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池  <第1部>  作者: M:SW
28/30

それぞれの道

火曜日の午後イチで行われるミーティングの時間になっても遠藤の姿がなかった。


『あれ?遠藤は?』

『今日、休みみたいっスよ。』

ミーティングの為に来ていた田代が答える。

『何で?』

『分かんないっスけど。』


昨日のあの告白。オレのビビった顔に、遠藤は何を感じたのか。

遠藤が休んだ理由の一端が、オレにあるんじゃないかと不安に駆られる。


ミーティング中の話は、殆ど耳に入ってこなかった。


気が付くとミーティングは終わり、部長に声を掛けられる。

『じゃ、いいか。松本。田代も、ちょっと来い。』


朝言われていたため分かっていたが、田代は急だったようで、

『はい。』

と返事をした後、かなり苦い顔をしていた。

その顔を見て笑ったオレに聞く。

『なんスかね?』

『さぁね。』

本当は大体分かっていたが、知らないフリをする。

『ヤダよぉ。』

と、田代は子どもみたいに駄々を捏ねながら、ミーティングルームを出て、二人で部長の後を追う。


普段、部長なのに殆ど居ることのない部長室へ入る。


『おぉ、来たか。松本、お前は、これ。』

今後の日程についてと、住む場所の予定地について書かれた資料を渡される。

『それで、だ。田代。松本が転勤になるから、お前が松本の仕事を引き継げ。今年はもう、こっちに新人は来ないから、今いるメンバーで、何とか回して行くことになるから。』


『マジっスか!?そんで、なんでオレですか?田島さんとか、遠藤さんとかいるじゃないですか。つか、松本さん居なくなったら、仕事回んないっスよ。』

2つ下の田代は、オレが担当していたエリア内の一部を担当していたが、一部ではなく、そのエリアの主任になる事に不満があるようだった。

『主任は、嫌か?まぁ、お前が全部やれって事じゃない。他の奴等に振れる所は振ればいい。田島と遠藤には、お前のフォローに回ってもらうから。』


田代はまだ苦い顔をしたままだった。


この人が居なくなったら仕事が回らない、そんな風に思った事がオレもあったな、と思い出す。でも結局、何だかんだで、どうにかなるもんだ。一時苦しい時があっても“この人”の代わりは、いつの間にか育っている。

田代じゃ心許ないのは、本人だけじゃなく、オレもそうだが、きっと何とかなっていく。いつの間にか“主任”らしくなっていくんだろう。


『大丈夫だよ。何とかなるよ。』


そう言ったオレの顔を見る田代は、苦い顔のまま、口角だけ上げて、変な笑顔で

『はい。』

全く納得いってない“はい”を返した。


『じゃ、引き継ぎは、4月末までな。そんだけありゃ、十分だろ。』

『はい。』

オレに続き、田代も、

『はい。』

と、さっきよりは覚悟を決めた様子の返事を返す。

その表情も、変な笑顔から覚悟を決めた顔に変わったように見えた。


部屋を出てから、田代の時間の都合を確認して、引き継ぎの時間を調整する。


その後、部長に渡された資料に目を通す。

オレは、5月のゴールデンウィーク明けからの参加でいいようだった。住む場所も、予想していた場所とほぼ一緒で、会社が準備してくれる事になる。

“電車で30分くらいかな”

なみの住む場所からの時間を導き出す。

本当に、いよいよ本格的に動き出す実感が湧いてきて、やはり多少の不安は拭い切れない。


それでも、目の前のやるべき事に集中するため、頭を仕事モードに切り替える。


これからオレがやるべき事を整理していく。


区切りのいい所で作業を終えて帰る支度をする。

ふと遠藤のデスクを見た。

“あれは、本当なのか?”

あの告白は、一体何だったんだ?

今日は、何で休んだ?

直接聞けばいい事なのに、怖くもあり、聞くのがためらわれた。

今までは、休んだ所で何も気にはならなかったのに。

“まさか、オレ”

自分の気持ちに疑問が生まれる。


そんな訳はない。あるはずがない。

疑問を拭い去るように、なみの事を考えてみる。

“そうだ。なみに、あれを渡したい”


新社会人へのプレゼントを思いつき、また気持ちが上向きになる。


浮わついた気持ちと深刻な気持ちを同居させながら、会社を出る。

田島はまだ仕事が片付かず、しばらく帰れそうになかった。


帰り道、なみへのプレゼントを何時買い、何時渡すかを考えていたが、深刻な気持ちが時折顔を覗かせるため、このままでは落ち着かない、と腹をくくり、遠藤に連絡してみる事にする。


<どうした?今日>


ごくごく簡単なメッセージ。でも、これ以上もこれ以下も思い付かない。


携帯を持ったまま、遠藤の返事を待つ。


アパートに着く前に携帯が振動した。



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