レーヴァテイン
ブックマーク評価ありがとうございます
海面から浮上したパンゲアはルナフの方を横目で見る
「あの状態なら、問題ない」
そう呟くとパンゲアのことを睨んでいる弩ジョウの方を見る。体にわずかな傷が見えるがその程度である。重症にも致命傷にも至っていない。
現状、高低差があるから双方にらみ合った状態である。パンゲアが下に降りたらすぐに戦いが始まるだろう。弩ジョウは今か今かとパンゲアのことを威嚇する。
多くの人が見守る中、パンゲアはトライデントを頭上に掲げた。先端が一瞬だけ光ると海水が渦を巻きながら上っていく。付近の海流が狂い嵐のように海面がうねる。
「ちょっと! 地形破壊系の攻撃するなら先に言って!」
ユリアが抗議しながら船の舵を片手で操り、空いている方の手で空中に浮かんだモニターを操作する。
モニターには『試験用重力制御装置』と表示されていて。それを使用すると選択すると船が海面から少しだけ浮き揺れなくなる。船底には青白いラインが光っていて少しだけSFみたいになっている
パンゲアは二つの水柱を従え弩ジョウへと飛翔する。弩ジョウは体を大きくしならせてパンゲアめがけて鞭のように体をぶつけにいく。
だがその巨体から信じられないほどの速さと加速。生身の人間が当たれば即死は確実。ヘリコプターだって。下手したら戦車でも壊れてしまうのではないかと思えるほどの速さでぶつかりにいく。
見えていたとしても避けるのは難しい。
そしてその速度は
パンゲアが今まで見たものと予想の何倍も速かった。
「ッ……!」
二つの水柱をを動かして弩ジョウにぶつけて防ごうとしても間に合わないとすぐに判断、致命傷は喰らわないが避けるなら足は覚悟したほうがいい
そして彼女は右足を犠牲にすることを選んだ
結果
弩ジョウに大きく吹き飛ばされる。右足はあり得ない方向に折れ曲がり激痛で苦悶の顔をする
海中に落ちる直前でなんとか体勢を立て直すと再び水柱を出現させて向かっていく。そういう力があるのか折れ曲がってはいるが右足の血は止まっている
「二度は喰らわない」
もう一度弩ジョウへと向かっていくパンゲア。弩ジョウももう一度体をしならせて迎撃しようとする
「ハッ!」
掛け声と共にトライデントを振ると水柱の一つが弩ジョウへぶつかっていく
大質量の海水が弩ジョウにぶつかり僅かだが弩ジョウの体勢が崩れる。
続く二撃目の水柱
更に弩ジョウの体勢が崩れていく
「ヤァァァァァア!」
そこへパンゲアがトライデントを突き刺す。だが弩ジョウにとって人間程度の大きさのトライデントなど蚊に刺された程度
だがこのトライデントがただのトライデントであるわけではない。いかにも天使という姿をしているオリキャラが持つ武器がなんの変哲も無い武器であることはほぼない
トライデントが青く光るとトライデントが螺旋状に水に包まれる
水圧によって抉れる弩ジョウの体
血が吹き出したのか螺旋状の水が赤く染まっていく。
当然弩ジョウはトライデントを引き抜こうと海面に体を叩きつけるが、そこはパンゲアが離されないように能力や力と技術でとどまっている。
だがそれでも限界が訪れる。パンゲア自身が耐えることができなくなり。トライデントを回収して弩ジョウから離れてユリアたちの船に戻る。着地の衝撃で船が大きく揺れるがルナフは微動だにしない。
「出して!」
ユリアは追ってくる弩ジョウと離れすぎないように船を操作する。弩ジョウはそれを追うように海を突き進む
その間にパンゲアは変身を解いて右足を能力で直していく。
ルナフは目を閉じて全く動かない
その周囲には青白い光の粒が浮かんでいる。ただ漂っているだけで何か規則的に動いているわけではない
「来ましたか……」
パンゲアがそう呟くと
はるか遠くから業火が現れて弩ジョウにあたり夜の東京湾を明るくした
弩ジョウはわずかによろめく
「待たせたな!」
どこからか声がした
その声を聞いてユリアが安堵し
「遅いよ……バカ」
そう呟いた
海面を疾走する男
そう海を走っているのだ
因果の脱出の主戦力で剣チート。
仲間からは剣術バカと呼ばれている男
和也だ
ユリアたちの船に上がると魔力を垂れ流しているルナフを見て和也は冷や汗をかいた
設定では血縁者ではない
ただの子弟関係
似ているはずがない
なのにNに一瞬だけ見えた
「和也! 何やっていたの?」
ズバンと時計からハリセンを取り出して和也を叩くが効いてる様子はない
「ごめん! 鉄道で東京湾付近まで向かっていたけど乗り間違えた。遅れた分ここは任せろ!……ところでそこの天使みたいな人は?」
「うん、私もよくわからないけど協力者。ついでに因果から外れている」
「…………あ」
和也はしばらく考えて何か思い出したらしく手をポンとたたく
「知っているの?」
「いやなんで知らないんだよ。この人アメリカ軍相手に圧勝したヤバいやつだよ」
ユリアが「え?!」とパンゲアのことをまじまじと見るがとてもそうには見えないらしく首をかしげる
「え……こんな人だっけ。もっと神々しかったし。あんな弩ジョウ一撃で葬れたはずだよね」
パンゲアはユリアのことは無視して和也に尋ねた
「あの弩ジョウ……真っ二つ……できる?」
「大技だから動きを止めてくれないと難しいぞ」
追いかけてくる弩ジョウと先ほどの攻撃で判断する。あれほどの巨体を真っ二つにするにはチート持ちでも骨がおれる。和也の技は火力に比例してチャージ時間も必要となってくる
「足止め程度なら」
「いやあんた高火力を……ああ、Nが言っていたのってそういうことか。これまた厄介なのと会ってしまったけど……腹くくるか」
和也がパンゲアの状態に何かに気づいたが言わなかった
それに感謝したのかパンゲアは頭を下げる
「ユリア!」
「何? 」
「必殺技を使う」
「それって……たしか」
「ああ、使った2日ぐらい動けなくなる。その間……か、看病してくれないか」
一瞬だけ船が大きく揺れたがすぐに立て直す。ユリアはなんでも無いように操舵しているが耳が赤くなっている
ルナフは知らないが和也とユリアが付き合っているのは因果の脱出では周知の事実だ
本人たちはバレていないと思っているが
「……わかったよ」
このやり取りを見るだけでも察せてしまう
パンゲアがわざと咳払いして二人を現実世界に帰還させる。
和也は腰から剣を引き抜くと船尾で胸の前でか掲げる
「久しぶりだけど力を貸してくれ!」
剣が灼熱の炎に包まれる。ようやく弩ジョウがこの場において最も脅威なのが和也だと判断したのか先程までパンゲアに向いていた視線が和也へと移る。
それを確認してからパンゲアは再び飛翔すると弩ジョウの背後へと回り込む。弩ジョウは気にしているがわざわざ攻撃を与えようとはしない。攻撃を与えられたら反応するがパンゲアはそうしなかった。ただついて行くだけ。
パンゲアが無表情なまま両手をゆっくりと前に出すとパンっと叩いた
「大陸衝突」
実際にそこに大陸が現れたわけではない。そこに物体が存在していたわけではない。そこに何かあったわけではない
だが弩ジョウは動きを止めていた
何かに挟まれたかのように。必死に動こうとするが
その直後、炎が天に向かって伸びていった。昼間のように明るくなる
炎の元をたどると和也の剣であった。近くにいる和也たちに影響はないらしい。だが剣の周囲は陽炎が現れてその炎が幻ではないことを示していた
和也が踏み込むとそれに呼応するように炎がさらに激しくなった。
その剣は世界的にも有名な神話に出てくる剣。様々な物語やゲームに出てくる伝説の武器
「レーヴァテイン!」
闇夜を斬り裂き、弩ジョウに吸い込まれるように振り下ろされた業火は周囲の海水を蒸発させながら弩ジョウを焼き切った
悲鳴をあげることもなく崩れ落ちてゆく
浮かぶ死体
ルナフの必殺技を使うことなく弩ジョウに勝利した
「……ん?!」
異変に気がついたのは和也を介抱していたユリアだった。
船のレーダーに巨大な生物がいると警報を発したからだ。先ほどまでの弩ジョウは和也が焼き切ると同時に死んだと表示されている。となると別の生物だ
ユリアは気を失っている和也をそっと寝かせるとその場から船を遠ざける。戻ってきたパンゲアは何も言わずに死体となった弩ジョウを眺めていた。
船が動き始めてから少しして真っ二つになった弩ジョウを海中から更に巨大なものが飲み込んだ
「な?!」
ユリアが肩越しにその姿を視認すして
水しぶきを上げて現れる巨体
パンゲアは表情が全く変わらない素の状態なので何を思っているかわからない
「さすがだな、因果の脱出。それと天使よ」
Dr.Kがその大きな影の頭の上に乗っていた。
「そしてこの場を盛り上げてくれたことに感謝する。こっちが本命だ」
Dr.Kが乗っている弩ジョウは先ほどの何倍も大きく、前回の巻き戻しの時の弩ジョウよりも一回り大きかった。
超弩級とドジョウを掛け合わせて
超弩ジョウ
そう表現すべきか
「今の攻撃でその男は力尽きた。天使も今はこれを倒す術はない。そこの女も時間がなかったから兵器を製造していない。そこのガキはただのモブキャラだからこれを倒せるものはない」
「モブキャラ?」
パンゲアがモブキャラ、つまりルナフについて反応する
「主役……みんな」
「何いっているかわからんから黙ってろ!」
表情が乏しいパンゲアだが、明らかに怒っていた。こめかみがピクピクと動いている。だが言い返さなかった。
必要なかったから
準備が整ったから
「出番……ルナフ」
パンゲアが飛翔してその場を開ける。
その後ろに立っていたのは青白い光の粒を漂わせたルナフだ
ルナフは足を肩幅に開き右手を上に掲げた
そしてゆっくり目を開けた時
ルナフの左目がエメラルドのように輝いた
その左目の奥にはその場にはいないNの後ろ姿が映っていた
予定では次で決着、その後首都防衛のエピローグです
途中長期間休みましたがなんとか一章の終わりが見えました
《そろそろ日常パートも書きたいね》