1-12 早すぎる
ブックマークありがとうございます!
あまりにも話が進まないので加速しました。
抜けていたところがあったので書き足しました
2020/07/16/17:56
「ルナフだけでなく、松村圭太も変わってしまう」
俺の問いにユイは淡々と答えた。それも、俺が予想していた事態よりも悪い答えだった。そりゃそうだ。今俺はルナフと同化しかけている。ルナフに影響があるなら俺にも影響があるのだ。
「とは言ったけど、影響を可能な限りなくすことはできる」
「あるのか?」
ユイはコクリとうなずくと指を鳴らす。すると俺とユイの横にパネルが現れた。SFとかでよく見る、空中に浮かぶ電子パネルみたいなものだった。
そこには56%と書かれているだけだった。
「これは松村圭太とルナフのシンクロ率。最初は46%だったけど二回目の測定では52%まで上昇、三回目である今回は56%まで上がっている。この数値が重要になってくる」
「シンクロ率にも種類があるんだよな」
Nが言っていた。オリキャラが完全にのっとって作者の人格がなくなった100% 、逆に作者が完全に制御する100%、足して2で割った人格の100%
「そう、このシンクロ率はどれほどオリキャラと同化できるかの数字なんだけど、この同化の条件が曖昧なんだ。これはねそれぞれの人格の抵抗力を測定して数値を出している。片方の人格が表に出ているときに、もう一つの人格がどれほど抵抗するか。乗っ取り型の二つはもう一つの人格を追い出しているから抵抗値ゼロ、だから100%になる。共存型はお互いを抵抗なく受け入れることだから抵抗値ゼロとなって100%になる」
そういうことかのか。確かにそれなら今までのシンクロ率の説明とかも理解できる。Nが俺を追い出したから100%になったと聞いた時は同化していないのでは? と少し疑問に思ったが抵抗値を基に計算しているのならば100%と測定されたのも納得だ。
「そのシンクロ率がどう関係してくるんだ」
「一言で言うならば相互に監視するって言うこと。相互監視だから共存型じゃないといけない」
「相互監視はできないんじゃないか? 文字通り同一人物になってるし」
そう尋ねるとユイはククッと少しだけ笑う。思わず笑ってしまったという表現が一番近いのかもしれない。
「ごめんごめん、予想通りの質問だったからつい……。共存型っていうのは同じ人格が二つになるっていうこと。統合ではなく、同じものが二つできるんだ。簡単にいうと並列思考ができるようになる。片方が変化しても、もう片方と違うと気づくことができるようになるんだ。そのおかげで修正できるようになる」
同じものが二つできる。お互いにバックアップしあって変化があったら正すということか。
ユイは手をパンと叩いてニッコリとする。草原を風が走ると夜空などが再び消えていく。
「その解釈で問題ない。難しい話が続いて疲れていると思うから少し休憩しよう」
草原が消えた後に描かれたのは橋の上で夕陽が眩しく、美しい光景だった。何処か見覚えがあるやつだと思い記憶を辿ると頭の中のNが好んで使っていた時計塔がある街にある橋だった。作中では何度かNが壊している。何度も壊されるから印象が強くて細部まで想像していたのだ。
「まるで頭の中にいたNみたいだな」
「ここは君の頭の中だと言ったはずだ。それに私はNの師匠にして七色の魔法使い。Nにできて私にできないことはない」
ユイがパチンと指を鳴らすとNがよく紅茶を飲む時に使っていたテーブルと椅子が出現する。テーブルの上には何故か緑茶が入っている湯呑みが置かれていた。沖田ユイの名前からして日本人っぽい設定にしたから緑茶を好みにしたのかもしれないが今は思い出すことができない。
緑茶を出すなら縁側か畳にして欲しかった。
ユイは三角帽子を外して椅子の背もたれに置くと私に座るように促してから自分も座り、緑茶を一口飲む。俺も椅子に座り緑茶を飲んで一息つく。温かいお茶だった。
「「ふぅ」」
大師匠のユイが緑茶、師匠のNが紅茶、ならば弟子のルナフは何になる? ユイなら知っているかな?
「ルナフはホットミルクだったよ」
「ナチュラルに心読むな」
「読んでいないよ。ただ、作者なら何を考えているかを予想していただけ」
ユイはもう一度指を鳴らすと俺の前だけにマグカップに入ったホットミルクが現れた。マグカップを手に持ち顔を近づけて匂いを嗅いだ瞬間に『これだ』と思った。
「作り方は小さめの鍋にコップ一杯分の牛乳と砂糖をひと摘み入れて弱火で茹でる。膜が張らないように掻き混ぜながら沸騰直前、鍋肌が沸き始めたら完成。牛乳は低脂肪乳、砂糖を入れなくてもいいし蜂蜜を入れるのもいい。ただ、作中では砂糖タイプのホットミルクを好んで飲んでいた」
「ユイは何でも知っているんだな」
「七色の魔法使いだからね。RPGなら賢者のポジション」
ふふん、と少し自慢げにユイは言う。彼女のことを聞いていると作中では超重要ポジションで特別な存在なのは明らかだ。七色の魔法使い、主人公の師匠、過去の大英雄。所謂特別な存在なのだ。それを祝福と捉えるか呪い捉えるかは人によって違うが、彼女は見る限り呪いとは思っていないようだった。
「流石だな。他にも聞いていい?」
「いいよ。人と会話するのは私の趣味だから」
ユイは機嫌がとても良いのか笑みを浮かべながら体を揺らして俺の質問を待つ。こうしてみるとただの女にしか見えない。
「Nは何処だ?」
ここが俺の想像した世界、他の言い方をすると俺の頭の中なのだ。頭の中ならばNがいてもおかしくはない。そもそも本当ならNがいないとおかしいのだ。
「私にも分からない」
ユイは申し訳なさそうに首を横に振りながら答えた。
「手詰まりか」
「心配することはないと思うよ。あのNのことだからフラって戻ってきそう」
「否定できないな」
俺もそう思えてしまう。だが、ユイの答えは最悪の答えだった。Nですら対処できなかった事態を七色の魔法使いも把握していないということ。この2人がダメならば本当に俺たちだと何もできない。
記憶体であるNは命がないから殺すことはできない。そもそもNは俺の頭に居候のような状態でいたんだ。俺が無事ならばNも無事だとは思うけど。
「は〜い、スマイルスマイル」
「ふにゃむ」
ユイがテーブル越しに頬を摘んで無理矢理口角を上げさせられる。
痛い
頬を摘む必要はないと思う。
「Nの問題は情報がないから手の出しようが無い。それに、今はその話ではなく授けられた能力について話す場だよ。あまり時間もないし」
「時間がないって、何か問題でも?」
「あと十分私の前にいたら1D6/1D100のSAN値チェックが入るよ」
「お前は神話生物か!」
SAN値チェックをざっくり説明すると正気でいられるかということ。正気でいられなくなったら発狂するかも。
「死人だけど」
「そういえばそうだった」
一応ルナフがいる時代ではユイは死人になっている。
「お墓参りしたほうがいいか?」
「してもらえたら嬉しいよ。仏花はいらないからキビヤックをお供えしてほしい」
「俺を殺す気か!」
キビヤックはシュールストレミングとまではいかないが臭い食べ物だ。アザラシの腹の中に鳥を入れて土の中で発酵させて作る食べ物だ。
「仲間が欲しいからね」
「三途の川の向こうにいるぞ」
「この橋の下、三途の川だよ」
「俺死にかけている?!」
「冗談だよ。少しは楽になった?」
「楽になったよ!」
ツッコミでガス抜きをすることが出来た。正直体力を使うからやめ欲しいけど。もしユイがマシンガントークしていたらストレスで倒れていたかも
「そういえばマシンガントークしないな」
「時間が無いからね。流石に私が一方的に話すのはまずいから」
「時間が無いのは本当だったんだ」
ユイはコクリと頷くと再び緑茶を一口飲む。フゥと一息つくと話始めた。
「それじゃあ本題に戻ろう。他者の作品の影響を受けやすくなるのが与えられた力。だけどその力自体がオーバーワールドを倒す力ではない。その力の先にオーバーワールドを倒す力がある」
「そのために、物語を聞かなければならないんだっけな」
「その通り。だけど聞くだけじゃない。その物語は何が目的で話が進んで、主人公がどういった気持ちで物語で生きたか理解しないといけない。あとは、じきにわかる……ッ!?」
ユイはそういうと突然立ち上がり下流の方を見る。何か見えるのか疑問に思い同じ方を向いてみるが大きな川が流れているだけだ。
「嘘でしょ……あいつが直々に来るの?」
ユイはそういうと三角帽子を被り七色の魔力を循環させ始める。
ピキ
音だった。何処から聞こえてくるのかわからないほど小さな音。状況的に下流方面で異変が起きたのは明らかだった。
「どうやってこの物語に辿り着いたのかはどうだっていい。対処のしようがないからな」
空にヒビが走る。
「この物語に辿り着いて読んでくれて嬉しいけど勝手に変更するのはやめて。二次創作は原作者の見ていないところでやって」
ヒビは広がり空間がボロボロと崩れ始める。
「2人とも、良く見ておきな。あれが敵だ。制限があって弱体化している筈なのにここまで踏み込んできやがった」
瓦礫のように崩れて穴となる。そこにあったのは巨大な目だった。その目がギョロギョロと動くと小さい俺たちのことを見つけたのかこちらを凝視する。
その目を見た瞬間に感じ取る。龍脈の中にいた時に感じた巨大生命体のエネルギーの塊と同じくらいのエネルギーをあの目は持っている。
「あれで……弱体化しているのか?」
「そう、この世界にまで入り込むまでに制限があったから……」
目が怪しく光ると街の一部が消滅した。それと同時にあそこに何があったのか思い出せなくなる。何があった? 街に囲まれたあそこには何があった?
「それでも能力は健在か」
ユイの声は小さく、震えていた。
「ユイ、あれは何だ?」
英雄が恐怖するほどの相手であることはエネルギー量を感じれば分かる。だけどあんな奴この物語にはいなかった筈だ。ユイが恐怖で震える奴なんていない筈だ。
ユイは答えの代わりにソレに向けて叫んだ。声を大きくして、力を入れるために。これから相手する敵に立ち向かえるように。
「気づくのが早いんだよ!オーバーワールド!」
加速しすぎました。




