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「なあ、お前って、付き合ってるの?」
休み時間に、後ろの席の友人に肩を叩かれた。彼は伊勢くん。ぼくの唯一の男友達だ。
え、なんのこと? 誰と?
「しらばっくれるつもりか? 長門さんとだよ。いつも一緒に帰ってるんだろ?」
長門さん……長門さん……えっと、あ、日向さんの苗字だ。下の名前でしか呼んでいないから、そっちのほうはすぐに思い浮かばなかった。まあ、よく絡まれてる、という意味では付き合ってるのかな。
「そうじゃなくて。キスしたり手をつないだりする関係なのかってこと」
伊勢くんは、顔を近づけて声をひそめた。たぶん、今の発言は、ぼく以外には聞こえていない。
「おい、なんで黙って呆けた顔をしてるんだ? そんなにおかしなこと言ったか? うわさになってるぞ。美女とオタクの迷カップルだって」
それってつまり、男女の関係ってことか。うーん、うーん、うーん…………
「考えすぎだろ。悩んでるってことは、長門さんを女として見たことがあるってことだろ。ただの幼なじみじゃない、と気づいてるはずだ」
何を勝手に人の気持ちを決めつけてるんだ。い、いや、確かに、魅力的な女性、には違いない。モデルみたいな体型だし、顔は整ってるし、性格は夏以外は悪くないし……
「おっぱいはでかいし」
彼が一言付け加えた。ちょ……! ゲホッ! 何も飲んでないのに、むせた――
「へへへ、お前、耳が真っ赤だぞ。認めるんだな。でかいって。で、どれくらい大きいんだ。サイズは? 今でも一緒にお風呂に入ってたりしないのか?」
してるわけないだろ! 小学生までだ!
ぼくがこう宣言したとたん、教室がざわめいた。あわてて周りを見回すと、残っているクラスの人たちが、こちらを不審者を見つけたような顔で見ている。特に女の子は、口に手を当てて隣の子とひそひそ話し出した。
ぼくは、休み時間が終わるまで間もないと分かっていたけれど、文字通り逃げた。
4へ続きます。