1-8 巨大な生命
いつもありがとうございます。
そして今回は短いです。
暑さで思考が……
「まずは心を落ち着かせる。目を閉じて深呼吸するさ」
言われた通り目を瞑る。視界が真っ暗になり何も見えなくなる。深呼吸をする自分の息だけが耳から聞こえてくる。何度か深呼吸をしていくうちに余計なことを考え始める。
ーーこれで出来るのでしょうか?
「深呼吸するたびに頭の中が空っぽになっていく。頭の中が真っ白になっていく」
辛うじて聞こえる音量で龍崎さんが言う。
ーー頭が真っ白になっていく
「zzz」
「寝るな!」
叩き起こされた。
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深呼吸をし、心を落ち着かせて余計なことは考えないようにする。
「そのまま意識を地面に地中に持ってくるさ」
地面に意識を持ってくる。ゴツゴツと固い地面から地中へと意識を向ける。エネルギーの流れ。水のように流れていて、
その流れが私の意識に気づいたのかエネルギーの糸を伸ばしてくる。
不思議と恐怖はなかった。自分の身に入れたら死んでしまうかもしれないのに私はそれを受け入れた。
地表にあった私の意識を龍脈の糸が絡め取り、ゆっくり沈んでいく。痛くもなく、寒くもなく、心地よいものだった。
龍脈の本流に意識が到達すると糸は解けて私の意識は龍脈に流されていく。
『こっちだよ』
誰かがそう言った。何処から聞こえてきたのか分からない。だけどその声が聞こえたと同時に龍脈の流れが変わる。線路が切り替わるように流れは深い場所へと向かっていく。深い場所に潜っていくのと比例して私の意識は薄くなっていく。自分以外の周りに意識が向いているのが正しい表現かもしれない。地面に張り巡らされた、星に張り巡らされた龍脈が自分の感覚と少しづつ繋がっていくのを感じる。
『こっちこっち』
龍脈が流れを変える。更に深い場所へと潜っていく。感覚は更に広がっていく。それでも龍脈の全容を感じることができない。
『そうそう。そのまま』
流れていく。自分が何処にいるのかも分からなくなる。
『今はここが終着点』
龍脈の流れが変わり同じ場所をグルグルと回る。ゆったりと流れていて、流れるプールで浮き輪に乗って流されているような感覚だった。感覚は広がり続け色々なものを感じられるようになった。地表方面には小さなエネルギーの塊が無数に存在している。
自分より下の方には巨大なエネルギーの塊の気配がする。だけど感覚は届かない。どれだけ伸ばしても届かない。
どれだけ感覚を伸ばしても届くことはないだろうと思った。
声はその巨大なエネルギーの塊の方から聞こえてきた。声は中性的で年齢もわからない。
『ここは何処だと思う?』
龍脈に問いかけられる。
ーー龍脈?
『あなたは誰?』
ーー松村圭太? ルナフ? 人格が私よりだからルナフ?
『ルナフは龍脈?』
ーー違います?
『龍脈を感じて』
龍脈に意識を向ける。広がった感覚でも龍脈の全容を見ることはできない。流れは無数に枝分かれしている。枝分かれした龍脈は他の龍脈と繋がることなく更に枝分かれして細分化されていく。
流れに逆らって上っていくと龍脈が集まっていき巨大な流れを形成していく。大河……海と表現するほど巨大エネルギーが流れていた。その流れも同じ大きさの流れが無数に存在している。更に上っていくと、声よりも巨大なエネルギーの塊の気配がした。
心臓のように鼓動して龍脈へとエネルギーを送り出している。その鼓動によって送られたエネルギーは龍脈全体へと伝わっていき、やがて私に到達する。到達したエネルギーは私の意識を通過していく。それはカラカラに喉が乾いた時に水を飲んで全身に水が巡っていくような感覚だった。
『生物は皆生まれながらにして巨大な生命の一部、巨大な生命の恩恵を龍脈を通じて受けながら生きている。人間の体内に生息する微生物のように、私たちは巨大な生命の活動に必要な存在。逆に私たちは巨大な生命の恩恵なしに生きてはいけない』




