閑話: 七色の魔法使い
いつだか予告していた100pt達成と10000pv達成と一章完結記念です
《沖田ユイって誰?という人は一章の『放置』で名前だけ出ているよ》
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三日月と星空
そして血まみれの魔女
魔女は大きな三角帽子を外して傍に置いておく。悠久の旅路を彼女の頭の上で見守ってくれていた相棒とも言える存在。旅の始まりから終わりまでずっと身につけていた生涯の友。だけどここが終着点、彼女の命はここで尽きようとしていた。
後の歴史に語られることがなかった幻の魔女、沖田ユイ。彼女が得意とする魔法……否、奇跡は誰も再現することが叶わなかった。なぜなら彼女を知る者は全員亡くなったため知ることすらできなかったからだ。その奇跡を見たものも誰も生きることができなかった
「ユイ!」
はずだった
彼女が目を開けると涙をポロポロと流しながら回復魔法をかけている黒髪の魔女がいた。ユイのお腹には腕が通るほどの大きさの風穴がある。それが徐々に塞がっていく。だが、ある程度ふさがるとまた開き出血が治ることはない
「そんな……」
「無駄だよ」
彼女の両手を掴む。黒髪の魔女はその手を握り返し全力で回復魔法や解呪魔法をかけていくが
無駄だと悟ったのか黒髪の魔女ゆっくり手を下ろす。だが手は離すさなかった。互いに血に濡れた手を離さなかった。
涙を流しながら黒髪の魔女はユイに優しく抱きつき嗚咽をもらす。ユイはそっと頭を撫でる。
「やだ……いやだ!一人にしないで!」
「ごめんね……」
「やだ!」
黒髪の魔女が駄々をこねるように首を横に降る。ユイは困った顔をする
「あのお姫様は?」
「……最後に、ありがとうと」
「そう、解放されたのね」
戦争が始まる前までは国民から愛される可愛い王女様だったが世界に絶望してしまい、世界を滅ぼすために『終末を告げる獣』へと姿を変えた。終末を告げる獣となった彼女を救う手段はなかった。敵味方関係なく対界級の攻撃をして第一世界と第二世界がくっついてしまったほどだった。
あと一歩遅かったら世界が2つ消滅していたはずだ。無論、そこで暮らす生物は絶滅する。終末を告げる獣が現れたら死ぬのを待つしかない。だが神は用意していた。終末に抗う三体の守護者を
魔法使いの頂点である七色の魔法使い
この次元の誕生から世界を見守る竜王
世界の危機に呼応して召喚される勇者
沖田ユイは七色の魔法使いとして終末を告げる獣になってしまった王女に仲間と挑み相打ちで倒せたのだ
ユイはホッとしたのか意識を一瞬失いかけるがまだ目の前にやり残したことがあるのを思い出して意識を保つ
ちゃんと伝えないと
「七色の魔法使いになって」
「私が?……そんなこと言わないで! お願い!生きてよ! 七色の魔法使いならこんな怪我すぐに治せるでしょ!」
ユイは首を横に降る
そもそも魔力が尽きている。それにユイは七色の魔法使いだけど回復系の魔法は苦手だ……というか必要なかったから
「あなたなら七色の魔法使いになれる」
「無理よ!」
「無理無茶無謀はあなたの十八番でしょ……終末を告げる獣に突撃魔法を使うなんて」
一撃でも攻撃を食らったら致命傷に成りかねない相手に一番槍で流れ星した。それでも生きている。守護者でもないただの魔法使いが生き延びている。
黒髪の魔女には素質がある
守護者として重要なことは誰よりも生き続け戦い続けること。彼女はあの戦場にいたのにこうして生きている。守護者たちよりも長く生きている
しかも沖田ユイは魔力が尽きているのに黒髪の魔女は回復魔法をかけるほど余力がある
「いつか世界に絶望する日が来るかもしれない……だからといって世界を破壊してはいけない。終末を告げる獣はそういったものが成るから。世界を壊そうとする者に取り付いて力を与えるから……絶望しても自分が世界を変えると誓って。滅ぼすのではない、救うのよ」
「私が……救う?」
「そう、王女様のような人が二度と現れないように世界を変える……あなたにはそれができる」
ユイの焦点はあっていない
「私はね……あなたを守りたくて七色の魔法使いになった。あなたにこんなことを頼むのは本当は嫌なの。あなたに世界を背負わせることなんてさせたくない……だけどあなたにしか頼めない」
「七色の魔法使いになり、世界を救って」
「そして……これは七色の魔法使いとしてではなく私の願い……最後のお願い」
「いつか世界が平和になり、あなたが幸せを築いて一息ついたら振り返ってほしい。そこまで来るまでに通った長くて険しい道を。そして何を思うか……それまでは……こっちには来ないでね」
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三日月を眺めながらユイとの別れを思い出す
あれから気が遠くなるような時を修行して最強と呼ばれているが未だにユイのような奇跡は起こせないし七色の魔力も手に入れてない
どうやったら七色の魔法使いになれるかすらわからない。そもそもあれは生まれ持った属性ではないかと思ってしまう。私なら風属性だ
クカ〜……ZZZ
だけど守りたい人ができた
ルナフは私の膝枕でぐっすりと寝ている
あれから終末を告げる獣は現れていない。これも私に協力してくれた仲間たちのおかげだ。私一人ではここまでできなかった
私は世界中を飛び回り人々が絶望しないように戦い続けている。人々が安心して暮らせるようにどの国にも属さない中立の組織を作り国同士の調整や起きてしまった戦争の仲裁を引き受け人々が絶望しないように駆け回る
時々やり方を間違えているかもしれないと思う。罵倒されて落ち込むこともある。諦めかけたこともある
それでも……この子を守るためなら頑張れる
初めて出会った時はただの子どもという認識だったけど私の過去の境遇と似て自己投影したというか……同情したというか
とにかく、ルナフを守りたいと思った
仕事とかから帰ってくるたびに出迎えてくれて
「おかえりなさい!Nさん!」
って言われる日常を守りたい
この子が安心して暮らせる世界を守りたい
何気ない日常を過ごすことができる
これが幸せというのだろうか?
七色の魔法使い
全ての属性の魔法がたった一人で使える魔法使い
ユイは全ての属性を使って奇跡を起こして世界を救った
あんな魔法使いに私はなれるのかしら
ううん、ならないといけない
分かっている
私が今やっているのは世界の延命治療だということに
終末を告げる獣が現れるのを先延ばしにしているだけ
完璧で誰もが幸福な世界など作ることはできない
いつか必ず終末を告げる獣が現れる
だから終末までに七色の魔法使いにならないと
ユイ、見てて
貴方達が守った世界を
ルナフ、見てて
あなたの師匠は最強なんだから
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