2-5 ワンダーワンダーリアルメリーさん
いつもありがとうございます。
松村の表情がグルグルと変わっている。困惑から喜び、怒りと。どういう感情をすれば分からない。そんな風に見える。
ーーアリス、下手に刺激したら。
《嘘はつけない。かと言って真実を話したらそれこそゲームオーバー。苦肉の策だよ》
ーーでも、見ていられないよ。
心が壊れている。だけど何かに縛られて無理矢理保っているように見えた。使命感とか罪悪感とか責任感とか感じて、もしくはそれらを強要されて心を保っている。
そんなの一時凌ぎにしかならない。その心を修復するには、誰かが寄り添ってあげないと。今まではその役目をNが背負っていたのだろう。師匠として、1番のお気に入りとして大事にされていたからこそ、Nは松村ルナフを精神的に守っていた。
だけどその守護は存在しない。誰かが代わりにしないと、松村ルナフは戻って来れなくなる。やがて自殺して……。
自殺しても、巻き戻しで生き返るのでは? だとしたら最悪のパターン。死とは人生の終わり。その終わりが半永久的に訪れなかったら、苦しみから抜け出すことが出来ないと知ったら?
それこそ文字通り生き地獄だ。
《だけど、朱莉と大輔では救うことは出来ない》
ーー何でそう言い切れるの?
《私がNを救えなかったから》
アリスが何処からか出した紅茶を口に含む。
《私は隣に立つことしか出来なかった。ただ立っているだけで支えとなることはなかった。寧ろ助けてもらったのは私の方》
ーーだったら! 尚更助けたい!
《無理なの! もう素人が手に負える範疇を超えている。そもそも、松村が心を開いていない。それに……っ》
アリスが何か言おうとして躊躇う。躊躇わなかったら何を言おうとしていたのか、それは恐らく私に関すること。松村相手に言えないことがあるように、私に対しても言えないことがある。
《私たちが出来ることは時間稼ぎ。松村ルナフが立ち直るまで、彼女がやっていたことを肩代わりすることでしか助けられない》
ーー肝心の松村はどうするの!
《……どうやらお節介な人がいるみたい》
ピピッ!
クラクションを鳴らされて土手の上を見上げると、大型バイクに乗ったJKが此方に手を振っていた。フルフェイスのヘルメットを被っているため顔は分からないが、制服から八葉さんだと考えられる。
ーー八葉さんがお節介さん?
《その一人。でも私が言っているのは》
「待った……大輔? ……アリス……後任?」
その人はいつの間にかいた。いつの間にやって来ていて、松村のすぐ隣に立っていた。一言で表すと白い。肌は白く服も白く髪の毛も白い。
その人の足下には鳥の羽根のようなものが落ちている。余りにも唐突すぎて、情報が多すぎてよく分からない。
「パンゲアさん!」
パンゲア。さっきアリスが話していた人だ。ぶっちゃけただのスピーカーになっていたから理解していなかったけど、なんかすごい人なのは分かる。
って、松村! 何抱きついているんだ! 現れた瞬間にガシって抱きついて、抱きつくと身長的に顔に胸部装甲が当たって、柔らかそうで……。
羨ましいぞ!
《朱莉も大輔も同じこと考えるのね……でもルナフちゃん、そういうことを考えている余裕がないんだよね》
「よしよし……」
それは分かっている。松村が縋れるのはあの人だけなのだろう。パンゲアという人もそれが分かっているのか、突き放そうとはせず受け入れている。
「赤鯛」
「朱莉と大輔で赤鯛ですね。なんですか? 鯛の料理は好きですよ」
八葉さんが手招きするので土手に上がる。八葉さんはミステリーで警察に助言する謎の女子高生っていう設定だと聞いた。まだ片手で数える程しか会っていないけど、中身は成人済みだというのは分かる。
話した時に今時の女子高生が使わないような言葉を使っていたから。
「ルナフちゃんには信用されている?」
「信用はされていませんよ。下手したら自殺するぐらいまで追い詰められていますよね」
「そうなの。現状、無条件で心を開くにはパンゲアが相手の時だけ……。加えて無事と言い切れるのはここの4人だけ。本当に追い詰められているわ」
「無事? ユリアさんとか和也さんに何があったんですか?」
八葉については隠すつもりはないです。




