交錯
“諦めんなよ!”頭の中で繰り返す。
オレは、諦めたのか?蹴落とされたとは感じたが、それが、諦めたこととイコールではない、はずだ。彼に近づきたい気持ちは砕け散ったが、だからって、書く事を諦める事にはならない。たが自分でも解らなかった。
また書けるんだろうか。あの続きを、書きたいと思えるんだろうか。
少なくとも今は、そんな気分にはなれなかった。
今日は、焼肉じゃない方が良かったと思う。
話に夢中になり焼きすぎたり、焼くのも忘れたり。
注文してまだ焼いていない肉の皿が、テーブルに乗りきらなくなってきた。焼きのペースを早めて、食べる事を優先させようと思ったのはオレだけじゃなかったようだ。
二人も急に食べることに集中しだした。
昨日の夜、溢れだしたものを考えたくなくて遠藤を飯に誘ったはずが、更に考えさせられる結果になってしまった。
『焼きすぎだよ。』
田島が甲斐甲斐しくオレの世話をやきつつ、肉の旨さに感動しながら、いかにも美味しそうに食べている。
『やっぱり、違うね。こんなに違うもんなんだね。ビールまで美味しく感じる。』
破壊力抜群の笑顔が、男二人に向けられる。この場に女子がいたら、キュン死したに違いない。
あぁ、オレが女なら遠藤と結婚したいと思ったが、田島が女なら田島と結婚したい、なんて考えてしまった。完璧なルックスに時々ドジで可愛らしく、誘った店に嬉しい反応を示してくれる。この店はオレが選んだ訳じゃないが。
だが、今度は口に出すのはやめた。
じゃあ、オレには何か良い所はあるんだろうか?
昨日感じた無力感に、さらに追い打ちをかける。
ため息を、遠藤とは反対の通路側へ吐き出す。と、隣のテーブルには、いつの間にか女の五人組がいた。女たちの視線は時々田島を向いていた。さっきの笑顔は、拝めたんだろうか。
『カッコいいよね。』『マジ、ヤバくない?』小声で話していても聞こえてくるその声に、どんどん落ち込みが増しそうになった。
“知ってるよ。分かってるし、オレだってそう思う”自分に言い聞かせていると、一人だけ視線がオレに向いている。
目が合った。
オレは、どんな顔をしていただろう。見た目も中身も自己採点でオール3。しかも、中身においては姉貴に仕込まれたものだ。それでようやく3程度。
“あんたはイケメンじゃないんだから、中身で勝負しなさいよ!身なりにも気をつける!清潔感は大事だからね!”
気の配り方やら、着る服やらにいちいち指摘が入った。
オレと似たような顔をしてるくせに、偉そうに言われると“お前もな!”と言い返してやりたかったが、5歳も年上で、口では敵わない。仕方なく言いなりになってきた。
しかし大人になって、それが有難い助言であった事に気付いた。
とは言え、このメンツで、見た目でオレが選ばれる事など、あり得ないと思えた。
なんて事を考えている間中、合ってしまった目線を外す事が出来ないでいた。
見たことがある、かも。どっかで見た顔のような気がした。
だから、向こうもオレに気が付いたのか。いや、思い出せない。
全員20代であるだろうとは思われる。
女友達は少ない。元カノの友達か何かかもしれない。まぁそれなら納得だなと思い、とりあえず、軽く会釈して目線を外す。
女に気を取られている間に、田島がどんどんオレの皿に肉を乗せていた。田島は気が付いていないのだろうか。自分に向けられた視線に。
『ほら、松本も食べなよ。これがね、ばか旨い。』
もう“これ”がどれだか分からないほど皿の上は山盛りになっていた。
『ばかかよ、こんなに乗せんなよ。自分でやるわ。』
笑いながら、乗せられた肉を食べ、ビールで流し込む。
それほど食べても飲んでもいないのに、腹がいっぱいで苦しかった。
『だって、全然食べてないじゃん。こんなに旨いのに。』
その間、一人黙々と食べていた遠藤も
『ほんと、こんなに旨いもん、食べないならオレが食べちゃうよ。でも割り勘だよ。』
ふざけぎみに言った言葉とは裏腹に、遠藤の表情は寂しげな感じだった。
そう感じたのは間違いじゃなかった。
食べなから遠藤が目を拭う。一度だけじゃなく、何度も何度も左右の目を交互に拭い始めた。
『煙が、目に。』
そんなはずはなかった。昔ながらの焼肉屋とは違う。煙が目に滲みるほど立ち込めたりしていない。
『どうした?』
泣いてる?昨夜の自分を思い出し、胸が苦しくなる。
遠藤が、必死に答えようとする。
『だから。煙が。』
遠藤の正面に座っている田島からは、見えていたかどうかは分からないが、隣のオレには、肩と喉元が軽く震えていたのが分かった。
その後も、しばらく目をこすり続けていたが、深く追求しない方がいいと思い、煙のせい、という事に納得したフリをする。
『田島が一気に肉を焼きすぎなんだよ。』
『えー、オレのせい?』
『そーだよ。』
『えー、ごめーん。いや、だって、松本が全然食べないから。』
『えー、オレのせい?』
『そーだよ。』
『えー、ごめーん。』




