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池  <第1部>  作者: M:SW
3/30

出会い

歌を聴くことが習慣となった。が、CDはない。CDを聴くための道具もない。今は携帯があれば充分だ。

動画を見ていると、自動再生により勝手に“あなたへのおすすめ”を再生していた。何かしらの関連があったのだろう。

“彼”との出会い。この出会いは、必然だったのだと思う。まさに、オレへのおすすめだった。しかし初めての出会いではなかった。前に一度、テレビでライブ映像を見た事があった。その時は、何も感じるるものがなかったはずなのに、2度目にして、運命の出会いを果たした。


何かが、動いた。

それはたぶん、開かれた扉の奥にいた少年だった。

あの人が扉を開き、彼が少年の背中を押した。急に開けた世界は、少年には眩しすぎたが、好奇心と高揚感で勢いよく飛び出した。


やってみなければ、何も始まらない。

思い立ち、部屋にあったペンと紙を用意する。幸いボールペンと紙は大量にある。文房具マニアだ。中でもボールペンには一番こだわりがある。

お店のようにディスプレイされたボールペン棚の中で、最も気に入ったペンを取りだし机に向かった。PCを机の端によせる。書くなら紙に書きたかった。

書きたい話が頭の中で動き出す。何時からなのか“少年と老人”が浮かんでいた。浮かんだ事を、とにかく紙に書いてみる。

作文や小論文は得意だったはずなのに、小説となるとまた違ってくる。どんな風に書けばいい?

書きたい話は浮かんでいるのに、上手く表現できない。

もどかしさを感じつつも、ワクワクするような楽しさも感じている。

書けない悔しささえも、楽しい。 

だがやはり、さすがに今まで何もしてこなかったのに、急には書けるはずがなかった。読むことすら、10年近くしていなかった。


まずは、また読むことから始めよう。

こんなチャレンジは、初めてかもしれない。自分自身への期待と、大きな不安。

彼は、そんなオレの気持ちを知っているかのように歌っていた。

『私の為の歌かと思った!』なんて、歌番組のインタビューに答える女子高生の気持ちが初めて分かった。まさしく、オレの為に歌ってるとしか思えなかった。


最近行くこともなかった本屋に行ってみると、子供の頃の理想の世界そのものだった。なぜこの世界を忘れてしまっていたのだろう。

棚には、当然の事ながら本が並んでいる。読みきることも出来るはずがないほどの本の中で、ただただ眺めているだけでも楽しめた。

“本”という物体が好きなだけなのか。

電子書籍でも充分なはずなのに、わざわざ本屋に足を運んだのは、やはりきっと、そうなんだろう。

いや、でも、それだけじゃない。

自分が読みたい物が何なのか、自分でも分かっていないから、探しに来たんだ。

話題の小説か、純文学か、SFか、恋愛か、異世界か、ジャンルも設定も何もかも、分からない。何を読めばいい?


広い店内、地下1階と1階、2階、全て本で埋め尽くされている。

ここから、必要な本を探し出すのは、簡単ではない。

何処にどんな本が置いてあるのかは、丁寧な案内板が教えてくれる。

しかし、どんな本が自分に必要なのかが解らないから、とりあえず、当てもなく見て回る。

全く苦痛ではない。むしろ、楽しい。


気になって手に取ったのは“哲学”の本だった。

小説じゃないのか?自分で手に取ったくせに、不思議に思う。

中を確める。小説なら、まず書き出しを見て決めるところだが、これは小説じゃない。真ん中辺りからページをめくってみる。


おもしろい。

ここには、言葉と思考の究極の追求がある。

何かにつけて考えすぎるオレには、必要なものかもしれない。

そうだ。きっかけは、これだった。

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