叛逆
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前回同様に近くのホームセンターに寄り箒と夜間用のランタンを買う
他に何か必要なものってあったっけ?
《現状必要ないね、箒にまたがって乗るようになったらカスタマイズしてグリップとかつけるけど》
ずいっと顔を近づけて腰に片手を当てて右目を瞑って空いている方の手で人差し指を立てて言う
《私の流派は絶対立ち乗りだから》
立ち乗りって箒の上にか?
《それ以外どこに立つのよ?》
いや、高速で立ち乗りするんだから吹き飛ばされそうで怖いんだが。バイクの上に何も捕まらずに乗るようなものだろ
《私たちは魔法使いなのよ、慣性の法則とかの物理法則に反した法則。魔法を使っているんだから無視できるのよ》
************
《さて、こっからは君が書いた物語から真っ向から歯向かっていく。だけど……作者である君ならできるはずだ》
家の庭に出て魔力を通して加工した竹箒を両手で持つ。箒の加工は一度やったのですぐにできた。
NにもOKもらったし
これでようやく空を飛べるのか
Nが背中を向けて左手の指をパチンと鳴らす。Nの周囲に魔法陣が展開して光に包まれる。
光が収まると頭の中のNがおふざけなしの軍服姿になっていた。今までの修行、物語の中の記憶でも修行の時に軍服になったことはない。
表情も険しく、近寄りがたい雰囲気が出ている
記憶でしかないのに本当にNがそこにいるように見える。自分の目の前に、庭の一角に。
現実の視界に見えるほどの存在感を頭の中で放っている
今回の修行がいかに大切かがNの雰囲気でわかる。俺もそれにつられて緊張してくる。足が震えてくるのは武者震いなのか?Nに対する恐怖なのか?
《まだ腑抜けた面ね。今回は手加減なしでいくから……怪我をしても文句言わないでよ》
Nは頭の中の風景を巨大な時計塔の上に移す。夕焼けで照らされた街並みは俺が書いた物語の中でも屈指の絶景だ。以前Nと話した時は少ししか見れなかったが
《飛行するにはこの場所はうってつけね。眼下に広がる街並みは遊覧飛行の時には見ものだし……これだけの高所から落ちるのもいかに頭の中とはいえ恐怖を覚えるはず》
Nに手招きされて頭の中の自分の視界を時計塔の端まで移動させる。そこから地面を見下ろすと頭がクラクラするほど高く、真下の人たちが見えないほどだった。
《設定ではこの時計塔は400mに設定されている》
ポン
と背中を押された感じがした時には自分の足は屋根の外へと飛び出していて重力に従って落ちる
と思った時にはエリを掴まれていてプラプラと洗濯物のように揺れていた
現実でも本気で落ちるような感じがした。
《ではここで問題》
この状況でか?
Nは俺の抗議に耳を貸さずに続ける。
《私が教えた箒の飛び方は3つある。それは何か述べよ。間違えたら手を離す》
頭の中でもそれは嫌だ。さっきから現実のような感じがして怖いんだよ
飛び方?
座り乗りとかそういう意味じゃないよな
《飛び方というよりどういった魔法を使うかね》
ああ、それなら簡単だ
無属性重力魔法を使用した方法、物体浮遊といったところか。世の中の魔法使いのほとんどがこれで飛んでいたはずだ。
《1つ目は正解、補足すると念力系もこれに含まれる。2つ目は?》
2つ目は風属性の魔法を使用した方法。自身の保有している魔力が風属性じゃないと使えないから風属性の魔法使い以外は習得することすらできない。重力系と比べて明らかに燃費はいいけど操作が難しく、風属性の魔法使いでも使っている人は珍しい
《正解、命拾いしたね》
Nに引き上げられて屋根の上に足をつける。現実ではずっと足をついていたが
《では松村君、私が開発した3番目の方法を教えよう……名前をつけるとしたら、概念形ね》
概念系……物語にはなかったな
《前々回までの巻き戻しまでで私が物語の設定の穴をついて……穴をついて開発したものだからね》
穴をつきながら?
《まあその辺りのことはいいからとりあえず箒に乗って》
地面に箒を置きその上に半身になって乗っかる。右腕が進行方向の前に来るようにする。
《それじゃあまず魔力を体と箒に巡らせて》
魔力を体全体と箒に巡らせていく。
全身がひんやりとして
《それじゃあ目を閉じて自己暗示しよう……私の言う言葉を繰り返して。頭の中の目も閉じよう》
現実と頭の中の目を閉じる。昼間だから完全に真っ暗ではないが何も見えなくなる
《深呼吸して》
耳元でNが囁く
少しドキっとするが言われた通りに深呼吸して落ち着かせる
《魔法とはあらゆる法則を無視する悪魔の法則である》
魔法とはあらゆる法則を無視する悪魔の法則である
《何にも縛られない法則である》
何にも縛られない法則である
《あらゆる法則を無視する》
あらゆる法則を無視する
魔法とは何にも縛られない
この身体はあらゆる法則に叛逆する
あらゆる概念を無視する
不可能を可能にする法則である
できないことなんてない
あらゆる不可能を可能にする
魔法にできないことなんて存在しない
なんだってできる
魔法とは願望の具現化する悪魔の法則
夢を叶えるための手段
あらゆる想像を現実にする手段
時を超えることだって
死を克服することだって
莫大な富を得ることだって
あらゆる固定概念に叛逆する
全ての法則に叛逆する
これが魔法
神々の定めた法則に歯向かう悪魔の法則
この身体が飛べないと決められているのなら
その法則、その概念、飛ぶことを不可能にしているあらゆる存在に叛逆しよう
この身体は何にも縛られない
この身体は自由である
この身体はあらゆる不可能を可能にする
この身体は自由に空を舞うことだってできる
うっすら目を開けると私の視点が僅かに上がっている。どんどん上昇していく。
《これが私が開発した無属性概念系真理級魔法: 叛逆》
下を見てみると地面からゆっくりと離れていっている。
自分の体は……なんだろう、地面の方向に引っ張られていないというか体に重さがない。無重力と表現すべきなのか
と思っていたら体が浮かんだままひっくり返りそうになり慌てて体重を反対に傾けるがいっこうに戻らないむしろどんどん傾いていっている
《体重じゃなくて意識を傾けて!》
Nさんのいう通りに体重ではなく意識で元に戻れ〜って念じていると少しずつ戻っていく。
《とりあえず成功ね……あとは練習あるのみね……あっ》
夢中になって魔力がゼロになったのに気づかず落下した。
「プギャ!」
************
気が遠くなりそうな時間が流れた
一体どのくらいの月日が流れたのだろうか
それを確認する手段を私は持っていない
ピキ
水晶から音がしてハッと顔を上げる
第一の水晶 : ルナフへの覚醒
第二の水晶 : 叛逆
第三の水晶 : ???????
第四の水晶 : ???????
第五の水晶 : ???????
第六の水晶 : ???????
水晶が砕けた
数週間動きがなかった水晶に
私の体の封印が僅かに弱まる
あと4つ砕けば……
信じていたよ
松村君、ルナフ、私
信じていたよ
私にできることは全て残した
全てをその記憶に授けた
何があっても味方であり続ける
何があっても助ける
だから
お願い
私を助けて
無属性概念系真理級魔法
魔法の分類については
一章首都防衛の2話目
インフレ
で軽く出してあります
面白いと思っていただけたら幸いです




