新宿
6ヶ月ぶりです
お待たせいたしました
水曜日
1週間の折り返し地点である
社会人や学生も疲れが出始める曜日だ
ここ、新宿駅では現実に追われている人々が今日も行き交う
だが、普段の水曜日とは違う
2割程の人が現実離れした容姿をしている
自分たちが作り出したオリキャラになった覚醒者たちである
スーツを着たエルフや学生服の獣人
それぞれ無表情だったり、暗い顔だったり
似たような顔で進んでいく
その中の1人、ルナフもそうだった
険しい顔をしながら流れに身を任せている
彼女の記憶の中に住むNも似たような表情でルナフの視界から現実を見ている
ルナフのことを見たら内心難しいことを考えているのだろうと他の人は思うかもしれない
だが現実は
「《山手線ホームはどこだ?》」
こんなことを考えていたのである
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《新宿ダンジョン
田舎から来たばかりの人が足を踏み入れると必ず迷うといわれている日本を代表する巨大迷宮である。地図があっても現在地を見つけることすらできない。また、人に流れがあるため立ち止まって確認するということが困難である。特に、ルナフのような子どもは身長が低いため、吊り下げ式の案内表示も見えにくい》
少し黙ってろ
頭の中のNをイメージで殴り飛ばそうとするが指先1つで止められる
身体強化を使ったな
というか、やり直しで新宿駅何度も通ったんだろ? 案内してくれよ
《箒でハチ公まで行っていましたが何か?》
そうだった、この人魔女だった
いい加減教えてくれよ、箒の飛び方
Nは首を横に振って
《従来の飛び方だと今後の移動に支障が出るから教えられない。私たちの目標はやり直しをしているやつを止めることだから、そのためには新しい方法で飛ばないと》
Nが箒を取り出すと浮かべてからその上に座る
《これだと浮かべない》
浮かんでるじゃん
足は付いていないし
《因果から浮かんでいないよ》
ああ、そういうことか
Nは箒から降りるとちょっと視線を上げる
その先に俺が現実で見ている視界があるらしい
《いくらなんでもこれはおかしいね》
俺が方向音痴だと言いたいのか?
この状況じゃ認めないといけないけど
《違うわよ、さっきから同じところを通っているのよ。5番線から10番線のところをずっと》
言われてから確認してみる
5、6、7、8、9、10、5、6
本当だ
《ずっと直進しているのにこれはおかしい。どっかのバカが能力でやっているようね》
周りを確認するとほとんど人が首を傾げながら歩き、やがて気づく
人の足が止まりざわめき出す
《ルナフ、携帯》
私は携帯を開く
圏外の2文字が画面に現れる
Nさん、一度目にこのようなことは
《なかったわ。今回が初、もしくは毎回誰にも気がつかれなかった未解決事件》
Nさんが目を瞑って情報を整理し出す
私は5番線と10番線の間に向かう。
おそらく、結界が張られていて循環するようになっているタイプだ。そしたら何かしら境界があるはずだ
《ルナフ》
何ですか? 何かわかりましたか?
《5番線か10番線のホームに行って》
言われた通り登っていく
ホームの上も混乱していた。
どうやら線路も循環しているらしく出発した列車が反対側から入ってきているらしい
また、向かいのホームは10番線で反対側は6番線だ
ここもか
お手上げです
Nさんならどうします?
《転移魔法を試したり、結界型なら境界を探して破壊したり、犯人を見つけて拷問して解放する》
私にできるとしたら犯人探しですね。転移魔法は未習得、破壊系の魔法はまだまだ威力が低い
《犯人どうやって探す? そもそも迷宮にいるかすら怪しいよ》
それもそうですね
あれ?
これ詰みました?
《うん、まあ何とかなるでしょう》
そういうNさんは冷や汗をかいていた
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新宿駅を靴を鳴らしながら歩いていく少女
服装は軍服のワンピースだその上に黒いコートを腕を通さずに羽織っている
二次元の軍事系の作品に出てくるクール系の美人というのがしっくりくる
2番線の入り口の手前には規制テープが張られていて警察官が立ち入れないように立っている
報道陣がその手前で奥をカメラで撮ったりしている
4番線の次は11番線になっている
5〜10番線がなくなっていた
彼女は報道陣の間を通り警察の横を通る
勿論警察はすぐに連れ戻そうとするが簡単に避けられる
その様子をマスコミは記録していく
「止まりなさい!」
警察は5人がかりで止めようとするが全員避けられる
掴んだと思った瞬間には何歩も先を歩いている
軍人は4番線と11番線の間で止まると右腕を横に伸ばす
右手を開くとその近くの空間に変化が起きる
空間に光が走る
何もないところから光が集まりそれを形作る
白く、細長い棒のようなもの
それは白いマスケット銃だった
追いかけていた警察が立ち止まり、拳銃を構えて
「その銃を捨てて頭の後ろで手を組んで」
「巻き込まれますよ」
警察の言葉を遮り軍人は銃を持つと流れるような動作で4番線と11番線の間を撃った
ガシャァァァァン
という音とともに空間にヒビが入る
警察、報道陣がギョッとする
マスケット銃を放り投げると体から白い光の粒が現れる
数歩後ろに下がるとヒビに向かって突撃する
彼女が踏み込んだ床が歪むほどの速さで
空間のヒビは広がり、そして砕け散った
そして現れたのは5〜10番線の空間とそこに閉じ込められていた一般人たちだった
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ガシャァァァァン
《何とかなったわね》
循環空間がなくなったらしく、11番線が見える
何とかなりましたね、Nさん
《そうね……ん?》
Nさんが頭の中で後ろを振り返る。私も現実で後ろを向く
周りの背が大きくて見えなかった
《気のせいか》
Nさんは一人で結論づけると私を急かす
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「ハロー、ワンダーワールド」
警察に囲まれた軍人はそう呟くと体が輝く
「グッバイ、リアルワールド」
警察が見ている目の前で彼女は現実世界から移動した
とりあえず方針は決まりました