天災の日
4日連続更新突破
「戦争が始まっても巻き戻しは起きなかった。寧ろ終戦になりそうになると巻き戻しが起きて次のループでは戦争が長引いた。やがて日本は滅びて私たちは守る人、国、モノを失った。そして地球から文明が消滅した。そしてまた巻き戻しが起きると今度はより残虐な手段で戦争が行われる時間軸へとなった」
聞いても想像することが出来なかった。文明が消失するほどの大戦、日本が滅びて家族が友人が、皆んなが死ぬ。文明は消滅して人類は絶滅しかける。それが何度も何度も繰り返される。終わりの見えない戦争をずっと続けて命をかけて戦い続けるなんて俺には想像できない、その場にいてもすぐに戦意を失っている筈だ。
それでも龍崎さんたちは戦い続けた。未来を取り戻そうと、他の人には忘れられた時間を何十年とずっと戦い続けた。守りたい人石を投げられて罵詈雑言を浴びせられても戦い続けた。
それを嘲笑うかのようにオーバーワールドは時間を巻き戻して地獄を作り続けた。
「認めたくなかった……。だけどかつて戦争を止めようと巻き戻しを起こしてくれた『巻き戻しの人』は戦争を起こして楽しんでいるって!」
龍崎さんは怒りを堪えるように、叫びそうになるのを堪えるように、涙を流しながら吐くように言った。そこには憎悪が、怒りが、悲しみが混ざっているように聞こえた。
人が死んでいくのを楽しむ、街が焼かれるのを楽しむ。終わったらまた繰り返してより残酷な手段を取らせるようにする。
そんなの悪魔としか言えない
龍崎さんは涙を拭い興奮を抑える為に深呼吸すると
「だから私たち因果から外れた覚醒者たちは地獄が始まるあの日を、2018年6月14日を『天災の日』と呼んだ」
だから『天災の日』と呼ばれるようになったのか。
「因果から外れた者たちの間では『巻き戻しの人』は敵だという共通認識が生まれてやがて『巻き戻しの人』を探して止めることを目的として動くようになった。そして数人と共に巻き戻しを止めることを目的とした『末世の北極星』を結成した。荒廃した未来を回避する為、地獄を繰り返さないように人々導く為に」
ポラリス、確か英語で北極星を意味する。北極星は古くから暗い夜道でもその輝きで人々を導いていた。そして龍崎さんたちは未来へ導く為に北極星となった。
龍崎さんはもう泣いていなかった。
「あの地獄を見たくない。友人が死ぬのを見たくない。あの憎悪が篭った目で見られたくない。皆んなを守りたい。だから『巻き戻しの人』を止めて、時間の針を進ませるのさ。その為に仲間と杯を交わして誓った」
俺にではなく自分に言い聞かせるように、戦う理由を思い出すように、覚悟を決めたことを思い出すように龍崎さんは言った。
「長々と話したけど私がポラリスを結成して戦おうとなった理由とその背景はこんな感じさ」
「俺が……私が戦う理由は」
わからない
龍崎さんは俺が何となく理由に思っていた『時間を進める為』とほぼ同じ理由だがそれに込められた気持ちが全く違った。地獄を見たんだ。地獄を経験したんだ。だからこそ回避したい。
恐らくNもその地獄を経験してきたんだ。Nがだって嘆き苦しんでいた筈だ。
Nたちの世界は戦争が少なからず起きていた。戦争仲介人であるNは各地に赴き戦争を止めたり終わらせるために活動していた。だからこそ防げなかった戦争に、止めることが出来なかった戦争に無力さを感じていたかもしれない。物語で出来たことが現実では出来ない。でも足掻き続けた。『因果の脱出』のメンバーとして未来を取り戻す為に。
それに対して俺は過去に起きたことを知ろうとせずに教えられたことに従って何となく動いていた。何も考えずに動いていたんだ。
俺も自分でバルデに言った固定概念に囚われていたんだ。Nに従っていれば大丈夫だと。
俺は大馬鹿者だ。
ここは俺の想像の世界ではない。
現実だ。
物語通りNがいれば万事上手くいくわけではない。Nに従っていても間違うことが絶対にある。自分の目で見て自分で考えて自分の意思で行動しないといけない。
天災の日以前の俺のままでいてはいけない。
「今はなくても良いさ。だけど、いつか戦わないといけない時が必ず来る。それまでに戦う理由を見つけておいた方が良いさ」
何も言えなくなった俺を慰めるかのように皺皺になった手で俺の頭をゆっくりと撫でる。
「そして覚悟をしておいて。今がどうなっているか私には分からない。状況が好転しているかもしれないし悪化しているかもしれない。好転しているなら良いけど悪化していた場合貴女も私たちのように地獄を見なくてはいけないから。そして戦場に出るかもしれない」
「はい……その為にも、現実に戻らないと」
数話前で最短7話とか言っていたんですが軽く20話越しそうです。