憧れの人
久しぶりの連日投稿です。
ブックマークありがとうございます。
雲しか見えない空と電源がない時計しかない状況で時間を計測する手段は限られる。
俺たちは龍崎さんが持っていた三十分計れる砂時計を一人5回ずつ使って2時間半ずつ見張りをしていた。この間にもしも蜘蛛人間が来たら寝ている二人を叩き起こして迎撃することになっている。
幸いにも一番初めのNと俺の時は来なかったからその間寝ていた人は熟睡とは言えないが体を休めることができただろう。
砂時計は俺の番になってから既に五度目の計測になっていて砂も半分以上落ちている。全て落ちたら龍崎さんを起こしてもう一度寝るのだ。
龍崎さんは壁寄りかかるように座って刀を側に置いた状態で寝ている。眠っている筈なのに
それに対してNは床で腕枕をして眠っている。規則正しく体が動いているのでしっかり眠れているのだろう。
「会って間もない私に警戒しないとはいい度胸じゃないか」
龍崎さんの方を向くと目をしっかり開いてこちらを見ていた。殺気は篭っていないが鋭い眼光は俺を震えさせるには十分だ。
「一体倒すのに苦労した蜘蛛人間が大量にいるこの世界で何十年も生きている人に命を狙われたら敵いませんし、何かあったらNさんが起きていると思うので。それと、起きていたんですか?」
「眠るのにも体力が必要でいっつも早起きしてしまうのさ」
龍崎さんは俺の答えに頷きながら立ち上がると固まっていた体をほぐすように腕を動かす。老婆だというのに腰は曲がらず動きは滑らかだ。
「もう起きちまったから代わると言いたいけど幾つか聞きたいことがあるがいいかい?」
「別に構いませんが何を聞きたいのですか?」
「本当にオーバーワールドを知らないか? 全くオーバーワールドの脅威になりそうなキャラではないのにここに落とされたのは可笑しい」
それは俺が聞きたいことだ。ただ修行していたのにいきなり視界が暗転して気がついたらここにいたから誰かに襲われたという自覚はない。パンゲアさんもあの慌て方からして落とした犯人では無い。
「わかりません。落とされた理由としてありそうなのは使徒のパンゲアさんと友人だからでしょうか?」
「もしくは自覚ないがオーバーワールドの逆鱗に触れたり手がかりを手に入れたとか」
自覚無しでは無いがNは巻き戻しの犯人であるオーバーワールドの正体を知っている。だがそれをNは教えようとはしなかった。
「確認をする前に落とされたから確証は得られなかったが私はオーバーワールドの正体を知っている」
「え?」
龍崎さんはNがの方を一瞬見て起きていないのを確認した。そして俺の方を向いて少し吹き出した。恐らく俺が間抜けな顔をしているからだろう。
「そいつに問いただそうとする前にオーバーワールドの手下である使徒に襲撃された。まるで他の仲間に伝わらないように口封じをされた」
「使徒? 使徒は仲間なのでは?」
「使徒は特急特異点の眷属さ。神さまとオーバーワールドは両方とも使徒を保有している」
と言うことは使徒並みの力を持った覚醒者が敵にもいるということか。味方の使徒はパンゲアさんしか見たことがないから分からないが相手には一体何人いるのだろうか?
「そしてその時私はNと共闘している」
「え?! でも、Nは知らないと」
Nは龍崎さんと会った時にハッキリと知らないと答えた。あそこでわざわざ嘘をつく必要はない。それにお互い知っているなら自己紹介を要求することもなかった筈だ。
「ああそうさ、オーバーワールドに記憶を上書きされてしまったんだろうさ。オーバーワールドにとって私は邪魔になったから全ての記録を抹消したのだろう。ただ行方不明となっていれば仲間が探していてその情報はあんたの耳に入っているだろうさ」
「そんな力が」
「みんな巻き戻しと呼んでいるが正確には上書きしているんだ。少しずつ自分が望む世界へ現実世界を上書きしているのさ」
世界上書きすることによって自分が望む世界へと変化させる。首都防衛線でドジョウの大軍が出てきて東京を壊滅させた時はオーバーワールドの望む未来ではないから上書きして世界を巻き戻した。そして俺たち因果の脱出が弩ジョウを撃破して被害者は出なかった。
ドジョウの大軍も八葉さんが裏で対処していたから首都が壊滅しなかったことにより二度目首都防衛線以降も時間は進み続けているということなのか
「だから上書きの世界って言うんですね」
「その通りさ」
そうなると世界を救っているようにしか聞こえないんだが?
「話は変わるけど何故巻き戻しに抗おうとするのさ」
「決まっていますよ。時間を進めたいからです」
「それは、あんたの意思なのかい? 松村圭太。私にはあんたに意思があるように見えない」
「俺は自分の意思で……」
龍崎さんの言葉に言い返しかったが言い返せなかった。俺は自分の意思で動いていると言いたかったが言えなかった。
言い返せない俺に龍崎さんは優しく尋ねる。
「周りに言われたから、師匠に言われたから、みんなそう言っているからって流された訳ではないと言い切れるのか?」
「それは……」
俺には言い切れなかった。ルナフに覚醒者として成った時からNの言葉に従っていた。巻き戻しを止めようと言ったのはNでそれに俺は従った。Nの言葉なら間違いないと俺もルナフも思っていた。
俺にとってNは憧れでその背中を追いかけている。
俺はなんでも器用にこなして信念を曲げず自分の意見を言えるNに憧れた。Nは俺の中で想像上の理想の人だった。
だからNに従っていれば大丈夫だと心の底で思っていた。
私は逆境に立たされても苦しい顔をせずに仲間と協力して前を向き続けるNさんに憧れた。Nさんは私が初めて出会った理想の人だった。
だからNさんの後ろを歩いていれば大丈夫だと心の何処かで思っていた。
グダグダ進めてきましたがようやく主人公がスタート地点に立とうとしています(まだ立っていない)
ポラリス編は龍崎との話でもあり
ルナフ (松村圭太) が戦う理由を見つける章でもあります。
楽しんでいただけたら幸いです。
次回もお楽しみ
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沖田ユイ「出番が来るまで牢に入れられたから独り言でずっと話していいてことだよね? いいんだよね!ふふふ私に出番が来るまでと言うことはへぶぅ」
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追記 2020/3/4
見返していたら松村圭太の妹の名前が結衣で沖田ユイとかぶっていたので妹の名前を綾香にします。
沖田ユイ「絶対妹の名前覚えている人なんていない……へぶぅはやめて、短く纏めて言うから」




