行事なぞやらねばならんのか)




 ――放課後。


 いつものように海と桜花、紅葉の三人で帰る。

「はぁ」

 今日何度目かもしれないため息をこぼす紅葉。

「どしたの? さっきからため息ばっかりしてるけど」

 そんな紅葉の様子を見て、海が心配そうに聞いてくる。

 性癖があれなだけで比較的常識人な彼女のことだ、おそらくは本心から心配しているんだろう。

 有り難い限りだ、と紅葉は思うが、同時にどうしようもないことなので心配してもらってもどうしようもないという気持ちが強く心に刺さる。

 それでも、理由ぐらいは伝えるべきだろう。最大限の誠意を見せるべきだ。

「まぁ、ちょっとね。体育祭ってか、学校行事そのものがめんどくさいなって。やりたくないというか、やる意味あるのか、とか。何が目的だ。必要なのか。いらんことに時間使うなよ。ったく、はぁ」

 後半はもはや愚痴だった。聞いていた海もさすがに苦笑いだった。

 だが、この場において、意外な人物が反学校行事派に加わった。

 三人で帰っている中で、残っているのは一人しかいないわけなので。その人物は必然的に――、

「本当、時間の無駄ですよ、あんなの」

 俯きながらこぼす負に満ちた声音は、言わずもがな桜花の物だ。

「だよな」

「ええ、全くです」

「いらないよな」

「はい」

「何のためにって感じだよな」

「ホントです」

 一方的な論理の展開に、然しもの海も、口を挟む。

「でも、楽しいよ?」

「それは多くの生徒が、だろ。どんなことにも例外はつきものなんだよ」

「というか、体育祭だけじゃなくて、学校行事が?」

「そう」「ええ」

 二人分の声が重なる。普段にもましていきぴったりだった。

「どうして?」

 純粋に不思議に思ったのだろう。海が小首を傾げて聞いてくる。結われた髪がふわりと揺れる。

 外見と仕草は完璧なのに、と紅葉は心の底から残念がる。

 不満にあふれた紅葉と桜花の二人を前にして、けれどもめげることなく海は説得を試みる。

「修学旅行とか、皆で旅行できて楽しいよ?」

「そもそも、なんでみんなで行く必要がある? 行きたい奴が行けばいいだろ。大人数で行ったところで、結局のところバラバラに行動するし、まずもっていきたくないやつもいるだろ」と紅葉。

「じゃあ、学園祭は? お店出したり、パフォーマンスしたり」

「やる必要性が見つけられません。やって何になるというんですか」と桜花。

「思い出作りに……」

「思い出って」「必要ですか」とどめに紅葉と桜花のダブルパンチ。

「うっ……」

 これには海も言葉が出なかった。

「学校行事にいい思い出ってあるか? 因みに俺はない」

 紅葉が桜花に向いて問う。

「うーん。そうですねぇ。……………………ないですね。そもそも友達すらいませんでした」

「同士よ」

 長い沈黙の後に、結構な爆弾発言を残した桜花に、紅葉は手を差し伸べ、桜花もまたその手を取りがっしりと腕ごと結んだ。

「あはははは……」

 もはや何も言えないという様子の海。内心ではかわいそうな人たちとも思ったが、人には人の価値観がある。頭ごなしに全否定するものではないだろう。もし仮に、気にしていたら傷つけてしまうし。


「でもでも、これからは私も少し楽しみですよ」

「なっ!」

 桜花の発言を聞いた紅葉があからさまな動揺を見せる。

「だって、ご主人様がいますから。他の人たちとの思い出は割とどうでもいいですけど、ご主人様との、好きな人との思い出は宝物ですから」

 にっこりと笑うその顔には、嘘偽りおふざけ等は見えなかった。

 正真正銘の本心からの、桜顔。

 ああ、と紅葉はふと思う。

 こいつのこういう顔が見られるのなら、悪くはないかもしれない――。

「私も、楽しみだよ。桜花ちゃんと一緒だし」

 すかさず桜花に抱きつこうとする海を、桜花は鬱陶しそうに押し返す。

「あうっ。もう、いけず」

「ぶりっこしても意味ないですよーだ」

「えぇー?」

 傍から見れば、女の子同士のキャキャウフフな百合ものに見えなくもないが、中身がガチな方がいるので、微笑ましくはないなと紅葉が内心苦笑する。

「でもね、本当に楽しみなんだよ?」

 真面目なトーンで海が言う。

「私は、今まで、あんまり本音が言えなかったんだ。こういう性癖だし。でも嫌われたくはないから、自分を偽って。でも、本音を言えないのって、かなりのストレスなんだよ。すごく苦しかった。でも今は、二人がいる。二人の前だと、自然体でいれる。大切な友達と一緒にするんだもん、楽しみじゃないわけないよ」

 こちらもまた、ニカッーと笑う。

 実に清々しく、生き生きとしていた。

「そっか」

 呟いて、紅葉は空を見上げる。

 青い空が、ずっと遠くまで広がっていた。

 ふっと、笑みがこぼれた。

 皆のいろんな思いと、いろんな表情が出る学校行事。

(悪くない、かな)

今回の話に出てきた体育祭ですが、いづれちゃんとした話にする予定でいますので、その時もよろしくお願いします。

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