1-43 想像の世界
大変長らくお待たせいたしました。
競馬から無事戻ってきました。
「イ゛ッ !?」
右手の甲の紋章から激痛が走る。それに共鳴するかのように、視界がテレビの砂嵐のように変化した。聴覚も麻痺し、気を失いそうなほどの耳鳴りがする。
海を凍らせ続ける事が出来ず、落水した。
意識が暗転し
* *
戦争というのは、恐ろしいものである。お互いに殺し合いたくないが、殺さないと自分の故郷が失われてしまう。自分が守りたい人が失われる。
何処かで聞いたことがある。戦争とは外交の最終手段であると。
だけどこの戦争は偽りのもの。外交なんてない。代理戦争というのが近い表現だろうか? 裏でオーバーワールドが動き、地球の主要国家を潰し合う為に行う。
この戦争に意味などない。
戦争すること自体が目的なのだから。だからといって、私だけが戦いを止めるわけにはいかなかった。
もう精神は壊れていたんだと思う。人を殺すことに慣れてしまい、自分が守りたいものを守る為に相手を殺す。
もうダメだと思った。
国家同士の戦争を引き起こしたオーバーワールドを倒すなんて無理だろうと。人類を掌で転がす存在に敵わないだろう。
実際、戦争の最中オーバーワールドの力を目の当たりにしたことがある。膝をついて首を垂れて許しを乞う。そうしようと思った。
あんなのに勝てる筈ないって。
だから、三代勢力が眩しく見えた。ポラリス、連合、アカシックたちは、まだ自分たちがいるから負けていない。そう信じていた。
オーバーワールドの力を見た筈なのに、それでも折れていなかった。あの強大な敵へと挑む『勇気』は、到底真似できるものではなかった。
だけど、その三大勢力は壊滅した。
オーバーワールドに立ち向かう旗印がいなくなった。誰かがやらなければなかった。残された僅かなメンバーは、オーバーワールドに屈服したのか戦おうとはしなかった。
時は流れ人類の敗色濃厚かと思われた時、変化が起きる。それは連合の総長の作者が、別の覚醒者として蘇った。
多重想像世界方舟計画
三大勢力が最後に進めていた計画だと直ぐに気づいた。いなくなった後でも彼らの意思は、願いは繋がれていた。何の因果か、それは私のバディとなる。
そして忘れもしない、沖縄奪還作戦。
正直怖かった。いつ隣の人が敵なるのか分からない状況で殺し合いをするなど、お互いに憎悪で染まった偽の感情で剣を振り合うなど、二度としたくなかった。
それでも、その敵の先にいるオーバーワールドを倒さなければ戦争が終わることはない。ようやく、オーバーワールドが人類の敵だと一般人に気付かせることが出来たのだから。
そのような状況になったのも、バディが頑張ったから。バディがいなければ、もう未来なんてなかっただろう。
だから、バディがオーバーワールドに消滅されそうになった時、その間に入り込んだ。
輝きを守りたいと思った。バディならきっと人類を救えるって。震える手足でフラフラとバディを突き飛ばし、剣をオーバーワールドに突き立てた。
あれは勇気だと信じたい。蛮勇などではなく、守りたいと思える人のために自身を犠牲にする覚悟。
私が踏み出せた小さな一歩。その一歩で、まだ願いの星は輝いている。私の一歩で世界の運命を変えることが出来た。
ようやく、私は私になれたと思う。
私のコンセプトは
『勇気』
司る願いは
『小さな一歩を』
それが私の願う、英雄への一歩。
* *
昔々、あるところに1人の少年がいました。少年は明るくて活発的で、いつもグループの中心です。周りに働きかけ、何か大きなことをしたりと、周りを導くリーダーでした。
周りが何故彼についていくのか?
カリスマ性を持っているわけでも、優れた頭脳を持っているわけでも、権力を持っているわけでもありませんでした。
人間なら誰しも持っている普遍的な力。だけど、多くの人が中途半端に使ってしまうもの。
それは『不屈の精神』でした。
格上の相手に惨敗しても決して諦めず、次に戦う時には差を必ず縮め、最終的には勝つ。意見が食い違った時、相手が大人だろうと決して遠慮はせずにぶつかり合い、相手を納得させるか自分が納得するまで続ける。
途中で折れたりなんかしない。自分で決めたことを、自分がやりたいと思ったことを中途半端な形で終わらせない。
決して諦めたりなんかしない。そんな精神に周りは惹かれ彼を応援したり、彼の後ろをついていきたいと思いました。
ですが、一部の人はその精神を煩わしく思いました。
そして、悲劇が起きます。
それは学校でのこと。当時の担任の教師は調和を大事にすると言えば綺麗に聞こえますが、実際は自分の望む教室にするために生徒を支配したいと考えていました。
クラスが纏まる為に自分が支配する。
生徒は担任の言うことを聞くのが当然。
なら、その担任は生徒が敬うような優れた担任だったのかと聞かれたら、全員が次のように答えたでしょう。
『最悪な教師』
生徒の意見は全否定し、思い通りにならないと直ぐに怒鳴る。また、当時は体罰があった時代でもあり、暴力を振るうことも日常でした。
そして、特に少年は執拗に責められました。自分が正しいと思ったことを貫こうとする姿勢は、担任と衝突するように。
少年も、担任がちゃんと納得するような説明や行動を示しせば引き下がったでしょう。ですが担任はただ怒鳴り、体罰によって精神を折ろうとしました。
それでも少年は屈せず担任とぶつかり、自分には手に負えないと判断し、他の教師や親に相談しようとしました。
そう行動しようとした時、担任は少年ではなく、無関係な生徒に暴力を振ります。
言うなれば人質でした。少年が反発する度に他の生徒に暴力を振ると脅しました。それでも大人に相談すれば良かったと今では考えますが、恐怖や暴力、そして傷ついた同級生を見てその考えは消えてしまいました。
周りに従えば良い。そうすれば周りが傷付かず、上手くいく。
少年から不屈の精神は失われた。
ですが、心のどこかで残っていたのでしょう。
時が流れ、少年は物語を書くようになりました。主人公の設定を想像する時、少年は自分が貫きたかった信念を組み込みました。
それは不屈。
決して諦めない英雄を想像しました。
それが、私。
何があっても自分を貫く鋼のような精神を持った英雄に彼はなりたかった。いや、戻りたかった。
だけど一度刻まれたトラウマはそう簡単に消えることはない。だから物語を書き続けた。
その精神は現実でも発揮し、三代勢力の一角の総長にまでなりました。そして、今こうして君たちに伝えることができる。
私のコンセプトは
『不屈』
司る願いは
『決して諦めない』
これが私が教えられる、最後の魔法よ。
* *
何故私が隊長になったのか。それは私以外にはちゃんと役目があったからさ。
■■はオーバーワールドの攻撃を焼却することができる能力を持っているから最前線へ。
■■■はその頭脳を用いて人類の防衛施設に注力を注いでもらう為。
■■■はオーバーワールドの動向を観測する目として。
ただ刀を振ることしか能がない私が、誰よりも役立たずな私が役に立つ為にやるしかなかった。
最も、このポジションも全てオーバーワールドによって決められたこと。本来だったら私以外の誰かが隊長をする筈だった。一番無能な私が隊長になることでポラリスを弱体化した。
それに気づいたのは、消される直前だったけど。
連合と交渉をし、アカシックと協力関係を築き、この戦いを終わらせる為に全力を注いだ。誰よりも無能な自分が、オーバーワールドに侮られていた私が出来ることなんて限られていた。
物理的な攻撃はできるけど、それは上っ面の攻撃。オーバーワールドにダメージなんて与えられることなんて出来なかった。自分ができないから、周りが動きやすいように調整する。
情報を揃え、日本政府の協力者と作戦を練り、実働部隊に伝える。
だが、作戦は全て失敗に終わった。
当たり前だ。全て筒抜けだったのだから。
それに気づいた時から、限界を感じるようになった。何をしたって無駄に終わる。何をやったって失敗する。
だけど、オーバーワールドに侮られているのには腹が立った。オーバーワールドもこちらの限界を理解しているから、私の全力では自分を倒せないと理解している。
その考えを改めさせてやりたいと思った。故に、普通では考えつかないような作戦を考える。言ってしまえばメタ的な考え。第四の壁とかそういうのを超越するような考えを模索する。
そして私が考えついたのは対上書世界特化型人工覚醒者の想像だった。それを草案としてアカシックと連合、政府や警察と協議を重ね最終的に
多重想像世界方舟計画
オムニバスアークノアの計画を実行する。これは人類の、知的生命体の限界を超えた作戦。誰もできないと思っていた生命の想像。
その為に、自身の能力の限界。その先に到達する。自分が不可能だと無意識に思っていることを、常識を覆す。自覚していないだけで、自分たちには可能性が溢れている。
私のコンセプトは
『可能性』
司る願いは
『限界を越える』
限界とは、成長の鍵なり。
* *
* *
目を開く。
口から溢れた気泡がポコポコと水面へと昇っていく。それとすれ違うように三つの星が自分の元へやってくる。
それを両手で掬うように受け入れ、胸の前へと持ってくる。
「ありがとう」
そう呟くと光は一際輝き、俺の中へと入っていく。
暖かい。
願いが暖かい。この願いを叶える為に自分は想像されたと思うと誇らしく思える。
そして、その願いを叶えられる『可能性』を自分が秘めていることに気がつく。
覚醒した瞬間からルール違反の覚醒者であった。ならば、イナバと同じ土俵に上ることが出来る。
こんなところで『諦め』てたまるか。
あとは覚悟だけ。得体の知れない恐怖へ立ち向かう覚悟、『勇気』を出すだけ。
その一歩だ。
さあ、始めよう。
叛逆を。
海中に氷塊を作り、それの浮力によって海上へ上る。呪縛は解けた。自分自身を縛っていた迷いを断ち切る。もう振り返らない。
未来のために前を見る。
八岐大蛇まで目測10km。こちらが攻撃を仕掛ければ瞬間で詰め寄ってくる。故に、遠距離攻撃は禁じ手。
近接戦闘によって葬る。
魔力は十分。頭もスッキリと冴え、今の自分は何なのか理解できる。
基本となる魔法。
バネのような肉体。
龍崎さん直伝の刃物捌き。
そして叛逆。
これが私の基本形態。
ここから、限界を越える。
残念ながらシャングリラに乗っ取られていた時に行使したロスト・ライフは使用不可能。
あれは願いを潰して世界を破滅へと導く魔法。それに、再現できない。あの時の自分は人類の滅亡を望む形態。今は違う。
過去の英雄同様、人類の存続を願う者なり。加えて、糧とできる願いは先程の3つのみ。類似している魔法を使えたとしても威力はあまりにも乏しい。
だから、その願いを糧に自分の体を作り替える。
「ーー魔法」
覚醒者ではなく、願いを叶える使徒へと変える。否、変えるのではなく戻る。始めは別の姿だった。オーバーワールドによって封じられていただけ。
「ーー装填」
自ら限界を越える。
自身の魔力と龍脈を豪快に魔法回路へと注ぎ込む。それと同時に、自身の体ではなく、自分の魂へと魔力を充填させ、自身と同化した願いと同調する。
「ーーーークッ」
その願いから流れ込んできた情報をもとに体の構造を、設定を変化させる。あの人たちが想像した未来、想像した世界へ導く英雄へと近づいていく。本来の姿へと戻っていく。
星が道を示してくれる。
だが、それと同時に自身を見失いそうになる。自分を作り替え、元の自分が遠くなるそうになる。魂まで変化しそうになる。
「ーーーーッ」
そうならないように、彗星蘭の花飾りが留める。竜王に関連するとされる花飾り。世界の守護者の一角。願いに押しつぶされないように自分を守ってくれる。
だから、全力を出すことができる。
やがてエネルギーが満ち、変化が止まる。それは覚醒者としての限界。ここから先に行くには、触媒とパスワードが必要。
それを『勇気』の人が教えてくれる。3人の願いを触媒とし、教えられたパスワードを紡ぐ。
「ハロー」
現実世界と対極の位置にある世界。
現実の反対側。オリキャラたちの世界。
「想像の世界」
その使徒へ。
タイトルコール
次回決着(予定)
追記: タイトルの方の読み方は
そうぞうのせかい
のままです。




