エピローグ
7年通った職場に来る最後の日。
正直、やることは全て終わり、来た所でやることもなかったが、取り敢えず他部署へも挨拶に周り、暇そうな上司に捕まり世間話に付き合っていたら、あっという間に昼になった。
遠藤と田島に声をかける。
『飯、買いに行こうぜ。』
『おっ。久々のお誘い。そして最後のお誘いー。』
何時もの調子で遠藤が言う。
『行こうぜ。』
田島は、何時もの感じではなかった。
結婚を決意し、男らしさが増したようだった。
『田島、何か頼もしくなった?』
『行こうぜ、って言っただけなのに?それに、なった?って聞かれてても、自分じゃ分かんないよ。』
と言いつつ、嬉しそうにも見えた。
遠藤のチャレンジコースの事も、田島の結婚に至るまでの過程の事も、結局聞けていない。
聞かなくとも、もう各々決めた道。これからのコイツらを見ていれば分かるだろう。
もう、点と点は、線で繋がれている。たとえ線が絡まってダマになったとしても、それはそれで味わい深い。絶対切ったりはしない。
また3人でコンビニで飯を買う。
暖かいを通り越し、すでに暑くさえなってきていたが、会社の敷地内の隅の方に設置されたイスとテーブルの所で食べる事にする。
何となく沈黙のまま、ただ黙々と食べて、終わりかけた所でようやく遠藤が口を開いた。
『頑張れよ。失敗しても、戻ってくんなよ。』
『オレが、失敗なんかすると思うか?』
『しねーな。』
『あぁ、しねーよ。』
『オレも、そんな風に言えるようになりてぇ。』
頼もしく感じたのは撤回しようと思ったが、口に出すのは止めた。
全員食べ終え、イスから立ち上がった時、隣にいた遠藤は、手を差し出してきた。
別れの握手。
差し出された右手に、オレの右手を差し出す。
あの時のビビりは、今は全くなかった。
握り合った瞬間、体が動いた。
強く引っ張られ、気付くと遠藤とハグをしているような体勢になっていた。
『・・・・』
遠藤が耳元で囁く。
『!!やられた。』
以外に力強く抱き締められ、簡単には離れられない。離れる事を諦めて、自分の左手を遠藤の背中に回す。回した左手を広げ、肩甲骨当たりでグッと力を入れる。
口に出しては言えないが、ありがとうと、ごめんの気持ちを込めた。
オレの反応に逆に驚いた遠藤の方が、オレから離れようとした時、テーブルの反対側でその様子を見ていた田島が加わってきた。
オレ達を包み込むように2人の背中に手を回す。
『えぇ?』
オレと遠藤は、同時に声が出る。
『何かいいね。こういうの。高校ん時以来だなぁ。
』
野球部だった時の思い出が甦り、円陣でも組んだつもりだったらしい。
やっぱり、田島は田島だ。
遠藤は、田島の誤解を利用し、
『じゃ、それぞれの道に向かって、頑張るぞ!』
と言ったが、さすがにそこまでノリきれず、
『えー。』
と言ったオレの声に、田島は、
『おー!!』
と被せてきて、結局最後はグダグタで、大笑いしながら円陣はバラけた。
あの、握手からのハグで、一瞬キュンとしてしまった事は、教えてやらない事にしよう。
なみの存在がなければ、オレは、どうなっていたか分からない、と思った。
だけどそれを何時か、なみにやってみよう、なんて考えた。




