1-N 一方
『 』が消えたことは私にも分かった。そのダメージは私に強烈なダメージを与えた。記憶の塊を元にして作られた人格という性質上記憶の改竄は私には急所を攻撃されたと同じだと言っても良い。
この時ばかりは彼から離れていて良かったと思った。
彼の前では強い魔女でい続けたいのだから。
「っ……大丈夫ですか?」
エーイーリの問いに首を横に振る。こいつには弱いところに見せても良い。使徒である彼女の方が強いんだから弱いところを見せても別に良いだろう。
その前にエーイーリもダメージを受けた筈だ。アンダーワールドの使徒とは言え、彼女も松村君を由来にしている存在だ。恐らく私と同様に精神体、ダメージがある筈だけど。
《そっちはどうよ》
「アンダーワールドの使徒であることが幸いしました。記憶はなくしましたがダメージはありません」
《それなら良いわ》
だけど松村君のダメージは計り知れない。意識がある状態で記憶を無理矢理改竄しているのだ。麻酔なしで脳に直接攻撃されているのと同じ状態だ。
《エーイーリ、ダメなの?》
「ダメです。今の二人に貴女がいると何も成長しません。貴女は無意識に甘やかしますから。助けに行きたい気持ちは痛いほど分かります。大丈夫です。あの人のお陰で危機は遠ざかりました。貴女は貴女がやるべきことを」
そういうエーイーリは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「アンダーワールドも私じゃなくて他の化け物を召喚すれば良かったのに。いくらボスの一角の叛逆の魔女とはいえ私は所詮ルナフなんですから」




