1-31 彗星蘭
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周りの被害を気にせず、使徒と特急特異点が衝突したらどうなるか?
私が知る限り、使徒以上の存在がぶつかり合ったことはない。現実世界でも、衝突は起こらなかった。今まで覚醒者や使徒が関わった事件で一番被害が出たのはパンゲアと米海軍の衝突。
今回もそれと状況が似ていた。
ボツ世界の多国籍艦隊対使徒。
兵器対覚醒者の戦い。
此度の戦いは僅か3分で決着がついた。
「……無駄だ、助けに行ったところでどうする?」
倒れている?が結果を物語っている。使徒二人相手に特急特異点が敗北するなど、本来ではあり得ないことだ。覚醒者や使徒とは一線を画している存在。世界そのものと言っても、差し支えがないのが特急特異点なのだから。
その?が倒れて、勝者に問いかける。
「戦場で傷ついた者がいて、安全圏から手を伸ばしても助からないだろ。あいつを救えるのは、あいつと同じ境遇の者だけだ。つまり、今のお前らに救うことは出来ない。それでも行くのか?」
「ええ、理解しているわ。しかも、私に憎悪を向けていたわ」
そのぐらいは理解していたか。松村ルナフがイナバを追ったのはNの姿をしていたから。Nが近づいたら、間違いなく殺される。
「でもね、行かないといけないの」
「何故?」
「私の日常を守りたいから。私はあの子たちがいる日常が好きだから」
「随分、自分勝手な動機だな」
「こういう自分勝手な動機が、一番力が出るのよ。じゃなきゃ、私はとっくの昔に敗北していたわ。世の中、綺麗ごとだけで動いているわけないし」
?はその答えに何処か納得した面持ちで頷くと、次にエーイーリに顔を向ける。エーイーリは聞かれる前に答えた。
「私は叛逆の魔女ですからね。自分が望む未来の為だったら、誰だって裏切りますよ。それが無理無茶無謀と言われていても。たとえ、あなたが相手でも。私の作者はあの人なので。」
「お前が望む未来?」
「約束しましたから」
「約束?」
「二人には……あの二人には、幸せになって欲しいですから」
そういうエーイーリは頬を少しだけ悲しそうに視線を逸らす。逸らした先に私がいた。この場ではNには見えない私のほうに目を向ける。第一使徒である私に視線を向ける。その意味を私が理解したと同時に?は何かを思い出したようだった。
「そういえば、お前たちは約束していたな」
「え、ちょっと待って? 約束って何? というかエーイーリ、あんた誰のことを2人って」
「その約束を聞いて思い出した。N、鞄を漁ってみろ」
「?さん?」
「鞄? なんで?」
Nは肩掛けの革製の鞄を持っている。見た目と容量が一致していない、所謂マジックバックだ。私が知っている限り中身は地図や魔法石、調理器具などが入っていた筈。Nはブツブツ言いながら首をかしげ、手を入れて確認をする。
「宝石箱があるだろ。三日月をモチーフにした宝石箱が」
「そんなもの、記憶に……」
Nが否定しようとしたが、何かを見つけたらしく唖然としながら箱を取りだす。煌びやかな装飾がされた箱。大きさはNの手と同じくらいの大きさ。その箱には小粒だが、いくつもの宝石が埋め込まれていて、その箱自体が高価なものであると窺える。
Nが指先で箱を規則的になぞると、カチっと音がして蓋が開いた。自分が知っている方法で開いたことに驚きつつも、興味津々で箱の中身を取り出す。
「これは、彗星蘭?」
星のような形をした花、彗星蘭で作った髪飾り。華美な装飾などなく、花が5輪集まって出来たシンプルな髪飾りだ。
「余力があるなら、あいつに付けてあげて。あの人の助けになる筈だから」
「どうしてこれを知って……いや、いいわ」
「話は終わり。さっさと救わないと、あの変態に最大火力を叩き込むから夜露死苦」
「そんな事はさせないので。行きましょう、Nさん」
「ええ、そこで寝てなさい。それとエーイーリ、さっきの約束について詳しく教えなさい」
「お断りします」
2人は騒ぎながら飛び立つ。それを確認して、私は慌てて?に駆け寄り処置を始める。もう既に、?の心臓は止まっていた。いや、倒れている時に何度も止まっていたのだろう。それをボツキャラの能力でごまかしていた。
「……ゴホッ」
処置を始めて直ぐに、?が蘇生される。だがその蘇生は万全のものではなく、最低限生きていると表現される程度の蘇生。完全復活まではしてくれないのがアンダーワールドの権能だ。
だから、こっからは私の領分。いっそのこと安楽死させてあげたいけど、そうは問屋が卸さない。私が殺しても権能で生き返らされる。何千何万回と?のことを復活させてきた経験で薬品を投与し、装置を使って命を吹き込む。
「……何分気を失っていた」
「12分43秒。とりあえず罵っていい?」
「うん」
「バカ」
本当にバカなんだから。元々二人を止めるつもりなんて無かったくせに。私に結界を張る指示なんかせずに、怖いから近くにいてとか言ってたじゃん。傀儡使徒Nに喧嘩を吹っ掛けられたら負けるからって。でも、ここで一度Nを止めないとオーバーワールドに私たちの目的がバレちゃうから仕方ないよね。この世界に大きな傷をのこしたとしても、松村ルナフにつなぎたいものがあったことが。でもね、権能を使う必要はないでしょ? それとも、あの二人と全力で戦いたかったから? エーイーリもそれを理解したのか全力で戦っていたし。
全く、私の気持ち分かっているでしょ。戦うなとは言わないから、無茶だけはしないで。
略してバカ
これで伝わる。
「ありがとう」
「……バカ」
?は私の罵声を聞いて微笑むと眠りにつく。手は私の服を握っている。こうやって弱いところを安心して見せてくれるから、信頼してくれるから私は?について行こうと思った。私も一緒に未来を見に行こうと思った。支えたいと思った。
松村ルナフにはパートナーがいるのだろうか? Nはパートナーではなく、師匠。相互理解とは程遠い関係だ。今後松村ルナフが戦うのならばパートナーが必要になってくる。対等な立場で、お互いに大切に思い、守ってあげたいと思えるパートナーが。
物語で言うところのメインヒロイン。
決して1人では戦えない。人は弱いから。
ところで、エーイーリの約束って何?
え? メインヒロインっていたの?
メインヒロインってNじゃないの?
メインヒロインって沖田ユイじゃないの?
大輔がルナフを攻略するルートじゃないの?
Nはラブコメで言うと気にかけてくれる幼馴染先輩ポジションみたいで攻略ルートもありますけど、全ルートバッドエンドになるのでNG
沖田ユイは過去に引っ越した同級生で隠しルートで複数条件を満たせば解禁みたいな感じですが、条件をもう満たせないので消滅
大輔は最初の電話番号交換イベントは実行しましたが、弩ジョウ線不参加のため大幅に遅れています。大輔自身はルナフに少し興味ある程度なので攻略しようとは思っていません。




