出会い
歌を聴くことが習慣となった。が、CDはない。CDを聴くための道具もない。今は携帯があれば充分だ。
動画を見ていると、自動再生により勝手に“あなたへのおすすめ”を再生していた。何かしらの関連があったのだろう。
“彼”との出会い。この出会いは、必然だったのだと思う。まさに、オレへのおすすめだった。しかし初めての出会いではなかった。前に一度、テレビでライブ映像を見た事があった。その時は、何も感じるるものがなかったはずなのに、2度目にして、運命の出会いを果たした。
何かが、動いた。
それはたぶん、開かれた扉の奥にいた少年だった。
あの人が扉を開き、彼が少年の背中を押した。急に開けた世界は、少年には眩しすぎたが、好奇心と高揚感で勢いよく飛び出した。
やってみなければ、何も始まらない。
思い立ち、部屋にあったペンと紙を用意する。幸いボールペンと紙は大量にある。文房具マニアだ。中でもボールペンには一番こだわりがある。
お店のようにディスプレイされたボールペン棚の中で、最も気に入ったペンを取りだし机に向かった。PCを机の端によせる。書くなら紙に書きたかった。
書きたい話が頭の中で動き出す。何時からなのか“少年と老人”が浮かんでいた。浮かんだ事を、とにかく紙に書いてみる。
作文や小論文は得意だったはずなのに、小説となるとまた違ってくる。どんな風に書けばいい?
書きたい話は浮かんでいるのに、上手く表現できない。
もどかしさを感じつつも、ワクワクするような楽しさも感じている。
書けない悔しささえも、楽しい。
だがやはり、さすがに今まで何もしてこなかったのに、急には書けるはずがなかった。読むことすら、10年近くしていなかった。
まずは、また読むことから始めよう。
こんなチャレンジは、初めてかもしれない。自分自身への期待と、大きな不安。
彼は、そんなオレの気持ちを知っているかのように歌っていた。
『私の為の歌かと思った!』なんて、歌番組のインタビューに答える女子高生の気持ちが初めて分かった。まさしく、オレの為に歌ってるとしか思えなかった。
最近行くこともなかった本屋に行ってみると、子供の頃の理想の世界そのものだった。なぜこの世界を忘れてしまっていたのだろう。
棚には、当然の事ながら本が並んでいる。読みきることも出来るはずがないほどの本の中で、ただただ眺めているだけでも楽しめた。
“本”という物体が好きなだけなのか。
電子書籍でも充分なはずなのに、わざわざ本屋に足を運んだのは、やはりきっと、そうなんだろう。
いや、でも、それだけじゃない。
自分が読みたい物が何なのか、自分でも分かっていないから、探しに来たんだ。
話題の小説か、純文学か、SFか、恋愛か、異世界か、ジャンルも設定も何もかも、分からない。何を読めばいい?
広い店内、地下1階と1階、2階、全て本で埋め尽くされている。
ここから、必要な本を探し出すのは、簡単ではない。
何処にどんな本が置いてあるのかは、丁寧な案内板が教えてくれる。
しかし、どんな本が自分に必要なのかが解らないから、とりあえず、当てもなく見て回る。
全く苦痛ではない。むしろ、楽しい。
気になって手に取ったのは“哲学”の本だった。
小説じゃないのか?自分で手に取ったくせに、不思議に思う。
中を確める。小説なら、まず書き出しを見て決めるところだが、これは小説じゃない。真ん中辺りからページをめくってみる。
おもしろい。
ここには、言葉と思考の究極の追求がある。
何かにつけて考えすぎるオレには、必要なものかもしれない。
そうだ。きっかけは、これだった。




