1-10 物語では語られない過去がある
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『どういうことだ八刃! あいつはもう動ける体ではなかった筈だ!』
『……私の権能で無理矢理起こした。あとは連鎖反応で制限が無くなる。数時間ならば時間を稼げるって』
『血迷ったか! あいつはもう死を待つことしか出来なかったんだぞ! いくらお前の権能でも延命措置にしかならない!』
『だから自分が犠牲になるって彼女自身が願ったのよ! 自分は長くはない。だから今のうちに体勢を立て直してって……後は頼んだって』
『っ……』
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【未来は頼んだ】
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『和也はどこ行った?』
『置き手紙があった。ユリアがいる場所に行くって』
『そうか……他のみんなは?』
『最後の晩餐を楽しんだり、大切な人と過ごしたり……和也同様に明日を待たずに楽になった者もいる』
『お前はこれからどうする?』
『悪あがき……これを、未来に託す』
『未来なんてないぞ』
『可能性はある』
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【可能性はゼロではない】
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『あなたは?』
『私は…僕? 俺? あたい? 自分? 我? 儂?』
『私は[削除済み]。大丈夫、私はあなたの味方だから……味方は私たちしかいないから』
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【たとえ孤立無縁になっても】
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『これだ、ポラリスの科学者の案を使うわ。これならやり直せるぜ』
『でも問題が、座標はどうやって決めるの?』
『一つだけ、可能性がある。アカシックレコードの記録が正しければ座標はこれで決められる。その為にはあいつの本拠地に向かわないとアカンな』
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【最後まで諦めるな】
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『仮にやり直せたとしても今の私たちじゃ』
『その為に準備をするんだ。そもそもあいつを倒すのはアタイじゃない。これを託せる人を探さないと。この最後の鍵に適合する鍵穴を探さないと』
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【これを貴方に託す】
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『これは……って5人目の!?』
『黙ってろ。この世界はもうあいつの世界だ。何処から聞いているかわからない。お前にしか頼めないんだ。全ての可能性を知っているお前にしか。自分は表で囮になるからその隙に鍵をぶっさせ』
『わかった。だけど全てを説明する時間は……』
『大丈夫だ。あいつには[削除済み]の沖田ユイがいる』
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【これは起死回生の一手】
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『よりによってあんたからこれを託されるとは人生何があるかわからないけど面白くなってきたね。ねえねえどんな気持ち? 敵になるかもしれない相手にこんな力を預けるってどんなへぶぅ……え? 竜王いないのに何で?」
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【人間の最後の力だ】
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何かの回想だった。文字のみ光景。それを頭の中に直接刷り込まれた。
空白となった自我を何かが塗りつぶしていく。
まず黒色が上半分に塗られる。その次に深緑色が下半分に塗られる。再び上に戻ると黒色を下地に様々な色の点が付けられていく。しばらく見ていると満天の星を描いていることに気付いた。
視線を下に戻すと深緑一色だった地面に陰影が現れて立体的になりやがて草原となる。
シャラン
前から鈴がなるような音がしたから目を凝らして見てみると空間に白線が走っていく。
【Nの師匠は誰か?】
いや、文字だった。
俺が彼女を想像したときにノートに書いた自分への問いかけだった。彼女もルナフと同様に物語の進行上必要だったから想像したのだ。
【Nが尊敬するほどの人物】
文字は分岐する。
Nの師匠という立場上、ただの魔法使いではダメだった。Nが追いつきたいと思えるほど、その背中を追いかけたくなるほどの存在。
【そして現代では故人となっている】
文字は命を創る
そんな人物ならば現代でも生き残っていてNと同じくらい知名度がなければいけない。だが、その時まで書いた物語には伏線も何もなかった。当然だ。Nの物語は衝動的に、行き当たりばったりで書き始めた物語だったから。
だから辻褄が合うように過去に亡くなっていないといけなかった。
【何にやられた?】
文字は姿を創る
ではそんな人が亡くなった原因は何か? 何故現代では伝わっていなかったのか? どうしてNだけが知っていて生きているのか? 最後にNに何を伝えたのか?
「それが今後の展開とどう関係してくる?」
文字は声となる。
「息災だった? ルナフにとっては数時間ぶり、現実時間においては1分ぶり、読者の時間軸では4ヶ月ぶり。色々と大変だけど目の前の問題から片付けておこう」
大師匠、沖田ユイ
自分が作った設定の筈なのに一体どういうキャラなのか理解することは出来なかった。
名前的に日本人転生者かと思うけど彼女想像した時は『なろう』読んでいなかったから日本人転生者の発想すらなかったと思うけど……
まあいっか。今は関係ない。
ユイが言ったように目の前の問題から片付けていこう。
「ここは?」
「ここは何て言うんだろうね。あなたの頭の中と言うべきかな?」
ユイはいつだかと違って簡潔に答えてくれた。
「頭の中?」
「あなたが想像した物語の中と言うのが正しい表現かな?」
ユイはそういうと笑みを浮かべる。悪巧みをしているときに、計画が上手くいったときのことを思い浮かべたときにする笑みだった。彼女のことはあまり分からないのに彼女の感情を理解することができた。
「さあ、物語を続けよう」
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