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池  <第1部>  作者: M:SW
27/30

ペンと紙

まるで、10歳のオレが道案内してくれているかのように、物語は進んでいく。


ただ“書いてみよう”そう思っただけなのに。

そこから、一気にオレの人生が動き出した。

今書いている物語だけじゃない。オレの人生そのものを道案内してくれていたように感じる。

ただ一つ、男から告白される事は予定になかったとは思うが。


書き続けていても手は疲れない。

このペンと紙のおかげ。

オレとなみも、こんな抜群の相性なら。

そう思えた時、一旦手を止めてノートの触り心地を確かめる。

この触り心地が好きだ。

紙を一枚持ち上げる。

親指と人差し指で紙を擦る。

“あぁ、そうだ”

また思い出す。あの頃。

こうやって、本を読みながら、本の端を擦りすぎて破けた本がいくつもあったっけ。

昔から、この感触が好きだったのか。


でももう、破けたりはしないよう、大事に扱おう。

持ち上げた紙から手を離す。手形を押すように紙全体に、掌を押し当てる。そこから静かにゆっくりと紙を撫でる。


この紙が、オレを幸せにする。


再びペンを持ち、紙の上でペンを走らせる。


“オレは、こんな事を考えていたのか”

自分でも想像していなかった事を書いている事に気付く。オレじゃなかったら、誰が考えてんだ。

脳内にいるらしいもう一人の自分が作品を作り上げていく。


いつの間にか今日が終わっていた。


日付けが変わっても、このまままだ続けていたかったが、仕事の事も考え、途中で終わらせる。

目覚ましナシで起きられる自信がなく、アラームをしっかり確認する。


予想通り、アラームが鳴って、止めてまた鳴って、止めてを3回繰り返し、ようやくまともに目が開いた。


またいつもの朝の流れで、テレビを付ける。

コーヒーを淹れている間に顔を洗う。

コーヒーを飲みながら、テレビに目を向けると、かいぼりを終えた池に水が戻り、キレイになった姿を写し出していた。

音が聞こえず、リモコンを探しながら映像と字幕をしっかり見直す。


やはり、先日見たあの池のゴミとヘドロの撤去と日干しが終わり、水が戻されたようだった。

1、2分で終わってしまうような、地域の小さな小さなニュース。

毎回注意して見ている訳でもないのに、始まりと終わりをタイミング良く見れた。

そしてそのタイミングは、まるで自分の心と一緒だった。

湧き水のような清らかさはないが、余分な物が取り除かれた池に戻された水は、日の光を受けて反射し、生き返った事を知らせている。


まさに、今のオレ。


寝ぼけていた頭は、すっかり覚醒し、更に意欲を増していく。


スッキリした頭で仕事に出る。


会社に行くまで、歌を聴く。

イヤホンから、直接脳内に伝達される彼の歌。

何の曲を聴いても、オレの事を歌ってるんじゃないかと思える。


あの時、オレに涙を流させたあの曲でさえも、心地よく胸に響き、あんな苦しい涙はもう出てこない、そう思えた。


会社に着くと、今日は田島が先に来ていた。

『はよ。』

『はよ。』

周りを見渡してから、小声で聞く。

『ねぇ、結婚に至るまでの過程、教えてくれる?』

『えっ?そんなの、教える訳ないじゃん。ふふっ。』

『教えろよ。』

『教えられる時が来たらねっ。』

『何、もったいぶってんだよ。ワケあり?』

『ワケありあり。ってな事もないけどねー。』


小声でコソコソ話している背後から、静かに部長が加わってくる。

『何だ、何だ?お前ら。どんな、ワケがあんだ?』


オレと田島の間に割って入ってきた部長がふざけて聞いてくる。

『!!ぶちょー!?何でもないです。なんも。』

慌てて田島が答える。


『そんなに慌てなくてもいいだろ。ん?』


元から話を聞く気なんか無さそうな部長は、田島からオレの方へと向き直り、

『また、色々詳しく確認しといたから、ミーティングの後、俺んとこ来い。朝から二人でイチャつくな。なっ!』

と、田島の背中を叩き、立ち去った。

『痛っ。何でオレだけ。』

田島が、自分だけ背中を叩かれた事に文句を言う。


『お前だって、昨日、何かあったんだろ?教えろよ。』

『教えられる時が来たらねっ。』

『あー、真似したぁ。』


互いに詳しくは語らないまま、オレ達は各々の仕事に向かった。



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