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池  <第1部>  作者: M:SW
24/30

幸福感

『写真とか、撮んないの?』

気になって聞いてみた。

『撮らないですよ。自分の事は自分が知ってればいいですし、友達のは見てますけど、正直、他人にそんなに興味もないんですよね。』

『他人に興味が、ない?』

『あ、いや、あの。松本さんには、興味がありました。あります。』

『ハハッ、いや、オレもそうだから、何か分かるよ。と、思って。』


安心したようになみが笑う。

『良かったぁ。』


話の合間で、食べ進めていたためか、なみの笑った口元の左端に、ビーフシチューと思われるものが付いていて笑ってしまった。


『何ですか?』

笑われている事に気が付き、確認してくる。


自分の口の左端を指差し“付いてる”事を教える。


なみは急いでペーパーナプキンを取り、口元を拭く。


『松本さんも付いてますからね。』


『ウソだろ。』

そう言いつつ、オレもペーパーナプキンを急いで取って口元を拭う。そこに汚れは付いていない。


『?付いていないじゃん。』

騙された、と思っていたら、なみが自分の手の甲のホクロを指差す。


オレは、自分の手の甲を見てみると、なみのホクロと同じ場所に、ほんのちょっと、ソースが付いていた。

『ここかよ。』

何で、こんな所が汚れるかな、と恥ずかしくなる。

まぁ、お互い様だ。

2人で笑いあっていると、幸せの絶頂かと思えた。


こんな時に、急に書きかけの小説が書きたくなった。なぜ今、そんな事を思い出すのか分からなかったが、ここ最近で1番、書きたい欲求にかられた。

恋愛ものでも何でもなく、ジャンルが何なのか自分でも分からないような、少年と老人の地味な物語を、なぜ、今。


分からないけど、今、色々な幸福感で満たされていた。


こんなにも満たされた気持ちは、今まで感じたことがなかったかもしれない。

もしかしたら、あの時の、10歳頃に入り浸っていた図書室の中で、本に囲まれて、床に座り込んで本を読んでいた時の、あの気持ちに近いのかもしれない。

あの時は、まだ何にでもなれた。本の中に登場する主人公に自分を投影させて、どんな困難にも立ち向かえた。

ただの言葉の並べ替え。それは、世界を無限に広げていた。

だから、面白かった。

たった一言で、善にも悪にもなる。捉え方次第、読み手次第。


あの頃のオレが、あの頃の気持ちを思い出して欲しがっていたんだ。


そんな考えで、ようやく色々な出来事が腑に落ちた。


少年は、図書室を抜け出し、もう歩き始めている。


これからは、本の中の世界じゃなく、自分のオリジナルの世界を描いて行ける。


今度は慎重に、少しずつ食べ進めるなみは、オレを正しい方に導いてくれる。


手が止まっていたオレになみが促す。

『ほら、食べましょうよ。』


『ねぇ。』

『はい?』

『オレと、付き合ってもらえますか?』


一昨日なみに言われた“側にいてほしい”なんて曖昧な言い方ではなく、きちんとオレから伝える。


『もちろん、喜んで!私が言おうと思ってたのに、先に言われちゃった。』

笑って、また食べ始め、

『おいしい。』

と、実感を込めて呟く。


『うん。』

オレもまた食べ始める。



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