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池  <第1部>  作者: M:SW
6/30

発見

『松本!』

不意に名前を呼ばれ、体がビクッと反応する。

悪いことをして叱られた子どもみたいだった。

何度か呼ばれていたようだったが気付かなかった。

『何考えてんだよ、何回呼ばすんだよ。』

同期の遠藤に呆れられていた。

『どうした?何かあった?今日一日変だったし、あ、部長呼んでたよ。何かやらかした?』

いつものようによく喋る遠藤のテンポに今日はついて行けなかった。部長に呼ばれた事だけは理解し、『わりぃ。』とだけ伝えて席を立った。

部長が何処にいるのか聞くのを忘れた事に気付いたが、そのまま居そうな場所を探した。


途中で部長を探している事も忘れ、ただ社内をウロついている間抜けな男は、何でここにきたんだっけ?あ、そうか。という物忘れの激しくなったオカンの様な事を2、3度繰り返していた。


結局見つからず、また自分のデスクに戻った。

まだ居た遠藤に、部長に会えなかった事を伝えると『やっぱり変。今日の松本。いつもならそんなムダな動きはしないね。オレに聞くか、電話かメールで居場所を確認するでしょ。』

確かに、そうだ。言われて気が付いた。いやそれよりも、部長がそうしてくれればいい事だとは思ったが、取り敢えず部長に電話をする。用件についてはまた明日話す、と言われた。今は何か立て込んでいたようだった。


いつもなら、何を言われるのか気になり一人悶々と考えてしまうところだが、今日はもう、どうでも良かった。

今日一日の仕事のでき具合についてなら、至上最悪だったに違いない。自分が何をしていたのか覚えていない。

こんなにも、仕事に私情を挟んだ事はなかったと思う。

このまま家に帰る気になれず、遠藤を誘ってみた。


『今日この後、飯食いに行かない?』

遠藤は困っているのか、喜んでいるのか、変な顔で

『ほら!ほら!なによ?やっぱり何かあったのか。お前が人を飯に誘うなんて、七年目にして多分初だよ!!』

これは、喜んでくれているのだろうか。

それにしても、人を飯に誘った事がなかった自分に驚いた。更にそれに対し、そんな事を気にかけてくれるヤツがいた事にも驚いた。


遠藤は近くで帰り支度をしていた田島をも巻き込み、オレの今日一日の行動について、はしゃいだ様子で話し始めた。

遠藤は、今日一日だけじゃなく、二カ月前からのオレの変化に気が付いていた。急にやる気に満ち溢れた様子で、生き生きしていたらしい。それはそれで、オレらしくなく、気になっていたようだった。

そんな事を聞かされると、こっちが恥ずかしくなる。感情を表に出さないようにしていたはずだし、そもそも、上手な感情表現は苦手だと自分で思っていた。が、気付かず出ていたなんて、恥ずかしい。

しかも、田島までも、何となく変わったな、と感じていたというのは二人とは同期で、七年も一緒に仕事をしているからなのか。

正直、他人に興味がないオレだったら、二人に何かしらの変化があっても気付かないんじゃないかと思った。そんな事は考えた事もなかったが、気にかけてくれるヤツらがいる、という事が少し嬉しかった。

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