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放置

反撃開始……できませんでした


次こそは


ブックマークなどありがとうございます

「プギャ!」

《浮遊可能時間が2分20秒……2分って見ておいたほうがいいね》


頭の中で体操着を着たNさんがストップウォッチを見て告げる。全快した魔力を全て使ってただ浮くだけの叛逆でたったの2分。実践に使うにはまだまだ先になることだろう


買ってもらったばかりの運動着を着て近くの公園で魔法の修行中。Nさん曰く、一度目の時に初めてアリスと出会った場所でもあるらしい


ちなみに私がルナフに偏っているのはNさんの体操着姿のせいである。自分好みの容姿をしたNさんが体操着を着て二人っきりっていうのは元男として色々とやばかったので早々にルナフに偏った。


でも


何というか


うちの師匠かわいい


《あのね、ルナフ。全部聞こえているんだけど》


Nさんが視線を少しだけ反らしながら注意する。だがその耳が赤くなっていることでさらに破壊力が上がる。


私の中の松村圭太が両手を合わせて拝んでいるほどだ。正直女の私からしても可愛くて仕方ない。


《師匠をからかうな! 次!》


さすが師匠と言うべきか、すぐに顔を元に戻すと次の修行方法を告げる。今のやりとりの間に回復した僅かな魔力を使って身体強化をして公園を走る。走るスピードが時速15kmを下回ったらそこで終了。


それからNさんの服は体操着の上から軍服の時のロングコートを羽織る。軍服は着ていないから完全におふざけ無しというわけではない。


少し真面目にやろうと自分の気持ちを切り替えるために羽織ったのだろう。そして私もコートを羽織ったNさんの前では軽い冗談ぐらいしか言えない


《あ〜……今回は問題ないから。自分で言った通り私が気持ちを切り替えるためだから》


わかりました


でも修行なんでそろそろ真面目にしますね



《了解、それじゃあ準備はいい?》


箒は背中に背負う

少し余裕が出てきたらマジックバッグを作ってその中に入れておくことができるが、いつ巻き戻しが起きるかわからない状態では戦闘に必要な魔法を最優先で覚える。


《よーい》

「やっと見つけた」


ポンと肩を掴まれる。振り返ってみると顔にススや油汚れがついた少女がいた。私の時間では昨日会ったばかりだが


「ユリアさん」

「ドジョウについて話したいことがあるからちょっとそこのベンチで話そうか」


私は構わないのですが

Nさん、いいですか?


《ドジョウについてなら断る必要はない。大人しくついて行こうか》


************


「飲み物奢るね。何がいい?」

「それじゃあココアで」


近くの自販機で買ってもらいベンチに座る。カシュっと開けて一口飲み二人とも一息つく


「Nに聞いたんだけどルナフちゃんってグロOKなの?」

「はい、人格がルナフに傾いているときは問題ないです。作中でもっとひどいのを見ているので」


貴族に捕まり蠱毒をさせられた日のこと


魔法使いになった日のこと


銀色の光の粒に囲まれて天井を突き破って現れたNさんのこと


走馬灯のように一瞬で流れていった。

そして、他の子どもを食べたときの味を思い出して動けなくなる


呼吸ができなくなる


《大丈夫……落ち着いて》


頭の中でNさんがそっと私を抱きしめる。

頭を撫でながら……


************


寝ようと思っても脳裏にこびりついて消えることがない


自分が生きるためとはいえ何の罪もない人を殺してしまったこと。相手が死の直前に見せた恨みと悲しみと苦しみがごちゃ混ぜになったあの顔がずっと取れない


首を絞めて窒息する直前に


「恨んで……やる」


と言われたことが耳に残っている


両親の元にはしばらく帰れない。自分が狂ってしまったという自覚はある。両親がそんなん私を見て受け入れてくれるだろうか?人を殺した娘など近づきたくないかもしれない


12歳でこんな性格になってしまった私を受け入れないかもしれない


「眠れないの?」


隣のベッドで眠っていた魔女が問いかけてきた。この人のことはよくわからない。助けてくれたのは感謝しているがどういった人なのかはわからない。名前がNというのもなんか嘘のように思える。


「はい」

「……私もそんな時があったよ。どうしても眠れない夜が」

「……」


なんて返せばいいかわからない。久しく会話などしていないから。ずっと殺し合いをしていたのだから。


「結局私は自分の記憶が薄れるまで眠ることはできなかった。疲労で気絶することはあったけど」

「……」

「ある程度薄れた時にね……ある人に助けられたの。確か名前は……沖田ユイ」


そんな人の名前なんて知らない


「ちょっとこっち来て」


魔女が手招きする。特に断る理由はないから大人しく魔女のベッドの横に立つ


「そうじゃなくて……入って」


魔女が布団をめくって私に入るように促す。何言っているんだと思い躊躇していると魔女に手を掴まれて引っ張られる。


あっという間に魔女と同じ布団に入れられた


そして魔女は私を抱きしめてくれた


「……?」


魔女の胸元に顔を埋めるように抱きしめられた。


「何を?」

「いいからいいから」


上げた顔をそっと押されて戻されてしまう。さらに魔女は私の頭をそっと撫で始めた


「♩〜」


歌詞はない

魔女は子どもを寝かしつけるようにメロディーを口ずさむ


昔お母さんにしてもらったときのように




温かい


魔女の体が温かくて一緒の布団に入っている私も温かくなってくる。


冷たい死体の感触がわからなくなってくる


気がついた時には自分から魔女に抱きついていた。魔女の胸に顔を埋めると魔女の鼓動が聞こえてきてそれがとても心地よくて。


あの恨みのこもった声が聞こえなくなる


もう一度顔を上げると押し戻すことなく微笑みながら見つめてくれた。


あのごちゃ混ぜの顔が消えていく


もっと近づきたくて抱きしめる力を強めると魔女も痛くない程度に抱きしめてくれた。


忘れていた人間の暖かさが蘇ってくる


他の人が人殺しである私をどう思うかはわからない。自衛のためだと許してくれる人がいるかもしれない


だけど人殺しであることに変わりはない

その人だって内心こわっがっていたり怪物だと思っていたりするはず


でもこの人は


そんな私に手を差し伸べ、受け入れてくれた


************


《♩〜》


あのときのメロディーを口ずさむNさん


いつのまにか呼吸は正常に戻り体は動くようになる


あのときのことは忘れることはできない


記憶は薄れたけど完全に忘れることはできない


そして私は忘れるつもりはない


そのせいで眠れない夜が来る時も


動けなくなる時もある


だけど


特別な言葉があったわけでもない

何か特別なことがあったわけでもない


ただ抱きしめられただけ


だけどあの夜、私は救われた

ユリア放置中


ブックマーク評価などよろしくお願いします


ドジョウ「出番まだ?」

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