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クソメイドとその主  作者: 藤 小百合
10/30

引きこもりを雇う(2)

こんにちは。

日曜更新を心掛けていたのですが、いろいろ忙しく更新が遅くなってしまいすみません。

今回は前回の続きです。

新キャラが登場します。

ちゃんとした出番は次回になりますが。

ここらでいったん番外編とかも面白いかもと思っているので、もしかしたら、新キャラの出番の前に番外編かもしれませんが。

私の文章力が足りず、読みづらいかもしれませんが、もしも読んでくれたのなら、嬉しい限りです。

「どうぞ、入って」

 緑山家の邸宅。

 ドアを開けた海が、紅葉と桜花の二人を誘う。

 お邪魔します、と挨拶をしてドアをくぐる。

 両親は仕事中とのことで、中は静かで寂しい感覚を与えてくる。

 階段を上がって右手にある部屋の前まで、海が無言のまま案内する。


「ここが妹の、花火の部屋」

 暗い面持ちで目の前の部屋を指し示す。

「妹は花火って名前なのか」

「姉妹合わせてTHE・夏って感じですね」

「それな」

 そんな海とは正反対に明るい二人を前に、海は少し面食らった様子を見せ、同時に少し怒りを覚え、若干尖った口調で問いただす。

「人がまじめに相談しているのに、少し態度が不謹慎じゃない?」

 すると紅葉は、肩をすくめて苦笑する。

「まあ、そんな怒るなって。わかっててやってんだよ。ヒキコモリがいきなり来た知らないやつとまとも話すわけないだろ? だから、敢えて明るくいって話しやすい雰囲気を作ってやろうって魂胆だよ」

 その言葉を受けて、海は言葉に詰まる。

「……ごめん。花火のことになると神経質になっちゃって」

「いいよ別に。さて……」


 改めて目の前の扉を見つめる。

 いくらドアを閉めていたって、部屋の前でしゃべっていたら聞こえるはず。わざと中まで聞こえるようにしゃべったのに反応なし。

 となると、ヘッドホン類をしていて単に聞こえなかっただけか、はたまた聞こえたうえで無視を続けているか。

「うじうじしてないで行っちゃいましょう」

「えっ、お、おい」

「ちょ……」

 二人分の制止を聞かず、ノックもせずにドアを開ける桜花。

「……」

 ――バタン。

 今度は勢いよく閉めた。


「は?」

「え?」

 残された二人の頭には、はてなマークが浮かぶ。

 状況を飲み込めずに置いてきぼりにされた二人をよそに、桜花は真っ赤な顔をして俯いている。

「なにがあったんだよ。説明を求む」

「え、? あー、いえ。そのー、ですね」

「言い淀むってことは花火に何かあったの?」

「いえその、そういうわけでは……」

 よほど心配なのだろう海が今度は意を決したように、

「私が行く」

 すると今度は桜花が困ったように、あわあわおろおろし始めた。さらには焦った様子で、

「いえ! だめです! 今はダメです! 花火さんの名誉のためにも! なんとか思いとどまってください! お願いします!」

 懇願しだす次第。

 一見して意味の通じない言葉だが、幸か不幸か、理解してしまった者が一人いた。

「あー、なるほど。うん。今はやめとけ。もう少ししたら準備が終わるだろうし。まぁ、なんだ。察してやれ」

 苦笑いしかできない紅葉に、海はさらにはてなを増やす。

「……? どゆこと?」

「そういうことです!」

 真っ赤な顔のまま全力でとにかく否定する桜花に、紅葉は心の中で答えになってねーよと突っ込む。

 声に出さなかったのは、桜花の心中を察してのこと。

(そりゃ、アポなしで友達んち行ってノックなしで部屋開けたら、部屋ん中でお宝目の前にしてお仕事に精を出していたら戸惑うし、そこにそいつの家族が来たらテンパるのも無理はないよな)

 紅葉は顔面の表情筋がこのまま固まってしまうのではと思うほど、苦笑いしかできなかった。

 おそらく、何か端末を使って、ご丁寧に音を出さないようヘッドホン類をしていたのだろう。そこまでは予想できていたが、まさかおかずを表示してお仕事しているとは、紅葉も夢にも思わなかった。

 扉を開かれたのには気づいたが時すでに遅し、で、桜花をばっちり視界に収めてしまい、他人に見られたことの羞恥心でおそらくとんでもなくパニックっていることだろう。

 とりあえず、服を着るまで待ってやってほしいと思う紅葉と、大体同じ考えだが生で見てしまった気恥ずかしさを抱えている桜花たちを前に、けれども思い届かず、海はずっと不思議そうにしている。

 下ネタとか大丈夫そうなのに、なんでこう察しが悪いかな、なんて考える紅葉と二人の前で、ドアが少しだけ開き、中から海と瓜二つだけれども、その雰囲気はまるで違う眼鏡をかけた少女が覗いていた。


「こんにちは。初めまして。そんでもってさっきはうちのメイドがノックもなしにすまなかった。だけど、今度は周りの音にも気を付けてそういうことにいそしんだ方がいいと思う。あくまで推察だから違うならこの場で否定してくれてもかまわないけど……」

 努めて明るく、陽キャラらしく振舞って、先ほどの謝罪と、男として共感したことからくるアドバイスを行う。

 真っ赤になって恥ずかしそうにしていたけれど、ゆっくりと首を横に振って紅葉の考えが間違ってないことを告げる。

(それはそれで、反応に困るんだけど……)

 変わらず苦笑いを浮かべながら、とにかく自己紹介をしようと口を開く。視界の端で未だうんうん首を傾げている奴はとりあえず置いておく。世の中知らなくていいこともある。

「俺らは、君の双子の姉である海の学校の友達で君のことを相談されて来た。俺は柊紅葉。んで、さっき覗いてしまったのが、俺のメイドでもある南野桜花。よろしく」

 笑顔で手を差し伸べる。

 花火は恐る恐るといった様子で手を取る。

(とりあえず、握手するぐらいの社交性はある、と)

 次の段階は、部屋に入れてもらうことだが、できるだろうか、思案する紅葉だが、こういう時に空気を読まないアホが一人。

「というわけで、部屋に入れてください」

「えっ!」

 ここにきてようやく花火が口を開く。

「お邪魔しまーす」

 驚き固まる花火をよそに強引に入る桜花。

 ここはこいつにのっかっておくか、と桜花に続き中へと入る紅葉。

「ごめんね」

 一言添えておくのは、ちょっとした同情心から。

 後ろを振り返ると、海と花火が、私も入っていい? うん……。とよそよそしい会話を繰り広げる。

 まだまだ距離感があるのかな、なんて思う紅葉はもう一度視線を戻し……。


「これはまた……」

 軽く絶句した。

 壁一面にアニメのポスター。抱き枕にグッズ。天井にまで広がるポスターにぶら下がっているフィギュア。

 ――THE・ヲタク部屋だった。

 さすがの紅葉でも息を飲む光景だった。

 桜花は口を開いて固まっている。

 予想の斜め上だった。

 そして、そこにうつるキャラが全員イケメンの男キャラで本棚にはBL本まであるのが斜め上すぎた。

 確か――、

「アニメに理想の自分を追い求めてるって言ってたよな。誰だっけ? そういったのは」

 にこやかに、けれど目は決して笑っていない紅葉の笑顔を向けられた海は、視線をしきりに動かし、後頭部を掻きながら、言い逃れする。

「だ、誰だっけ?」

「目が泳いでる」

「うっ……私です」

「よろしい」

 別にアニメを見る理由やそのジャンルは意識していなかった。言い換えると興味がなかった。

 たとえ、アニメのイケメンに惚れていても、事前情報と違って女キャラが全然出てこなさそうなアニメを見ていても、だ。

「さーて、本題に入るか」

 今度は花火へと視線を向ける。

「俺たちは、海から君を雇ってほしいと言われている。君をヒキコモリ卒業させてくれって。

 うちは、知っての通り結構金持ちでね。でも、人手が足りてないんだ。だから、君をメイドとして雇ってくれないかと相談された。

 こっちとしてはやぶさかではないよ、むしろありがたいくらいだ。

 俺もオタクだし、先輩メイドはこいつしかいないし、同い年だから相談とかしやすいだろうし。

 どうかな?」

 単刀直入に切り込む。こういうのは長引かせるものではない。そもそも、遠回しに聞くほどのコミュ力は紅葉にはない。

 俯く花火に、今まで黙っていた桜花が口を開く。ゆっくりと、聴く者すべてに浸透させるように。

「実は私、最近気づいたことがあるんです。私……Sかもしれないんです!」

 聴く者すべてがずっこけそうなくだらない内容だった。

 それでも続ける桜花。

「最近、ご主人様をからかうと楽しいんですよね。そもそも、ご主人様も引きこもりだったわけですし、女慣れしてないのは当然なんですよね。だから、ちょっと胸を押し付けるとすぐ真っ赤になるんです。その様子がまあ可愛くて! ついからかってしまうんですよ。でもでも、私は相手から何かしてもらいたいっていう願望もあるわけで。SとM、どっちなのかなって思うんですよね」

 そろそろ黙らせようかとこめかみが音を立ててブチ切れそうなほどご立腹の紅葉を一瞥しながらも、桜花は止まらない。

「そういうのって、ご主人様と会ってからなんですよ。私一人だと、こんなことで悩むこともなかったでしょうし。だから、外とのつながりは大事なんです。新しい発見も、新しい感情も。知らなかったことも。外にはいっぱいあるんです。――一緒に、外へ飛び出してみませんか?」

 最後にふわっと笑顔をつくる。以前紅葉が命名した、桜顔。

 花火は目を見開き、海もまた絶句して魅入っている。

 紅葉も例外ではない。

 たった一つの笑顔で、この場にまるで桜が咲いたかのような、穏やかな空気が広がった。

 紅葉の隣に移動してきた海が耳打ちをする。

「桜花ちゃんって、あんな顔もできるんだ」

「ああ」

「惚れたかも」

「最初からじゃないのか」

「言い直す。惚れ直した」

「そっか」

 すると海が紅葉の顔をじっと見てくる。

「柊君はどうなの?」

「えっ?」

「桜花ちゃんのこと。好きじゃないの?」

「俺は別に……」

「じゃあ、私がとってもいいの?」

「それは…‥」

 顔をそむけると、微笑ましく笑う海の顔が目にはいった。

「自分の気持ちに素直になったほうがいいよ、ツンデレ君」

「誰がっ……」

 否定しようとしても、できそうになかった。

 鬱陶しいと言っていても、やっぱり心のどこかでは気になっていた。その気持ちに蓋をしていた。その気持ちを知らなかった。

 でも、そう。だとすると、自分はツンデレだ。


「因みに、給料は高めなので、アニメブルーレイBOXいっぱい買えちゃいますよ」

 付け加えるように言う桜花に、今まで俯いていた花火がばっと顔をあげ、キラキラした目を向け、

「働きます!」

 といった。

 これにはさすがの海も困惑を隠せないようで、茫然としていた。

「あーうん。よろしく」

 こういう輩になれつつある紅葉は軽くスルーしておく。

 ……なんかもう疲れてた。と、ため息しか出なかった。


 後のことは追々ということで、その場は解散となった。

 自分の気持ちに素直に。海の言葉が胸に刺さったままの紅葉は、俯きつつ、桜花に対する自分の気持を整理していた。

 横では、桜花が良かったですね、と笑っていた。

「あ、今思ったんですけど」

 思いついたように声を出す桜花に、紅葉は、そちらを見る。

「私たちの名前って、四季に関係してますよね。

 私が『桜』で『春』

 緑山姉妹が『海』と『花火』で『夏』

 ご主人様が『紅葉』で『秋』

 これで冬がいれば春夏秋冬そろいますね! ……ってご主人様? どうかしました?」

 紅葉は顔を真っ青にして頭を抱えていた。

「……お前、それフラグ……」

「えっ?」

 これ以上キャラの濃い人間が周りに増えてたまるか、と思う紅葉の心境を理解することなく、首を傾げる桜花。

 紅葉の祈りは誰にも届くことはなかった。

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