2-16 青春の醍醐味
いつもありがとうございます。
前回の前書きで『大きく動くのは次回です』と書きましたが、少ししか動きませんでした。
私の悪い癖が出てきました。迷宮編、物凄く長くなりそうです。
駆け抜ける。
学園を駆け抜ける。
すれ違う、立ち塞がる、泣き叫ぶ生徒を斬り伏せながら学園の最奥へと駆ける。
「龍閃!」
その侍は、誰よりも焦っていた。ここであの3人を失うのは惜しいと。未だ敵の全容も掴めていない状況で、戦力を減らすのは痛手だと。
「あぁもう! どうなってんのさ!」
若い侍は、その若さの特権である体力を惜しみなく使い学園を突き進む。
この学園には秘密がある。
重力のバラツキはそれを隠すため。
その重力のバラツキに翻弄されながらも、羅針盤を確認しながら落ちて、登って、駆け抜ける。
深部に進めば進むほど妨害は激しくなる。因果から外れた存在、大人、ポラリスの団長。三重にかけられた呪いは、龍崎の体を蝕んでいく。
それを酒で打ち消す。
「一体どこまで行けば辿り着くのさ!」
終点にたどり着くことは困難。ここは迷宮、人を惑わせ遠回りさせる。
そして要塞。
ここは外界から身を守る、難攻不落の要塞だ。
大人たちを退ける、聖域でもある。
* *
『本日の主役』
パーティーでよく見る襷をかけられた私たちは、何度か重力を入れ替わった先にあった講堂のような場所に連れてこられた。
机をいくつも連結させて島を作り、その上に大量のお菓子やら、大皿に乗った焼きそばとかがある。
生徒の数は数えきれない。
「今日一日限りの在籍だが、出会いと別れは青春の醍醐味。この出会いに感謝して、乾杯!」
『乾杯!』
未だに状況が付いていけない私と八葉さんも、雰囲気で紙コップを掲げる。中身はお茶。
「スト〇ロが欲しい」
隣でチビチビとお茶を飲みながら、呟く八葉さんのコップの中身はただの水。一応オレンジジュースとかサイダーはあったが、何故か水を選択していた。
「大輔、周りがオーバーワールドの洗脳下にあるのは忘れてないよね」
「分かっています。だけど、今のところそれらしいそぶりが見られないのですが」
「流石に、いつもオーバーワールドの意識に操作されている訳じゃないはず。それで、疑問に思ったけど。なんで無理矢理襲わせないと思う? 物理的に殺せなくても、精神的には大ダメージを与えられると思うけど」
辺りを見渡す。ここの生徒たちは、この要塞学園迷宮を日常として信じて疑っていない。重力がバラバラなのも、能力の規則があるのも。
それはつまりオーバーワールドに常識を上書きされたこと。だったら、なんで私たちを無理矢理襲わせない?そんなこと、可能なはず。
「何かを狙っている?」
「それが敵の目的を知る手がかりであり、敵の企みを潰すヒントに。あぁ、コーヒーが欲しい。寂れたカフェの端の席で、事件に悩む刑事と会話したい」
「ちなみにブラックですか?」
「微糖で」
高校生でコーヒー飲む人は少ないと思う。大人ぶっている人とかが苦いのを我慢しているか、親の影響で飲むようになったか。
「コーヒーは言わない方がいいよ。この学園では大人の飲み物だから。スト〇ロは論外」
耳元で囁かれ、2人で顔をそちらに向ける。小さな女の子が微笑みながら立っていた。今時珍しいおかっぱで、昭和の学生のようだ。
服は白のセーラー服タイプ。赤色のスカーフに目を惹かれる。
「取り敢えず、転入おめでとう。でも、無警戒なのはダメだぞ。2人とも沖縄を経験したのに、随分と腑抜けたね。ルナフがいないとダメなのかな?」
「……スゥ」
八葉さんが大きく深呼吸する。私も。
「何者?」
「……」
鳩に豆鉄砲。まさにそんな顔をして驚く。
「私を知らない? ということは……。そうか、そこまで肩入れしたんだ」
クルリとターンして顔を背ける。
「私の力を借りたかったら呼んでね。名前も、思い出してね」
「待って」
「ねえねえ2人とも、部活動は何に入るの」
おかっぱの女の子は八葉さんの呼びかけに応じず群衆の中に紛れていく。背の低い私ではもう見えない。八葉さんもたくさんの生徒に囲まれて身動きが取れない。
アリス!
《無駄だよ。もう消えている》
一体なんだったの?
《さあね、なんで八葉と同じ姿をした人がいるんだろうね》
ん?
《ん?》
おかっぱの、セーラー服。
《八葉の顔して、八葉と同じブレザー》
ん?
《ん?》
「八葉さん……って!」
「助けて〜……誰だ今私のスカート捲った奴!」
八葉さんが人混みに流されてどんどん遠くへ行っていく。時折怒声が聞こえて男子サイテーという声も伝わってくる。
「かわいい♡ 弟にしたい、お姉ちゃんはいかが?」
そして私は女子に持ち上げられて色々と質問責めになっている。
だ、だ、
『誰か助けて!』
* *
「ん?」
なんか無茶苦茶遠い方から助けを呼ぶ声が聞こえた気がした。耳をすましても、2度目は聞こえない。
気のせいか。
「バルデ、頼んでいたことは?」
「あぁ艦長、一応オーダー通り荷物はセットした。あとは手筈通りにだ」
格納庫の端の事務室で一服していたバルデが煙草を差し出してくる。
「やめとくよ、バチカルに怒られるから」
「元は吸うタイプだったのか?」
「いーや、でも父親が昔吸っていたから興味はある。体が良くなったら、一本ぐらいは吸ってみたい」
「憧れでやめとけ。心は落ち着くが、体には毒だ。今まで吸っていなかったから嫁にも臭いで嫌われるぞ」
「それもそうだな」
私はバルデの対面に座り、目を閉じて戦艦の音を聞く。この戦艦は本当に良くできている。よくこれをサルベージして、改装なんかできたものだ。
「嫁は否定しないのか」
「ん? あぁ、まあ、仲間というには親密すぎるし、親友と呼ぶには一線を超えているし、恋人と言っても、それ以上のことをしているし」
「恋人と伴侶の違いってなんだ?」
「哲学的なこと聞くねぇ、私の持論は運命共同体。生きる時も死ぬ時も一緒に」
「違いないな、特にアンタにとってはな」
運命共同体。
そうは言いつつも、バチカルには与えられてばかりだ。昔からずっと。体が弱かったし、ずっと振り回していたし。
その内愛想つかれるか?
あぁ、それは嫌だな。
「ハァァァァ」
「盛大なため息を吐いてどうした?」
「バチカルに愛されたい」
「アンタはバチカルを愛しているのか?」
「一万年と二千年も経っていないけど愛している」
「だとよ、バチカル」
「は?」
目を開ける。すると紅茶を出そうとして固まっているバチカルと目が合う。
いつからいた。
顔は普通に微笑んでいるけど耳だけ赤いな。
可愛いなオイ。
「……今晩何が食べたい?」
「……ミートスパゲッティ」
バチカルは紅茶を俺とバルデに差し出すと。ゆっくりと退室する。ドアが静かに閉まる。
『あぁもうダメ、不意打ちはダメ、しかも私がいない所で言うっていうことは本音じゃん。月が綺麗ですね、死んでもいいわ。うん、今なら死んでもいいわ。あぁもう! デートしたい、映画見て、買い物して、夜景を見ながらディナー食べて……。もう溶けちゃう。待て待てアリス、落ち着いて。ミートスパゲッティね、うん、うん、うん! 何でここで満点の回答してくるのぉ! 私が初めて作った料理じゃん。思い出たっぷり料理じゃん! え? 本当に私死んじゃうんじゃない? こんなに嬉しいことある? 何、このポカポカ、体がふわふわしてる。あぁダメ、顔がにやけちゃう。うん、うん……私も愛しているよ。絶対にあなたを送り届けるから』
ドアの向こうで座り込んで呟くのを魔法で聞いた。
「バルデ、嫁が可愛いんだが。どうしたら愛想付かれないと思う?」
「しっかりとバチカルのこと見て、普段から愛しているって言うことから始めような。それ以上のことは夫婦によって違うだろ。それからコーヒーって飲めるか?」
魔法で食堂からコーヒーを召喚してバルデに渡す。
「ところで話は思いっきり変わるが、本当にアレを届けるだけで良いのか? 今展開されている要塞学園迷宮は、相当ヤバイんだろ」
「良いんだ。あそこは危険だが、味方が多い。あそこでの出来事は、絶対にあの4人で乗り越えないと。私はお節介だから、余計なことをしてしまう。だからヴィアとパンドラにお願いしたんだ」
色々?とバルデはありましたが、今はこうやって話すぐらいには打ち解けています。
八葉はブラック企業戦士ですが、天災の日からは色々あって出勤していません。
スト〇ロ好き、マッサージ好き。
おかしいな、原作だとこんなキャラじゃなかったのに、ミステリアスなキャラだったんですけど。




