1-34 変身
この更新で恐らく今年最後の更新となるでしょう。
今年も一年有り難うございました。
襟の中にいた謎の生命体を放してあげる。音もなく飛び立ったソレは、あっという間に見えなくなった。大きさは掌ほどしかないのに、私を1km以上移動させたのだ。
「あの馬鹿」
そうさせたLの方から膨大な魔力が躍動している。私の記憶にはない魔法式、つまりボツ案となったもの。そして、規模からしてとっておきの魔法……最終魔法クラスの攻撃魔法だろう。
ボツ案としてあったのか。
ルナフが極地に至ったパターンが。
「不思議なものね、手に取っただけで使い方が何となく分かるなんて」
彗星蘭の髪飾り。これが何なのかは分からない。恐らく消えた『 』関連だとは思う。
オーバーワールドを退けられるとすると、勇者と竜王に並ぶ世界の守護者の筈。
即ち、物語の世界の根幹に関わるもの。?が、わざわざ呼び止めるほどの効力がある。
分からなくなったからこそ、見えることがある。これは、使い方次第で世界をひっくり返すことができる。
天より降り注ぐ流星。最終魔法の割には威力が抑えられている。
「贅沢な使い方ね」
終末を告げる獣。
世界の守護者関連。
そして、手加減した最終魔法。
状況として似ている。
マスターも同僚も竜王も『 』も民間人も精霊も皆んな死んじゃったあの戦いと。
恐らく、数秒後に立体魔法陣が構築。一時的にスタンさせる名称封印が目的なのだろう。
多く見積もって5秒。
少なく見積もった場合は効果なし。
それでも、3kmを駆け抜けて、髪飾りを付けなければ。
そこまで察せたら迷っている暇はない。
魔力を回す。
箒を呼ぶ。
幸いにも障害物となる構造物は、ロスト・ライフで全て消え去っている。
陽子加速装置のように、神奈川県だった場所をグルグルと回る。
加速は最大限に、流星群に紛れる為に自身を魔力へと変換する。
肉体を捨て、本来の姿へと戻る。
人の領域に留まるな。相手は世界だ。
「第一段階、限定解除」
風を束ねる。
魔力を束ねる。
「突撃魔法: 流れ星!」
銀の星となった私は空を駆ける。流星と並走するようにシャングリラルナフ、略してシャルへと突撃する。私に気づいた蜘蛛人間が飛びかかってくるが、反応した瞬間には通り過ぎた。
Lの近くを通った時、彼女は小さく呟く。
「ヴァルハラで会いましょう」
現実世界には1人しか戻れない。
「ええ、行ってきます」
封印は成功していた。
だが、次の瞬間には最終魔法も封印も全て吹き飛ばされていた。
その時には、蜘蛛人間のドームをぶち破っている。シャルが驚きを隠さず、私の名を叫ぶ。
「N!」
紫色の目。普段のルナフは緑色の瞳をしている。その目が憎しみで染まっていた。
何があったのか、何故私を憎むのか?
「シャル!」
シャルは拳を、私は足を向ける。
「そこから出ていきなさい!」
「消えろ! 魔女!」
激突。
初撃は私の方が勝り、肉体を吹き飛ばす。
「空気砲×100」
追撃の手は緩めない。
ロスト・ライフは生贄があるから使用できる。ハッキリ言って効率が悪い。かかる時間も、回転数も大きい。
ロマン砲。
それ以外の魔法を使わないと言うことは、それ以外の魔法が使えないと考えて良い。
「グランド・アイス!」
「あんたにグランドなんか百万年早いわよ!」
風と氷がぶつかり、ダイヤモンドダストが現れる。その中で拳と拳がぶつかり合う。
その結果は拮抗、互いに譲ることなく力を込め合う。
「どう、N。貴方の大事な人が奪われた気持ちは」
「あなた……シャングリラの意識」
シャルがキシシシと笑う。
「どんな気持ち?」
「こんな状況じゃなければ、ぶっ殺していたわよ」
「キシシシ、そう言ってくれて有り難う。それだけで満足」
「じゃあ返してくれる?」
「い・や・だ」
その返答は膝蹴りで。それをしっかりガードされるが、膝蹴りした足とは逆の足で踵落としをする。
「それぐらい読んでるよ」
踵落としの足は掴まれ、投げ飛ばされる。四肢で着地をするが、左手を踏みつけられる。
「第一段階でも届かない?」
「第三段階でも勝てるよ」
「へ〜、薄々いるだろうと思っていたけど。並行世界の特急特異点?」
「う〜ん、惜しい」
当たり判定を一瞬消して脱出する。
「その獣のような姿、弟子には見せたくなかったんじゃないの?」
「第三段階以外ならいいのよ!」
伸びた爪で切りつける。だが、蜘蛛人間が間に入り防がれる。鮮血が広がり、視界を隠されてしまう。地の壁の向こう側から氷の弾丸が現れ、その内の一つは私の顔に当たる弾道。
それを牙で砕き、血の壁目掛け
「うん、やっぱりつまらないね」
下から、腹に拳を入れられる。
「魔法使いの癖に肉弾戦なんて美しくない。それに遅い。咲け、氷華」
腹を裂き、胃を貫き、体に氷の根が張る。当たり判定を消そうとするが、核を掴まれている。
弱点を知られている。
知っているからこそ、見えなくなることがある。知りすぎているから大事なことを、警戒すべきことが分からなくなる。
例えば
「ようやく捕まえた」
シャルの頭に
彗星蘭の髪飾り
「その花……王女の?!」
「帰ろう、2人とも」
2020年12月30日21時51分時点でpv数が
49993
あと7人足りなかった。
フライングで5万pvありがとうございます!
来年もよろしくお願いします。




